note #等身大の企業広報レポート

ビームス、マネーフォワードに聞く、社員を巻き込む新しい発信のかたち #等身大の企業広報

従業員一人ひとりが自ら発信した生の声は、自社をエンパワーメントするコンテンツになる可能性を秘めている。ビームス、マネーフォワードが語る、社員を巻き込んだ情報発信術。

だれでもがWeb上で発信できる現代。人々が求めているのは、きれいな言葉で彩られた広告ではなく、リアルなひとの姿が感じられるコンテンツです。

言い換えるならば、従業員一人ひとりが自ら発信した生の声は、自社をエンパワーメントするコンテンツになりうるということ。

では企業はどうすれば、従業員のエンゲージメントを高め、自分ごととして自社や自社のサービスについて語ってもらうことができるのでしょうか。

第13回の「等身大の企業広報」では、株式会社ビームス矢嶋正明さんと、株式会社マネーフォワードの金井恵子さんをお招きし、それぞれの取り組みについておうかがいしました。

noteの許諾を得て、Web担で掲載しています。オリジナル記事はこちら →https://note.com/notemag_business/n/n6b18e2cb2b24

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スタッフをメディア化・オムニチャネル化

ーービームスさんはかなり早くからオウンドメディアを活用した発信や接客販売をされていたように記憶しています。きっかけはなんだったのでしょうか。

矢嶋 もともと店舗の販売スタッフが、商品やスタイリング画像をスタッフ同士で撮りあって画像投稿サイトにアップロードしていたんです。それが2010年ごろですね。

アパレルブランド「BEAMS」などを運営する株式会社ビームスは1976年創業。同社執行役員 DX推進室室長 兼 オペレーション本部 マーケティング部の矢嶋正明さん

私は当時ECサイトの責任者をしていて、スタッフのリアルな着こなし情報はサイトの良質なコンテンツになると思いまして。それで、スタッフの了解を得たうえで、投稿されていた画像をECサイトに活用しはじめました。スタッフが着用している商品の品番をリンクで貼るようにして。

すると単なる商品紹介ページよりも、スタッフの画像がついている投稿の方が売り上げが高い結果が得られました。2012〜2014年ごろのことです。

そこで2015年からスタイリング投稿システムを自社開発し、2016年にオフィシャルサイトの公式コンテンツとしてリリースしました。私はこれを、「スタッフのメディア化」、「スタッフのオムニチャネル化」と称しています。

 

オムニチャネルとは、実店舗やECサイトなどをお客さまが自由に行き交って、情報収集や商品購入ができるという意味。チャネルをクロスさせてもいいという概念ですね。

「スタッフのオムニチャネル化」には、リアル店舗とオンラインの接客をクロスさせるという意味合いを込めています。

2017年からは商品のオムニチャネル化もはじめました。たとえば、店舗でECの在庫を確保して売上を立てたあとに、お客様の自宅へEC倉庫から商品を送ったり、逆に自社ECに在庫がないときでもリアル店舗の在庫を取り寄せてECで販売ができたり。相互のチャネルの在庫を自由につかえるようにしました。

ーー金井さんは現在、人事組織の中で企業文化浸透の推進担当をされています。この仕事に携わるようになるまでの経緯について教えてください。

金井 私は2014年に、当社1人目のデザイナーとして入社しました。最初は、サービスやUI、Webサイトのデザインなどをしていたんです。

フィンテック事業を行う株式会社マネーフォワードは、2022年に創業10周年を迎える。同社Peaple Forward本部VP of Cultureの金井恵子さん

その後、会社の行動指針を記したカードのデザインを任されて。この仕事を機に、会社全体のコンセプトを明らかにして全社に浸透させることが非常に重要だと考えるようになりました。

ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャー(以下、MVVC)の策定などを経て、いま企業文化浸透担当をしています。

