note #等身大の企業広報レポート

シャープ公式Twitter、ヤッホーブルーイングが語る「生活者との距離を縮めるコミュニケーション」

「生活者と友人になる広報とは?」をテーマにシャープ公式Twitter担当の山本氏とヤッホーブルーイングの岩城氏が登壇したnote主催の #等身大の企業広報のイベントレポートをWeb担でお届けします。
note主催イベント第5弾キービジュアル

noteプロデューサーの徳力基彦さんをモデレーターとして毎月開催している「等身大の企業広報」イベント。7月20日(火) に開催された第5弾では、「生活者と友人になる広報とは?」をテーマに、シャープ公式Twitter担当の山本隆博さんと、ヤッホーブルーイングの岩城佳那さんにお話しいただきました。

オウンドメディアやSNSアカウントなど、企業の情報発信の選択肢が多様化するなか、従来のように生活者に一方的に情報を発信するのではなく、双方向のコミュニケーションが重要になっているといわれています。一部企業のなかには、明確に「生活者と友人」になるようなコミュニケーションを心がけているケースがふえてきています。現代においては、この感覚が理解できるかどうかが、発信をするさいの1つのポイントになるといえます。

そこで今回は、生活者とのコミュニケーションに最前線で対応されているおふたりをお招きし、企業の情報発信がどのように感覚を転換していくべきなのかをうかがいました。これからの企業広報のあり方を探りたい、自社の情報発信に力を入れていきたいという方、必見です!

noteが主催したイベントレポートをnoteの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら → https://note.com/notemag_business/n/n944734bf7985

イベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

目次

お客さんとのフラットな関係を築く

――本日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介をしていただいてもよろしいですか?

山本さん: シャープの公式Twitterをやっています。2011年に公式アカウントを開始してから10年、部署が変わっても運営者は交代せず、ほぼワンオペでやっていますね。ずっとほかの業務と兼業しながらやっていたんですが、次第にTwitterの業務に特化していき、いまではほぼほぼ「仕事=Twitter」という具合になりました。自分の半分ぐらいがTwitterになってしまった悲しき平社員といった感じです。

シャープマーケティングジャパン株式会社 山本 隆博さんの写真
山本 隆博さん
シャープマーケティングジャパン株式会社

フォロワー80万を超える、シャープ公式Twitterの運営者。テレビCMなど、マス広告を担当後、流れ流れてSNSへ。ときにゆるいと称されるツイートでニュースになることが日常に。企業コミュニケーションと広告の新しいあり方を模索しながら、日々Twitter上でユーザーと交流を続けている。主な受賞歴:2014年大阪コピーライターズクラブ最高新人賞、第50回佐治敬三賞、2018年東京コピーライターズクラブ新人賞。2019年にはフォーブスジャパンによるトップインフルエンサー50人に選ばれたことも。漫画家支援サイト「コミチ」でコラムも連載中。

岩城さん: 「よなよなエール」を看板製品としたヤッホーブルーイングという会社でファンイベントを企画しています。「ビールに味を! 人生に幸せを!」をミッションとし、おいしいクラフトビールはもちろん、クラフトビールを通じた幸せを届けるための活動をしています。具体的には、「よなよなエールの超宴」「よなよなエール 大人の醸造所見学ツアー」などのイベントを企画し、参加してくださったお客さんとたのしく飲む、ということが私の仕事です。

ヤッホーブルーイング岩城 佳那さんの写真
岩城 佳那さん
株式会社ヤッホーブルーイング
よなよなエールFUN×FAN団(ファンイベント部門)ユニットディレクター

2015年株式会社ヤッホーブルーイング新卒入社。ファンとのコミュニケーションを軸とした公式Facebook運用の担当者、年間数千名のファンが集まる「よなよなエール大人の醸造所見学ツアー」や「よなよなエールの超宴」をはじめとするファンイベントの企画・実行の責任者を務めた後、2019年12月より現職。2020年5、6月には「よなよなエールの“おうち”超宴」をオンラインで開催し、のべ約10,000名のファンと乾杯。入社以来一貫して顧客最前線の取り組み「よな友ピースプロジェクト」に従事。スタッフやファンからは「いわっちょ」のニックネームで親しまれる。趣味は愛車・初代VWビートルでのドライブ。
よなよなエールの超宴の様子

