アクティブユーザーが2倍に急成長! JA共済アプリに学ぶ“ユーザー視点”のUI/UX改善
見た目をよくすること=UI/UX改善ではない! JA共済連の岸本大氏が、アクティブユーザーや利用率を約2倍に伸ばした「JA共済アプリ」のリニューアル事例をもとに、今すぐ役立つUI/UXの考え方を解説した。
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Webサイトやアプリのリニューアルで成果を上げるためには、見た目の改善だけでなく、ユーザーの目線に立ったUI/UX設計が欠かせない。サイト内の情報を充実させても、閲覧数が伸びないと悩む企業も多いのではないだろうか。
「Web担当者Forumミーティング 2026 春」では、全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の岸本大氏が登壇。アクティブユーザーを2倍に伸ばし、グッドデザイン賞も受賞した「JA共済アプリ」の事例をもとに、ビジネス価値につながるUI/UX改善の要点を解説した。
JA共済アプリのリニューアル成果を生んだ「UI/UXの本質」とは?
WebアプリのUI/UXでは、“見た目”のデザインに意識が向きがちだ。しかし本質は、「成果やビジネス価値につながる構造を設計すること」だと岸本氏は語る。
岸本氏がリニューアルに取り組んだのは、JA共済が提供する「JA共済アプリ」だ。2021年のリリースから3年半が経過した2024年頃、利用者数・アクティブ率ともに伸び悩んでいたという。
特に大きな課題となっていたのが、「網羅性を重視するあまり、かえって情報過多による使いづらさを招いていたこと」だ。良かれと思って掲載した情報が、結果的にユーザーにとって本当に必要な情報を見つけにくくしていた。
最も根本的な問題は、ユーザー視点とビジネス価値の両面から整理しきれていなかったことです(岸本氏)
「年5回」のログインが分かれ目? データから見えてきた課題
転機となったのは、アプリの利用データを分析する中で得られたある発見だった。年5回ログインするユーザーは、そうでないユーザーに比べて、資料請求や共済加入などのコンバージョン割合が、約1.6倍に高まることが明らかになったのだ。
この結果から見えてきたのは、保険・共済という商材において、「年5回」という限られた接点をいかに有効に活用するかが重要だということだ。
大切なのは、すべての情報を伝えることではなく、ユーザーとのタッチポイントを増やしつつ、そのうえでユーザーに迷わせないような設計を作り上げることです(岸本氏)
商材の特性上、加入後にユーザーがアプリを頻繁に利用するケースはあまり多くない。そこで岸本氏は、ユーザーが「アプリを開くタイミング」に着目した。ユーザーインタビューの結果、入院や手術、災害などの有事や、人生の重要な局面でアプリが必要とされることが見えてきたという。
こうした考察を踏まえ、リニューアル版では「Connected Life Care(コネクテッドライフケア)=人生の重要な瞬間に寄り添い、必要なケアサポートを提供する」というコンセプトを軸に据えた。
ユーザーインタビューに基づいた「3つの実践的改革」を実施
では、具体的な改革の内容を見ていこう。岸本氏はリニューアルにあたり、企画・構想の段階で複数回のユーザーインタビューを実施した。計3回、各回数十名規模で聞き取りを行い、ユーザーが何に安心感を抱くのか、どこで行動が止まるのかを明確にしたという。
組織内の関係部署や上司、経営層などからさまざまな意見が寄せられる中でも、ユーザーの声をよりどころにすることで判断の軸がぶれず、常にユーザー視点を保ちながら、自信を持ってリニューアルに取り組むことができたと岸本氏。
要件定義前にユーザーの声を聞いたことで、改善の方向性が明確になりました。データ分析だけでなく、ユーザーに直接話を聞く定性的な調査も重要です(岸本氏)
その結果、次の3つの施策を重点的に実施することとなった。
改革1商品ページを「瞬時に理解」そして「価値を認識できる」構造へ
まず、契約情報ページの見直しだ。従来のアプリでは、終身共済や養老生命共済といった商品名・共済種類だけが並んでおり、ユーザーにとって自分の状況に当てはまる保障を見つけにくい状態だった。
そこでリニューアル後は、従来の導線に加え、ユーザー視点の「シーン別タブ」を追加した。病気や被災など、具体的なシーンごとに保障情報を探せるようにすることで、ユーザーが必要な情報にすぐにたどり着ける設計になった。
利用シーンごとに情報を整理することで、事業者目線と利用者目線のギャップを埋めていきました(岸本氏)
改革2ユーザーの「不安」を先回りし、保障に関する情報を構造化する
次に着手したのは、商品ページにおける情報の構造化だ。従来のアプリでは、情報の網羅性を重視し、あらゆる要件を考慮した結果、詳細な情報が多く詰め込まれていた。
