【レポート】Web担当者Forumミーティング 2026 春

10万ページを8,000に激減! 富士通が挑んだグローバルサイト改革と「Sitecore AI」移行の舞台裏

大規模コーポレートサイトのCMS移行を成功させた事例とノウハウ、運用のポイントを、富士通、サイトコア、ジー・サーチが解説。

伊藤真美[執筆]

7:05

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関係者が多く、膨大なコンテンツを抱える企業サイトは、運用やガバナンスが複雑化しやすい。実効的な仕組みをいかに構築するか。

Web担当者Forum ミーティング2026 春」に登壇した富士通、サイトコアジー・サーチの三社が、富士通のグローバルサイト運営における課題解決の取り組みと、次世代CMS「Sitecore AI」への移行事例を通して、企業サイトを効率的に運用するポイントを解説した。

(左)富士通株式会社 CEO室 コミュニケーション戦略Div. マネージャー 蓑島 朋子氏 (中央)サイトコア株式会社 ソリューションコンサルタント 森澤 仁氏 (右)株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ 高橋 一夫氏
(左)富士通株式会社 CEO室 コミュニケーション戦略Div. マネージャー 蓑島 朋子 氏
(中央)サイトコア株式会社 ソリューションコンサルタント 森澤 仁 氏
(右)株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ 高橋 一夫 氏

富士通が進めたグローバル企業サイト改革

1935年に創立し、創立90周年を迎えた富士通は、全従業員99,000人を擁するグローバル企業であり、企業サイトは35の国と地域で展開されている。CEOをサポートするCEO室が、一貫してコーポレートブランドの発信やメッセージング、コミュニケーション戦略全般を担当し、Webサイトの運営・管理も担っていた。しかし、規模が拡大し、運用が複雑化するなかで、次のような課題を抱えていたという。

  • 従来のCMSでは、HTMLを直接記述してページを作成する必要があり、多くの工数がかかっていた
  • グローバルを含む各部署にページオーナーシップを委ねていたため、ページコンテンツの一貫性が欠如し、10万ページを超えるほど肥大化していた

そこで、効率的かつ効果的に企業サイトを運営するために、2021年3月より新たなCMSの導入を検討し、並行して新ブランド「Fujitsu Uvance」サイトの策定も実施していった。構築期間は2021年7月から10月中旬の3ヶ月半弱という短期間であり、アジャイル手法を採用して、2回のスプリント(開発周期)を回したという。

まずUvanceの新事業サイトと英語ブログ、合わせて約160~170ページを構築し、Uvanceサイトは48カ国で同時リリースした。その後、富士通企業サイトおよびグローバルでのグループ会社サイトを統合した。

なお、インフラ基盤には、サイトコア社のAzureベースの「Managed Cloud(マネージドクラウド)」を利用し、パッケージのサブスクリプション型を採用した。現在は、日本を含むグローバルのコーポレートサイト全体をサイトコアで管理しており、35リージョン、8,000ページという規模に至っている。

Sitecore導入の背景
Sitecore導入の背景

運用体制のビフォー・アフター

富士通CEO室の蓑島氏は、「10万ほどのページを8,000ページまで大幅に削減できたが、単に量を減らしたのではなく、情報の鮮度や工数削減という課題解決を目的としている」と語り、運用体制の大きな変化としてビフォー・アフターの比較を示した。

従来は各部門が直接サーバーに対してページ編集やコンテンツ作成、公開などの権限を持っていたが、新体制ではCEO室の「Webプラットフォームガバナンス部門」へ一元化している。

富士通Webサイトのコンテンツ運用
富士通Webサイトのコンテンツ運用

ガバナンス強化と運用効率化の実践

この新体制における大きなポイントは、ガバナンス機能が強化されていることだ。‎どのようなコンテンツを作るかという情報設計やメッセージングなども、CEO室で一元的に決定し、全グローバルにおけるルールと指針を策定している。さらにテンプレートやデザインの情報設計はもとより、実際のページ制作や更新といった運用業務まで集中させているという。

