メールマーケティングで見るべき分析指標と目標達成に効果的なKPI
「メールマガジン」「メールニュース」など、電子メールを使った広告・宣伝手法は、多くの企業が実施しているデジタルマーケティングのひとつ。ただし効果を得られていない企業も多いだろう。
書籍『現場のプロが教える!BtoBマーケティングの基礎知識』(マイナビ出版/共著)を出版した株式会社WACUL(ワカル)執行役員CMOの安藤健作氏が「デジタルマーケターズサミット 2023 Winter」に登壇。メールマーケティグのエバンジェリストでもある安藤氏が、運用方法やクリック率を上げるテクニックなど、現場で役立つノウハウを紹介した。
知っているようで知らない? 「特定電子メール法」をおさらい
「メールマガジン(以下、メルマガ)」と称して広告メールを一斉配信する手法は、定番のデジタルマーケティングだ。現在はそれを規制する法律「特定電子メール法」(正式名称:特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)が存在する。
罰則規定も設けられており、違反したり、総務大臣や消費者庁長官の命令に従わなかった場合は懲役1年以下、100万円以下の罰金に処せられる。たとえば、勤務する会社の命令で、法律に違反するメール配信業務を行ったとしても、作業実施者が罰せられるのだ。
法人への罰則は3,000万円以下の罰金。なお、メルマガ配信業務を外部委託していた場合でも法律が適用されるため、委託先企業の監督をしっかり行わなければならない。安藤氏は、おさらいとして特定電子メール法の重要なポイントを3点紹介した。
Opt-in(オプトイン)
オプトインとは「参加」「承諾」などの意味。特定電子メール法においては、メルマガの受信者が自らの意志で登録した場合に限って、広告宣伝メールを送ってよいとされている。極端に小さな文字であったり、背景色と見分けが付かない文字色で説明をごまかすのは法の趣旨に反する。受信者の明確な意志が示されていることが重要である。
Opt-out(オプトアウト)
オプトアウトとは「退会」の意味。配信元は、メルマガの受信をいつでも解除できるようにしておく必要がある。「オプトアウトしたユーザーにメルマガを送り続ける」といった行為は論外だ。
表示義務
メルマガの配信にあたっては以下4つの項目を必ず記載しなければならない。なお、通販事業者やECサイト運営企業は、特定電子メール法よりも特定商取引法が優先適用される。
- 送信者の氏名または名称
- 住所
- 苦情や問い合わせの連絡先
- オプトアウトの導線
メールマーケティングとは
安藤氏によれば、メルマガとメールマーケティングは似ているようで概念がやや異なるという。それを説明したのが以下の図だ。
メルマガは『情報発信』が目的で、たとえば自治体の広報、学校からのお知らせなどが該当する。対してメールマーケティングは(情報発信のいち要素である)『販売促進』が目的。また情報発信と販売促進を一緒に行うことも、メールマーケティングに含まれる(安藤氏)
メルマガはメールの一斉配信行為そのものといえる。そのなかで、販売促進の性格をおびたものだけがメールマーケティングなのだ。
メールマーケティングが得意とするのは「リードの案件化」「リードナーチャリング(見込み顧客の育成)」である。メールで顧客に対して有益な情報を提供し続け、最終的に資料請求や購買などの行動を起こしてもらう。ただし、そこには理想と現実の違いもある。
ナーチャリング(育成)という言葉に釣られてしまうと、たとえば潜在顧客のデマンド(欲求)をメールのコンテンツ“だけ”で高められると錯覚しがちだが、それは夢物語。あくまで、顧客が課題を抱えたとき(顕在化)がタイミングで『○○を買うんだったらあの店に行こう』と第一想起してもらうのが目的。ナーチャリングというより『キープインタッチ』と考えた方がよいかもしれない(安藤氏)
SNS広告より効果的? メールマーケティングの利点とは
世間ではLINEやSNSアプリが広く用いられているが、とはいえメールの利点は多い。BtoB領域では、仕事上のコミュニケーションとしてメールを利用している人は98.69%と極めて高い水準にある。安藤氏は「社内ではチャットやビジネスSNSの利用が広がっているが、しかし社外との連絡にはメールが主流。契約前のお客様とチャットすることはそうそうないだろう」と補足した。
また電話での営業は先方が多忙なら出てくれないし、訪問しても外出していればそれまで。SNS広告についても、表示のタイミングなどを出稿側が100%完全にはコントロールできない。
