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ネットショップ担当者フォーラム 特選記事

「お客様のためにここまでやっているとは、社内でも知られていない」。ヤッホーブルーイング「おもいやり隊」の人々

vol.1 「よなよなエール」のヤッホーブルーイング。究極の顧客志向

この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

約4万店を超える楽天市場の店舗の中から、注文件数、売上の伸び率、お客様対応などを評価し、優れたショップに与えられる「ショップ・オブ・ザ・イヤー」。通販サイトなら誰もが憧れるこの栄光に、なんと10年連続で入賞するという前人未到の偉業を成し遂げる企業がある。それが、長野県の佐久郡に拠点を構えるクラフトビール醸造所の「ヤッホーブルーイング」(以下ヤッホー)。

「よなよなエール」「インドの青鬼」「水曜日のネコ」 など、個性的なビールを送り出し、日本で認知の低いエールビールをコンビニでも流通させるなど、めざましい活躍を見せている。群雄割拠するクラフトビール界において頭一つ抜けた知名度を誇る会社だ。

日本ではなじみの薄かったエールビールを広めるために。ヤッホーの試みはいつも型破り。ヤッホーの躍進を支える秘密を探るため、長野県佐久郡に向かった。

浅間山
ヤッホーの醸造所を見下ろす雄大な浅間山。晴れた日には、なだらかに続く稜線がはっきりと見える。「ヤッホーブルーイング」の名は、信州の山から「おいしいビールができたよ!」と呼びかけたくて付けられた名。この山から流れる雪解け水を使って、ヤッホーのビールが作られている。

ヤッホーのECを支える裏側には、上下関係がほとんどない。

オフィスに足を踏み入れた途端、その型破りな経営を思い知ることになった。時刻は朝9時、社員たちが部署ごとに朝礼を行っている。ここまではよくある風景。だがその朝礼が、爆笑の連続なのだ。

ヤッホーブルーイング社内

ヤッホーではスタッフ同士がニックネームで呼び合う 。そして毎朝朝礼を行い、すべての社員が「最近あった面白いこと」 などを話す。そうやってプライベートを分かち合うことで、社員の連帯感が高まり、仕事がスムーズになるという。

部下と上司、社員とパートなどの上下関係もほとんどないこの関係性が、革新的な取り組みができる所以なのだろう。こんな環境で働くスタッフたちは、どんな思いで業務に当たっているのだろうか?

「パートなのにどうしてここまでやるの?」って言われたら、「じゃあ言わせてもらうけど」って言っちゃいます 。

「のりぴい」のニックネームで呼ばれる並木典子さんは、50歳のベテランパートスタッフだ。通販事業のカスタマーサポート「おもいやり隊」ユニットにおいて欠かせない人物。社内からの信頼も絶大だ。

ヤッホーブルーイングの並木典子さん
のりぴいさんはもともと東京生まれの東京育ち。20年前に突然「東京じゃないところに住みたい!」と思いたち、夫と両親とともに移住。お気に入りの方言は“ほどよい”という意味の「なから」。

お客様の要望はなんとかして応えられないかっていつもみんなで考えている

おもいやり隊は「究極のおもてなしを考えるチーム」ということで、どうしたらお客様に喜んでいただけるかっていうことをみんなで考えるチームです。

うちの場合、お客様はどういった気持ちで注文してくれたのかが重要なんです。注文を見ていつも想像するんですよ。それがおもいやり隊の基礎にあるんです。

人生を長く過ごしているから、お客様の側にいけるんです。「この人はこんな気持ちで頼んでるのよ〜」って、みんなで家族構成とかも勝手に想像しちゃうので、完全にお客様側なんですよね。

それくらいやるので、「え? これをお客様にやってあげれらないのは問題じゃない?」っていう風になるんです

お客様から言われたことは、なんとかして応えられないかって、いつもみんなで考えていますね。それがうちのおもいやり隊全員のこだわりだと思います。(のりぴいさん)

