AI時代にWebサイトは必要なのか? 6人の専門家に聞いた
AI時代にWebサイトは必要なのか? 6人の専門家(金谷武明氏、江沢真紀氏、小川卓氏、矢嶋聡氏、阿部淳也氏、橋本大也氏)に聞いた。
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生成AIの普及によって、検索結果からWebサイトを選んで情報を探すのではなく、AIに質問し、その回答だけで用事が済むことも増えてきた。AIが情報を探し、整理し、答えてくれるようになれば、企業のWebサイトを訪れる人は減っていくのかもしれない。さらにAIエージェントが普及すれば、比較や購入までAIが代行するようになる可能性もある。では、企業はこれまでと同じようにWebサイトに力を入れ続けるべきなのだろうか。
正直なところ、今の段階で確実な答えを出すのは難しい。生成AIをめぐる環境はあまりにも速く変化しており、数年後のWebの姿を正確に予測することはできない。だからこそ今、あえて聞いてみたい。Webサイトはこれからも必要なのか?
そこで今回、SEO、Webアナリティクス、マーケティング、Web制作など、それぞれ異なる立場でWebに関わってきた専門家に、同じ5つの質問を投げかけた。
5つの質問と、専門家6人の回答
質問項目は次の5つだ。
① 生成AIの普及によって、Webサイトの役割は今後どのように変わると思いますか。
② 「AIが答えを返す時代になると、Webサイトを見る人は減る」という意見もあります。一方で、「Webサイトはなくならない」という声もあります。どちらに近いお考えでしょうか。その理由も教えてください。
③ これから企業のWebサイトに最も求められるものは何だと思いますか。
④ 企業は今後3年間で、Webサイトについて何を優先して取り組むべきでしょうか。
⑤ 「生成AI時代でもWebサイトは必要か」という問いに対して、一言で答えるとしたら、どのような答えになりますか。
金谷武明氏
株式会社Digital Evangelist代表取締役、日本経済大学教授。Googleに16年間勤務し、検索のエバンジェリストとして活動。検索、AIなどを専門とする。
①役割の「重心」が「人を集める場所」から「人とAIの双方が参照する一次情報源」へ移ると考えています。企業サイトは、AIが自社について語る際の根拠となる、信頼できる情報の置き場としての性格を強めていきます。同時に、購入や問い合わせといった「行動」が完結する場としての役割も当分は残ります。
②両方が同時に成立すると考えています。人によるトラフィックは減ります。特にどこにでもあるようなコンテンツをSEOで上位表示させ、そのアクセスを広告収入に換えてきたようなサイトは影響を受けやすいでしょう。他方、サイトを訪れるユーザーは関心度が高いユーザーになります。
Googleの発表でも、クリック総数は比較的安定しており、クリックの質はむしろ向上しているとされています。また、人のアクセスが減る分野でも、AIによるアクセスは増えます。AIは無からは答えを作れず、Web上の情報を参照するからです。Webサイトは、量の減少と質の濃縮、そして参照者の変化を同時に経験することになります。なくなるのではなく、性格が変わるのだと捉えています。
③独自性、言い換えれば「そこにしかない情報」の重要性が高まります。AIの回答では、コンテンツはサイトの文脈から切り離され、情報単体で比較されるため、他の多くのサイトと同じ内容であれば、1つか2つのサイトに代表されて終わります。自社の実データ、事例、当事者としての知見など、その企業でなければ出せない一次情報が、参照される価値を持ちます。そしてその独自性は、本業と結びついていることが前提です。事業と関係のないコンテンツで集客する手法は、AIの理解力が上がるほど通用しなくなります。
④第一に、ビジネスモデルの見直しです。トラフィックが減少傾向にあるようなサイトは、それを無理に回復させようとするのではなく、それでもクリックするユーザーに焦点を当て、ビジネスモデルを見直すことを勧めています。たとえば、コミュニティの形成や、専門性を活かしたコンサルティングなどの事業への接続など、高関心ユーザーとの関係を深める方法の検討です。ただし、これらは編集や集客とは別の能力を要するため、自社の体制を踏まえた設計が必要です。