ーーマネーフォワード公式noteのホーム画面を見ると、たくさんの従業員の方々が個人名のアカウントで活発に投稿しているのがわかります。

金井 当社もはじめのころは、あまり発信が得意な会社ではありませんでした。その体質が変わるきっかけは、2019年4月に開始した社内報だったと思います。

記事は、新しくつくった社内報チームのメンバーが従業員に話を聞いて書いていました。そのときに気をつけたのは、単なるプロジェクトの内容説明や報告にならないようにすることです。できるだけ担当者のみなさんがどんな想いで仕事に当たっているのか、プロジェクトが会社のミッションにどうつながっているのかをインタビューするようにしました。

こうしたことを積み重ねていくことで、「自分の会社や仕事に対する想いを話したり、会社のことが好きだと言ったりすることは全然恥ずかしいことではない」という空気感が生まれていったと考えています。

ルールによってスタッフを守る

ーーアパレルにおける「スタッフのメディア化」はいまでは当たり前ですが、当時はかなり先駆的な試みだったと思います。実現する際に障壁はありましたか。

矢嶋 スタッフが顔出しをして発信するので、炎上やストーカー被害にあう可能性については検討しましたね。

ただ、そういうことが起こりやすいのはソーシャルメディアだと思うんです。我々のスタッフが発信する場所はオウンドメディア。自分の会社のメディア上で業務として発信するので、その際の社内ルールをしっかりつくることやサポート体制の拡充で、ストーカーや炎上などの被害からスタッフを守れるんじゃないかと考えました。

スタッフたちも、オウンドメディアでルールに則った発信を続けることで、どういう投稿がよい投稿なのかを学ぶことができていると思います。

また当時は、「バックヤードでスタイリングの撮影をする時間があるなら、スタッフには店頭で接客をしてもらいたい」と考える店長たちもいました。

ですので、”オンラインもリアルも同じ「接客」であり、スタッフにファンがつき直接ご来店されることを目指す取り組み”だと認識していただけるよう、アナウンスに努めました。

 

巻き込まれることで生まれた当事者意識

ーー金井さんは、カルチャーを浸透させたり、発信する空気をより広げたりするために、どのような工夫をされましたか。

金井 オフィスでのさまざまなイベントに従業員を巻き込んでいくようにしました。会社に対して当事者意識をもっていないと、なかなか自分の実名を出して会社や仕事のことを発信しようというマインドにはならないからです。

本社オフィス移転の際に希望者を募り、みなで壁や柱のペイントを行ったり、それまで人事や社長室が運営していたグループ全社員が参加するオンラインの社員総会を公募制のプロジェクトにして、みんなでつくりあげていったりなどしました。

従業員を巻き込むことで一人ひとりに会社への愛着や当事者意識、所属意識が生まれて、それが発信につながっていると実感しています。

矢嶋 弊社ではスタッフ主催の勉強会を行っています。投稿が得意なエキスパートスタッフが、自分でつくったスライドを映しながらほかのスタッフたちにどういう投稿をするといいかレクチャーします。

投稿のポイントは「量より質」。「渾身の1投稿」、「コメント力(コメント欄は3行以上)」、「お客様の欲するタイミングで投稿」が鉄則とのこと

このとき講師役を務めた彼は、社内のオンライン接客賞で毎回1位をとっている名物スタッフ。その彼が、本当に大事なのは売上ではなく「投稿をすることで、それを見て店頭にいらしたお客さまとスタッフの距離感が変わること」なんだということを話してくれました。こうした取り組みのコアな部分を語ってくれるスタッフが自発的に出てきたことを、とても嬉しく思っています。

洋服は機能性やブランド、デザインなど「モノ」自体の価値が重視されがち。ですが私たちのような小売業は、店頭での体験を含めた「コト消費」も非常に大事にしています。

お客さまも、「何を買うか」から「どこで、だれから買うか」という「ヒト」とのつながりも含めた情緒的価値に重きをおく時代になってきていると感じています。

 

効果測定はさまざまな指標で

ーーオンライン接客賞というお話がありました。発信に対する効果測定はどのようにされているのでしょうか。

矢嶋 前出したスタッフは、彼経由のオンライン売上が月1000万円を超えているのですが、接客賞に関しては売上だけで判断してはいません。Webサイトを運営している方だったらわかるような複数の指標を設けているので、ほかの項目とのバランスをしっかりと加味した上で評価するようにしています。

