読まれるメルマガを作るには? 実際のメルマガを専門家がアドバイス【ポイントまとめ付】後編
メルマガを作るうえで、具体的にどのようなことに注意したら良いのだろうか? 実際に配信しているメルマガを例に取り上げ、ビジネスメール教育の第一人者の平野友朗氏に、「読まれるメルマガ」「読まれないメルマガ」の理由を指摘していただく(聞き手:ゾーホージャパンの橋爪氏)。
前編では、企業のメルマガ担当者たち共通の悩みである「読まれない」「開かれない」「効果が見えない」の解決には、読者との関係性の構築を目的とする心得の必要性が明らかになった。
記事の最後には、悩めるメルマガ担当者向けにアドバイスをまとめた。記事内容の振り返りに使ってください。
HTMLメールは本当に必要か?
橋爪祐佳氏(以下、橋爪): 前回、メルマガの魅力の1つとして、担当者が等身大で読者に向き合うことの大切さをお聞きしました。そうした心得を意識しつつ、やはり「見せ方」もメルマガの重要な魅力の1つだと思います。今回は、私が担当しているゾーホージャパンのメルマガを採点していただきながら、悪い点や、できれば良い点も解説をお願いします。
最初の図1は、弊社がお客さまに週1回配信しているHTMLのメールです。
平野友朗氏(以下、平野): パッと見た印象は「ホームページみたい」ですね。こういうデザインのブログやオウンドメディアって今たくさんあると思うのですが、何となくコンテンツがいっぱい詰まった印象は受けます。このヘッドラインだけ見ると読んだ気になったような、わかったような気になる。
でも実は、クリックしないと内容はわからない。ですから実際には読み飛ばしてしまっている。画素材が多い画面はサッと流し見して情報を把握するので、これが本の表紙や、ビジュアルで見せるのが効果的な製品なら意味はありますが、このメールの画像は本当に必要なのでしょうか。
橋爪: 言われてみると、弊社のサービスはソフトウェアなので、ビジュアルで見せる必要性はないですね。
平野: ビジネス、BtoBでは、基本的にHTMLにする必要はないと思います。テキストで十分だし、HTMLで作り込む時間をテキスト原稿の充実や配信の迅速さに使ったほうがいいでしょう。もちろん、HTMLメールも見出しや誘導リンクボタンをわかりやすく見せるという使い方ならば意義はあります。
ビジネス、BtoBではHTMLメールにこだわるより、原稿の充実や配信の効率化を優先したほうが良い。
良いメルマガも配信のタイミングで逆効果
橋爪: 最初から、かなり強烈なご指摘をいただきました。次は弊社サービス「Zoho CRM」の無料お試し版に登録をしてくれたお客さまに、最初にお送りするステップメールです。図2はテキストメール、図3はHTMLメールです。いずれも登録後の設定をサポートする『はじめてガイド』のダウンロードを勧める内容です。
平野: 図2は簡潔でいいと思います。余分な要素もないので、上から順番に読んでいって、ガイドのダウンロードのリンクにたどり着けます。
一方、図3は、こうして並べると「本のDMが来た」といった印象ですね。本の図版にまず目が行ってしまい、冒頭の文面を読み飛ばしてしまう。「読ませる流れ」がないので読まれない。
これは登録するとすぐに送られてくるのでしょうか?
橋爪: いえ、一日一回、配信サービスとリストを同期していて、同期されたタイミングで送信されます。そのため、登録日にメールが届く人もいれば、翌日に届く人もいます。登録作業でつまずかないよう、「これを見ながらやってください」という気持ちで一人ひとりに送っていたのですが……。
平野: ユーザーは、登録してすぐに設定したいはずですから、気持ちが丁寧でも翌日では遅いですね。相手を思うのであれば、いつ必要とするか、タイミングに配慮するのも大切です。ある意味、どこかで「ステップメールを送る」ことが目的化してしまったのではないでしょうか。
良いメールも、タイミングが悪ければ会社の印象を落とします。メルマガ配信の設計は常に自ら疑って再検証を重ねていくことも大切です。せめて、文中の「この度は」を「昨日は」とすれば、受け取った人も「昨日登録したZoho CRMのことか」と思い出せます。
DMやメールとは違うメルマガの様式を意識する
橋爪: まさかの2連敗ですね。ちょっと動揺してきましたが、この記事を読まれる読者には、ぜひ参考にしていただければと思います。
続いては、平野さんにも登壇いただいたセミナーの告知メールです。図4がテキスト、図5がHTMLです。
平野: これはどちらも上から順に読めるので、まずは合格です。ただし、図4は、告知要素だけでいろいろ肝心なものがゴソッと抜け落ちた印象ですね。まず、テキストタイプはビジネスメールの延長線上なので、宛名や挨拶文を入れたほうがいいですね。
一方で、あまりに普通のメールっぽいので、罫線を入れるなどして告知のためのメルマガだと、パッと見てわかる要素も欲しいですね。あと、ビジネス系のメルマガに関しては配信会社の住所も入れたほうが、信頼度が増します。
図5は端的に情報が整理されていて読みやすいですね。前出の図3がHPのように見えてしまうのに対し、こちらは冒頭の講座名のデザインもアイキャッチになり、何の講座なのかが頭に入るので効果的です。こうしたパターンをひな型にすれば、メルマガの制作時間の効率化も図れます。
具体的な効果を見たいときはわかりやすい指標を設定する
橋爪: 前編で、メルマガの目的は「関係性の構築」という基本が理解できました。しかし、社内業務として「成果」を数字で報告する必要もあります。何かいい方法はありますか?