第二に、自社にしか出せない情報の棚卸しと、事業と無関係な集客用コンテンツの整理です。
第三に、AIに正しく参照されるための開放です。ただしこれは、コンテンツ自体を商品として販売する有料サイトには当てはまりません。そうしたサイトでは、クロールを制限し対価を求める判断も十分あり得ます。ここで言う開放は、コンテンツが認知と信頼獲得の手段である一般的な企業サイトを想定しています。そうした企業にとって、AIに参照されないことは、存在しないことに近い状態になっていきます。クロールを許可し、引用される側に回ることが合理的です。
⑤必要です。ただし「これまでと同じWebサイト」ではありません。AIが答えを運ぶ時代に、その答えの根拠となり、人が最終的な行動を起こす場となる。その役割を果たせるサイトだけが必要とされます。
江沢真紀氏
アユダンテ株式会社の創業メンバー、SEOコンサルタント。2001年からSEOに携わり、大手通販サイトを中心に数多くのSEOプロジェクトを担当。
①ユーザーはAIの回答で完結することも多いと思うので、AIの普及とともにWebサイトへの訪問はやはり減っていくように思います。ただ、サービスや商品の確認、AIの回答にはない詳細な情報の取得、そして予約や購入など、最後のアクションはWebサイトの役割として残ると思います。
②私は「Webサイトはなくならない」と考えています。なぜならAIの学習元やRAGで取得するデータはやはりWebサイトのデータが多いからです。AIに参照されるためにも自社に関する情報をWebサイトで発信し続ける重要性はあまり変わらないと推測しています。
③AIの生成結果を見ていると、古い情報や誤った結果も多く目にします。そしてAIは対話型で、ファンアウトなどの仕組みもあるため、とにかく自社に関する「最新」かつ「正確」で「網羅的」な情報を「認識可能」な形でWebサイトに掲載することが、企業サイトにとって重要ではないかと考えています。
④MCPなどが話題になっていますが、向こう3年であれば、私は優先すべきは「SEOによるサイト環境整備」だと思っています。
アユダンテではLLMクローラーの生ログ分析を継続的に行っていますが、特にAIには機械可読性の面で課題があると感じています。クローラビリティ、JavaScript、画像、URLの処理など、AIクローラーに対する課題はいろいろあり、SEOでサイト環境を整える必要性を今まで以上に感じています。
また、AIにレコメンドしてもらうには外部サイトでの露出が大事ですが、そういうサイトに取り上げてもらうにも知ってもらわないといけない。つまり、Googleでの露出やサイテーションなど、SEOが関わってきます。
今だからこそ、企業のWebサイトはすべての検索システムに対する最適化という部分をしっかり見直せるとよいのではないかと思います。
⑤必要です。
小川卓氏
株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役。リクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパンなどを経て独立。Webサイトの分析・改善、KPI設計を得意とする。
①「人に読ませる場所」から「人とAIの双方に読ませる場所」へと役割が広がると考えています。これまでは検索経由で集客し、サイト内で理解・比較・行動まで完結させる設計でした。今後は理解や比較の一部をAIが肩代わりします。ただしAIが参照している情報の出どころは、結局のところ各社のWebサイトです。起点であることは変わらず、読まれ方が変わるとみています。
②訪問数そのものは減ります。一方で、AIが一次的な絞り込みを済ませてから訪れるため、来訪者の検討度は上がります。実務上やっかいなのは、AIの回答内で自社が触れられても、それがサイト内の数字にほとんど表れないことです。「サイトの価値が下がった」のではなく「サイトの中だけでは価値が測りにくくなった」というのが実態に近いと考えています。
