インターネット広告、これからの20年はどうなる? JIAA 20周年記念シンポジウム レポート
1990年代の半ばから始まったインターネット広告は、今や1兆8千億円規模へと急成長した。そのインターネット広告の健全な発展を目指し、1999年5月に設立されたのが、JIAA(日本インタラクティブ広告協会)である。
今年で20年を迎えたJIAAは、インターネット広告業界の第一人者による記念のパネルディスカッションを11月27日に行った。第1部は「インターネット広告の未来に向けた提言」、第2部は「次の20周年に向けたJIAAの取り組み」。ここでは、それぞれのセッションでのポイントを紹介する。
求められる透明性とユーザー視点のデータ活用
第1部のパネリストは、楽天の有馬誠氏、グーグルの川合純一氏、Twitter Japanの笹本裕氏。モデレーターはエヌ・ティ・ティレゾナントの国枝学氏が務めた。
インターネット広告の現状と今後
まずモデレーターの国枝氏から、「現在のインターネットの現状」について問われた有馬氏は、「最大の課題は、インターネット広告への信頼感・好感度があまり高くないこと」だとして、アドベリフィケーションの重要性について語った。
プラットフォーマーが持つデータは、広告主とユーザー双方に価値が生まれるように活用していくべきだと考えています。ターゲティングによってビジネスを大きくして、広告主に喜んでいただくように使うだけではなく、アドベリフィケーションを行ってユーザーにも価値のある関係を築くことが重要です(有馬氏)
続いて川合氏が、「今後のインターネット広告がどうなっていくのかについて」、次の3点をあげて解説した。
- より生活者に寄り添った広告
生活者視点から見ると、よりパーソナライズされた広告や見たい広告という、適した広告だけがほしい傾向がある。広告主にとってもより高い効果を生み出すため、この傾向は5年、10年続くと考えられる。
- 最適な形で振り分けられる広告
現在はさまざまな広告の形があり、有効な広告の形がわからないことが広告主の悩みだ。フォーマットや場合に合わせて考えずとも、最適な形でユーザーに広告が振り分けられるようにしたいという要求が増えていくと考えられる。
- ユーザーに選択肢を与えた上での広告
広告を配信する側ではなく、受け取る側にもっと選択肢を与えていくべきだという考え方がGoogleのなかで主流になってきている。
「どうやってあなたに配信されたのかという透明性」と、「その広告が欲しいか欲しくないか、もしくは自分のデータを使っていいかどうかの選択肢」をユーザーに与えることが重要になる。
そして笹本氏は、TwitterというSNSメディアの取り組みを通して、「受け手側をより意識した広告を目指すべき」と語った。
11月22日以降、Twitterでは政治関連の広告を禁止にしました。なぜなら、広告は洗脳するものではなく、影響を与えるものでなくてはいけないからです。受け手側をより意識して作っていくプラットフォームをTwitterは目指しているのです(笹本氏)
ユーザーにインターネット広告への理解を促す取り組み
JIAAでは、2019年9月に、全国の15歳~69歳の男女を対象に、「インターネット広告に関するユーザー意識調査」を行った。その結果、インターネット広告は、ユーザーからのネガティブイメージが強いということがわかった。しかし、データ活用の方法によっては、ユーザーにとって良い面もある。
そこで国枝氏は、各氏に「ユーザーがインターネット広告に良い印象を持ってくれるようになるなど、インターネット広告がデータを健全に発展していくためにどうすべきか」について聞いた。
まず川合氏は、「YouTubeにログインして動画を多く見る人は、あまり見ない人よりも、広告に対する信奉度が1.8倍になる」ことを例に挙げた。同氏は「YouTubeを多く利用する人は、広告のメリットを理解している」としたうえで、JIAAへの期待を次のように語った。
ユーザーの人たちに、インターネット広告にはどういうメリットと危険性があるのかをわかってもらうことが大切です。ユーザーの理解を促進する活動を、中立的な立場であるJIAAの皆さんにぜひ行ってほしいと思います(川合氏)
そして最後に国枝氏は、「倫理観をもって取り組んでいる企業とそうでない企業を、ユーザーやクライアントが区別できる仕組みをJIAAに作ってほしい」と望んで、第1部は終了した。
ユーザー意識調査から見えるインターネット広告の課題と対策
第2部は「次の20周年に向けたJIAAの取り組み」というテーマで行われた。パネリストはJIAA副理事長の3名で、ヤフーの川邊健太郎氏、博報堂DYメディアパートナーズの矢嶋弘毅氏、日本経済新聞社の渡辺洋之氏。モデレーターはJIAA理事長で電通の髙田佳夫氏が務めた。
ネガティブな広告イメージの払拭が課題
先述した「インターネット広告に関するユーザー意識調査」の結果を踏まえ、登壇者がどこに着目したか話題となった。
矢嶋氏が着目したのは、「怪しい広告イメージ」と「個人情報提供に対する信頼性の低さ」だった。
矢嶋氏はこの結果をうけて、「よほど健全ではないと思われているのだな」と感じたという。
テレビや新聞では目にしないような広告も、インターネット広告では出てきてしまいます。これにどのように対処するかが、とても大きなテーマだと考えています(矢嶋氏)(矢嶋氏)
また、インターネット広告はターゲティングできることが利点だが、以下の結果のように、データを取得されることに対するユーザーの抵抗感が大きな課題だ。
- GPSやWi-Fi情報による現在位置 68.3%
- GPSやWi-Fi情報をベースとした店舗来店履歴 62.8%
