「等身大の広報」はキャリアの初期から
ーー従来のマスメディアを通じた企業広報と、noteやSNSが普及したあとの広報とではいったい何が変わったのか。おふたりにご自身のキャリアを振り返ってもらいながら、企業広報の変化についておうかがいできればと思います。
森本 私はエン・ジャパンで法人営業をしたのち、未経験ながらも同社の広報になりました。しかも、担当者は私ひとりだけ。前任者からの引継ぎを1ヶ月で済ませ、現場に送り込まれました(笑)。
森本 それまでの広報は問い合わせ対応が中心で「これからは積極的な広報活動をやっていこう」というタイミングでの異動でした。
このような経緯なので、社内でベーシックな広報スキルを学ぶ機会はなかったんです。でも、社外のイベントや勉強会にいろいろ参加して、先輩広報たちからたくさん学ぶことができました。
私が幸運だったのは、1番最初にお話を聞いた広報の方がすごく自由にやられている方だったこと。さまざまなひとや情報をつなぐコネクタとしていまも活躍されているkipples代表の日比谷尚武さんです。彼は当時から「等身大の企業広報」のようなことをされていました。日比谷さんから学んだことが、いまの私のベースになっていると思います。
ーー従来型のマスメディアをつかった企業広報は、実はあんまりやっていなくて。だからこそ、現代っぽい広報にスムーズに入っていけたということでしょうか?
森本 メディアを訪問するいわゆるメディアリレーションも、頻繁にやっていたんですよ。仕事の半分ぐらいはメディアの方とお会いしてお話することに充てていました。そんななか2014年に、Webで一般にも公開するen soku!(エンソク)という社内報を立ち上げることになりまして。
せっかくやるんであれば、広報のメンバーで「毎日必ず更新しよう!」と目標を立てたんです。2、3日に1回は、自分に当番が回ってきました。
ーー毎日更新するのはきつくなかったですか?
森本 いい筋トレになりました(笑)。ネタを探して社内を歩き回り、それを急いで書くという繰りかえしで。
ーーかねともさんはいかがですか。SNSを活用した等身大の企業広報のようなやり方と従来のやり方を、どのように学んでこられたんでしょう。
金子 2007年に新卒で入ったエデルマン・ジャパンという外資系のPR会社にいたころから、等身大の広報に近いやり方をしていたと思います。
クライアントのmixi公式コミュニティの運営をやらせてもらっていましたし。当時はまだ日本でTwitterがほぼつかわれておらず、mixiが流行っていたんですよね。
ーーエデルマンはグローバルな会社だから、ソーシャルメディアの活用にも早くから取り組んでいたんですね。
金子 そうですね。上司や先輩と一緒に、メディアキャラバンなどPRの基礎的なこともやらせてもらってはいましたけど。同時に、それはあくまでたくさんある手段のうちのひとつである、という考えを教わりました。
PRの一環としてのユーザーコミュニケーション
ーー等身大の企業広報と従来の広報との違いはどこにあると思いますか。
森本 これまでの広報では、社会性や新奇性があってニュースになるネタをプレスリリースとして世に出し、それをマスメディアのみなさんに拾っていただくのがメインのやり方。いまももちろん、やっている方法です。
でも、自分たち自身がメディアになれるSNSなどのツールが普及したことで、”ニュースにはならなくても自分たちが伝えたいと思う話”を等身大に発信しやすくなりました。
社内にはみなさんに知ってもらいたい、いいエピソードがたくさんあって。それをen soku! に書いたら、内容をよいと思ってくれた方が会社やサービスのファンになってくれたり、のちに社員になってくれたり。
自分たちが伝えたいメッセージを受け取って「いい」と思ってくれるひとに向けて発信する、というのも方法としてありだと考えられるようになりました。
ーー僕は、メディアリレーションズに特化している企業広報の方の多くが、いますごく戸惑ってるイメージをもっています。
従来の広報担当者は黒子になることが多かったし、「自分が表に出ていくものではない」と教育されているひとが多いと思うんです。SNSをリスクと捉えているひとが、広報部にはまだ多い印象があります。
森本 SNSに慣れると、いろんな最新の情報を得やすくなるんですよ。広報担当者はメディアの方と”いま社会で何が起きているか”を議論する必要がありますので、そんなときにSNSで得た情報や感覚がすごく活きてきます。
