デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言 ~生活者のよりよいデジタル体験と、健全な業界発展のために
本記事は、日本アドバタイザーズ協会が策定・公開した宣言資料「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を、日本アドバタイザーズ協会の許諾を得て転載するものです。
はじめに
SNS、キュレーションサイトなどさまざまなデジタルメディアは私たちの生活に欠かせないものとなった。トラディショナルなメディアもデジタルシフトを進め、デジタル広告費は毎年二けたの成長を遂げている。デジタル広告の取引はグローバル規模で自動化された。この取引の中に一部の悪意を持ったプレイヤーが入り込んでおり、さまざまな課題が顕在化してきている。
広告詐欺ともいわれる「アドフラウド」は、対策をしない場合10%を超える割合で存在するとされ※、少なめに見積もっても日本市場で年間数百億円を超える規模の広告費がかすめ取られていると推定されている。
また「ブランドセーフティ」が担保されない出稿は、単にブランドイメージが傷つくというだけでなく、反社会的勢力への資金提供につながりかねないという点で根絶されるべきものである。
さらに、広告がPCやスマートフォンの画面内にきちんと表示されたかどうかを表す「ビューアビリティ」についてはデスクトップで42.3%・モバイルで34.2%(※)と日本は世界で最も低いレベルにある。
日本アドバタイザーズ協会ではこの度、上記3つの課題を含むデジタル広告に関する課題について、あるべき方向とそこに向けての基本的なアクションを「宣言」としてまとめた。
業界を構成するすべてのステークホルダーが「宣言」に掲げた8原則に基づく行動となることを望んでいる。
最後に、ご多忙の中、本宣言の策定にかかわっていただいたデジタルメディア委員会の山口委員長をはじめ、運営委員メンバーの皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。
公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 専務理事 鈴木 信二
パートナーシップの8大原則
メディア
デジタルコンテンツを制作し、提供する企業のこと。
プラットフォーマー
情報通信サービスを提供する企業のこと。情報プラットフォームやコミュニケーションプラットフォームなどがこれに含まれる。
テクノロジー企業
デジタル広告の取引に関する情報通信技術を提供する企業のこと。DSP、SSP、DMPなどの企業がこれに含まれる。
エージェンシー
デジタル広告に関して、広告プランの提案をはじめ、アドバタイザーの代わりにメディアやプラットフォーマーへの出稿や管理を行う企業のこと。
パートナー
上記「メディア」「プラットフォーマー」「テクノロジー企業」「エージェンシー」のすべてを含む、デジタル広告にかかわる企業のこと。
パートナーシップの8大原則①
アドフラウドへの断固たる対応
アドフラウド:自動化プログラム(bot)などによって無効なインプレッションやクリックを発生させ、アドバタイザーから不当に広告収入を得る悪質な行為のこと。
アドフラウドはアドバタイザーの投資を搾取する事象であり、本来あってはならないもので、断固とした対応が必要である。アドバタイザーはこの現状を認識し、しかるべき対策を取ることを求めている。アドフラウドへの対策は、将来の日本の広告業界を健全に保つためにも、デジタル広告のエコシステムを機能させる一環として、最重要事項の一つである。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、自社が提供するデジタル広告枠におけるアドフラウドの現状を把握すべきである。
パートナーは、トラフィックの検証や説明の際、第三者のソリューションを利用するなどの透明性が必要である。
パートナーは、無効なトラフィックに関連していることが判明した場合、アドバタイザーの投資を速やかに払い戻す必要がある。また、そのプロセスは可能な限り合理的かつシンプルであるべきである。
上記の払い戻しに加え、無効なトラフィックに関連した手数料も払い戻しの対象とする必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
アドフラウドを検証するソリューションごとに検証結果が異なり、常に一つの正解はないことを理解する。
アドフラウドの対策と補償のプロセスは、事前に合意する。
パートナーシップの8大原則②
厳格なブランドセーフティの担保
ブランドセーフティ: ブランドを毀損する不適切なページやコンテンツに広告が表示されるリスクから、安全性を確保する取り組みのこと。
- アドバタイザーに対してブランド毀損を及ぼす事象や、ブランドセーフティを妨げる脅威から、ブランドを守らなければならない。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、広告掲載先でのブランドセーフティを担保するため、ツールなどの手段を導入する必要がある。
メディアやプラットフォーマーは、自社のWebサイトに掲載しているコンテンツへの責任を持つべきである。
アドバタイザーがブランドセーフの検証ツールを直接管理していない場合、不適切なコンテンツへの広告露出をモニタリングするため、パートナーが提携する検証ツールのアカウントに直接アクセスする権限を持つ必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