③自社ならではの情報が結局大切になります。価格、仕様、導入事例、顧客の声、自社でしか取得できない情報です。要約はAIが得意ですが、自社にしかない情報は生成できません。加えて、それが人にも機械にも読み取れる形で整理・更新されていることが重要です。情報の鮮度と正確さが、そのまま引用されるかどうかを左右すると考えています。
④3つです。1つ目は自社情報の充実と構造化。2つ目は計測環境の整備。AI経由の流入を識別できるようにし、AIクローラーのアクセス状況も把握する。3つ目はKPIの再設計です。セッション数を主指標に置き続けると、正しい打ち手が「成果が出ていない」と判断されてしまいます。3年かけて、量から質へ評価軸を移していく期間になるでしょう。
⑤Webサイトは必要です。ただし集客装置としてではなく、情報の源泉としての役割を担うことになると考えられます。
矢嶋聡氏
株式会社はね代表取締役。LINEでPR・マーケティング、メルカリでグループ広報を統括するなど、企業のコミュニケーション、マーケティング領域に幅広く携わる。
①情報の収集・確認・整理という「入口」の役割が、Webサイトから生成AIへ移っていくのは間違いありません。ただし、生成AIの回答品質にはまだ揺らぎがあり、誤情報も少なくないのが事実です。利用者側もそれを認識しており、業務利用やヘルスケアなど機微な領域ほど、企業の公式サイトや政府の公式情報といった信頼できるソースに当たり直す行動は残ります。加えて、生成AI自身が参照する一次情報としても公式サイトの価値は高いです。つまり、Webサイトは「集客の入口」から、AIの回答を検証するための信頼できる出典、そしてAIが引用する一次情報源へと役割が変わるでしょう。
②「減るが、なくならない」。閲覧数そのものは確実に減ります。しかし訪れる人の質が変わります。単に情報を集めに来る人ではなく、「確かめに来る」人、つまり意思決定の直前にいる人が中心になります。訪問1件あたりの重みはむしろ増します。PVの減少をWebサイトの価値低下と読み違えないことが重要です。
③第一に、正確で更新され続ける一次情報であることです。そのうえで、事実確認以外にわざわざ訪れてもらう理由が要ります。それは、企業が事業を通じて生活者や社会にどんな意義・価値を提供しようとしているのか、というナラティブと世界観です。AIは事実を要約できても、企業の意志やスタンスまでは代弁できません。文字だけでなくビジュアルも含めてそれを伝える、ブランディングの場としての役割が重要になります。
④二正面での取り組みが要ります。1つは「AIに正しく引用される状態」の整備。一次情報の構造化、更新頻度、出典やデータの明示といったAIにとっての可読性の担保です。もう1つは、自社のナラティブの言語化と、その実現に向けた取り組みや成果を、プロセスも含めて一貫性と継続性を持って発信する仕組みづくりです。前者は3年で当たり前になりますが、差がつくのは後者です。
⑤必要です。ただし役割は「情報を届ける場所」から「企業の意志と社会的価値を伝える場所」へ移ります。
阿部淳也氏
株式会社ワンパク代表取締役社長、クリエイティブディレクター。UIエンジニア、デザイナーなどを経て、2008年に同社を設立。Webを中心に企業のコミュニケーション戦略やクリエイティブを手掛ける。
①役割は次のように変わると思います。
- 正しい情報を、スピード感を持って、企業の責任のもとで正確に伝えること。
- IR情報に加えて、企業の在り方(スタンスやそこに関わる人々)を伝える場所。
②世の中にはノイズがあふれかえり、フェイクニュースやSNSでのなりすましなど、本物の情報か偽の情報かの判別がつかなくなっています。そんな中で、自社で完全に管理可能な企業サイトの役割はますます重要になっていきます。その観点から、企業サイトがなくならないことは明白です。
③ニュースリリース、IR情報などの「正しさ、発信のスピード、正確さ」に加えて、ステークホルダー(機関投資家、個人投資家、パートナー、従業員など)が企業理解を深めるためのコンテンツを増やしていけるかが肝になっていくと考えます。