また各スタッフは、それぞれの項目に対するパフォーマンスを投稿用の管理画面で確認できるようになっています。

たとえば、投稿した自分の記事が何人に見られて、それがいくらの売り上げになったかを翌日に見られます。

これにより、スタッフ自身で投稿内容の良し悪しを考えたり、次回の投稿で工夫をしたりできるわけです。自分自身でPDCAを回せることが非常に大事。効果測定は本部だけでするのではなく、このように可視化して、自分でできるようにすることにも重点を置いています。

金井 当社では半期に1回、全社員に会社に対する通信簿をつけてもらっています。そこでMVVCや会社に対する誇りなどの項目についても聞き、その変化をウォッチしているんです。

また社内報を担当していたときには、どれだけ記事が読まれたかよりも書き手をどれだけふやすことができたかを気にかけていました。どれだけのひとがMVVCや私たちの活動に共感し、さらにそれらを社内に浸透させる側になっていってくれたか、その層をどれだけつくっていけたかを意識しながらやっていましたね。

 

巻き込んで伴走して仲間をふやす

ーーまだ発信する空気が醸成されていない企業の担当者に向けて、何からはじめればよいかアドバイスをいただけますか。

金井 従業員を巻き込む際のハードルを下げることが大事かなと思います。たとえば何かの項目でどちらがいいか投票してもらうとか、ワンクリックだけで参加できるようなことからはじめてみてはいかがでしょうか。

また、日報に書く感想の中に会社への想いを少し込めて、シェアしてみるのもいいと思います。

noteでの発信の場合、当社ではnote編集部と呼ばれるチームが従業員のサポートをしていました。相手のレベルに合わせ、ある程度記事を書ける方にはレビューだけ、書くのが不安な方にはサポートしながら書いてあげて。書きたいけど何を書けばいいかわからない方には、壁打ちからやっていました。

矢嶋 弊社の場合は、顔見知りのスタッフがいる店舗でトライアルさせてもらいました。投稿のやり方がわからない、時間がかかり過ぎるなど現場が困っているようだったら、実際にその店舗に行ってレクチャー会なども行いました。まずは、小さい成功を重ねていくステップを踏んで。少しずつやってくといいんじゃないかなと思います。

あと、当社のサイトはスタイリング写真、ブログ、動画などいろいろなコンテンツに対応していて、自分の得意分野で発信してもらえるようにしています。どれかに偏っていてもよしとしているんです。このようにスタッフの発信のハードルを下げること、続けやすくすることも必要かもしれませんね。

ーー巻き込み型も伴走型も、はじめやすく続けやすい工夫をすることが大事ですね。それがうまく従業員のみなさんに伝わると、仲間がふえていくんじゃないかなと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

登壇者プロフィール

矢嶋 正明さん
株式会社ビームス 執行役員 DX推進室 室長

 

ビームス柏のアルバイトを経て、1998年に入社。店舗販売や内勤カスタマー業務の後、2005年にEC部門を立ち上げて責任者に就任。15年間EC事業を牽引しつつ、店舗のオムニチャネル化やOMOを実現。2020年に執行役員就任。2021年より現職。

金井 恵子さん
株式会社マネーフォワード People Forward本部 VP of Culture

 

2014年、マネーフォワードに入社。UIデザイン、デザイン組織立ち上げ、ミッションビジョンバリュー策定などを経て、現在はVP of Cultureとして企業文化デザインを担当。インナーコミュニケーション、オフィスデザイン、サッカーパートナーシップなどを通じて、文化醸成と浸透のための活動を行っている。

interview by 徳力基彦 text by いとうめぐみ

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「note」掲載のオリジナル版はこちら ビームス、マネーフォワードに聞く、社員を巻き込む新しい発信のかたち #等身大の企業広報

用語集
DX / EC / アップロード / オウンドメディア / オムニチャネル / ソーシャルメディア / ダウンロード / リンク
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