これがメールならば、意図したタイミングで確実に相手にメッセージが届き、蓄積されていく。朝、届いたピザの宣伝メールを昼に見返し、夕飯時に注文するといった行為も当然あり得る。加えて「メールを開封した人、しない人」「クリックした人、しない人」を把握でき、SNS広告より詳細に行動分析できる。このようにメールマーケティングは、SNS全盛時代にあってもなお効果的だというのが安藤氏の主張だ。
とはいえ、成果を出すために一定の努力が必要なのも確かだ。「(身近さゆえに)多くの方が自己流でメルマガを配信しているのが現状。そのために成果が出せない。メルマガについて解説する書籍もほとんどなく、結果として中小企業も大企業もメルマガを使いこなせていない」と安藤氏は説明する。
成果は、数値で正しく判断せよ
では、メールマーケティングで成果を出すためにはどうすればいいのか。メールマーケティングには目標設定が必要だが、しかし「売上を上げたい」のように漠然としたものではNG。「1回の配信で5CV欲しい」のように具体的に設定すべきである。
着地点があいまいな目標だと、1回のメルマガ配信で1件受注しただけでもよいことになってしまう。目標1件なのか100件なのかでやるべき事はまったく違う。ただ、初めてメルマガ配信に取り組む企業は数値目標が定めづらい。そのときは、メルマガ配信ツールの導入にかかったコストを利益で上回るためには何件の受注が必要なのか、という観点で決めるのもひとつの手段だ(安藤氏)
そして、メール配信で参照すべき指標と、その基準値を示したのが以下の図になる。不達率、開封率、クリック率、反応率、購読解除率の5つについては常に監視し、異常値が出た場合は改善のためのアクションを起こす。メルマガ配信のたびに前回実績を上回ろうとする必要はなく、あくまで基準値で考えるべきという。
迷惑メールフィルタの存在を意識しよう
上述の5指標を改善していく前に、まずはメルマガが相手にちゃんと届いていることが大切だ。そのためにも迷惑メールに判定されないようにしよう。迷惑メールフィルタは「送信元認証」「IPレピュテーション」をチェックしている。
「送信元認証」は、なりすましではなく正規であることを証明すること。「SPF」「DKIM」「DMARC」などメール送信に関する技術的枠組みがあり、これらの仕様を理解して正しく対応すればよい。
「IPレピュテーション」は、グローバルIPアドレスをスコアリングしたもの。メールに詐欺的なフレーズが入っていないか、オプトアウト(退会)の導線が入っているかなどを評価する。スコアの低いIPアドレスから送信されたメールは、メールソフト側で迷惑メール判定される可能性が高まるのだ。
IPレピュテーションでは、複数の要素の組み合わせで迷惑メール判定が行われる。どれかひとつの要素での判定ではないため、メール配信ツールを乗り換えても、(メール本文の傾向が変わっていない場合など)迷惑メール判定が継続する可能性がある(安藤氏)
5指標の計算方法と基準値
ここでは、メールマーケティング施策の成果確認に欠かせない5指標について、もう少し詳しくみていこう。
不達率
不達率とは、配信リストのうち相手のメールボックスに正常に届かなかった割合のこと。エラーアドレス数を配信リストで割って算出する。基準値は5%未満とされ、恒常的に値が高いとIPレピュテーションで不利となる。
一般的に、迷惑メール判定されたメールは送信元へ返送されない。よってエラーとしてメールが戻ってきた場合は、迷惑メール判定ではなく、送信先のユーザーが退職してメールアドレスが無効になったケースなどが想定される。よって定期的に送信リストを監視し、エラーとなるメールについてはリストから除外を検討しよう。
開封率
開封率とは、配信に成功したリストのうち、ユーザーによって開封された割合のこと。ごく小さな透明画像をメール内に添付することで開封を検知しており、そのためHTMLメールのみで計測できる。開封数を配信成功数で割って算出する。基準値はBtoBの場合15%以上、BtoCでは10%以上。恒常的に開封率が低いと、メールボックスプロバイダー(Gmailなど)がユーザーに対し購読解除をオファーする場合もある。
ただし開封率は、完全には信頼できない数値となりつつある。iPhoneのOS「iOS」ではユーザーのプライバシーを強化しており、開封状況を送信者側に送らないようになっている。具体的には、該当デバイスに届いたメールは全数が「開封」したものとして処理される。よって「メールを開封したユーザーにだけ別のメールを送る」などの運用は、再考が必要だ。
クリック率