平野: 開封率やABテストの数値は、誤差程度のものに終わることがほとんどです。社内報告や会議にクリック率が「コンマいくつアップした」と書けば成果のように見えますが、数人で恣意的に押せば出せてしまえる数字です。数値だけで優位性を確認するには50対100とか倍程度の差が出ないと意味がありません。
現状のメルマガの効果を確認したい場合は、事業への貢献度を指標にするとわかりやすいです。たとえばセミナーの告知を打った結果、何人来たのか。それが1人や、2人であっても直接事業に貢献した結果が出せますから、誰もが納得できるものになります。
メルマガの数値的成果は、事業への貢献度を指標にする。
コンテンツのテーマは特別なものでなくてもいい
橋爪: ここまで、メルマガを出す目的、構成のポイントなどをうかがってきましたが、メルマガ担当者には「そもそもどんな文章を書いたらいいのか」という悩みがあります。
平野: 私のメルマガ「平野友朗の思考・実践メルマガ【毎日0.1%の成長】」(下図6)では、ビジネスノウハウだけではなく、私が試してみた日々の事柄を書いています。ですからメルマガ担当者が日々の業務で疑問に思ったことを調べたり、解決したりする過程も十分コンテンツになります。
ただ、注意したいのは、担当者が「成長」しすぎて読者を置いてきぼりにしてしまわないこと。自分が専門用語を理解した、基本は乗り越えたと思っても、一定のレベルを保つことが必要です。そもそも、あまり小難しいことは書かないほうがいいでしょう。
橋爪: 文章力の鍛え方はありますか?
平野: メルマガでは、文章と配信システムなど「仕組み」の比重が半々です。いくら文章を研究しても仕組みが整っていなければ読まれません。私のメルマガでは、文章よりも「仕組み」にこだわっていますので、多少の誤字は気にしていません。誤字よりも「仕組み」にこだわりたい。それは多くの人が悩む「何を書けばいいのか」の答えにもなるかもしれません。
前回、セグメントの話をしました。セグメントを切ることで、「誰」に送るメルマガなのかが決まります。すると「何」を書けばいいのかが見えてきます。これだけでも大きな前進です。
多くのメルマガ担当者は、「お客さま」「みなさん」など不特定多数を相手にしているから悩むわけです。でも、目の前の人になら、自社製品のすべてについて話すことができるはずです。
今回は、「この人に、こんな内容を伝えたい」と考えれば書きやすいと思います。「誰」に「何」を伝えるのか。それがメルマガのすべてと言ってもいいでしょう。
メルマガの内容は、「誰」に「何」を意識する。ノウハウにこだわらず、試したこと、調べたことなどもコンテンツになる。
メルマガに「ネタ切れ」はない
橋爪: それでも週1回なら年間52本。それだけのコンテンツを「ネタ切れ」せずに続けるのは、かなり大変です。平野さんはどのように考え出しているのですか?
平野: ネタは日頃からストックしています。たとえばセミナーで受けた質問を全部メモしておく。一般の企業の人なら、自社と同様のサービスのFAQを全部チェックして、自分なりの回答を考える。これだけでも「誰」かの「何」に応える素材はたくさんあります。
さらに、1年が過ぎれば、自分の過去のコンテンツ自体がネタになります。過去と今の自分の見識は違っていきますから、今年の自分を切り口にする。100くらいのコンテンツを送った頃には、最初の内容はみんな忘れています。その頃、また新たな切り口でそのネタに挑めばいい。
そうしたネタへの再挑戦は、自然と考えの深みや、伝わりやすい文章力へとつながっていきます。数年もすれば、決めた時間内に書き直しせずにサッとメルマガ1本を作れる自分なりのノウハウができあがっているはずです。
FAQや疑問などネタを常にストックする。過去のコンテンツも切り口を変えれば、立派なコンテンツになる。
橋爪: 何か、さっそくメルマガを書きたいという気持ちになってきました。すごく楽しそうです。
平野: 担当者が楽しく書いているのが一番いい。それこそ読みたくなるメルマガです。クリック数を気にしてびくびく作られたメルマガは、そんな雰囲気がにじみ出るもの。楽しく、情熱を持って、誰かのためを思って書く。メルマガの上達に特別な技術はないですよ。
配信の管理は未着アドレスの削除だけ
橋爪: 平野さんは早くからメルマガを活用し、長い実績があります。その経験から言える、メルマガの特性とは何ですか?