子どもに悪影響を与えたり社会を混乱させたり、怒りや憎しみを助長したりするメディアやプラットフォーマーへは投資しない。
広告が知的財産権法を誤用したり著作権を侵害したりするWebサイトの活動資金となっている可能性や、広告がフェイクニュースや偽情報を発信するWebサイトの収益源となっている可能性について認識する。
自社の目標達成や利益追求のための不適切なコンテンツへの広告出稿には反対の立場を取り、社会に悪影響を及ぼす活動につながる広告出稿は行わない。
不適切なコンテンツへの広告出稿が確認された場合は、パートナーと連携して、広告の即時取り下げを行う。
パートナーシップの8大原則③
高いビューアビリティの確保
ビューアビリティ: 生活者のデバイスに配信された広告が視認可能な状態にあること。
日本におけるビューアビリティのレベルはグローバルに比べて低い水準にあり、インプレッションを重視する広告活動の場合などにおいて、ビューアビリティは保証されるべきである。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、アドバタイザーが求めるビューアビリティのレベルを保証し、その取引が可能な状態である必要がある。
パートナーは、アドバタイザーが求めるビューアビリティのレベルに対して正確なモニタリングと、定期的な情報開示をする必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
ビューアビリティの基準にはいまだ議論の余地があること、そして求めるレベルによってはビューアビリティが保証されない可能性について理解する。
ビューアビリティの高い基準によって、広告の在庫やリーチの減少など、潜在的な影響をもたらす可能性について理解する。
パートナーシップの8大原則④
第三者によるメディアの検証と測定の推奨
アドバタイザーはメディア自らが行う評価を受け入れておらず、提供されるデータは、デジタルメディアにおいても第三者による検証や測定によるものであるべきである。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、下記のアドバタイザーが求める広告枠の条件を理解する必要がある。
- アドフラウドが無い
- ブランドセーフティが約束されている
- ビューアブルである
- ターゲットに届く
上記の条件に関するメディアの検証については、第三者が公正に行う必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
第三者計測に基づく検証を行うメディアとの取引を優先し、開示されたデータについては過去を責めず、将来の改善に向けた議論を進める。
パートナーシップの8大原則⑤
サプライチェーンの透明化
サプライチェーン: デジタル広告取引における、出稿元であるアドバタイザーから、広告掲載先であるメディアに至るまでの全過程のつながりのこと。
デジタル広告において、アドバタイザーのメディア投資に対するメディアの収益は一部に限られており、中間取引の透明性を高め、ステークホルダーへ適切に配分されているか開示されるべきである。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
サプライチェーンにおける取引の健全性は重要であり、パートナーは、以下の透明性を高める必要がある。
- 取引内容・価格の透明性
- 手数料・コストの透明性
- 広告掲載面・掲載媒体の透明性
- データに関する透明性
アドバタイザーが取るべき姿勢
パートナーのビジネスモデルを尊重し、事前に合意されたサービスに対する適切かつ公正な報酬を約束する。
パートナーとの契約の順守に関するモニタリングと情報共有に努め、パートナーのポリシーや知的財産権を尊重する。
パートナーシップの8大原則⑥
ウォールドガーデンへの対応
ウォールドガーデン: プラットフォーマーが生活者のデータを囲い込むこと。
アドバタイザーはプラットフォーマーとの公平な関係を保つことが必要であり、プラットフォーマーによる広告出稿に関するデータのアクセス制限や一方的な活用は容認されるべきではない。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
プラットフォーマーは、アドバタイザーがデータ分析できるよう、プラットフォーマーを通して出稿した広告に関するオーディエンスデータを提供すべきである。
プラットフォーマーは、第三者による公平な測定基準を受け入れ、また第三者によるオーディエンスデータの検証が可能である必要がある。
プラットフォーマーは、パブリッシャーや調査会社と協力し、アドバタイザーの課題解決に向けたソリューションを提供する必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
プラットフォーマーから提供されたデータについては、関連法規に従って取り扱うことに同意し、自らの広告活動以外の目的では使用しない。
パートナーシップの8大原則⑦
データの透明性の向上
生活者のデータに関する不透明な取り扱いは問題であり、生活者のプライバシーの権利を尊重し、データの活用について透明性を高める必要がある。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、生活者の基本的なプライバシーの権利を尊重すべきである。また、不透明なデータの取り扱いによって行われる広告出稿でブランド毀損が発生しないためにも、生活者のデータに関する透明性を実現すべきである。
