インタビュー

女性トップリーダーが本音で語る――2018年、デジタルマーケティングの展望と課題とは?【インフォバーン今田素子×Panasonic山口有希子対談】(前編)

日本のデジタルマーケティング領域を代表する女性トップランナーのお二人に、業界を俯瞰する話題から仕事観やキャリア形成に関する考え方まで聞いた(前編)。

ヤフーやIBMなど大手IT企業のB2Bマーケティングに携わり、2017年12月にパナソニックのコネクティッドソリューションズ社常務(エンタープライズマーケティング本部 本部長)に就任した山口有希子さんと、インフォバーンの創業者として20年にわたってオンラインメディアの新しい形を追求してきた今田素子さん。

今回、日本のデジタルマーケティング領域を代表する女性トップランナーのお二人に、業界を俯瞰する話題から、仕事観やキャリア形成に関する考え方まで、縦横無尽に語っていただいた。

前後編でお届けするこの対談記事、前編ではインターネット広告などデジタル領域の課題、ブランドとメディアの関係性などについての議論を紹介する。

2018年のデジタルマーケティングはどうなるか?

――お二人の主戦場であるところのデジタルマーケティングについて、現在、どのように見ていらっしゃいますか?

山口: デジタルは販促の手段でしかなかった時代から、企業のマーケティング活動のコア(中核)である時代になったのだと感じます。

同時に、ルールの整備が追いついてきていない状態が表面化してきました。たとえば、アドフラウドの問題。広告主、メディア、代理店と、業界全体が連携しながら取り組むべき課題が明確になりつつあると思います。

山口有希子氏
パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社常務・エンタープライズマーケティング本部 本部長。同社のB2Bマーケティング強化に邁進している。
1991年、リクルートコスモスに入社。その後、商社にて各種海外プロジェクトや海外IT関連製品の輸入販売・マーケティング活動を実施。シスコシステムズ、Yahoo! JAPAN(オーバーチュア)、日本IBMでマーケティングコミュニケーションに20年以上従事。
2017年12月から現職。日本アドバタイザーズ協会 理事、国際委員会 委員長。ACC広告賞審査員。

今田: インターネットに流れる情報の信頼性をいかに担保するかが、以前にも増して重要なこととして認識されるようになってきました。ようやく、インターネットメディアが、紙や放送と同じ俎上で、まともに議論される段階になったと実感しています。

今田素子氏
株式会社インフォバーン代表取締役CEO。1989年、同志社大学経済学部卒業。1991年、イギリスのSotheby'sにてHistory of Art course修了。同年、株式会社同朋舎出版に入社。海外版書籍、雑誌の編集を行う。1994年、雑誌『ワイアード』日本版のビジネス・マネージャーを務める。1998年、インフォバーン設立。代表取締役に就任。2008年、メディアジーン設立。代表取締役に就任。2013年、第1回Webグランプリ Web人部門受賞。2015年、インフォバーングループ本社代表取締役CEOに就任。2018年1月より電通総研フェローに就任、現在に至る。

――お金儲けのためにメディアへの信頼を毀損する行為は大きな問題ですよね?

今田: 2016年の後半にWELQ問題が一般ニュースでも扱われるような大きな社会問題となって初めて、彼らの集客方法やWebサイトの作り方は「やってはいけないこと」と認識した人も多かったのではないでしょうか。

アドフラウドもそう。広告主の支払うお金の何パーセント分かは、実際には広告としてメディアの枠に表示されておらず、パブリッシャーにそのお金がわたっていないという状況がいろんなところから指摘され、広告主にも理解されるようになってきました。

山口: とはいえ、問題があるからデジタルメディアはダメだ、広告を出すのはやめよう、という短絡的な話につながってはいけません。あるべき姿をみんなでどうやって作っていくかが大事なこと。私はアドバタイザー(広告主)の立場からそういったことを積極的に発信していくつもりでいます。

今田: 広告主に視点を変えていただくような活動をやっていますが、広告主側における山口さんのように、正しく問題意識を持っている人の存在はとても心強く感じています。

山口: 広告主側のマーケティング組織や人にも課題があります。ビューアビリティの低さひとつとっても、たとえば広告主のキャンペーン設計によっては容認できるといった判断もあり得るわけで、ブランド側のリテラシーも問われているのではないでしょうか。

