【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 秋

絶好調のファミリーマートを支えるSNS戦略|Twitterのエンゲージメント向上施策をCMO足立氏が解説

過去約2年間、躍進を続けるファミリーマート。その好調を支えている要素の1つがSNS、Twitterの活用だ。ファミリーマートCMOの足立氏が事例を交えながら、Twitterのフォロワー数やエンゲージメント率を伸ばすためのポイントを紹介した。

ファミリーマートは、大手コンビニの中でも広告投資額が少ない。それでも、この約2年間で、既存店の売上高や来店者数は前年を上回る状況が続いている。その好調を支えている要素の1つがSNS、Twitterの活用だ。

Web担当者Forumミーティング 2022 秋」のセッションでは、P&Gジャパン、日本マクドナルドなどを経て、2020年10月よりファミリーマートでCMOを務める足立光氏が、事例を交えながら、Twitterのフォロワー数やエンゲージメント率を伸ばすためのポイントや、SNSを活かす組織にしていくポイントを紹介した。

マーケティング本部 エグゼクティブディレクター・CMO 兼 マーケティング本部長
足立光氏

競合他社に比べ、限られた広告額。ファミリーマートにとってSNSはオウンドとアーンドの側面を持つ重要なメディア

足立氏は「好調」なファミリーマートでのSNSでの役割について話をはじめた。

そもそも「好調」なのかという疑問が浮かぶ方もいるかもしれないが、「それなりに好調です(笑)」と足立氏。21年4月に既存店売上高の前年同月比で競合他社を抜いてから、22年9月までの18ヶ月間、他社を上回り続けている。客数も同様で、2022年1月から9月まで(2月を除く)前年同月比を上回り、2021年4月から22年9月まで既存店客数の前年同月比は競合他社に勝ち続けている。

この好調の背景で、ファミリーマートは何をやってきたのか。「ファミリーマートの5つの特徴を、継続的に発信してきました」と足立氏。

ファミリーマートの5つのキーワード

具体的にはどのように伝えてきたのか。足立氏は「何を」「どう発信するか」の観点でポイントを話す。「何を」の観点では、話題になる、尖ったコミュニケーションで発信することを挙げた。

他社に比べて広告宣伝費の額が少ないので、一個一個のコミュニケーションがある程度尖っていて、刺さらないと覚えてもらえない。このため、コミュニケーションはできるだけ尖らせるよう、努力してきました(足立氏)

「どう発信するか」の観点では、全メディアをフル活用し、「大きく」伝えてきたという。ファミリーマートはオウンド、アーンド、ペイドの3タイプのメディアで、さまざまなメディアをもっている。オウンドメディアは、Webサイトやアプリの他に、店頭の看板やポスター、レジ液晶など。アーンドメディアはPRやSNS、ペイドメディアはTVCMやデジタル広告など。これら3つのメディアをフル活用して、1つのニュースを大きく伝えることで、施策の認知向上を図ってきた。

全メディアをフル活用し、「大きく」伝えて、認知向上に

ファミリーマートは、広告投資額が競合他社に比べて圧倒的に少ない。ペイドメディアでは競合に勝てないので、「オウンドメディアをフル活用する」「アーンドメディアを強化する」取り組みを実施してきたという。

特に、SNSはオウンドメディアでもありアーンドメディアでもある。2つの側面を持つ非常に重要なメディアだと理解して進めています(足立氏)

ファミリーマートのSNS戦略、Twitterを優先。Twitterは話題の「着火点」かつ「ブースト装置」

では、ファミリーマートでは具体的にどのようなことをやってきたのか。

ファミリーマートがSNSに期待している役割は各施策の認知度をアップさせること、つまり話題になることだ。SNSはFacebook、Instagram、LINE、Twitterなどさまざまな種類があるが、ファミリーマートではTwitterを優先して取り組みを行っているという。理由は、「Twitterは話題の『着火点』かつ『ブースト装置』だと思っているから」と足立氏。

Twitterで発信されたことが、他のSNSやネットの掲示板で転載されたり、まとめられたりする。それを、さまざまなオンラインメディアがまとめサイトや記事にする。すると、『Twitterでこんなことが話題になっています』とマスメディアが取り上げる。日本では、マスメディアは今でもとても強力で、マスメディアが取り上げると、さらにそれがもう一度話題化し、さまざまなオンラインメディアやTwitterで話題になる。このようなサイクルを持っているSNSは、今のところTwitterだけだと思っています(足立氏)

Twitterは話題の「着火点」かつ「ブースト装置」

ファミリーマートがTwitterで重視するのはフォロワー数とエンゲージメント率。フォロワー増の3つのポイントとは

ファミリーマートがTwitterで目指しているのは、量と質の両方だ。具体的には、量はフォロワー数、質はエンゲージメント率(1投稿当たりのインプレッション)を重視している。たとえば、量のフォロワー数でいえば、200万人のフォロワーと400万人のフォロワーでは、同じ発信をしても倍くらいリーチが異なる。また質という点では、投稿のエンゲージメント率を高めることで、1投稿あたりのリーチを増やすことを重要視しているという。

