note #等身大の企業広報レポート

パーセプション戦略がなければ人は動かない! PRの第一人者・本田哲也さんに聞く、市場を創る「認識」の力

資生堂や森永製菓などの事例を基に「パーセプション」を解説。

近年、ビジネスの世界で注目されている「パーセプション」という言葉。この言葉がしめす概念によって、PRやマーケティングに対する考え方は変わりつつあります。

今回は、昨年末に新刊『パーセプション 市場をつくる新発想』(日経BP 刊)を上梓された本田哲也さんをお招きし、パーセプションとは何か、そしてどう活用するべきかを解説いただきました。従来の「認知重視型」のマーケティングから、「パーセプション=客観的な認識」を重視するマーケティングへ。パーセプションは社会をどのように変えていくのでしょうか? 

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「パーセプション」とは何か?

本田 辞書的には「知覚」や「理解」「認識」が一番近い訳だと思います。僕はもう少し平たく、「モノゴトの見え方や捉え方」と考えています。外資系企業の広報PRだと、以前から使われていた言葉で、最近日本企業でも注目されるようになった、という印象です。

徳力 日本でもこの言葉がよく使われるようになりましたが、なんとなく、わかっているようでわかっていない単語になっている感じがしますね。

本田 似た言葉で「認知(Awareness)」があります。認知度が高いとか、みんなが知っている、みたいなことを言いますよね。「パーセプション」との違いは、認知だけでは、モノが売れたり消費者の行動が起こるとは限らない、ということなんです。

まずモノやサービスを知ってもらう必要があるから認知はすごく大事なんですが、その次に「どう見られているか?」という「認識=パーセプション」が重要になってくるわけです。

徳力 認知と認識って似ていますけど、こうやって分けられると理解しやすいですね。

本田 この認知と認識をもう少し解像度を上げて分析して、PRや広告、マーケティングの観点から、どうやってコントロールできるのかというのが今回のテーマです。

ではまず、パーセプションを形成する要素を5つに分けます。

本田 1つ目は「事象」ですね。パーセプションは、よくイメージと混同されますが、イメージはファクトがあろうがなかろうが「なんとなく怖い」とぼんやり感じること。対してパーセプションは、何らかの具体的なファクトを伴う事象や事実によって形成されることが多いのです。

2つ目は「リテラシー」。受け手の経験や価値観によってパーセプションは変わります。同じことでも、異なった時代や国、経験、価値観、文化的背景を持つ人たちが見ると、それぞれまったく違うパーセプションになるということです。

3つ目が「グループ」。例えばIT系の仕事とマーケティングの仕事をされている人では、世間からの見られ方が異なるように、どのグループに所属するかによって、パーセプションは変わります。

徳力 たしかに大きく違いますね。

本田 4つ目が「タイミング」、時間軸のことです。わかりやすいところだと、この3年でマスクへの認識って大幅に変わりましたよね。あるいは喫煙や飲酒という「習慣」に対する認識も、時代によって大幅に変わっています。流れる時間のどの瞬間に接するか、がタイミングです。

最後の5つ目が「コントラスト」。対比、比較という意味です。東京タワーは高い建物だけど、東京スカイツリーと比べると低い建物になります。そうやって相対的に物事を認識するのがコントラストです。

続けて、パーセプションの活用のわかりやすい事例を3つご紹介していきます。

パーセプションはマーケティングの現場でどう活用できるのか?

「uno」が創った男性用化粧品という新しい市場

本田 まずはパーセプションを「つくる」事例から。資生堂に「uno(ウーノ)」というメンズ美容ブランドがありました(2022年に資生堂からファイントゥデイに譲渡されましたが、ここでは便宜上、資生堂のブランドとします)。unoはそれまで日本に利用者がほとんどいなかった、男性用BBクリーム(*)を発売して男性メイク市場をつくりました。

*BBクリーム:美容液やファンデーションなどの機能を兼ねたオール・イン・ワンの美容クリーム。

徳力 昔は男性がメイクをするという認識自体がなかったですよね。

本田 資生堂はBBクリームに、「第一印象はつくれる」というパーセプションを与えました。もっと自信を持ちたいと思っている若い人たちに向けて、このクリームを使うことで第一印象をよくすれば営業がうまくできるようになったり、女性と仲良くできるかもしれない、と訴えたんですね。

これは対象層の「リテラシー」のギャップに着目した戦略です。海外のビジネスパーソンには第一印象をよくすることに対する強い意識があるんですが、日本人男性にはなかった。そこで、海外から新しいリテラシーを持ち込んだというわけです。

徳力 あー、なるほど!