今田: 代理店やメディア企業の意識の醸成も重要です。業界に長く事業に携わっているものとして、何がきちんとした広告の形なのかを整理し、クライアントに伝え、提供していくのも私自身の役割だと考えています。

山口: 日本において代理店の役割がとても大きいという今田さんの指摘はそのとおりです。JAAのデジタルメディア委員会でも、JIAA(日本インタラクティブ広告協会)やJAAA(日本広告業協会)と連携しながらその動きを取ろうとしています。

「あるべき姿をみんなでどうやって作っていくかが大事」と山口氏

――「大企業と同じことをやっても勝てない。グレーでも突っ込まなければイノベーションは起こせない」と思っている人たちに、お二人から伝えたいことは?

今田: ユーザーにとって価値のない規制を取り払おうというディスラプション(破壊)ならありですが、ユーザーや広告主に不利益を与えつつ儲けようという行為は、同じグレーでもだいぶ意味が違います。社会を変えるための行動と、単なるお金儲けとは別です。

山口: そもそもアドフラウドは犯罪でしょう、詐欺なんですよ。犯罪に対する線引きは明確にしなければなりません。経営者の矜持であったり、何をもってビジネスをしたいかという「思い」が大事なはず。

プラットフォーマーとのつき合い方

今田: インターネットにおけるプラットフォーマーの出現は、メディアビジネスに多大なる影響を与えました。プラットフォーマーはユーザーに対してメリットを提供していますが、視点を変えると大きな問題も生み出しています。

何よりも無視できないのはお金の流れ。現状は、広告主からのお金はまずプラットフォーマーに流れていき、コンテンツを作っているパブリッシャーには十分にお金が回っていないという課題があります。

たとえば米国では、パブリッシャーがプラットフォーマーであるFacebookと水面下で交渉することもあります。日本でもYahoo! JAPANのようなポータルサイトやスマートニュースなどのキュレーションメディアには、コンテンツを提供しているパブリッシャーとどう共存共栄を図っていくのか。同時に、広告主にもそういう状況が起きていることを理解してもらい、どうしたらパブリッシャーのビジネスが継続できるか。それぞれがそれぞれの立場でこの課題について考えていただきたいです。

「プラットフォーマーとパブリッシャーが共存共栄を図っていかなくてはいけない」と今田氏

山口: 広告主の立場からも、この状況はジャーナリズムの危機であり、大きな問題であると考えています。ブランドがユーザーとつながりたいと考えたときに、コンテンツを作って、その先のユーザーとつなげてくれる一次メディアの存在は非常に重要です。

プラットフォーマーにはよさもあるが、それを成立させているのはコンテンツがあるからで、一次メディアとの関係性は考えなおさなければいけませんよね。こういう議論が去年くらいから出てきているのは健全なことです。

――山口さんは現在、事業会社・ブランド側に所属しつつも、かつてプラットフォーマー側での経験があり、そのビジネス構造や習性をよく理解しているがゆえかな、と思いました。状況を的確に理解している人が広告主側にいるということは心強いですね。

今田: そうですね。理解いただいていることをとてもありがたく思います。

収益面で言えば、現状、すでにプラットフォーマーへただ同然にコンテンツを渡してしまっている状況に対して、今後どのように収益化するかはなかなか難しいところですが。

山口:ユーザーのリテラシーも上がらないといけないし、それを作り出すのがジャーナリズムだと考えています。企業はそこにニュースを提供したり、広告でサポートすることでお互いを支えあう存在。きちんとしたメディアがなければ、社会はおかしくなると思っています。

「コンテンツを作って、その先のユーザーとつなげてくれる一次メディアの存在は非常に重要」と山口氏

――広告主側からプラットフォーマーに言っていただくほうが効果がありますか?

今田: そこはパブリッシャーとプラットフォーマーできちんと話をしていきたい。

ここ数年、パブリッシャー向けの活動を行ってきたこともあり、パブリッシャー間で現状認識を共有できつつあります。そうした中で、多方面から声が上がることで改善されていく。そうした流れが生まれることが好ましいと考えて活動を続けています。グローバルでもさまざまな取り組みが進んでいるので、日本でもさらにがんばりたいです。

――SEO中心のコンテンツマーケティングに対してはどう思われますか?

