AI分析で施策のPDCAを高速化! 中川政七商店とSprocketが実践するAI活用術
AIによる施策量増加で陥りがちな「分析のボトルネック」を、中川政七商店とSprocketはどう解決しPDCAを高速化したのか。
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企業のマーケティング活動において、生産性向上を目標にAIツールを取り入れる動きが活発になっている。確かにAIのおかげで、施策の量やスピードは向上しつつある。
しかし、その次の段階で「大量に施策を打ったものの、どれが成果につながったかわからない」といった課題に直面する。分析がボトルネックになって、次の改善にまで辿り着けないと悩むマーケティング担当者は少なくない。
「Web担当者Forum ミーティング2026 春」に、中川政七商店の中田勇樹氏と、Sprocketの深田浩嗣氏が登壇。AIを活用して「施策と分析」をシームレスにつなぎ、高速にPDCAサイクルを回す方法を紹介した。

(右)株式会社Sprocket 代表取締役 深田 浩嗣氏
店舗の心地好い接客体験をデジタルでも再現する3つの手法
1716年創業の中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、生活雑貨の企画・製造・卸・小売・経営コンサルティング事業を展開している。そんな中川政七商店が、接客のあり方として大切にしているのが「接心好感(せっしんこうかん)」だ。簡単に言えば、「お客様の心に接し、心地好いブランド体験を提供することで、商品、お店、ブランド、会社を好きになってもらうこと」である。
「この接心好感の店舗体験をデジタルで広く・深くお客様に届けたい」、また「従業員が目の前のお客様に集中して向き合える環境や業務プロセスを整えたい」という想いから、同社ではデジタル活用を推進している。
その具体的な手段として中田氏は3つの手法を挙げた。
① パーソナライズ
パーソナライズに取り組むにあたり、中田氏がまず行ったのは「セグメントの見直し」だ。一般的なECでは、購入金額や顧客の属性データを基準にセグメンテーションを行うことが多い。しかし中川政七商店では、「過去に購入した商品カテゴリの組み合わせ」という顧客行動の文脈に着目して、データを似たもの同士のグループに分類する「クラスタリング」という統計手法を用いたアプローチを行っている。
同社では、常時約4,000商品を取り扱っているが、これを90個ほどのカテゴリに分け、顧客IDごとに購入した商品のカテゴリを集計していく。そこからさらに購入カテゴリの傾向が似ているユーザーを「アパレルクラスター」「手土産クラスター」「衣食住クラスター」「内祝いクラスター」「しつらいクラスター」など、いくつかの群に分類していくのだ。
たとえば、「内祝いクラスター」を追いかけてみると、初回購入時は「ペアカップ」「日本酒器セット」など、結婚祝いに喜ばれそうな品が並ぶが、2回目の購入時になると、「てぬぐいスタイ」「鹿のがらがら」といった出産祝いに喜ばれそうな品へと変化している。さらに7回目以降になると、化粧水や保湿クリームのような自分用のアイテムへと変わっていく。
こうして見えてきたのが、下図のようなカスタマージャーニーだ。
中川政七商店では、贈り物利用のライトユーザーが大半を占めており、そこから自分用にちょっとした小物を購入して、別のクラスターに移っていくのではないかと見ている(中田氏)
② 伝えるべきことを整理して顧客に正しく伝える
店舗などリアルで接客する際には無意識的に行っていることだが、デジタルになるとここが疎かになりがちだ。中田氏は、「商品ページやメールの原稿を作る際に、本当にお客様第一で考えられているか? 売ることに主眼が置かれていないか?」と問いかける。
たとえば、A/Bテストを実施する場合、AとBで比較して、「Aの成果が良ければ、以降は全員Aに振り分ける」といったやり方をしていないだろうか。実際は、Aが良かった人が多かったというだけで、Bが良かった人も一定数いるはずである。
中川政七商店では、クラスターごとにA/Bテストを行い、できるだけお客様の状況に合わせた情報を届けられるようにしている。この際、活用しているのが、CX改善プラットフォーム「Sprocket」だ。Sprocketを使えば、顧客の属性や行動履歴に合わせて、Webサイト上でコンテンツを出し分けることができる。
顧客の分布を見ると、購入頻度が1~3回のライトユーザーが60~70%を占めていることが多い。しかし、そのデータだけで最適化しようとすると、残りの30~40%のコアユーザーを置き去りにしてしまう。かといって、コアユーザーのデータだけでは量が少なすぎて最適化が図れない。そうした一律の分析・施策に本当に意味があるのかと課題を感じていた(中田氏)