コンテンツのオーナーシップ(商品やサービスなどの情報)は、各事業部門やグループ会社に残している。各部門がCEO室のルールに沿って共有した情報をWebコンテンツとして制作・公開するのが、Webプラットフォームガバナンス部門の役割だ。蓑島氏は、「効率よくタイムリーな情報発信を実現するために、全社一元化体制とSitecoreの機能を組み合わせて対応している」と説明した。

ガバナンス機能などの一元化で一見負担が増えたように見えるが、ルールやテンプレートを策定し、それに則った運用を行うことで物理的なページ数を大幅に削減し、運用負担を軽減させている。また、Sitecoreでコンテンツの種類ごとにテンプレートを用意し、HTMLコーディングではなくフィールド入力形式でページを作成することで、工数を大幅に削減できたことも効率化につながった。

SitecoreのSaaS移行で加速する、次世代に向けたWeb運用

ガバナンス機能の一元化とともに、Webサイト管理の負担軽減に寄与したSitecoreだが、SaaS版への移行が進められているという。

その背景について、プロジェクトを手掛けたジー・サーチの高橋氏は、「市場環境の変化」と「Webサイトの役割の変化」を挙げ、「最新のセキュリティ対応を含めたアーキテクチャの刷新の必要性が高まり、従来型ではWebサーバーに対してテンプレートでコンテンツを出力する形式のため、Web上での表現力が制限されるという課題があった」と説明する。

また、Managed Cloud(マネージドクラウド)環境での運用における課題として、富士通のセキュリティ基準が年々厳しくなるなかで、外部対応にコストがかかり、定期的なセキュリティチェックへの対応が困難になっていること。そして、独自カスタマイズが増加し、運用・保守工数が増大して標準化が困難になっていたことをあげた。

富士通のヘッドレス採用の背景その1
富士通のヘッドレス採用の背景その1

ヘッドレス移行で期待される、転送量削減と表示速度向上

そこで、富士通側の基盤運用を解放するべくSaaSへ移行し、運用コストやIT要員の負担を軽減することで、コンテンツ運用・マーケティングやトランスフォーメーション領域に注力できる環境を目指した。またCMSのバージョンアップに伴う開発・運用制限などの機会損失や管理コストの削減も期待している。

さらに、ヘッドレス化により、コンテンツ管理とWebフロントエンドを分離することで、CMS側のモジュールが不要となり、CMSインフラの軽量化を実現できる。CMSとはデータのやり取りのみを行う構成となるため、データ転送量の削減が期待される。一般的なヘッドレス構成のケーススタディでは、従来構成と比較してデータ転送量が約半分に抑えられ、表示速度が約2倍に向上した事例も報告されている。

富士通のヘッドレス採用の背景その2
富士通のヘッドレス採用の背景その2

高橋氏は、「データのみをAPIで取得し、フロントエンドで自由に構築することで、速度向上、セキュリティ向上、表現力向上というメリットが得られる」とその効果をあらためて強調した。

「AI×ノーコード」で効率と品質を両立

SaaS化したことで、将来的にもスマートウォッチなどのデバイスや社外への展開においてAIが活用しやすくなった。AI導入は、新しいトレンドに柔軟に対応していくためにも欠かせない選択肢だ。そのため、現在は、AI基盤のCMS SaaSである「Sitecore AI」に移行しつつあるところで、こちらの導入効果も期待される。

蓑島氏は次のように期待を語った。

まだ取り組みの段階ではあるが、作業効率と品質の両面で大きな期待を寄せています。これまで、効率を追求すれば品質に影響が出やすく、品質を重視すれば時間がかかるというトレードオフがあり、その両立が大きな課題となっていましたが、AIはこの制約をブレイクし、両方を実現できる可能性があると感じています。Web運用にとらわれず、新しい形やより大きな枠組みで情報発信に取り組んでいきたい(蓑島氏)

こうした多面的な情報活用を支える鍵となるのが、「Sitecore Connect」と呼ばれるiPaaS(Integration Platform as a Service)上のローコード・ノーコード基盤だ。SalesforceやSlackなど、他のSaaSや業務システムと接続するコネクタが用意されており、「レシピ」と呼ばれる接続方法で簡単にデータのやりとりが行える。

また、企業のブランドやサービス・製品のロゴやブランドカラー、テンプレートなどを「Brand Kit」に登録すると、Sitecore上でコンテンツ作成時にAIが生成・チェックする仕組みだ。

