AIタレントの広告活用でCVR2倍、その一方で「AIアレルギー」も。視聴者が抱く“不自然さ”と“違和感”の正体

動画制作を高速化して成果を出す一方で「AIアレルギー」も。AI広告を活用するためのポイントを解説。

小林 香織

7:05

AIタレント動画生成サービス「AvaMo」

広告やコミュニケーション素材として、「AIタレント」の活用が広がっている。サントリーウエルネスでは、SNS向けの動画広告制作にAIタレントを活用し、CVRが2倍以上を達成。メ~テレ(名古屋テレビ放送)では、イベント司会に独自のAIタレントを起用、権利問題を解消して動画アーカイブを有効活用している。その一方で、無視できないのが消費者の「AIアレルギー」だ。ハンバーガーチェーンや某飲料メーカーが制作したAI動画CMが「不自然」「手抜き」と猛反発を招くなど、国内外で炎上リスクも表面化している。

コスト削減や効率化につながるAIタレントを、ブランド価値を損なわずに活用する境界線はどこにあるのか。AIタレント動画生成サービス「AvaMo(アバモ)」を開発するオフショアカンパニー(PRエージェンシー・ベクトル子会社)の執行役員 兼 AIタレント事業部長/広報責任者の北浦豪文氏と同社CMO 福山哲平氏に、「AIタレント活用の成果」と「広告で反発を招かない重要なポイント」を聞いた。

最短数分で動画が完成、実在する人物のAIタレント化も可能

2024年3月に創業したオフショアカンパニーは、「AIプロダクト」「マーケティング支援」「システム開発」の3つの事業領域を展開する。2025年5月には、AIプロダクトの領域の新製品として、アバモの提供を開始した。法人プランは月額11万円~、個人の商用利用プランは同4290円〜(年間契約の場合)となる。

アバモの最大のねらいは、「動画コンテンツ制作の民主化」です。広告を含む動画市場は急成長を続けており、今後も市場拡大が予測されます。とはいえ、従来の動画制作プロセスでは、高品質を担保するために膨大なコストや時間がかかります。当社の試算では、アバモは制作期間・費用の最大98%減を実現します(北浦氏)

※オフショアカンパニーの試算:従来の30秒動画制作(12時間/約12万円)と、AvaMoによる動画生成(15分/約2400円)を比較(2025年4月時点)

オフショアカンパニー 代表取締役 野呂 健太 氏をAIタレント化して制作したサンプル動画

日本市場に特化して開発されたアバモは、業種・用途別のテンプレートと120体のAIタレントがあらかじめ用意されている。そこから目的に沿ったものを選び、発話させたいテキストを入力すると、最短数分で動画が生成される。日本語以外に英語や中国語など多言語にも対応する。

AIタレントは、日本市場に特化した全120体を用意
テンプレートとAIタレントを選び、テキストを入力すると数分で動画が完成

実在する人物をAIタレント化することも可能だ。グリーンバッグの前で1〜3分の発話動画を撮影し、その動画をツールに登録すると、どんな言葉も発話できるようになるという。唇の動きが言葉に連動するため、映画の吹き替えのような不自然な動きにはならないそうだ。

こうした特徴に加え、高速でPDCAを回しながらツールを改善できる環境も当社の強みです。アバモはベクトルグループ内でも実際に使い込み、そこで得た知見も加えて顧客企業への支援に活かす好循環を構築しています(北浦氏)

「CVR向上」や「業務効率化」につながった4つの事例

アバモは提供開始から約9カ月だが、すでに複数の事例が生まれているという。本記事では、実際に成果が出ている事例と成果が期待できる事例を4つ紹介する。

事例1サントリーウエルネス/動画広告で「CVR2倍以上」を達成

同社では、新商品発売に伴うSNS向けの動画広告において、攻略不足や制作コストの消耗といった課題があった。そこで、既存の撮影素材をもとに訴求軸ごとの動画バリエーションを高速制作できるとして、アバモを導入。訴求軸ごとにアイキャッチのバリエーションを制作してABテストを実施した。それをもとに継続改善を繰り返した結果、CVRが2倍以上のパフォーマンスを実現。同時にコスト削減にもつながっている。

事例2メ~テレ(名古屋テレビ放送)/AIタレントで「イベントを資源化」

同社が主催する全国学生対抗SFプロトタイピングハッカソン「Electric Sheep」のイベント司会において、タレントキャスティングの権利問題を回避したいという課題からアバモを導入した。同社のクリエイターが制作した2Dイラストをもとに、オリジナルのAIタレント「ラム」をオフショアカンパニーが開発し、イベント司会を担当。権利問題をクリアしたことで動画アーカイブが長期活用可能になり、イベントの価値を継続的に発信できているという。

メ~テレがイベントで司会に採用したオリジナルのAIタレント「ラム」(写真左、メ~テレ(名古屋テレビ放送)/Electric Sheep提供)

事例3個別指導塾テスティー/既存業務の代替で「効率化・品質向上」へ

都内10校の個別指導塾を展開する同社では、「①社長による企業理念の発信」と「②生徒や保護者向けの入塾手続きや各種説明」での活用を目的にアバモを導入した。①では、各拠点の講師に社長の熱意を均質に届けるねらいで、社長をAIタレント化してメッセージ動画の制作を予定している。②では、これまで講師が対応していた入塾手続きと各種説明をAIタレントによる動画に代替予定だ。これにより、1校舎あたり年間約54時間の業務削減効果が見込まれている。これらの施策を通じて、サービス品質の向上と組織の一体感醸成を目指すという。