のりぴいさん
「この前社内で『ザッポスの奇跡』が話題になって、会社で買ってもらって読んでみたんですよ。そしたら、『こんなこともう全部私たちがやってるわよ!』って(笑)。私たちのほうが先を行ってる」(のりぴいさん)

自信たっぷりに語るのりぴいさん。こんなに情熱的に仕事に取り組むことができるなんて、本当に素敵だ。受注全般と顧客対応を手がけるおもいやり隊において、受注の確認からメールや電話での問い合わせ、注文など、全てを見ているスーパースタッフである。

自社通販サイト、楽天市場、Yahoo!ショッピング、異なるプラットフォームからの注文をすべて見ています。ラインがバラバラですが、何年もやっていると瞬時にわかるようになりますが、慣れていることでも忘れることがある。スタッフ全員にチェック項目を渡し、細かくチェックするようにしています。(のりぴいさん)

ヤッホーでは定期的にビールを送付する「年間契約」というVIP枠がある。細やかなサポートを行っているため、顧客対応の中でもちょっと特別なケアが必要になるところもある。

ヤッホーブルーイングの醸造所
仕事を楽しくするための工夫は「いやにならないために、ちょっとしたところを楽しくすること。出荷のステータスをハートマークにするなどの遊び心を入れています」(のりぴいさん)。

CROSS MALL(編集部注:複数のネットショップを一元管理運営するためのASPサービス)のシステムを開けて、そこから注文してきた人の人生を考えます。備考欄に書かれている細かなお願いがあったら、「どうしてこういうお願いが必要になったんだろう?」ってその背景を想像するんです。

この前クレーム対応したお客様からまた注文を頂けたら「注文が来た!」って小躍りして喜んでしまいます。(のりぴいさん)

究極の顧客対応。それは、お客様の心に寄り添うこと。「全員が同じミスをするのだから、改善案を見つけよう」 というのがのりぴいさんのモットー。ミスは誰にでもあるが、怒るだけでは改善にならない。電話対応で聞き漏らしがないかチェックシートを作るなど、万全なチェック体制を敷き、良い雰囲気で仕事をしている。

最大の繁忙期は父の日。それより大変なのはテレビ

ヤッホーの最大の繁忙期は父の日。2か月ほど幅があるお中元の時期などとは違い、父の日は1日だけ。必ずその日に届けなくてはならない。しかし、それより大変なのは、マスコミで紹介された時に急激に伸びる注文への対応だという。

ヒットする番組があると、放送された瞬間にものすごい数の注文をいただくことがあるんですが、いろいろな媒体でご紹介いただいているので、営業サイドで「この番組で紹介されたからたくさん注文が来るだろう」と予想することは難しいんです。

でも私たちは、普段からお客様と同じ目線でテレビを見ているので、「この番組で紹介されたらきっとすごいことになる」というのがわかる。だから放送がわかったら、「在庫の指示はしてあるのか、箱は注文してあるのか」と製造に確認して……。(のりぴいさん)

日々の注文数を見ているおもいやり隊だからこそ、お客さんのニーズが感覚的にわかると言う。 こうした部署を越えた取り組みは、ヤッホーが普段から培っている「年齢も役職も関係ない」という社風だからこそできることだ。

社内の組織はほんとうにフラット。「パートなのにどうしてここまでやるの」って言われたら、「じゃあ言わせてもらうけど」ってなっちゃうんですよ。(のりぴいさん)

ヤッホーブルーイングの醸造所

「お客様をわかっている」という自信

パートで構成されているおもいやり隊。のりぴいさんが自信を持って社内のあらゆる部署に意見をすることができるのは、「お客様の気持ちをわかっている」という確信があるからだ。力強く語るのりぴいさん。その姿には、「この人にこそ注文したい」と思わせてくれるものがあった。

のりぴいさんの活躍はさらに続く。

「カタログは年に4回くらい送らなきゃダメでしょ?」と営業部に言って、自分でデザインして作っちゃいました。時間があるときは、メッセージも入れてお客様にお送りしています。(のりぴいさん)

お客様の小さな声を拾って、社内の営業にプレゼンする。データではわからない、たった1人の声を拾うことは、私たちにしかできない。

おもいやり隊ユニットのぴろりん☆こと高橋さんの顧客対応は“神対応”だ。1つひとつの注文を見て、のしの名前が間違っていれば電話をかけて手作業で修正し、急ぎのお客様には航空便を駆使して必ず指定された日まで届ける。“神対応”と呼ばれるこの顧客対応は、どうやって実現されているのだろうか?