しかし、ユーザーインタビューから、求められているのは保障に関する詳しい内容ではなく、いざという時にすぐに連絡するための契約情報や、「次に何をすべきか」という“指針”となる情報であることが判明。
そこで、ファーストビューに表示する情報を絞り込み、もしもの時でも直感的に操作できる設計に変更。詳細情報はツールチップなどで補足することで、情報過多によるわかりにくさを解消した。
加えて、「災害モード」機能を新たに設け、地震などの災害が発生した際、ユーザーが自分で探さなくても、適用される可能性のある保障を自動的に提案・提示するようにした。なお、請求手続きに関するアンケート調査では、「請求手続きの分かりやすさ」の満足度がアプリ非利用者の2倍以上にもなったという。
改革3ユーザーの家族を巻き込む設計で、新たな顧客接点を生み出す
最後に取り組んだのは、契約者本人だけでなく、その家族も対象とした設計の導入だ。ユーザーインタビューでは、家族が急な病気で入院した時や、家族の将来を考えるような場面でも、アプリを活用したいというニーズが明らかになった。
たとえば、ご家族が急に入院された場合、加入している共済の内容をご本人しか知らないと、生活の立て直しに時間がかかってしまうことがあります(岸本氏)
そこで、「かぞく共有」機能を実装し、契約情報を家族とカジュアルに共有できるようにした。これにより、「かぞく共有」などの付加価値機能を利用しているユーザーは、アプリ満足度が1.5倍に高まったという。
ユーザー本人だけでなく、その家族も支援対象として捉えることで、利用者・家族・事業者の三方よしのサービスへと進化しています(岸本氏)
リニューアルの結果、アプリ登録者数・DL数・MAUが約2倍に
こうしたリニューアルの成果は、数字にも明確に表れた。リニューアル前後を比較すると、アプリ登録者数は約2倍に増加。アプリダウンロード数も約2倍となり、累計200万ダウンロードを突破した。さらに、月間アクティブユーザー数(MAU)も約2倍に伸びている。
また、2025年度には「グッドデザイン賞」と、世界三大デザイン賞の一つである「Red Dot Design Award」をダブル受賞。Red Dot Design Awardでは、日本の金融業界で初の受賞となった。
保険・共済業界では、一度加入したユーザーにアプリを継続的に利用してもらうことは容易ではない。今回のリニューアルは、ユーザーに寄り添った体験設計が高く評価された、業界全体にとっても革新的な成果といえるだろう。
ユーザー起点のUI/UX改善を実践するためのTIPS・チェックリスト
最後に、岸本氏はアプリやWebサイト改善に役立つTIPSとチェックリストを紹介した。UI/UX改善に取り組みたいものの、何から始めればよいかわからないという人は、ぜひ参考にしてほしい。
TIPS1ナビゲーション設計:
利用者の言葉へ翻訳し、事業者とのギャップを埋める
まず重要なのは、サービス提供側の言葉や考え方を、ユーザーの言葉に“翻訳”して再整理することだ。社内用語が並んでいないか、商品・商材を起点にした構成になっていないか。ユーザー視点で設計されているかを見直すことが、UI/UX改善の最も大きなポイントとなる。
商品・商材ベースで伝えようとする事業者目線と、自分が直面している困りごとや状況から情報を探すユーザーのギャップを埋めることが第一歩です。グローバルナビゲーションやメニュー構造を見直してみましょう(岸本氏)
TIPS2情報の優先度:
“情報不足”よりも“理解できない情報過多”こそが問題
次に、情報の優先度をつけて伝えることだ。ユーザーは、情報が少ないことよりも、理解できない情報の多さで行動を止めてしまう。そのため、必要な情報にたどり着けるか、完了までにどれくらい時間がかかるかといった点を踏まえて、課題を総合的に把握することが重要となる。
特に、保険・共済業界などの信頼性や正確性が強く求められる業界では、「すべての情報を掲載しなければならない」という固定観念に陥りがちだと岸本氏。しかし実際には、利便性を踏まえて情報に優先度をつけ、構造化することが求められている。
先述の「災害モード」のように、ユーザーの状況やタイミングに応じた情報の出し分けも効果的です(岸本氏)
TIPS3視線誘導と行動設計:
コンセプトに基づき、誰もが使いやすいUIに
最後に、視線誘導と行動設計を意識することだ。文字だけでなく、アイコンや色によって「次に何をすればよいか」を直感的に示せているか、コンセプトがUI全体に一貫して反映されているかも見直しておきたい。
誰もが使いやすいことが、新規の利用者さまとの接点にもなります(岸本氏)
岸本氏は、「UI/UXとは単に“見た目”を整えるものではなく、ユーザーにとって必要な情報や行動導線を設計し、成果やビジネス価値につなげるためのものだ」と改めて強調し、セッションを締めくくった。
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