金子 私の場合は前職を含めてずっと、ユーザーコミュニケーションでSNSをつかったり、イベントでリアルに利用者のみなさんとお会いしたり。何かを媒介せずに直接顧客と接点をもつアプローチを続けてきました。
そうすると、一人ひとりの物語をご本人の口から直接うかがうことができたり、ひとの気持ちが動く瞬間に立ちあうことができたりするので、いいなと思っています。
いまは、私が把握した状況をPRチームのみんなにも共有して、それがメディアの方に提供できる情報のタネになったりもしていますね。
PRの仕事とユーザーコミュニケーションは、切っても切り離せないものだと考えています。
ーー僕がnoteに入社するきっかけになったのは、実は森本さんなんです。森本さんはPRなのに、ユーザーサポートみたいにTwitterでクリエイター(※noteのユーザーのこと)の方たちとコミュニケーションをしていて。かねともさんと、そのあたりの感覚は似ているんですね。
森本 似てますね。PRの担当は、noteが社外からどう見られているのかを1番よく知っておくべきだし、社内のことについても知っておくべき。
クリエイターの方がnoteについてどんな言及をしているかについては、めちゃくちゃウォッチするようにしています。
ひととなりを「にじませ」共感を呼ぶ
ーーnote社では等身大の企業広報をどのようにとらえ、何に取り組んでいるのでしょうか。
森本 noteに限らずですが、いまは提供するサービスや商品を他社のものと差別化するのがすごく難しくなっていて。そのため利用者は、サービスや商品を提供する会社の思想や姿勢に「共感」できるかどうかを、商品選択の際に重視するようになってきています。
ですから等身大の企業広報においては、noteがどういう思いでサービスをつくっているのか、何をみなさんに提供したくてやっているのか、つくり手はどういうひとたちなのかをちゃんとにじませる、という点にこだわってやっています。
こちらの記事がその1例です。
森本 最近、noteではアクセシビリティ(※Webサービスなどが、年齢や身体の状態、能力などに関係なく、だれでも同じように利用できることやその度合い)の向上に力を入れています。
そこで、プロジェクトに関わった社員にインタビューをしました。プロジェクトが立ち上がった理由や担当者たちの思いなどをシリーズで紹介しています。
私が社内のSlackを見ていて、このプロジェクトに参加しているエンジニアたちのやり取りにすごく高い熱量を感じたことが、記事の企画を立てるきっかけの1つでした。
彼らの取り組みや思いをもっと社外に伝えたいし、このプロジェクトに参加していない社員にも知ってほしいと思ったんです。自分たちの会社はどこにこだわっているのかを、社員みんなが認識できるといいなと考えました。
最近では、メディアの方の視点が変わってきているのも感じます。私が広報になった2014年ころは、速報ニュースをいかに他社メディアより早く出すかをみなさん競っていたと思うんです。
でもいまは、取り上げた企業の取り組みがその後どうなったのか、それによって社会がどう変わったのかを深掘りするほうに、メディアの姿勢がシフトしています。ですので、noteでの取り組みについてもちゃんと出していくことが大事だと考えています。
ーー次の図は、note社のPRの発信チャネルを表したものです。
森本 たとえばnoteの新機能を発表するときには、記者発表会やプレスリリース、ニュースレターなどの従来のやり方に加え、クリエイターのみなさんと一緒に何かできないか、社員インタビューを一緒に出せないかなど考えます。
社内のメンバーにも、プロジェクトについて積極的に伝えるようにします。そうすることで、よりみんなが盛り上がって、自分たちからSNSで新機能のことを話題にしたり、社員が個人のnoteで自分の思いを書いたりすることも。いろんな手法がありますよね。
金子 このスライドのようにマッピングはしてみたものの、本当はもっとそれぞれの丸が大きく重なり合うし、影響しあっているなと、これをつくりながら感じました。
公式noteでプロダクトの話をメインに新機能の告知をしたときも、「こういう思いでつくりました」という話があると、ちょっとひとの姿がにじみ出てきます。
公式noteは外向けの発表ですが、社内のひとが読んで「担当者たちはこんな思いでつくってくれていたんだ。あのチームいいな」と感じるようになることもあります。
広報パーソンに求められる半分社内・半分社外の視点
ーー「にじませる」というのが印象的でした。企業側の思いをガツンと出してしまうとPR要素が強く、押しつけがましくなってしまう。それに、広報が社内を過大評価しているようにも見えてしまいそうです。