今田: SEO中心のコンテンツマーケティングというものは、タッチポイントを生み出すための一つの手段でしかないと認識しています。

メディアにとって何より重要なのは、人の心を動かすようなコンテンツをどう作るか

それによって、コンテンツが掲載される場所への信頼と、コンテンツそのものの質が掛け合わされて、そこに載っている広告も信頼されるのだという流れを、パブリッシャー側も意識して作っていく必要があります。

また、そうして作られていく信頼に対して、そもそも、ディスプレイ広告の単価がどのサイトでも1PV=1円というのが、おかしい。「購買に先立つ態度変容の起こる場」といったメディアの質とそこにいるコミュニティによって、値段が決まってくるべきでしょう。

「メディアにとって何より重要なのは、人の心を動かすようなコンテンツをどう作るか」と今田氏

――メディア側も、自分たちが提供する場の金銭的な価値を提示できる必要がありますね?

今田: そのとおりです。また、情報のコモディティ化が進んだ状況の中で、差別化が難しくなっています。「このターゲットが、このモーメントで、この場所にいる」ということをいかにマネタイズするかが、メディアのビジネスを成立させるカギになっています。

巨大企業におけるB2Bマーケティングの難しさ

――法人向けビジネス(B2B)を展開するブランドのマーケティングコミュニケーションには、特有の難しさがありますよね。

山口: 当然、オウンドメディアも強化する必要はありますが、そのコンテンツが読み手(顧客)にとって本当に役立つものであるかが問われています。「これすごいでしょ」という発信者視点のコンテンツは、これだけ情報が氾濫している中では、まず読まれません。

制作の体制は会社によってさまざまでよいと思いますが、大事なことは、視点をユーザーに置くこと。プロダクトアウトでなくマーケットイン。私の所属する業界で言えば、たとえば、物流に関するコンテンツを作るときには、業界の課題が分かっている人と一緒に作るなど、お客さまの視点で書いてゆくことが大事です。

今田: メディアとブランドはどのように関わっていくべきだと思っていますか?

山口: コンテンツの質に関する話にもつながりますが、企業にとっては、メディアがその先のユーザーときちんとエンゲージメントがとれていることが重要です。我々はその場をお借りして、態度変容なり、なんらかの影響を与えられることが本質でしょう。

メディアは短期的な成果指標にとらわれ過ぎず、矜持を持ってやっていただきたいし、ブランドとしてはそこを支え、連携していきたいですね。

――山口さんの所属企業は前職のIBM、現職のパナソニックともにB2Bのエンタープライズ(超大手企業)で、Webだけでモノが売れるようなビジネス構造ではないとお見受けします。その状況下で、Webに対する投資はどのように評価するのが妥当で、どのような工夫をされていますか?

山口: 日本で今注力しているのはB2Bソリューションのブランドマーケティングキャンペーンですが、そこを支えるコンテンツを作ってリードにつなげるということもプランの中に入っています。また欧州ではオンラインでの販売が始まっており、その獲得のためのインターネット広告の出稿も行っています。つまり、ブランド広告だけではなく、コンバージョンを追う広告も含め、両方が業務範囲に存在しています。

ブランドマーケティングの指標ですが……難しいですね、どこの方にとっても難しく、苦労されているのでは。考え方としては、ブランドリフトを定点観測しながら中長期で見ていて、個々のキャンペーンをとっての短期的な評価はしづらいものがあるという認識です。また、キャンペーンは社外だけでなく社内も対象としており、意識やカルチャーを変化させる、会社の方向性を知らしめる、採用の一助といった役割も担わせています。それも含めて、総合的に判断しなければなりません。

変革期にある巨大企業にとって、カルチャーを変化させる取り組みは迂遠なように見えますが、結局それなしにビジネスは動かせません。会社の事業戦略を支えるマーケティング活動、という意識を持って取り組んでいます。

◇◇◇

後編では、仕事観やキャリアに対する考え方など、ビジネスパーソンとしてのご自身について語っていただく。

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