そこで、中川政七商店では、先に紹介したクラスターの行動データを元に、「このクラスターはこういう順でサイト内を回遊しやすい」といった行動パターンを導き出した。それをもとに、まだ顧客IDを取得していない匿名ユーザーが同じような行動をとったときに、クラスターを推測してコンテンツを出し分ける取り組みを行っているという。
③ 業務プロセス
ここで目指すのは「顧客と従業員にとって心地好い業務プロセスの見直し」だ。ECの一般的な「分析から施策実行」までの業務サイクルは下記のようなものだ。
- データ分析
- 施策立案
- 商品選定
- ページ構成作成
- ページ実装
- 配信企画作成
- 配信内容を作成
- MAに設定し実行
中川政七商店では、このすべてのプロセスでAIを活用しているという。中田氏はその一部のデモを行った。
商品選定→ページ構成作成プロセス
まずは、クラスターごとに求められている商品を選定し、ページ構成を作成して実装するまでの流れが紹介された。
まず、先ほどのクラスターごとに、行動データや購買データを学習した擬人化AI「Virtual Customer」を作成する。
このVirtual Customerが、中川政七商店のWebサイトを回遊しながら行動履歴をCookieやキャプチャで記録、その閲覧データをレコメンドエンジンに投入すると、よく閲覧されたページや購入情報をもとに、そのVirtual Customerにおすすめの商品一覧や特集ページ一覧、読み物一覧などが出力される。
AIがそれらの商品群をグルーピングし、顧客の反応をシミュレーションしながら、ユーザーが今本当に探し求めているコンテンツを特定。カテゴリごとに切り分けた商品ページを生成するという流れだ。
配信企画を作成→配信内容を作成→MAに設定し実行
次に、メルマガの企画を立て、配信内容を作成し実行するまでの流れのデモが行われた。
まず、メール配信AIエージェントに、「“アパレル上顧客層”に4月に送る春メールを作成してください」などと依頼する。すると、AIが、そのクラスターの直近のメールの反応率や過去の同じ季節の反応率をもとに、メルマガのテーマや目的を設定してくれる。
その後、先ほどのプロセスで導き出したレコメンドの一覧から、どのコンテンツをどの順番で配置するかの提案と、タイトル生成を行う。先ほどのVirtual Customerに「このタイトルのメールを開封するか」などを確認しながらブラッシュアップし、原稿を作成。HTMLで出力して、MAにアップロードするという流れだ。
AIを施策だけに活用すると「分析」がボトルネックに
ここまで見てきたように、クラスター別のコンテンツ生成をAIを活用して進めると、施策の数は膨大になる。その結果、何が起きるのかと言えば、PDCAのC、つまりCheck(分析)でキャパオーバーになってしまい、次のアクションに進めない事態に陥るのだ。
たとえば、用意したメルマガを、5つのクラスターに対して5本ずつ配信すると、週に25通りのメールを配信する計算になる。AIを使いコンテンツを作成できたとしても、これだけの分析量は今までと同じ人員で行うのは難しい。
そこでSprocketでは、長年にわたって蓄積したデータ分析のノウハウや知見を詰め込んだ「データ分析エージェント」を開発した。「これを調べたい」と自然言語でリクエストすると、分析結果がすぐに出てくるAIエージェントで、下記のような特徴がある。
- 専門知識不要:SQLの知識もBIツールの操作も不要。自然言語で質問するだけ
- 分析結果をすぐに可視化:数字やグラフで分析結果を可視化。パターンや傾向をその場で確認できる
- 分析から施策まで一気通貫:分析結果をもとに、事業成長につながる施策をAIが提案してくれる
特に注目したいのは、「分析レシピ」という新機能だ。ユーザーが自ら登録した分析テンプレートの「マイレシピ」と、ファネル分析やLTV分析のようなよくある分析手法をユーザー共通の分析テンプレートとしてまとめた「みんなのレシピ」の2種類からなる。好きなレシピを選ぶだけで、分析から施策の提案までAIが行ってくれるという。
中川政七商店では、「平日にLINEを見て、土日に購入する」といった「3日以内の間接効果」を加味した施策評価や、「ショッピング広告から訪れた客」と「自然検索の客」それぞれの6か月後のLTV(Life Time Value)分析などを手軽に行うことができている。
他にも、会議中に「ここの数字はどうなってる?」など想定外の質問をされることは少なくない。そんな時に持ち帰って調べていると時間がかかってしまうが、Sprocketであれば、その場でAIに質問して数字を導き出すことができ、PDCAサイクルを劇的に高速化できる(中田氏)
「データ分析は属人化しやすく、その人が異動したり退職したりすると、業務が滞るリスクが高い。あらかじめレシピとして登録してもらえれば、社内のナレッジとして共有しやすくなる。ぜひご活用いただければ」と深田氏は語り、セッションを締めくくった。