パートナーは、下記のようなアクションを通じて、データの透明性を高める必要がある。
- データをいつ、どこで、どのように活用するかを生活者がコントロールできるようにする。
- データの活用の方法について、生活者に明確に情報提供する。
- 生活者が容易にオプトアウトできるようにする。
- 自主規制および法規制の精神と条文の両方に従う。
アドバタイザーが取るべき姿勢
データの透明性の実現に向けては明確なアクションを取り、パートナーと協力して実行する。
パートナーシップの8大原則⑧
ユーザーエクスペリエンスの向上
ユーザーエクスペリエンス: 生活者が広告に接触することで得られる広告体験のこと。
広告は価値ある有益な情報を提供するものではあるが、いたずらに広告接触を増やすことはせず、適切な広告の出し方をすることで、生活者に良質なユーザーエクスペリエンスを提供する必要がある。
パートナーに求めること
関係するパートナー
- テクノロジー企業
- エージェンシー
- メディア
- プラットフォーマー
パートナーは、アドバタイザーの広告が広告掲載先でどのように表示されているかについて、注意を払うべきである。
パートナーは、生活者の利便性を第一とし、広告フォーマットや広告量を最適化する必要がある。
パートナーは、ユーザーエクスペリエンスを見える化し、アドバタイザーにフィードバックする必要がある。
アドバタイザーが取るべき姿勢
生活者のユーザーエクスペリエンスの観点から不適切な手法は選択しない。
生活者やメディア、広告クリエイティブなどによって、ユーザーエクスペリエンスが変化することを理解する。
8大原則を実現するために、アドバタイザーが持つべき倫理観
デジタル広告環境はテクノロジーが日々変化し、アドバタイザーは生活者とのコミュニケーションの進化を求められている。その一方、このテクノロジーの進化がフェイク広告やアドフラウドなどの悪質な行為を生み出し、生活者のデジタル広告体験や健全な業界発展の阻害にもつながっている。
今回の「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」(以下、本宣言)では、こういった行為から生活者や業界を守り、持続可能なデジタル広告環境を実現するために重要な8つの原則を掲げた。そしてこの8つの原則への認識を強め、取り組みをより推進していくためには、社会に対する規範としての倫理観を、広告を出稿するアドバタイザー自身が持つ必要がある。
倫理観に基づく責任の一つに、出稿した広告の行き先への責任がある。アドフラウドやブランドセーフティといった社会的に不適切なものにつながる動きは無いかを自らに問いながら、広告活動を行わなければならない。また問題があった場合は、後回しせずに対応を行うべきである。
そしてもう一つに、広告の社会環境に対する影響への責任がある。例えばフェイク広告やステルスマーケティングは、アドバタイザーの社会的な信頼を失い、生活者の正しく情報を知る権利を無視し傷つけ、業界の健全な発展を阻害しかねない。広告の未来へのその大きな影響を、デジタル広告にかかわる一人一人も担っていることを自覚するべきである。
本宣言の8つの原則とこの倫理観により、アドバタイザーと生活者の健全な関係を追求し続けることができるのか、すべてのアドバタイザーに問われている。
デジタルメディア運営委員会 運営委員一覧 (2019年11月25日現在)
氏名 | 所属・肩書 | |
---|---|---|
委員長 | 山口 有希子 | パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社 常務/エンタープライズマーケティング本部 本部長 |
副委員長 | 髙橋 満 | 資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部長 |
委員 | 石井 龍夫 | アドビシステムズ株式会社 デジタルエクスペリエンス営業本部 エグゼクティブフェロー |
委員 | 前田 真太郎 | サントリーコミュニケーションズ株式会社 宣伝部 デジタルグループ |
委員 | 中條 裕紀 | 資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部 メディアミックスグループ |
委員 | 渡辺 智秋 | ソニーマーケティング株式会社 プロダクツビジネス本部 コミュニケーションデザイン部 ADプランニングコンサルタント |
委員 | 藤平 大輔 | ソフトバンク株式会社 法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルマーケティング事業統括部 統括部長 |
委員 | 野澤 英隆 | ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーションズ本部 媒体統括部 統括部長 |
委員 | 友澤 大輔 | パーソルホールディングス株式会社 Chief Digital Officer 兼 グループデジタル変革推進本部 本部長 |
委員 | 新田 淳 | パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 宣伝部 アドメディア推進室 室長 |
委員 | 桑畑 一浩 | 三菱電機株式会社 宣伝部 新規プロジェクト担当部長 |
委員 | 中村 俊之 | Web広告研究会 代表幹事 株式会社ポーラ CRM推進部 CRMチーム 課長 |
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