本田 今だって男性向けに「メイクアップ講習会」を開いても、なかなか人は集まらないと思います。でも、就活生や起業家、営業職のビジネスパーソン向けセミナーとして「第一印象をよくするメイク講座」を開いたら、人が集まりそうですよね。

パーセプション形成には、PRはもちろん、広告やプロモーションも大きく寄与します。この商品のCMも「第一印象はつくれる」という文脈のクリエイティブでした。

こうやって市場を創造することで、プライベートでもファンデーションを使う男性も増えはじめているそうです。

徳力 まさに市場を作った商品ですね。

本田 ある程度市場があったところに打って出たのではなく、社会にパーセプションを作り上げることで市場になったよい事例ですね。

「森永ラムネ」の「二日酔いに効く」というギャップが生んだ効果とは

本田 次はパーセプションを「かえる」事例です。森永製菓の「森永ラムネ」というお菓子は45年の歴史があり、85%の人にブランドが認知されています。ただ、共通認識としては、「子どものお菓子」ですよね。裏を返すと、成人して働いている人には関係ないと思われている。

この認識がSNSをきっかけに変わりました。口コミでラムネが「二日酔いに効く」と広まっていったんです。医師がブログで「二日酔いには、ブドウ糖90%のラムネを食べるのが良い」と推奨したりもしました。これがまさしくパーセプションをかえる、パーセプションチェンジの事例です。

徳力 僕もラムネがすごく好きなんですが、これで大きく変わった感じがしました。

本田 もう少し細かくいうと、厳密には「子どものお菓子」という認識は消えていないから、パーセプションの「拡張」というのが正しいかもしれません。

パーセプションにはパーセプションギャップ効果という考え方があります。森永ラムネみたいにとても認知度が高い商品に、実は意外な側面があると大きな驚きになりますよね。それまでの認識とのギャップ、つまりいい意味での「裏切り」が生じると、それは誰かに言いたくなるパワーを持っているし、SNSなどでの口コミを誘発します。

徳力 最近は僕みたいな大人も堂々と買えるようになりました。

本田 それと大事なのは、これが森永製菓からの仕掛けではなくて、自然発生的に起きた口コミだったことです。しかし、その話題がSNSで発芽した段階から試行錯誤して、最終的に「大粒ラムネ」という大人を意識した新商品をヒットさせました。

今はコンビニなどでも普通に見かけるようになりましたね。4年前と比較して2倍の売り上げになったそうです(取材当時)。ラムネという商品名や、パッケージのアイデンティティなどをほとんど変えずに、新しい認識を加えることでヒットしたわけですから、まさしくパーセプションチェンジが奏功したマーケティングだったと思います。

徳力 最初におっしゃっていた、認知だけでは足らないということの典型例ですね。

TOBをされた大戸屋の
「まもる」パーセプション戦略

本田 最後にご紹介するのが、「まもる」パーセプションです。2020年に大戸屋ホールディングス(HD)をコロワイドが敵対的TOB(株式公開買付け)を仕掛けた事例で説明しましょう。当時は、連日のように報道されていたので覚えている人もいるのではないでしょうか。

大戸屋はもともと食堂が始まり。安心して食べられる食材を使った出来立ての家庭料理を出す店、というコンセプトを大事にしていました。対してコロワイドは、コロナ禍で苦戦する大戸屋に、再建策としてセントラルキッチンを使った工場型の合理的な商品提供を提案したんですね。

そこで大戸屋は、自分たちが元々持っていたファクトの「手作り」と、コロワイドのセントラルキッチンから想起される「工場」という対立軸を打ち出すパーセプション戦略に出ました。「コントラスト」を明確化したんです。

ちなみに対立軸をつくるのは危機管理広報の常套手段でもあります。

徳力 ああ、なるほど。

本田 結果的には、大戸屋はコロワイド傘下に入ることにはなりました。でも、大戸屋が仕掛けた対立構造を描く広報戦略は、世論と相当な数の個人株主を動かしたんです。株主総会をメディアへ開示するなどのオープンな広報姿勢と相まって、大戸屋に好意的な経済報道に繋がりました。

徳力 TOBは難しい問題もありますからね。大戸屋は従業員有志の記者会見でも「店内調理やめない!」と大きく提示し、広報戦略がとてもうまかった印象です。

本田 そうなんですよね。このTOBを通して「手作り」というパーセプションが強化されたので、大戸屋ブランドを「まもる」という意味では、よい部分もかなりあったんじゃないかと思います。

今、なぜパーセプションが求められているのか?