Sitecore AI導入期待効果
Sitecore AI導入期待効果

Web運用をAIで統合する「Sitecore AI」で、次世代に向けた情報活用を

「Sitecore AI」は、CMSに加え、DAM(デジタルアセットマネジメント)基盤、サイト内検索基盤、アクセス履歴などの分析機能、そして先述のiPaaSを、AIベースで統合的に提供する。

システム構成概要
システム構成概要

「Sitecore」製品を提供するサイトコアの森澤氏は、「プランニングやコンテンツ作成に時間がかかり、市場投入が遅れるという課題の解決が出発点になっている。人間が本来注力すべき『考えること』に集中するため、細かな作業はAIに担わせるという発想に基づいている」と説明する。

顧客分析から計画実行までのWeb運用プロセスは、これまで複数の製品が個別に担ってきた。しかし「Sitecore AI」では、ライフサイクル全体を通じて一つのAIと対話するというコンセプトのもと、機能を一つのプラットフォームに統合している。

たとえば、人が立てた企画をもとにAIがコンテンツの草案を作成・公開し、その後の効果測定を踏まえて、成果の高い施策をAIエージェントが継続実行する。さらに、パーソナライズの仮説提案までAIが担う。森澤氏は、その考え方を「考えるのは人、実行するのはAI」と端的に表現した。

Sitecore AIが実現する人とAIの役割分担
Sitecore AIが実現する人とAIの役割分担

「Brand Kit」でブランド統制と業務を効率化

デモでは、作成したい言語を登録しておくことで、日本語サイトをAIが自動翻訳し、各言語のページを生成する「ローカライゼーション」機能も紹介された。最終確認は人手で行う必要があるものの、時間とコストの大幅な削減につながる機能として注目される。

さらに、「Brand Kit」に企業のデザインガイドラインやブランド情報を登録しておくと、AIがRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の仕組みでそれらを参照し、回答や生成物に反映する。

たとえば、Webサイト編集時に「この文章をもっと良くして」と依頼すれば、登録済みのガイドラインをもとにAIが推敲を行う。ブランドを選択してAIアシスタントに「背景色の上に配置する際のルールは」「このロゴは使用可能か」といった質問を投げかけることもでき、登録情報に基づいて回答が返る。新人や異動直後の担当者でも迅速に確認できるため、確認業務の負担軽減とスピード向上に寄与する。また、一般のWeb検索ではなく登録情報を参照するため、ハルシネーションが起きにくい点も利点だ。

Brand Kitは企業全体だけでなく、製品やサービスごとに分けて登録できるため、それぞれに適したサポートが可能になる。ターゲット整理を行うエージェントなどと組み合わせてカスタマイズすれば、より効果的なコンテンツ制作に活用できる(高橋氏)

AIエージェントの活用と、ジー・サーチの今後の展望

AI機能は質問対応だけでなく、「日本向けに文化的に適切な表現へ言い換えて」といった形で、コンテンツ制作時のブリーフィングやアイデア出しにも活用できる。ブランドガイドラインに準拠した生成を行うため、突飛な表現が生じにくいという。

複数のエージェント機能が用意されており、例えば「分析機能」は、サイト情報を入力するだけでスコアが表示され、AIが問題点や改善策を提示し、AI検索への対応策まで提案してくれるというものだ。新規サイトの立ち上げ時や既存サイトの改善時にも、AIエージェントと対話しながら効率的に方向性を定められる点が特徴だ。

本プロジェクトを牽引してきたジー・サーチは、富士通グループのデータサービス・Web/CMSソリューション専門会社として、企業や官公庁、自治体などのWebサイト構築を幅広く手がけ、デジタルマーケティングや運用支援まで一貫して提供してきた。UI・UXチームを擁し、構築とビジュアルデザインを統合的に実施できる点を強みとし、現状分析から始まる改善プロセスを通じて顧客課題の解決に取り組んでいる。

高橋氏は、「今後は富士通のグローバルサイト改革で得た知見を生かし、新しい時代に向けたWeb活用と情報発信を支援していく」と語り、セッションを締めくくった。

ジー・サーチのデジタルソリューション
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