事例4グローバルプロデュース/コンテンツを見直して「エンゲージメント率向上」へ

イベントの企画・制作などを展開する同社では、広報や広告、企業活動においてコミュニケーションコンテンツの質を上げる必要性からアバモを導入した。社長をAIタレント化して広告やイベントの素材に使用するほか、動画版ニュースレターの作成やオフィスの受付モニターなど、多岐にわたる活用を見込んでいる。多言語対応を使用した海外マーケティングも視野に入れているそうだ。
 

各社の事例における「AIタレント使用の表記」については、企業ごとに異なるアプローチを取っている。サントリーウエルネスでは、Web広告の用途であり、「視聴者がAIタレントだと理解できる」という判断から、AI使用の明示的な表記はしていない。一方、メ~テレでは、 “未来を創造するハッカソン”というイベントの性質とAIの親和性が高いことから、AI活用を積極的に発信している。

テスティーやグローバルプロデュースのような社内向けコンテンツでは、従業員に対して「AI社長」「AI塾長」などと明示したうえで活用している。これは、技術活用の透明性が社内の信頼関係を強化すると考えられているためだ。

「AIアレルギー」が起きている3つの要因

事例が示すように、AIタレントの活用は、業務の効率化やパフォーマンスの改善、権利問題の解消など多くのメリットがある。一方で、企業がAIタレントを広告に活用する場合、その表現を慎重に検討する必要があるだろう。というのも、国内外で「AIアレルギー」とも呼べる現象が起きているためだ。

たとえば、ハンバーガーチェーンや某飲料メーカーがAIを使用してクリスマス向けに制作したCMは、どちらも消費者から一定の懸念を招いている。クオリティ面などに関して指摘する声が多く、そうした広告を受け入れ難い人は少なくないようだ。

こうしたAIアレルギーが生じる理由は、主に以下の3点だと北浦氏は話す。

①だまされたという感覚

最も重要な要因は、視聴者が「自分がだまされた側に置かれた」と感じるかどうかです。ハンバーガーチェーンの事例では、「女性の指が6本あるように見える」などの不自然さが発覚し、「効率化からAIで済ませた?」などの懸念が生まれた可能性があります。これは、単なるクオリティの問題ではなく、「説明されていない」「信頼を軽んじられた」という懸念です。

一方、大手製薬会社が最近制作したAI活用の栄養ドリンクのCMは、AIを前面に出しすぎず、視聴者が「これはAIだな」と自然に理解できるクオリティラインを保ちました。その結果、炎上はしない受容ラインに収まったのだと思います(北浦氏)

②熱量の減少が透けて見える

AIは便利ですが、省力化が透けると一気に評価が落ちます。数秒の映像でも、「人の手が減った」ではなく「熱量が減った」と受け取られた瞬間、AIは武器から弱点に変わるのです。ハンバーガーチェーンの事例では、従来のクリエイティブが「クリエイターの味方」と高い評価を受けているため、AI広告への転換がネガティブに受け取られ、炎上が加速した可能性があります(北浦氏)

③不気味の谷現象

AIが生成する映像や画像のクオリティが中途半端な状態で人間に近づくほど、「不気味の谷現象」が発生し、視聴者は不快感を覚えやすくなります。反発を招いた事例において、この現象は多く見られます(北浦氏)

AIタレント活用における3つの重要ポイント

では、こうした「AIアレルギー」を回避して成果につなげていくには、どのようにAIを活用すべきなのか。北浦氏は、自社の見解として以下3つのポイントをあげた。

①透明性の確保

AIタレント活用において「透明性」は不可欠です。特に、広告やマーケティング用途では、消費者に「誤認させない」ことが大前提です。とはいえ、「AI使用」を明示すれば良いというわけではありません。重要なのは、視聴者が「だまされた」と感じないこと。徹底的にこだわったクオリティラインを保つ、あるいは「これはAIタレントです」と積極的に伝えることで、視聴者との信頼関係を構築するのが重要です(北浦氏)

AIタレントの活用において、企業は「透明性」と「誠実さ」が求められると北浦氏は語る

②価値提供を優先する

AIの驚きが主役になると、視聴者の感情は商品から離れてしまいます。栄養ドリンクのCMがOKラインに収まったのは、ここを踏み外さず、AIを意識させすぎない現実感のラインに置いたからとも考えられます。アバモもまた、「AI技術のすごさを見せる」ことが目的ではなく、企業が直面する実務課題を解決し、具体的な成果を出すことが最優先です。AIはあくまで手段であり、目的ではありません(北浦氏)

③クリエイターとの協働を重視する

「クリエイターの仕事を奪う」という批判に対しては、「クリエイターとAIの協働」という視点を大切にすることを推奨しています。上述したアバモの活用事例のように、既存素材をもとにAIタレントでバリエーションを量産する、クリエイターが制作したイラストをもとにAIタレントを開発するなど、当社も両者の協働の形を追求しています(北浦氏)

AIの技術は、すでに本物と見分けがつかないクオリティの動画を生成できるまでに向上している。一方で、今後求められるのは「魔法のような技術」ではなく、売上や利益、コスト削減にどう貢献するかといった「投資対効果」であると北浦氏。アバモでは、そうした方針を軸に、顧客ニーズに基づいた利便性向上とさらなる実績づくりに努めていくという。

 

画像提供:オフショアカンパニー

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