今年で19年目を迎えるNECのメディア「wisdom」とは?
徳力 wisdomが始まった2004年は、まだ「オウンドメディア」という言葉もありませんでしたよね。
萬代 開設した頃はなかったかもしれませんね。当初はNECの情報を一切載せない、ビジネスパーソン向けの中立的メディアでした。2016年に大幅リニューアルを経て、改めてNECの情報発信の場として機能するようになりました。
徳力 現在はどのようなメディアとして運営されていますか?
萬代 お客様とのエンゲージメント強化を担う、デジタルマーケティング基盤と考えています。
萬代 今もNECの取り組みだけでなく、海外のトレンドや各業界の最先端のトレンド、キーワードコンテンツ、有識者のインタビュー記事など、NEC以外のコンテンツも掲載しています。
Webコンテンツやイベントの開催を通じて顧客の興味を引き、SEO(検索エンジン最適化)対策や広告、メルマガ、SNSなどのタッチポイントを連携させて、エンゲージメントを強化する取り組みを行っていますね。つまり、不特定多数の中からNECの優良顧客を見いだして、NECの事業とつながる顧客を見える化するのが役割です。
リサーチだけではないマクロミルが目指すもの
度會 マクロミルはネットリサーチを主力事業とし、国内130万人の消費者パネルを保有しています。リサーチ結果だけでなく行動データなどのさまざまなデータを活用し、企業のマーケティング活動を支援しています。
マクロミルの目標は、お客様のマーケティング活動の課題解決だけでなく、データ自体のコンサルティングやマーケティングの上流から下流までのサポートを行い、総合マーケティング支援企業に成長することです。
徳力 noteを始めたきっかけは何ですか?
度會 新型コロナウイルスの流行です。対面での営業活動が難しくなり、営業の人たちが顧客の元に直接うかがって、我々の強みをお話しすることができなくなってしまいました。そこで私たちのナレッジ(知識、知見)を発信する場を作ろうと思って、noteをスタートさせました。
現在は、マクロミルのパーセプションチェンジ(認識変容)につながるブランディング情報サイト、という位置づけで運営しています。我々はBtoBの会社ですが、マクロミルの広いステークホルダーとのコミュニケーションツールとしても考えています。
企業のパーセプションチェンジにも繋がった成功事例記事
度會 マクロミルがアンケートを取るだけでなく、クライアントの商品販売への後押しから販売に至るまでのトータルサポートによって、パーセプションチェンジに繋がった事例をご紹介します。下記は弊社のマーケティング支援を利用された、アサヒビール様のインタビュー記事です。
度會 記事に登場する「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」は、コロナ禍で大ヒットした缶の蓋をフルオープンできる商品です。開栓するときめ細かい泡が発生し、ビールを飲食店のジョッキで飲むかのように味わえると、大変話題になりました。
実はこのパッケージやネーミング、キャッチコピーなどの幅広い調査を弊社がお手伝いしています。こうした取り組みについてアサヒビール様にインタビューができれば、マーケティング支援への満足度を可視化でき、弊社社員のモチベーションにも繋がると考え、インタビューの打診に至りました。
基本的に、マーケティングは重要な情報を扱うので、このような事例記事を承認してもらうのはとても難しいんです。ですが、営業担当とリサーチャー、そしてマネージャーが熱心に記事化するよう努力したことで、承認をしていただき、記事として公開できるようになりました。
度會 この記事をきっかけに、他の成功事例もいくつかnote上で紹介することができました。
徳力 アサヒビールさんが口火を切ってくれたわけですね。
度會 はい。以前からマクロミルのnoteを「パーセプションチェンジにつながるブランディング情報サイト」にしたいと考えていましたが、結果的にその一歩を踏みだす重要な記事になりました。
徳力 ほかにもパーセプションチェンジに繋がった記事はありますか?
度會 はい。マクロミルが2021年5月に開始した「ライフサイエンス事業」の事例をお話しします。この事業では、人の血液や唾液などの生体データを元に、クライアントが機能性表示食品の販売が可能かどうかを判断いただくことがあります。
世の中個人情報の取り扱いが厳しくなっていて、人の体の情報を取り扱うとなると、恐怖心を抱く方もいるかもしれません。そこでオウンドメディアの活用を考えました。事業部長の顔を出しながら、事業の立ち上げの裏側などを伝える記事を作成したんです。
マクロミルのnoteは、3年間で約二百数十本の記事をアップしていますが、この記事はトップ10に入るPV数を獲得しています。もともとリサーチ会社のイメージがあった弊社が、一見縁遠いライフサイエンスの分野にも取り組んでいたことが伝えられたと思っています。
wisdomではどのような記事が読まれている?