- 自身で登録した情報(性別、年齢、居住地など) 60.7%
- サイトやアプリの閲覧・利用履歴(閲覧ジャンルやコンテンツ内容など) 60.1%
- サイトやアプリ内の商品・サービス購入・利用履歴 58.2%
「ユーザーはデータを取得されることに抵抗感がある」という課題に対し、解決策として、各氏は次のように語った。
データ取得と活用の透明性をプラットフォーマーが開示して、わかりやすく説明していくことが大切。データ取得を拒否する権利、広告を受け入れない権利を確立していくことも必要だと思います(矢嶋氏)
少なくとも大きな組織力をもったインターネット上の媒体は、もっと改善すべきだと思います。広告を掲載するプラットフォームでもあるヤフーでは、広告審査を行い、あやしい表現は落としています(川邊氏)
データを取得する理由を明確に説明する必要があると思います。たとえば、「データ取得はサービス改善のために行い、結果的に皆さんのためになります」とユーザーに説明をして、「何のためにデータを取得するのか」という目的を見失わないようにしなければならないですね(渡辺氏)
JIAAとしては、協会に所属している企業の広告をしっかりチェックしていく体制を整えることが大事だと考えています。
「JIAAに入っている企業の広告なら大丈夫」と、ユーザーにも企業にも言えるようにしていかなくはいけないと思います(髙田氏)
ユーザーへの説明がインターネット広告の今後20年を決める
また、ユーザー調査結果で渡辺氏は、次の2点が気になったという。
- インターネット広告がご自身の情報を基に表示されていることに対して不安を感じる割合 86.4%
- 「広告はあっても良い」と回答した割合≒広告受容者 90.6%
さまざまな不安があるにもかかわらず、90%以上のユーザーがインターネット広告を許容しているということは、役割が理解されているのではないかと渡辺氏は語る。
広告によっていろいろなものが無料で使えることは、わかってもらえているのではないかと思います。
ただし、「広告のやりすぎは良くないけれど、あってもいい」という人たちに、「いらない」と思われてしまうかどうかによって、今後の20年が決まります。
広告に否定的な人を増やさないためにも、広告主である企業も、業界団体としてのJIAAも、ユーザーにきちんと説明していくことが大切だと考えます(渡辺氏)
ユーザーは広告のメリットも知っている
川邊氏も広告への不快感に注目したが、世代別に見ると将来的には受容してくれる人が多くなるだろうという。
若い人のなかには、Twitterを使って自分に関係のあるニュースしか見ないという人が増えています。「自分のデータを出すから、自分に合った広告しか出さないでほしい」という人も若い人中心に増えてくるでしょう(川邊氏)
川邊氏がもう1つ着目したのは、アドブロックへの意識だ。JIAAが行った調査では、広告を表示させないアドブロックを使用している人や、使用したいと考えている人は、どの世代でもある程度いるという結果が出ている。しかし、次のアンケート結果にあるように、広告のメリットを理解して、広告を見てもよいという人が一定数いる点だ。
ヤフーでは、アドブロック前提で収益が出るように検討しようとした時期もあったそうだ。しかし結局、対策は行っていないという。というのも、次のアンケート結果にあるように、広告のメリットを理解して、広告を見てもよいという人が一定数いるからだ。
- 広告役割共感【計】58.7%
- 広告があることで、「Yahoo!JAPAN」や「Google」などのサービスを無料もしくは安価で利用できる 32.9%
- 広告によって、新商品を知ることができる 22.3%
- 広告によって、新たな発見をすることができる 17.7% など
ここで、話題は「広告をなくし、無料で使えていたツールを有料にしていく方向はあるのか」に変わる。そこで、第1部に登壇したグーグルの川合氏が再登壇。広告を出さずにGoogleメールを有料にしていく可能性があるかという質問に、「考えていない」と回答した。
グーグルでは「広告は立派な情報である」と信じています。そのため、広告をよりユーザーに受け入れやすくするには、どうすればいいのかを第一に考えています(川合氏)
次の20年に向けて何をすべきか?
最後に、2020年から次の20年間に向けた期待を、各氏は次のように語った。
川邊氏:少なくとも2020年代にやっておかなくてはいけないのは、広告の情報価値の向上です。そのため、「こういう情報に基づいて、こういう広告を出しています」とユーザーに対して説明を尽くすことが大事です。
JIAAもガイドラインを出して、ユーザーの不安感を取り除いたうえで、徹底的に各ユーザーにとって価値ある情報を出していけるように、進化すべきだと思います。
矢嶋氏:これからの20年は「テクノロジーを使ったイノベーションを加えて、広告業界を変えていかなくてはいけない」と思っています。
この20年間は、テクノロジーを使わずに、マスとインターネットという形で変わってきました。これからは全部がデジタルです。広告業界全体がテクノロジーを使ってデジタル化していく動きに対して、JIAAもうまく並走していくべきだと思います。
渡辺氏:はっきりしていることは、これからはもっとデジタル化が進み、技術の進化はとまらないということです。
これからの技術の進化を考えると、動画も含めて、「より良い新しいデジタル体験を作る」というところから始めなくてはいけないと思います。
各氏とも広告業界はこれからの20年間も変化を続けていくべきとして、シンポジウムを締めくくった。
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