本田 以前からあるパーセプションという言葉が求められている背景には、大きく3つポイントがあります。

本田 1つ目は「メタ認知」。自分がどう見られているかを、自分で客観的に把握する、ということですね。これができないと、周りが見えていない人、要するにイタい人になってしまいます。だから、個人のビジネスパーソンだけでなく、企業全体としても正確に自己のパーセプションを把握することが求められるわけです。

2つ目は「社会との接点」です。パーセプションって、結局は相手からどう見られているか、ということですよね。そこを無視して自分勝手なことをしてもうまくはいかない。社会が自分たちをどう見ているのかを、正しく把握する必要があります。

徳力 とくに企業はお客さんによって成り立っていますからね。

本田 3つ目は「長期的なしなやかさ」です。最近はマーケティングでも、以前より長期的な考えが求められている印象です。この不確実な時代に、どうやってブランドを維持管理していくかを考えると、ただ認知度を上げることよりも、消費者に継続的に好ましい認識をしてもらうことが大切です。

ブランドが時代に合っているのか、取り残されていないかを、認識のされ方ではかることができます。10年20年にわたってブランドマネジメントしていくなら、ブランドの認識のされ方は、時代に応じて変えてしまってもいいと思うんです。だから「長期的なしなやかさ」でパーセプションを把握していくことが大事なんだと思います。

徳力 マスメディアが強い時代では、認知さえ取れれば商品は売れましたけれど、もうそういう時代ではないですよね。これだけSNSが普及すると、もっと深い部分まで知ってもらったり、親しみを持ったりしてもらわないと、消費行動に繋げるのは難しいですね。

認識が変わらなければ、行動は変わらない

本田 PRのピラミッドで説明しましょう。

本田 認知→認識変容→行動変容のうち、真ん中にあるのがパーセプションなんです。PRって何のためにやるのかというと、ビヘイビアチェンジ、行動を変えるためですよね。行動を変えることは目標ではあるけれど、なぜ行動が変わったのかを考えると、認識が変わったから、という見方もできます。なぜこの視点が大切かというと、パーセプションが変わらない露出や広告をどれだけ増やしても意味がないからなんです。

徳力 従来のPRだと、パブリシティの件数などをKPIにされることが多かったですよね。でも、それだと今は効果が出にくい。本来はこうやって、認識を変えて行動を変えてもらう必要があると。大人にラムネを買ってもらおうとして、広告で「大人もラムネを買いましょう」と言っても、パーセプションは変わらないから売れないってことですよね。

本田 森永製菓さんの事例は偶然もありましたが、この図にそのまま当てはまる話ですよね。そうやって、認識と行動を行ったり来たりしながら、考えていくものだと思います。

パーセプションを理解することは、現実と向き合うということ

本田 私も仕事でクライアントとパーセプションを把握しましょうと話して、パーセプション調査をするんですが、結構ショックを受ける方が多いんです。

徳力 自分たちのブランドはこうだと思っていたら、ユーザーからはまったくそう思われていなかった、ということが起きるんですね。

本田 そうなんです(笑)。パーセプションと向き合うと、現実と向き合うことになる。でも、自分たちはこう見られたいと押し付けるのはただのエゴですよね。そのエゴだけで広告に何億も投資するのは、今の時代やっぱりおかしいと思うんです。

パーセプションを調べて、自分たちが望むような、よい印象を持たれていたらそれでもいいと思います。でも大概は好まれていない部分もある。そのギャップを埋めるために戦略を考える、という順番であるべきだと思います。

徳力 固定化されたパーセプションって、変えるのが大変だと思うんです。質問にもあったんですが、これを変化させるにはどういう取り組みが有効だと思いますか?

本田 固定化された認識というのは、固定化されている理由があると思うんです。「固定化されてるよ!」と声高に叫んだところで、まず変わらない。それよりも、例えば小さくてもいいから、「(固定化されたのとは)別の認識をしている人たちもいる」という証拠を持ってくるといいと思います。

例えば、日本だとこういうパーセプションが常識だけど、〇〇という国にいくとまるで違う考えの人たちがいる、とか。あるいは、若い人たちの間ではまったく違うパーセプションがあるんだとか。小さくてもいいから、そこから広げていくことが、パーセプションを変えていくコツなんじゃないかと思いますね。


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ゲストプロフィール

本田哲也さん
本田事務所代表/PRストラテジスト

 

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出されたPR専門家。世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人を経て、2006にブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』など著作多数。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。

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モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー

 

徳力基彦(tokuriki)|noteプロデューサー/ブロガー。 ビジネスパーソンや企業の、ブログやソーシャルメディア活用の可能性を日々試行錯誤してます。

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text by 大熊信

「note」掲載のオリジナル版はこちら パーセプション戦略がなければ人は動かない!PRの第一人者・本田哲也さんに聞く、市場を創る「認識」の力

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