平野: ビジネスツールとして考えれば、「長期的な売り上げの最大化」だと思います。先ほど、文章も数年続ければ向上すると言いましたが、メルマガは長期的に続けていくことで徐々に価値が高まっていきます。
以前、企業の担当者から、「配信リストの整理をしたいので、半年間クリックのない読者は削除したほうがいいですか?」と相談されました。
橋爪: 反応のない人を削除して分母を減らせば、全体の反応率が高くなるからですね。
平野: そうです。しかし、それは絶対にダメです。削除していいのは、未着になるアドレスだけです。先日、いきなり大口のコンサルを依頼していただいた方に理由を聞くと、「10年前からメルマガを読んでいました」と言うんです。
それこそクリックしない人です。普段、読んでいることを読者は教えてくれない。だけど、タイミングがきたら声をかけてくれる。メルマガでつながっていたからこそともいえます。まさに、うれしい出来事です。そんなふうに関係性は構築されているんです。
適切な配信システムを選ぶには手動でできることから始める
橋爪: セグメントに応じた配信や、宛名を差し替えた配信など、使い勝手を考えた配信システムはどのように選べばいいのでしょうか?
平野: 大は小を兼ねると考え、つい多機能なものに目が行きがちだと思います。でも実際には使い切れなければ、コスト高になってしまいます。自社のメルマガに最適な配信システムを選ぶには、まず手動でできることをやってみることです。
苦労もありますが、コスト意識が育ち、必要な条件も見えてくる。その上で、規模や手間など、手動では回らなくなってきたら、小さく安価なものから試していくのがよいでしょう。
橋爪: 今回は、自分の作ったメルマガに自分では気づけない点も指摘いただき、とても参考になりました。また、同時にメルマガの可能性についても強く実感できました。
平野: メルマガの読者は必ずいます。その読者は、今はメルマガに直接反応しないかもしれませんが、やがて、上職に就く、部署が代わる、起業するなど、さまざまな転機を迎えることでしょう。そのタイミングでその人が、御社を必要としてくれるかもしれない。
何度も言いますが、目の前の開封率やクリック数に一喜一憂していてはダメ。いつか必要とされるまで続ける。そのとき、潜在客が顧客となってくれるのは、すでにメルマガの「ファン」だったからです。そこにメルマガ担当者にとっての、1つのゴールがあるのです。
メルマガ担当者の悩みに平野友朗さんがアドバイス
メルマガ担当者が抱える悩みを平野さんがアドバイスしてくれました。一問一答方式でまとめたので、参考にしてください。
読まれるメルマガをどう作ればいいのか | 対象(誰)に何を伝えるのか、セグメントを切って考える |
メルマガの効果は何で測ればいいのか | 長期的な顧客との関係性の構築だと考える |
メルマガの開封率の上げ方 | 開封率、クリック率、反応率だけを気にしない |
文面の作成に時間がかかる | パターン化する |
行動を促すにはどのような仕掛けがいいのか | 相手に刺さる言葉を考える |
どのようなコンテンツを配信したらいいのか | 小難しい内容はさけ、担当者の等身大の内容に配慮する |
どのくらいの頻度で配信したらいいのか | 配信すること自体を目的化しない |
メルマガを配信する顧客情報のデータ管理の仕方 | 未着アドレスだけを削除する |
ネタ切れしてしまい続かない | FAQ対応のストックを持つ。過去の記事を見直す |
送る時間帯は何時がいいのか | 金曜の夕方以降を除く、月曜から金曜の朝から夕方 |
メルマガの作成が面倒で、不定期 | パターン化する |
メルマガのリストの集め方、配信先を増やす方法 | 貪欲に獲得を意識する |
どのようなメール配信システムを使えばいいのか | まずは手動で必要な機能を見極める |
文字数はどのくらいがいいのか | とくに定量はない |
誰がメルマガ担当すればいいのか | 経営に近く、広報的視点がある人 |
メルマガの配信先を分けたほうがいいのか | 分けたほうがよいが、あまり細かく分けない |
顧客情報をデータ化していないので、メールアドレスのリストがない | 名刺交換をした相手から始める |
平野友朗氏プロフィール
株式会社アイ・コミュニケーション 代表取締役
一般社団法人日本ビジネスメール協会 代表理事
筑波大学人間学類(認知心理学)卒業。広告代理店勤務を経て2003年、メルマガ専門コンサルタントとして独立。起業当初から発行しているメルマガ「平野友朗の思考・実践メルマガ【毎日0.1%の成長】」(旧:メルマガ成功法)では1,800回以上のコラムを配信。現在は平日日刊。メディア掲載のべ1,000回以上。著書24冊。
http://www.sc-p.jp/
橋爪祐佳氏プロフィール
ゾーホージャパン Zoho事業部 マーケティング担当
前職は看板屋。素敵なご縁で2015年にゾーホージャパンに入社。英語もITも苦手。でも使いこなせるZohoの虜に。Zohoサービスの魅力をメルマガでお届けすることがミッション。
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