カスタマーサポート「おもいやり隊」のぴろりん☆さん
カスタマーサポート「おもいやり隊」のぴろりん☆さんこと高橋さん

おもてなしはマニュアルにできない

マニュアルっていうのが作れないんです。新しく入ってくるスタッフのためにも「作った方が良いよね」って話はするんですけど、まとめようとするとまとまらない。

なぜかっていうと、お客様からのメールって、似たようなパターンはあるけどまったく同じものはないんです。例えば「お試しセット届きました。1缶へこんでました」って届くにしても、ひと言だったり、写真を添付してくださったりいろいろです。

それに対して用意されたテンプレートで同じ返事をしていたら、それは顧客対応としては良いとは思わないんです。

ただ、おもいやり隊のメンバーに伝えられるのは心がけだけ。お客様の気持ちとか立場になって考えて対応すること。これしか伝えられないんです。

マニュアルはない。あるのは心がけだけ。マニュアルにありがちな、顧客対応にふさわしいたくさんの言葉。しかし言葉を知っていることが、必ずしも良い顧客対応にはつながらないという。

お客様からいろいろ質問されて、すぐに答えられなくて「ちょっとお待ちください」っていうのを何度かしちゃって、結構長く感じたんですけど、一通り終わって「私からのご説明は以上です。何か質問はございますか?」って最後にお伺いしたら、「大丈夫です。もうありません。ただ一点、いいですか?」って言われたんです。

その時は自分の対応がダメダメだなーって思っていて、結構お待たせしちゃったし、答え方もしどろもどろだったから、あーちょっと言われるのかなって身構えたんです。

そしたら「高橋さん」って私の名字を呼んでくれて、 「今まで問い合わせした中で、高橋さんの対応が一番良かったです」って言ってくれたんですよ。 私もう、言葉がなくって。すごくうれしくって。

もちろん、スキルもあって滞りなく対応できるのが一番いいと思うんですけど、それも大事だけど、もっと大事なのが誠意を尽くすこと。電話だからこそ伝わるんだろうなって。姿は見えないけれど、伝わるんだなって実感したんです。(ぴろりん☆さん)

おもいやり隊などヤッホーの通販部から感じるのは、1つひとつの注文が、機械的に入るものではなく、画面の向こうにいる人が、いろいろな事情を経て注文してくれているかけがえのないものだと思っていること。注文の1つひとつに、ドラマがあるのだ。

備考欄に「父が好きだったので、お墓にお供えします」なんて書いてあったりして、泣いてしまうことも。お客様がわざわざ時間を使ってメールをくれたり、レビューを書いてくれたり、返信してくれているのを想像すると、ありがとうという気持ちしかありません

だからクレームを頂いた時に、きちんと対応して、謝罪をして、感謝の気持ちで締めくくりたい。明るい気持ちで終わりたい。(ぴろりん☆さん)

みつけた人だけが、しわわせな夜になる。よなよなエール。
丁寧に向き合う気持ちは、言葉だけではなく、かたちにして届けるようにしている。

お客様のためにここまでやっているとは、社内でも知られていない

お客様とのやりとりをメモしたり、カタログを送るときにご挨拶のカードを入れたり……。メンバーはみんな、そういうことができるんです。

「メッセージを入れ忘れてしまった」というお客様がいたら、宅急便を追跡して、営業所から返品してもらって送り直す。お客様も「自分がいけなかった」と思っていらっしゃるけど、そこを救ってあげたいんです