では、フォロワー数はどう変化したのか。この2年間でファミリーマートは、年間100万人ペースでフォロワー数を増やすことができたという。足立氏は、フォロワー数増加のポイントを3つ紹介した。

フォロワー増のポイント① メディア総動員(PR×SNS)&トレンド入り→リーチ拡大

たとえば、2021年に実施した「ファミマ 夏のカレー祭り」では、全国で3店舗の看板をカレー色に変更するという施策を行った。PRチームが考えた施策だったが、SNSも活用し、Twitterで以下の投稿を行った。

「ファミマ 夏のカレー祭り」でのTwitterの投稿

カレー色になった3店舗の写真と、数字(3店舗のGPS座標)だけをツイートした投稿は、22.4%という高いエンゲージメント率を獲得した。PRとSNSを掛け合わせることで、「これは一体何だろう」と話題になり、高いエンゲージメント率を獲得することができた。

フォロワー増のもう1つのポイントとして、足立氏は「トレンド入り」を挙げる。トレンド入りをすると、「これは何だろう」と多くの人が投稿を見に行くきっかけになる。

フォロワー増のポイント② 継続的なキャンペーンの実施

フォロワー増加にはポイント①のように、話題になることも必要だが、継続的なキャンペーンがとても大事だと足立氏。ファミリーマートでは定期的にクーポン施策を実施し、少しずつフォロワー数が増えていったという。

フォロワー増のポイント③ フォロワーを減らさない「質の高い」投稿

次に大事なのは増えたフォロワーの数を減らさないことだ。リツイートキャンペーンでフォロワー数が増えても、キャンペーンが終わるとフォローを外すユーザーが多い。フォロワー数を落とさないため、普段から質の高い投稿をすることが重要だという。

フォロワー増でも高いエンゲージメント率を維持。質の高い投稿をするための2つのポイント

続いて、質の高い投稿、エンゲージメント率を高める取り組みを紹介しよう。フォロワー数が増えると、エンゲージメントの低いユーザーも増えるため、一般的にはエンゲージメント率は下がる。しかし、ファミリーマートはエンゲージメント率も高い水準を維持しているという。質の高い投稿、つまり高エンゲージメントの投稿のポイントは2つあると足立氏。

何を言うのか(WHAT TO SAY)

ファミリーマートでは最初に紹介した5つのキーワードに関わることを発信しているが、そのまま5つのキーワードを投稿してもエンゲージメントは高くならない。そこで、「IMPAKT Design」というフレームワークに則り、できるだけ複数の項目を入れた投稿を心掛けているという。

ファミリーマートの5つのキーワードと、IMPAKT Design

この「IMPAKT Design」は、電通PRコンサルティングが作った、コンテンツをニュース化してもらうためのPR視点をまとめたものだが、「PRで話題になるポイントは、ソーシャルでもまったく同じ」と足立氏は言う。

どう言うのか(HOW TO SAY)

何を投稿するかと同様に重要なのが、どう言うかだ。ファミリーマートでは以下のような取り組みを行っている。

コンセプトに合わせたクリエイティブ開発

ファミリーマートでは以前はポップや広告などで使った画像や動画をそのままSNSで投稿していた。それではエンゲージメントが上がらないことがわかったという。そこで、現在は既存施策の流用ではなく、コンセプトに合わせてTwitter用のクリエイティブを開発している。

たとえば、「お値段そのまま!! 40%増量作戦」というキャンペーン時には、「増量」という言葉から連想する「巨大化」や、「作戦」という言葉からイメージされる「特撮」を彷彿させるオリジナル画像や映像をTwitter向けに開発した。

ティザーで期待感を醸成する

情報を少しずつ公開することで、消費者の興味を引くことを意図したティザーは、流通業界ではあまりやられてこなかった。店舗に売っていない商品を告知しても意味がないと思われていたからだ。しかし、SNSでは「何がくるのだろう、何かくるかもしれない、というザワザワ感を醸成するのはとても大事」と足立氏は言う。

たとえば、以下の例では、左側はキャラクターをシルエットで表現し、「何がくるのだろう」というザワザワ感を醸成し、右側はテレビ画面のノイズの中に一瞬だけ商品が映ることでザワザワするような工夫をしている。発売前にいかにバズらせるかも、SNS活用では重要だ。発売前、発売当日、発売後と計画を立て、投稿をデザインしているという。

ティザーでザワザワ感を醸成

多種多様な手法の開発と検証

ファミリーマートではエンゲージメント向上のため、多種多様な手法の開発と検証を行ってきた。足立氏は2年の取り組みの中で、効果が期待できそうな手法を12個挙げた。これらは、コンビニ業界の、特に食品系でエンゲージメントを上げるのに効果がある手法だ。商材や業界が違うと、何がエンゲージメントを高めるかは変わってくるだろう。「お聞きになられている方の業界・会社で内容・見せ方を工夫して、検証してみて欲しい」と足立氏。