クリック率は、配信に成功したリストのうち、ユーザーによってメールのコンテンツ内のリンクがクリックされた割合のこと。クリック数を配信成功数で割って算出する。基準値は1%以上。なお、1件のメール内に複数のリンクがあった場合、ユーザー1人が何回リンクをクリックしても「クリック1回」と判定するのが一般的という。
反応率
反応率は、開封されたメールのうち、コンテンツ内のリンクがクリックされた割合のこと。クリック数を開封数で割って算出する。基準値は5%以上。反応率とクリック率との違いは、分母が違う点である。
安藤氏によれば、反応率はメールの件名とコンテンツ(本文)の一致度が大きく影響する。「メールの件名が気になって開封したのに、本文を見たらまったく違うことが書いてあった」では、ダメという訳だ。
購読解除率
購読解除率とは、配信に成功したリストのうち、ユーザーによってメールの購読が解除された割合のこと。購読解除数を配信成功率で割って算出する。基準値は0.25%未満。
購読解除率は低い方がよいように思えるが、一概にそうとはいえない。メールマーケティングの目的は態度変容なので、態度変容の可能性がゼロの相手がメルマガを解除しても問題がないからだ。メールのコンテンツと読者のニーズが一致するよう、配信セグメントの調整に注力したほうがよいケースもある。
クリック数の決め手は「リストの質」「タイミング」「コンテンツ」
メールマーケティングの成否判定は、最終的にクリック数に集約される。では、クリック数を最大化するためにはどうすべきなのか。安藤氏は「リストの質」「タイミング」「コンテンツ」、この3要素を意識して戦略することが重要だという。
リストの質
顧客の態度変容を目的にメールマーケティングを行うとき、配信先のリストに求められるのは量ではなく、質である。リストが大きければそれだけでクリック数が増えると考えるのは誤りだ。なぜなら、宣伝したい製品・サービスに対して、興味を持っているユーザーの数は限定されるからだ。リストが大きくなればなるほど、態度変容を起こすユーザーの割合は減ってしまう。
それでもなお、送信先リストの質が悪くなって30%クリック数が減ったら、リストを倍にすればいいという発想は、昨今の迷惑メール対策事情ともそぐわない。Gmailなどのメールボックスプロバイダーは、マーケティングメールに対するユーザーのエンゲージメントを調査している。エンゲージメントが低い傾向にあるメルマガは、それをもって迷惑メール判定されかねない。これでは長期的には不利になってしまう。
能動的なオプトインを増やす
質の高いリストを作るには、リストの作り方から検討する必要があるという。「ECサイトに登録したら知らぬ間にメルマガに届くようになっていた」などの話はよくあるが、しかしそうしたユーザーにメールを送って、果たして態度変容するのだろうか?
特定電子商取引法のもとでは、メルマガを受信するのは「自ら希望したユーザーだけ」に限定されるのが大前提ともなっている。メルマガの登録フォームをWebサイトの分かりやすい位置に置く、メルマガ登録にあたって必要な入力項目数を減らすなど、導線をわかりやすくし、能動的なオプトインを増やすことが重要である。
その他、実際に配信されるメールを登録前に明示したり、登録者限定のコンテンツやクーポンを用意したりするのもよい。ただし、期待を裏切ることのないよう、高品質なものを提供すべきだ。
登録フォームはダブルオプトインを推奨
メールアドレスを登録してもらう際、入力間違いの軽減やいたずら防止の観点から「ダブルオプトイン」と呼ばれる方式が近年は推奨されている。メールアドレスを入力すると仮URLが発行され、クリックすると正式登録となる。これならば、存在しないメールアドレスへの送信が防げる。
ちなみに、メール受信登録完了直後に届けられる“ウェルカムメール”は開封率70%とも言われる。このチャンスをしっかり生かすべきで、たとえばECサイトへの登録など、“顧客にやってほしい行動”へのスムーズな導線を作るといい(安藤氏)
ニーズに合わせたセグメント配信
リスト上の全ユーザーにメールを一斉配信する「バルク配信」だけでなく、特定の属性のユーザーにだけ配信する「セグメント配信」も必須のテクニックだ。基本的に、セグメント配信の方が開封率やクリック率は高い傾向にある。セグメントの分け方はさまざまだが、BtoB領域では、リードの温度感(顕在層か潜在層か)、メールの反応率などに応じて、2~3つのセグメントを作るのが一般的。細かすぎると送信の手間が増えてしまうためだ。
無反応が続くグループを隔離して管理
