「ぶっちゃけ、メタバースってどうなん?」マーケター3人が語る、実際にやってみてわかったこと
バズワードになっている「メタバース」。マーケターとしてすでに取り組んでいる人、これから取り組もうとしている人などさまざまだろう。「Web担当者Forumミーティング 2022 秋」オープニング基調講演では、すでにメタバースを数年単位で実施しているマーケターとして、ALPHABOATの鈴木 睦夫氏、渋谷未来デザインの長田 新子氏、ビームスクリエイティブの木村 淳氏が登壇。ビジネス視点でメタバースの今と未来について語り合った。現在の課題、マーケティングに活用するためのハードル、将来の見通しなど、「ぶっちゃけ」た話が赤裸々に語られた。
メタバースで何ができる? 3人の取り組みを紹介
セッションでは、まずそれぞれの自己紹介を兼ねて、現在のメタバースの取り組みが語られた。長田氏が理事・事務局長を務める一般社団法人渋谷未来デザインは、渋谷区が設立した社団法人で、産官学民で都市の未来を考えアクションを起こす活動を行っている。その活動の一環として全国初の自治体公認のメタバース空間「バーチャル渋谷」を2020年5月より運営。バーチャル渋谷は、メタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」を使っている。
バーチャル渋谷では、ハロウィンイベントやクリスマスイベント、音楽ライブなどを開催している他、メタジョブとよばれるメタバース上の仕事も創出するなど、さまざまな取り組みを広げている。
長田氏のもう1つの活動が一般社団法人Metaverse Japanだ。こちらは、2022年3月にメタバースの業界普及団体として長田氏を含む数名のメンバーが立ち上げたもので、勉強会、ワーキンググループ活動、イベント、メタバースのルール整備などを行っている。
続いて株式会社ビームスクリエイティブの木村氏が、メタバースにおけるビームスのこれまでの取り組みについて振り返った。その取り組みは早く、2008年に3Dコミュニティ「ダレットワールド」にショップを展開し、商品を販売したことに始まる。「早すぎた」と木村氏が評価するように、ビジネスとしても思った規模には成長しなかったという。
その後、2020年7月にeスポーツ国際大会「RAGE ASIA 2020」大会オフィシャルTシャツ(リアル商品)を販売し、VR会場にて観客アバター用に同じデザインの3Dデータを配布する取り組み行った他、世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット」の出店などを行っている。
服を選ぶのが自己表現の1つであるように、メタバースではアバター選びが自己表現の1つです。メタバースが一種のワードローブになることからビジネスの拡張性を感じました。バーチャルマーケットの店舗では、期間中の2週間、総勢50名のスタッフが接客を行いました。毎日異なるスタッフとそれぞれ異なるコミュニケーションができるということで人気コンテンツになりました。バーチャル空間にただ店を置くだけでは何も起こらないので、そこにどうやって人を集める店舗にするかを意識していますね。共通体験が得られる集う場を提供することで、ユーザーたちがSNSでメンバーを募り、メタバースの店舗内でオフ会など開催されるようになりました(木村氏)
また、パラリアル(バーチャルと現実が存在する世界)の取り組みとして、実際の商品をデジタル化してアバター向けに販売する「D2A(Direct to Avatar)」も行った。3Dモデリングは、アバター用衣装の制作を手掛けるSELECT SHOP -Cornet-(こるねっと)さんに制作を依頼するなどして話題を呼んだ。さらには、現実のアーティストやタレントをVR上に登場させ、メタバースの店舗内でファンと交流できるような取り組みも行っているという。
ALPHABOAT(アルファボート)の鈴木氏は、XR(クロスリアリティ)技術を活用し、イベントプロデュースを行っている。
このようなバーチャルプロダクションを実現するスタジオとしてはLEDウォールや高性能カメラトラッキングシステムなど数千万〜数億円の投資をした専用スタジオが多い中、ALPHABOATでは独自の手法で持ち運びが可能なほどシンプルな構成を実現させた。さらに鈴木氏は、「XRによる3D空間のイベントはサステナブル。現実の素材は不要で構築でき、終了後も何も捨てずに済みます」と話す。
メタバースはECよりも実店舗に近い
三者三様の取り組みを行っているなか、試してみてわかったことについてディスカッションが行われた。長田氏はまず、集客の重要性をあげる。「メタバースを作れば人が集まる、というのは幻想」と言い、最初に目的設計をすることが重要だと話す。
バーチャル渋谷の場合、当初の目的は、コロナ禍で人が来なくなった渋谷でも発信し続けるカルチャーを止めないことと、アーティストやクリエイターの支援だったが、取り組みの中で変わってきたのだという。
KDDIさんと一緒にバーチャル渋谷を構築し、さまざまな取り組みをする中で、新しい体験価値、コミュニケーション、雇用の創出によって、リアルな都市との連動や課題解決につなげていくという目的になりました。一方で、さまざまなイベントを実験的に開催してわかった課題がたくさんあるので、今後は運営や知見に基づいたガイドラインの設定などをやっていきたいと考えています(長田氏)
具体的な知見としては、アクセス集中への対処方法、バーチャル化の手法などがあり、他の自治体からも問い合わせがあるという。
ビームスの木村氏は、さまざまな取り組みを通してビジネスの可能性を検証している段階だという。木村氏の感覚では、メタバースでの小売はECサイトよりも、現実のショップに近いという。