エンゲージメント向上に効果がある12の手法

エンゲージメント向上に効果がある12の手法。ファミリーマートの事例を紹介

続いて、足立氏はエンゲージメント向上に効果がある12の手法のうち、いくつかの事例を紹介していった。

①画像分割(4分割)

画面分割(4分割)

画面分割(4分割)とは、1つのツイートに4つの画像が添付されており、ツイートでは、上の図の左下のように、4つの画像が1つの画像に見えるという手法だ。画像分割(4分割)は、ファミリーマートが開発した手法だ。それぞれの画像をタップすると、画像が縦に伸びてフルサイズで表示される。上の図の例では、ツイート内の画像の左上をタップすると、縦長画像の一番左の画像が開く。

商品が多くあり、多くの説明をしたい時、ユーザーはタップするとそれぞれ違う画像と説明が開くなど、タップした後にも驚きが残る工夫をしている(足立氏)

②タップしないと見えない

タップしないと見えない

ユーザーがタップすることなく、投稿内の画像で全部わかった方がいいというのが一般的な考え方だが、あえて見せないやり方があることが最近わかったと、足立氏。キャラクターの限定デザインや、ランキングなど、思わず知りたくなるようなものはあえて中身を隠すという見せ方をして、タップしてもらうことで高いエンゲージメントを狙うことができる。

③1枚絵で工夫(タップで縦に伸びる)

1枚絵で工夫(タップで縦に伸びる)

Twitterで縦長画像を添付した場合、画像をタップすると縦に長く表示される。その特徴を活かし、縦に伸びるとインパクトがあるものを1枚絵にして投稿した事例だ。たとえば、麺の画像やとろけるチーズの画像をタップすると、画像が縦に伸び、商品の画像や商品情報が出てくる。

④動画と静止画の組み合わせ

画像分割(4分割)の進化版で、4分割の画像のうち、ひとつだけ動画になっている。4つの中で、1つだけ動いているので、気になって思わずタップしたくなる。「Twitter投稿のポイントは違和感で、違和感を作る方法として、動画と静止画の組み合わせは有効だと思います」と、足立氏。

⑥メーカーとの相互取り組み

コンビニではさまざまなメーカーの商品を販売しているが、メーカーもSNSのアカウントを持っているので、メーカーのアカウントでもキャンペーンのリツイートをしてもらうと、1つの投稿のリーチが大きく広がる。実施する場合、それぞれのアカウントのファンにアプローチするため、できるだけお互いのアカウントで相互リツイートするのがおすすめだという。

SNSを活かす組織にしていくための3つの示唆

最後に足立氏が話したのは、SNSを活かす組織へしていくための示唆だ。ポイントは3つある。

①SNSとPRは統合する

何を言うのか(WHAT TO SAY)で、IMPAKT Designというフレームワークが紹介されたが、話題になるポイントはSNSもPRも同じだ。たとえば、新商品が発売されるときに、どのポイントを推していくかはSNSとPRで一緒に考えたほうがよい。「ファミリーマートでは、ブランドPRを考える人とSNSを考える人は同じ部署で、同じ人が両方やっている」と足立氏。ひとつのアイデアをPRとSNSの両方で出していくことによって、オウンド、アーンド、ペイドを含めた全体の統一感が出るので、効果も出やすい。

②SNSを出島にしない

出島とは、江戸時代にあり、その場所のみで海外との貿易が行われており、出島以外では海外との貿易をしないというもの。

SNSはSNS担当がやっています(他の部署は関知していない)という会社が意外と多いのですが、これは本当にダメです。SNSは間違いなく効果的なので、SNS担当者だけでなく、商品開発担当者、マーケティング部などさまざまな部署や立場の人がSNSを理解する必要があり、SNSをSNS担当者だけのものにしてはいけない(足立氏)

ファミリーマートでは全社の理解と改善のため、毎月、全関係者(マーケティング部・商品部)および全代理店と、レビューを実施して、エンゲージメントや、フォロワー数といった全体指標の確認のほか、個別施策のレビュー(エンゲージメント率の高い投稿・低い投稿、施策別の結果等)を行っているという。これを行うことにより、どういったものがSNSで効果的、または向いていないのかといった理解を深めてきた。

③社内マーケティングを欠かさない

SNSの重要性はわかっているが、経営層が理解してくれないというのは、よくある相談だと足立氏。年齢的な違いもあり、経営層は接しているメディアが異なるのでしょうがない部分もある。しかし、会社のリソースを使ってやっていることなので、「SNSは意味があり、結果が出ている」ということを、継続的に伝えることが必要だ。

経営層に対しては、事あるごとにやっている施策や結果を伝えることで、社内でSNSの重要性を深めていくことをしないと、いきなり予算を減らされるという可能性もある。うまくいっています、こんなことをやってますと、継続的に経営層にマーケティングするのがとても大事(足立氏)

足立氏は最後にTwitterに加えて、TikTokも開始したことを伝え、今後もぜひファミリーマートのTwitter、TikTokに注目して取り組みを楽しみにみてもらえればと、講演を締めくくった。

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