メールを送っても無反応が続くユーザーをいつまでもリストに入れてはいけない。無反応が続くユーザーらを、リエンゲージメントグループといい、隔離して管理する必要がある。すでに述べたように、Gmailでは独自機能として、ユーザーの興味がないメルマガに対して購読解除提案を行うケースがある。これをユーザーが利用すると、解除情報が送信元に伝わらないまま、メールの配信だけが止まるのだ。この結果、送信リストに“幽霊読者”が生まれてしまう。
長期的に無反応のユーザーを、通常のコンテンツで振り向かせるのは難しい。そのためグループを分け、メール内容を無反応者向けに変えて送るなどの取り組みが必要だ。
タイミング
「メールを見る」というイベントが発生するには、以下4つの事象が順番に成立したときだけだと安藤氏は説明する。
- メールを見る時間ができた
- メールボックスを開いたときに一覧画面に存在した
- 差出人(Fromアドレス)が知っているところだった
- 件名(タイトル)に興味をひかれた
要するに、時間的要因がクリアされた状態で、メールのタイトルや送信元に興味を持ったときだけ、メールを開いていてくれるのだ。
読まれる時間帯に配信する
一般的に、メールが開かれやすい時間帯は「火曜日~木曜日」「通勤・通学時間、お昼休み」「18時~21時ごろの余暇時間(BtoCの場合)」とされる。ただ、この考えは市場に染み渡っており、いつまでも効果が続くとはいえない。
自社サイトが一番閲覧されている時間を考慮しつつ、分析をかけ続けるのが賢明だ。またBtoB分野の資料請求につなげたいメールの場合は、通勤時間帯を避け、在社時間中の配信がよいという。
また配信頻度を増やすのは、クリック率改善に効果があるが、それは「コンテンツが読者にとって有益なときだけ」とも安藤氏は指摘。水増し的な配信は避けた方が無難だろう。
差出人名と件名を工夫する
差出人名(Fromアドレス)は、メール一覧表示時にクローズアップされる要素だ。基本的には認知されているものを利用しよう。社名、サービス名、専任担当者名などが代表例だ。逆に、メルマガ独自の名称を記載するのは効果的ではない。
件名は、メールソフト表示時に省略されないよう、短くするのが鉄則。加えて、ユーザーの視線移動を考慮すると、文頭になるべく重要な情報を入れ込む。また、プリヘッダー(件名の後に表示されるテキスト)を設定して、件名の情報を補完するのも有効的だ。
コンテンツ
メール本文作成の大前提として、今はもうHTMLメールで送信すべきという。テキストメールしか受信できない環境はBtoC・BtoBのどちらでも、極めて少数になっている。表現力などを考慮すればHTML一択、というのが安藤氏の主張だ。
可読性・視認性・判読性を意識する
ユーザーはメールをじっくり読んではくれない。調査によれば、7秒間、およそ140文字程度の文章しか読まず、そこで次の行動を決める。冒頭の140文字以内にユーザーに促したい行動を示しておく必要がある。また、文字を読みやすくするためにも、文字サイズ・文字色・行間指定ができるHTMLメールが有利とされる。
画像を使えるのもHTMLの利点だ。商品写真はもちろん、Webサイトへのリンクを画像ボタンにすることの効果は大きい。画像ボタンはURLをそのまま貼ったときよりも、CTA(ここではクリック数)が8倍向上するとの調査結果がある。なお、ボタン以外でも画像を入れる場合は、必ずリンク先を設定しておこう。
ファーストビューにCTAを収める
メールを開いた直後、スクロールせずに表示される範囲を「ファーストビュー」といい、そこに行動喚起のためのリンクやボタンを設置することも重要だ。ファーストビューの範囲はメールソフトによっても違うため、Gmailやヤフーメールで実際どのように表示されるかは常に確認したい。
この他にも、実地的なテクニックを次々と紹介した。
- HTMLのフォントサイズは14ポイント前後がおすすめ
- メールに動きを出せるGIF動画の挿入もおすすめ
- BtoCでは1メール1コンテンツを徹底
- 複数のコンテンツを用意しても、メール下段になればなるほどクリック率は下がる
メールマーケティングで成果を出そう
最後に成果を出すためのメールマーケティングとして、以下の要点をまとめた。
- メールマーケティングの目的はキープインタッチと態度変容
- メールマーケティングで重要なのは再現性
- 振り返るためには定量的な目標設定が必要
- リストの質 × タイミング × コンテンツ の3要素で成果が決まる
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