これは私たちだけの力ではなくて、宅急便の(クロネコ)ヤマトさんや、社内の出荷部が快く対応してくれるからできること。

普通は「コストがかかる」と言ってできないことを、「お互い様だから」と言ってやってもらえるのは、腹を割って話せるこの会社だからですね。(ぴろりん☆さん)

どうしてそこまで努力をするのか? と聞くと、こんな答えが返ってきた。

ヤッホーの注文はギフトが多いんです。ギフトはお客様が他の方に贈るもの。だから粗相ができないんですよ。社内的にもここまでやってることは知られていません(笑)。

お客様の小さい声をサーチライトのように拾って、社内の営業にプレゼンする。データではわからない、たった1人の声を拾うことは、私たちにしかできない

それが会社に伝わり、実際に変えていくことができる。ヤッホーの特徴、良いところはそこだと思います。(ぴろりん☆さん)

流れ作業ではできない人と人のやり取り。おもいやり隊の究極のおもてなしの真髄に触れ、アツい思いに感服するばかりだった。

おもいやり隊が営業にプレゼンをして実現したのが、ギフトに入れる「小分け袋」 。

お友達にあげたいというご要望をいただいていたので、かなりしつこく(笑)営業にプレゼンしていました。それがかなってクラフト紙の袋を作ってもらえたので、手作業で全部にハンコを押して……。楽天にレビューが書かれたときはうれしかったですね。(ぴろりん☆さん)

システムを選ぶのもフロントサイドとバックエンドでは意見が違うけど、ヤッホーには場を設けなくても自然に営業と話ができる環境があるのが良い。

ヤッホーのおもてなしをシステムで支える裏方もいる。通販事業のカスタマーサポート「おもいやり隊」の社員の「会長」こと新津さん。バックヤードなどのシステムを担当し、個性豊かでにぎやかな現場を支え、まとめ役として活躍している。

カスタマーサポート「おもいやり隊」システム担当の「会長」こと新津さん
カスタマーサポート「おもいやり隊」システム担当の「会長」こと新津さん

ヤッホーのパートさんたちは長く勤めている方が多いんです。経験を積むうちにノウハウができてきて、通販部内で話をしながら問題を解決していっている。みんな「究極の顧客志向」というのが念頭にあるので、お客様の目線になるんだと思います。これからもっと進化していくでしょう。(会長さん)

前職からシステムを手がけていた会長さん。3、4年前までは流通と通販が分かれていなかったため、午前中に受注して午後からすべての注文を出荷していたが、注文が増えてくると立ち行かなくなったそうだ。

みんながストレスなく仕事を進めていけるようなシステムを心がけています。自動化してしまうとチェックが抜けてしまうところが出てしまう……それを調整します。備考欄をすべて読めるようにしたり、定形でないメッセージを送れるようにしたり……。システムでクリアできない部分はエクセルのマクロなどで外側のツールをどんどん作って対応しています。(会長さん)

魂のおもてなしを支えるシステムにも、お客様のことを第一に考える人間味がある。

通販部は想像力豊かに、お客様の気持ちをメッセージから読み取ろうとしています。父の日のような大事な日には、送り主と届け先の人間関係まで勝手に考えながら。彼女たちは賑やかに話しながら仕事をしていますが、話し合いから引っ張り出されることが、お客様への対応につながっていっているんだと思いますね。(会長さん)

どうして父の日に受注が集中するのでしょう?

お中元は目上の方に送るものなので、スタンダードさが求められます。それが父の日だと、ちょっと変わったもので、自分が勧めたいものということで、ヤッホーのビールが喜ばれているようです。

今後の課題は、受注をさらにシステムで一本にすること。システムを選ぶ時、フロントサイドとバックエンドでは意見が違うケースがあるのですが、ヤッホーには場を設けなくても自然に営業と話ができる環境があるのが良いですね。わざわざミーティングを開かなくても、その場で営業を呼んで、スムーズに話ができる。意思決定が早くなるのはありがたいことです。(会長さん)

バックヤードもフロントも、全スタッフが「顧客志向が一番」という思いで前進している。バックヤードのアツい想いを知って、ヤッホーのビールがますます美味しくなった。

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