④昔から「セマンティックWeb」という言葉がありますが、情報を構造化して管理していくことの重要性は、従来のSEOの時代と原則変わりません。そのうえで、ユーザーにとっても読みやすい文章であることを前提に、AIにも理解しやすいコンテンツづくりを心がける必要があります(結局はContents is Kingですね)。
- 質の高いオリジナルコンテンツを作成(Q&A方式のコンテンツの充実など)
- コンテンツの内容が明確で構造化されている
- 経験、専門性、権威性、信頼性(E-E-A-T)を高める
- 専門用語には解説を加え、平易な言葉遣いを心がける
⑤間違いなく必要であり、企業が発信する情報の砦だといえます。
橋本大也氏
デジタルハリウッド大学教授。ビッグデータ・AI企業のデータセクションを創業。現在は教育とITの領域を中心に活動する。
①ブラウザ経由ではなくAI経由で多くの情報を得る時代になります。企業サイトは、AIが答えを組み立てる情報の参照元として重要な役割を担います。Webを生成するのが簡単になり、Web制作やSEOの仕事は減るかもしれませんが、Webの役割は小さくはなりません。
②Webサイトはなくなりません。公式情報として、AIに情報を提供する役割が増えます。AIも何もないところから答えを作ることはできず、出典として企業の公式サイトを必要とします。検索経由のWebページ訪問は少し減りますが、AI経由の流入が増えるでしょう。AIの回答を読んで納得した人が確認や購入のために訪れるので、1件あたりの価値はむしろ高くなります。SNSの口コミのランディング先としても、これまでどおり重要です。
③AIの回答において正しく引用されるように、より正確で最新の情報提供が必要です。古い情報を放置すると、AIがそれを何度も再生産して広めてしまうリスクがありますし、上場企業のIRレベルの高い意識で情報を発信することが必要になります。事実と日付を明示し、更新の責任を持つという姿勢が重要です。経験価値の高いWebサイトでブランディングを行ったり、ログイン型サービスで顧客囲い込み戦略を行ったりすることも、これまで以上に大切になります。
④AIは文字だけでなく、画像やデータも読むようになりました。図表やPDF、動画までが解析の対象になっています。人間が読まなくても、機械可読の情報をできるかぎり多く公開することで、AIの回答により多く利用されるようになります。データベースを丸ごと公開することやFAQの充実は、AI学習に寄与します。
社内に眠っている仕様書やマニュアル、事例集を外に出す判断も検討に値します。また、Webサイト自体にAIを内蔵する「WebのAI化」も有効です。訪問者にページを探させるのではなく、サイト内のAIが自社データに基づいて答える形が増えていくでしょう。
⑤人が読むためだけでなく、AIに読ませるために必要です。
ちなみに橋本氏は、今回の回答を生成AIでマンガにして送ってくれた。
6人の回答から見えたこと
6人全員が「生成AI時代でもWebサイトは必要」と答えた。さらに、共通しているのは、これまでと同じ役割のままではないという点だ。情報収集の一部をAIが担えば訪問数は減る一方、Webサイトは人とAIの双方が参照する一次情報源となる。正確で新しい情報、自社にしかない情報を、人にもAIにも理解しやすい形で発信する重要性は、むしろ高まりそうだ。
その先で何を重視するかには、専門領域による違いも鮮明に表れた。金谷氏は「そこにしかない情報」とビジネスモデルの見直し、江沢氏は「SEOの基礎」、小川氏は「量から質へ」という計測・KPIの再設計をあげる。矢嶋氏は企業の「ナラティブと世界観」、阿部氏は自社で管理できる「企業が発信する情報の砦」としての役割を重視する。橋本氏はさらに、AIが利用できる情報の積極的な公開や、サイト自体にAIを内蔵する「WebのAI化」まで視野に入れる。
生成AIによってWebサイトが不要になるというより、「何のためにWebサイトを存在させるのか」が改めて問われている。6人の回答からは、集客の場から、企業が責任を持って情報を発信し、人とAIの双方に信頼される基盤へと、Webサイトの重心が移りつつあることが見えてきた。
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