―― ありがとうございます。おふたりの自己紹介の入り方の角度があまりに違いすぎて(笑)。今日のテーマは「生活者と友人になる」なのですが、おふたりにとって「生活者と友人になる」ってどんなイメージですか?

モデレーター:徳力 基彦さん(noteプロデューサー)

岩城さん: じつはうちの会社の理念のなかに「顧客は友人、社員は家族」というものがありまして。それを実践するため、イベントに来てくださったお客さんとも友人感覚で接します。顔見知りになると雑談をしたり、SNSでつながったり。このように「積極的にファンと仲良くなっていこう」というのはスタッフ全員の共通の見解としてありますね。

スタッフ同士やお客さんとのフラットな関係を築くために、ふだんからニックネームで呼び合っています。イベントでも、スタッフもお客さんも名札にニックネームを書いていますね。私自身はみんなに「いわっちょ」と呼ばれています。ニックネームは仲良くなるための魔法のアイテムだと思います。

ニックネームは「いわっちょ」(岩城 佳那さん)

山本さん: 僕の場合はいわっちょさんと違ってリアルなつながりではないですが、商店街の八百屋の兄ちゃんがお客さんに話しかける、という感覚でツイートしています。商店街の常連さんが通りかかったら雑談で天気の話をしたり、「今日は何がある?」「今日はキャベツ安いですよ」という会話を交わしますよね。でも買うか買わないかはお客さん次第だし、通りかかったひとにいきなりキャベツを売りつけるようなことはしない。ただいつもそこに店があって、通りかかったときに声をかけあえればというような感覚でアカウントを運営しています。

購入してくれたひととコミュニケーションをとる

―― おふたりのお話をうかがっていると、新規顧客の開拓というより既存顧客とのコミュニケーションを大切にされているという感じでしょうか?

岩城さん: そうですね。既存顧客を大切にするしか道がないというか、もともとうちは小さい会社なので、そもそも広告やマーケティングにそこまでお金をかけられないという状態だったんです。そうしたなかで、やっぱりいま飲んでくれているお客さんを大事にして、長く愛し続けてほしい、というところからファンイベントなどもはじまっています。

岩城さん

山本さん: 僕は、企業アカウントがTwitterなどのSNSをはじめるときは「マイナス地点」からのスタートになると思っていて。というのは、SNSって基本的に友達とつながったり、自分の好きなものの情報を集めるためにやっているひとが多いので、そこに割って入るということ自体がもうマイナスなわけです。

でも1つだけマイナスじゃないケースがあるんです。それは、自社の製品をつかっているユーザーに向けて発信する場合。ユーザーの場合は、自分がつかっている製品やメーカーと関係性があるから、その企業アカウントの存在がお呼びでないことはギリギリないはずなんです。そう考えると、まずはすでに購入してくださったひととコミュニケーションをとることからはじめるというのは、当たり前な気がするんですよね。

山本さん

主語を「私は」にすると体温を感じさせる発信になる

―― 先ほど八百屋のお兄さんの例え話をされていましたが、山本さんは「話しかけられたら返す」ということを実践されています。シャープさんは10年間で17万ツイートされていますが、じつはその多くがリプライなんですよね。山本さんは過去のインタビュー記事で「体温を感じさせるようなツイートを心がけている」ともおっしゃっておられましたが、そのようなツイートをするコツってあるんですか?