萬代 人気があるものでいうと、国際情勢や世界経済に関する連載はよく見られています。もちろん、海外の情報なら何でもいいわけではなく、ユニークで手に入りにくい情報であることが大事です。逆に、そうでないとwisdomで記事を提供する意味がなくなってしまうので、その著者ならではの視点で記事を書ける人にお願いしています。
もちろん、コンテンツを作ること自体が最終目的ではなく、ターゲットをNECのビジネスにつなげなければいけません。なので、適切にターゲットとつなぐ方法を考えています。
徳力 オウンドメディアは事業貢献を目指して始めた企業が多いと思いますが、多くの場合、そこに至らず頓挫している印象です。wisdomはきちんとNECのビジネスにつなげているところがすごいですね。
萬代 ROI(投じた費用に対して、どれだけの利益を上げられたかを示す指標)で考えると、成果を出すことは簡単ではありません。一つ思うのは、量を追い求める時代ではなく、質が求められる時代になってきたということ。何万や何十万のアクセスがあっても、それがターゲットでなければ、ほとんど意味がありません。
逆に、数十のアクセスでも、真のターゲットならば、非常に価値があるといえます。ただ、それを数値で証明することは難しいですよね。なので、定期的にイベントを開催して、参加者とターゲット顧客が合っているのか確認したり、参加者と営業の人間を繋いだりしています。こうした取り組みをもっと可視化し、手応えを数値化する方法を模索しています。
ただ、一定の量も必要です。現在、wisdomの月間PV数が26万、UU数が18万ほど。ある程度、人が集まる場にするために、自然検索からの流入数は重視しています。
もちろん流入数だけでなく、「ファンを作る」という意味で再訪数、再訪率も大切だと考えています。
自然検索での流入を増やす「キーワードコンテンツ」
萬代 最近、注力しているのはSEO対策です。取り組みを一つ挙げると、「キーワードコンテンツ」という、自然検索から流入を期待できる記事を作成しました。例えば、「水不足」や「年末調整」など、年に数回話題になるテーマの記事があると、古い記事でも流入が増えることがある。先々に活用されることを見越して作ることも重要だと思います。
萬代 コロナ禍以降、強化してきたおかげで、対策後はサイト全体のクリック数が2倍近くになりました。これらの対策はwisdomのサイトに来てもらうきっかけにもなっています。
まずは我々のフィールドに来てもらうことを目指し、トリガーを設けること。ただ、SEOのメカニズムは頻繁に変わるので、日々情報のアップデートや定期的な確認は必要です。
ターゲットの姿を可視化するイベントの意義
徳力 wisdomはイベント関連の記事も豊富ですよね。
萬代 我々がイベントを開催することで、ターゲットを可視化できることもあるんです。イベントでは有識者の登壇や相談などがオンラインでも行われますし、ワークショップなどでは参加者同士がつながる場にもなるので、参加者の満足度が上がることはNECのブランディングにもつながります。これらは具体的な数字にはなりにくいですが、大事な成果だと思っています。
コミュニティ&カスタマーエンゲージメントグループ 萬代 由起子さん
徳力 「SDGs×レゴ®ワークショップ」というイベントが楽しそうです。
萬代 「SDGs×レゴ®ワークショップ」は、レゴを使って社会課題を表現し、それを起点に新しいビジネスを考えるワークショップです。当社が2019年に始めた時はまだあまり普及していなかったので、まさにターゲットとしている「SDGs関連の情報収集をするビジネスリーダー層」からたくさんの申し込みをいただきました。SDGsという言葉も使われ始めた頃でしたので、このキーワードに興味を持った人たちが多かったんだと思います。
noteを書くことで生まれた副産物
度會 最近マクロミルでは、新入社員や中途採用の方を含めて、情報収集のためにnoteを見て入社してくださる方が増えているんですよ。実際にアンケートを取ると、入社前にnoteを参考にしていたとか、検討する際に非常に役立ったという声もあります。noteによって新入社員を増やそうという意図はなかったので、弊社のオウンドメディア全体の中で、noteがどんな役割を果たしているのかの分析も必要だと思っています。
記事の作成に協力してもらった社内メンバーには、必ず公開から1ヶ月以内に、「note報告書」をお渡しするようにしています。具体的には、どれくらいのPV数があり、実際にどんな反響があったのかを報告するんです。これによって協力者からも、現場やお客様から「こんな問い合わせがあったよ」といったフィードバックをいただけます。
徳力 手ぶらで行くよりも、報告書があったほうが話を引き出しやすいですね。
度會 報告書があると、自然と相手も「そういえば」と、記事の反響を思い出してくれるんです。それを持ち帰って、週に1回広報チームでも共有するので、現場で起きた定性的な情報や出来事が集められるような感じですね。
オウンドメディアで成果を出すために、今日から始められること
萬代 自分が日々どうやって情報を収集するのか考えると、個人としてお客様に近い目線に立てると思います。例えば、仕事と関係ない、レストラン情報やショッピング情報に自分がどのようにたどりついたかを考えてみてください。それはオウンドメディアの集客方法として応用できるかもしれません。まずは自分の行動を振り返って、参考になることを見つけてみてください。
度會 一般の方が読んでも「読みやすい」と感じる記事を作るのが大事だと思います。結局、どんな記事を作っても最終的な消費者はC(カスタマー)、ひとりの個人になります。ですので、私たちも一緒に働く社員、採用担当やモニターのような個人が楽しく記事を読めるかという、Cの視点で情報を発信する意識を持つことが大事だと思います。
イベントのアーカイブ動画は下記URLからご覧いただけます。
登壇者プロフィール
萬代 由起子さん
NEC インテグレイテッド マーケティング統括部
コミュニティ&カスタマーエンゲージメントグループ
2004年からは市場リレーション推進部門にてメールマーケティングをベースとした全社マーケティング活動を開始。
現在は、オウンドメディア、外部メディア、リアルイベント等の様々なタッチポイントとMA、SFA、インサイドセールスを連動させたマーケティング施策を実行。wisdom編集長。wisdom あなたのビジネス思考に、ひらめきを。
度會 早苗さん
株式会社マクロミル
広報・ブランドマネジメント部
広報ユニット
2006年にインフォプラント(現、マクロミル)に入社。リサーチディレクターを経て、2012年より広報担当として、調査PR、社内イントラや社員参加型イベントの立ち上げなど、多岐にわたる企画を推進。現在は広報EXPとしてメディアリレーションのみならず、noteをはじめとしたオウンドメディアの企画・運営を推進し、BtoB広報の可能性に挑戦中。
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー
noteプロデューサー/ブロガー。 ビジネスパーソンや企業の、ブログやソーシャルメディア活用の可能性を日々試行錯誤してます。
・・・
text by 大熊信
ソーシャルもやってます!