森本 広報PRパーソンは、半分社内、半分社外の視点で社内を過大評価しないこと。
冷静に「それってあんまりおもしろくない」とか、「クリエイターのみなさんにとってはこういうほうがいいと思う」など、社内のひとに向かってちゃんと言えることが大事です。だれよりも客観視して、社内を見られる必要があります。
金子 私も、前職で「Twitterの中のひと」をやりはじめたときからそのスタンスが本当に大事だとずっと思っています。両者のちょうど境目に立って、内と外に片足ずつ置く。ときによっては重心をちょっとずつ変えることはあるけれど、どっちかにどっぷり行きすぎないように気をつけています。
SNSを読みといて答えあわせ
ーー企業広報の課題としてよくあげられるのが効果測定です。おふたりはどのように効果測定をされていますか。
森本 正直なところ、いままでは効果測定をあまりしていませんでした。でも会社も大きくなってきましたので、PRが何をやっていてどういう効果があるかを社内の誰が見てもわかるように可視化しようと、いままさにやっている段階です。
まず、具体的に何をやっているのか、行動数をいままでより精緻に取ること。たとえばジャンル別のプレスリリースの発信数やメディアへの訪問数などです。
金子 またSNS、主にTwitter上で、noteが発表した内容についてどれぐらい言及されているか、リツイートされているかをプレスリリースのたびにデータ化しています。
SNSでの定量数は健康診断というか。自分の平均体重を知るようなものだと思っていて。ずっと続けていくと、プレスリリースを出すとこれぐらいの反応数がとれるということが、だんだんわかってくるんですね。
あらかじめ平均値を知っておけば、反応数が少なかったり、やたらに多かったりしたときに、なぜそうなったのかを追求することができます。
ーー定点観測の視点は大事ですよね。
金子 ただ、どんなひとが具体的に何を言っているかをちゃんと深堀するべきだとも思っていて。社内でも、効果測定のレポートをつくるときは必ず、両方セットで作成します。
どんな属性、職種、興味をもつひとが、どういうことを言っているのか。「いいね」やリツイートをしてくれているひとたちは、どういうところに感動してくれているのか。プロフィールや直近のツイートを10個ぐらい見ると、大体のひととなりがわかります。そこは本当に、一つひとつちゃんと見ていますね。
森本さんたちのPRチームがPRプランを立てるときに、とどけたいターゲットをきちんと設計してくれています。ですから、発信した内容が元々とどけたかったひとにちゃんととどいているのか、ずれていないかなど答えあわせをするのは、とても大事だと思っています。
1日1ネタとサブ垢で新しい境地に挑戦
ーー最後に、みなさんが等身大の企業広報に新しく挑戦する際に明日からでも実践できるようなヒントを教えてください。
森本 「1日1ネタ」です。
企業活動をしていると1日にひとつは外に言いたくなる話があるはずなので。小ネタでもいいので、SlackやTwitter、noteでアウトプットすること。
ストイックですけど、これは癖づけ、訓練だと思うので。「1日1ネタ発信するぞ」という気持ちで過ごしてもらうといいんじゃないかなと思います。
金子 SNSでサブ垢をつくるのがおすすめです。
本当にとどけたい属性のペルソナや自分とはまったくちがう属性を想定してSNSでサブ垢をつくって、そのひとがフォローしていそうなインフルエンサーやメディアをフォローしたり、プロフィールをつくったり。そうすると、似たような属性のひとたちがフォローしてきて、「こういうカルチャーがあるんだな」というのがわかってきます。
アルゴリズムによって違う情報が流れてくるので、いままでとは全然違う世界を見ることができ、おすすめですよ。
ーー僕もそろそろ、サブ垢に挑戦してみたいと思います。今日は同じ会社のメンバーがゲストという不思議な建てつけでしたけれど、以前からおふたりの話を聞いてみたいと思っていたので、有意義な時間になりました。聞いていただいたみなさんにも何かヒントになっていれば幸いです。
▼本イベントのアーカイブ動画はこちらからご視聴いただけます
▼おふたりの所属チームでは一緒にはたらく仲間を募集しています。興味のある方は以下をご覧ください
interview by 徳力基彦 text by いとうめぐみ
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