ECは手軽さが強みですが、メタバース空間での購入はワンクッション入ります。そこで顧客が何を求めるのか考えた時、ECとは異なる接客とコミュニケーションが生まれました。実店舗の店員に話しかけるよりも、アバターに話しかけるほうが敷居が低いようで、バーチャルショップが最初の出会いになり、その後実店舗に勤務する店員に会いに来て購入してくれた人もいました。少しずつ、バーチャルからリアルにつなげることができ始めています(木村氏)
メタバースを楽しむハードルはまだまだ高い
続いて、現在の課題について話し合われた。長田氏は「メタバースの目的化」をあげる。現状、目的を明確化せずにメタバースがバズワードだからといって始める例も少なくないという。
長田氏は、メタバースはオープンイノベーションのように、1社だけで取り組むよりも他の企業を巻き込んで行くほうがよいと話す。同時に、マーケターにもテクノロジーに明るいことが求められ、新しいことを学ぶ意欲が重要だと述べた。
木村氏は、1つ目の課題としてデバイスの普及をあげた。VRゴーグルを持っている人は少なく、使った経験がない人も多い。デバイスの小型化とコストダウンが実現しないと、一般ユーザーまで広がらないと予測する。2つ目はオープンメタバース化だ。現在はいろいろなプラットフォームが混在している。1つのメタバースで購入した商品は、基本的にそのプラットフォームでしか使えない。「購入してどこに行くか」が広がるともっと楽しめると木村氏は指摘した。
そして3つ目の課題がトレンドの差だ。メタバースには既にコアユーザーやクリエイターが多数存在し、現状はある種トレンドが存在し、彼らに寄り添った企画ができると新たな可能性は見えるかもしれないが、そこだけを目指してしまうと限られたコミュニティにしか届かず、ビジネスの幅も狭まってしまう。
「今売れるものに固執せず、ビームスがどんな人にどうアプローチしていくかを考えないといけない」と述べた。
加えて木村氏は「夢の世界にも、無法地帯にもなり得る」とも指摘。バーチャルショップ内の店舗にはデジタルアイテムが展示されており、スタッフはそれを持って接客するのだが、ある時、販売員が店舗に行くと、全部のアイテムがユーザーに持っていかれてしまったことがあった。アイテムから手を離せばもとの場所に戻るのだが、ユーザーがアイテムを掴んだまま店舗外に出てしまったのだ。その時は、スタッフが機転を利かせて他のユーザーを巻き込み、一緒に探しに行きましょうと呼びかけることで宝探しのようになり、みんなで取り戻すことができたという。
2人の話を受けて、ALPHABOATの鈴木氏は「デバイスの普及がいちばんのボトルネックになっている」と話す。
ヘッドセットがキャズムを超えて普及しないと、メタバースに人が集まらない。いったん普及したあとは、もっと簡単なグラス型だったり裸眼でも見られたりと、デバイスの革新があれば一気に定着すると思います。リアルな生活とシームレスである必要がありますが、今はシームレスではないですし、1人でバーチャル空間に入らないといけないのもハードルが高いですよね(鈴木氏)
バーチャルネイティブが登場する前の準備段階が今
最後に、今後の展望について語られた。長田氏は、オープンメタバース、標準化が大事だと話す。
メタバースの良さは個人が活躍できること。アバターでも活躍できますし、クリエイターとしても活躍できます。日本のアニメは世界でも人気なので、大きな視点では日本がメタバースで世界に行ける可能性もありますから、個人の活躍を支援していきたいですね(長田氏)
長田氏は、教育でのメタバース活用の可能性についても言及。立体的な動きで歴史を学ぶことができれば、これまでにはない臨場感を持って理解することができる。生まれたときからすでにメタバースが定着している「バーチャルネイティブ」世代の可能性にも言及した。
木村氏は、バーチャルネイティブの可能性がみえているからこそメタバースに取り組んでいるのだと話す。
ビームスはアパレルでありながら、『カルチャーショップ』を標榜しています。メタバースでも『カルチャーショップ』であるために、そこに店を置いてコアユーザーを巻き込みながらメタバース空間のおもしろさを深掘りしていますね。アパレルとしては、デジタル商品に力を入れていきたいです。今はユーザーが限られていますが、広がったときのためにノウハウを溜めている段階です。接客してユーザーからフィードバックをもらって、次の商品につなげるということも起こっていて、デジタル商品をみんなで愛でるコミュニティになっています(木村氏)
鈴木氏は、メタバースでは「ユーザー同士がインタラクションを起こしやすいことがキーワードになる」と指摘した。
まとめとして、長田氏はメタバースが手法であることを強調し、目的、考え方、どのように実現するかを整理してから始めるべきだと総括し、「チャレンジすれば可能性があるので、マーケターは失敗を恐れずにいろんな実験をしてほしい」とエールを送った。
木村氏は、流行っているという理由で始めると失敗するといい、中に入ってコミュニティを作ることが強みになると述べた。「自分がメタバース担当になって、VRゴーグルを初めてつけたときの驚き、感動を大切にしたいです。メタバースで起きていることを自分で体験することがまずは大事」と話した。
鈴木氏もメタバースで体験することの重要性に同意し、「メタバースとリアルな空間のインタラクションは、ここから5年先、10年先にビジネスチャンスがあると予測しています」と講演を締めくくった。
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