山本さん: 主語を「私は」にすることだと思います。大きな広告やCMのキャッチコピーを見ていると、「我が社は」とか「我々は」というような、パーソナルではない主語が多いんです。そうすると受け取る側もどこか他人事に見てしまう。主語を「私は」に書き換え、自分の言葉で発信することで、お客さんとコミュニケーションをとれようになるのではと思います。インターネットはとくにだれが言っているかがわからないと、なかなか聞いてもらえませんしね。

―― 「主語を明確にする」という意味では、先ほどの岩城さんのニックネームの話にもつながりますね。よなよなエール公式通販サイト「よなよなの里」でも、スタッフの投稿にはすべてその方の名前がニックネームで入っています。

岩城さん: 「主語がだれなのか」は明確にしています。同じメッセージでもだれが発信するかで受け取り手の印象が変わるので。

→ よなよなの里 | よなよなエール公式通販
yonasato.com

想いを伝えるには「顔」を見せることが大事

―― 自分の名前で発信すると嘘をつけないから、よい発信になるというメリットもあるのかもしれませんね。また、岩城さんはリアルなイベントで実際に「顔」を見せることでお客さんとのコミュニケーションをとられています。

岩城さん: やっぱり実際にお客さんに会って、自分自身もビールを飲みながら一緒にしゃべるということから生まれてくる感覚もあると思っていて。そこがつかめないままだとちょっとお客さんに対するフォーカスがずれてくるというか。そういう意味では、いまコロナの影響でリアルイベントができないので、顔を見せるコミュニケーションの大切さをいかに文化として伝えていくかという課題感があります。

岩城さん

そこでまずはオンラインイベント「よなよなエールの‟おうち”超宴」「よなよなエールの〆宴」を開催しました。イベントのなかで大抽選会をやったりなど、宴会っぽい雰囲気を出しています。それでもまだ一方向なコミュニケーションだということがわかり、インターネットラジオという形でスタッフが実際に顔を出してお話する「よなよなエールの空想ビアパブ」をはじめました。うちは「スタッフの顔が見える」というのも会社の理念の1つとして大事にしているので。聞いているうちにそのスタッフに会いたくなるような内容になっているかなと思います。

よなよなエールの空想ビアパブの様子

また、「よなよな 月の道楽座」という新しいプロジェクトもはじめました。スタッフにもお客さんにも同じビールとおつまみをお届けし、Zoomのビデオをオンにして一斉に「乾杯!」するというものです。このイベントは最大80人近くが参加していて、乾杯は一斉にやるのですが、後半では6〜7人くらいのブレイクアウトルームに分かれて、より密なコミュニケーションをとっています。

よなよな月の道楽座の様子

発信にどこまで社会性を込めるのかが鍵になる

―― 確かに、一方向だったら録画でもいいわけですから、イベントなら双方向性をきちんと出すのは正しいですね。一方山本さんは、Twitter上でイベント感を出しています。コロナ下でふんばる飲食店さんを応援するためのプレゼント企画的なツイートをされました。

山本さん: 「三方よし」という考え方がありますが、そういうことができないかなといつも考えていて。というのは、僕は製品を売りつけることはやりたくないし、売りつけることに成功したところで、おそらく買ったひとはその会社のファンにはならないと思うんです。それよりも「三方よし」、つまり広告するひともそれに参加するひとも、広告の場を提供するひとも、みんなそれなりに損はしないということができればいいなと。

また、コロナにより、SNSでも国民規模のコミュニケーションが存在し得るという感覚を初めて覚えたんです。社会性・公共性みたいなものがより強固になった気がして。やっぱりこういう時期って、何かを発信するにしてもある種の公共性みたいなものを無視することはできないし、どこまでその社会性のようなものを込めるのかというのが鍵だと思っています。だからこそ僕がいまできる1つのベストな形というのがふんばる飲食店さんへのツイートだったという。

山本さん

数字よりも「個人のエピソード」を重視する

―― 岩城さんの場合はリアルにお客さんと接するというところで反応もダイレクトに返ってくる感じかと思いますが、山本さんの場合はツイートの手応えみたいなものは何で確認されてるんですか? それは当然リツイートの量とかではないですよね。

山本さん: 違います。僕は、「どれだけ個人のエピソードが生まれたか」で判断しています。「ツイート見て買ったよ」というリプライが来るとか、フォロワーさんからの買い物相談に「これがいいよ」とおすすめしたらそれを買ったと返事が来たりとか。個々の物語やエピソードが日々生まれていくわけです。数字よりも、そういう何かしらの物語を生むために日々のコミュニケーションがあるのかなと。いわっちょさんもイベントをやられているから、そのへんはよくわかってらっしゃると思う。とにかく僕らはこういうやり方を続けていくしかないんです。

岩城さん: すごく共感します。うちもイベントごとの効果測定はしていて、イベントの満足度を測り、それでPDCAを回していくということをやっています。でもそこで出てきた数字と、実際にお会いしたときのお客さんの熱量みたいなものが明らかに異なるときがあるんです。そういうときは、数字が芳しくないからとあれこれ対策しても空回りしてしまったりして、それはそれで不健全というか。数字だけを見ていくとどんどん視野狭窄になって本質を見失うこともあるなと最近本当に感じています。

会社を客観的に見た言葉は聞き入れてもらいやすい

―― 最後に、おふたりはすでに企業広報の最前線の取り組みをされていると思いますが、視聴者の方へ向けて、その地点へジャンプするにはどうしたらいいのかといったヒントをいただければと思います。

岩城さん: 顔を隠しているうちはやっぱり「友人」にはなれないなと思うんです。会社の看板に隠れながらではなく、ご自身のパーソナリティーも含めてお客さんと真っ向勝負するというか。それにはちょっと勇気も必要かもしれませんが、びびらずに1回会ってみるといいんじゃないかなと。そうすることで、お客さんが何を支持してくれているかもよくわかりますし、勇気も出ると思います。ぜひやってみてください。

岩城さん

山本さん: 宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ』を改変し、僕のアカウント運営者のあり方みたいなものを書いたので、それを読んでいただきたいです。

くそりぷにも負けず、スルーにもスパブロにもまけない、丈夫なメンタルを持ち、欲はなく、決して怒らず、いつも静かにスマホを握っている。1日にコーヒー4杯と水と少しのチョコを食べあらゆるKPIを自分を勘定に入れず、よく見聞きし、わかり、そして忘れない
東に病気の製品があれば行ってコールセンターを案内してやり、西につかれたフォロワーあれば、行ってその愚痴を負い、南に言い争う人がいればTLがギスギスするからおやめなさいと言い、北にあっちこっちに迷う買い物があればどっちでもいいけどシャープかもと言い
炎上のときは涙を流し、経営悪化の日々はオロオロ歩きみんなに仕事しろとよばれ褒められもせず広告にもされず
そういうものに私はなりたい

山本さん: 極論すると、僕はシャープを半分辞めたつもりの立場でいつもツイートしています。それはなぜかと言うと、お客さんと近づくためには自分が動かないといけないはずだから。だからこそ僕は会社を半分辞めて半歩お客さんに近づこうと思ってTwitterをやることにしていますし、半歩離れた視点で会社を振り返ってみると妙な客観性が生まれるんです。自分の会社を客観的に見た言葉はお客さんにも聞き入れてもらいやすいと思います。

山本さん

――「企業があって社員がそのなかにいる」というのが従来の価値観ですが、いまはインターネットで人間同士がつながれますからね。我々も「等身大の企業広報」という言葉をつかわせていただいていますが、等身大の人間としてコミュニケーションするということが、インターネットの世界でも普通なんだなと思いました。おふたりとも、本日はありがとうございました!

本記事は、noteの転載記事です。オリジナル記事はこちら

https://note.com/notemag_business/n/n944734bf7985

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