検索意図を推測し、内部情報あるいは複数のWebサイトを参照しながら、回答を生成する「AI検索」。「AIを使うぞ」と意気込まずとも、従来の検索行動がいつの間にかアップデートされているユーザーも多いのではないだろうか。
こうしたユーザー行動の変容に伴い、企業のマーケティング活動の刷新は喫緊の課題となっている。企業はどうAIに向き合い、具体的に何を改革すべきなのだろうか。
元アイレップで日本のSEM(Search Engine Marketing:検索エンジンマーケティング)を牽引してきたレジェンド的存在の紺野俊介氏と、SEOの現場を知り尽くしたFaber CompanyのSEO専門家 辻正浩氏が語り合った。
(右)住信SBIネット銀行株式会社 執行役員 マーケティング戦略部長 紺野俊介氏
黎明期から検索マーケティングを築いてきた紺野氏と辻氏の出会い
辻 正浩 氏(以下、辻) 紺野さんと私の出会いは、アイレップ(現・Hakuhodo DY ONE)に中途入社してSEOの仕事を始めた頃でした。右も左も分からない状態でしたが、紺野さんがお客さまへ提案する場に同席して学べたのは大きな学びになりました。紺野さんと渡辺隆広さん(当時アイレップ所属)の元で働けたおかげで今の私があります。私がアイレップで仕事を始めた2007年には紺野さんは既に副社長として経営に関わられていましたが、そもそもなぜこの業界に入られたのですか?
紺野 俊介 氏(以下、紺野) 僕のキャリアのスタートはEDS Japan(現・日本ヒューレット・パッカード)のエンジニアでした。その後、転職を検討するなかでこの業界に興味を持ったのは、Googleが「世界中のあらゆる情報にアクセスするための入口」として、圧倒的に便利だったからです。「Googleが世界を変えるのではないか」と感じました。だから本当はGoogleに入社したかったのですが、日本法人はまだ社員が2~3人しかいないような時で、門戸が開かれていなかったんですよ。ちょうどGoogle AdWords(現・Google 広告)が日本でローンチされたタイミングでした。
当時、そのGoogle AdWordsを取り扱っている代理店の一つ、アイレップにテレアポ営業で入社したんです。当時、2003年頃はまだ社員10人、売上5億円ほどの小さな会社でした。
辻 なるほど。当時からGoogleの可能性を感じていたんですね。
紺野 従来の広告は、安く仕入れて高く売るのが基本的なビジネスモデル。「広告販売=営業」という領域で、広告の需要と供給のバランスをアルゴリズム的な思考で捉えている人はいませんでした。それを可能にしたのがGoogle AdWordsというシステムです。そもそも、AdWords“広告”と名付けたのが、間違いな気がします。あれは本質的にはソリューションですから。Googleの検索には、広告の他に、自然検索(オーガニック)もあります。オーガニックに関しても、小手先の施策をやったら上がった、下がったということではなく、当時集められるGoogleの公式情報とデータに基づいた検証を渡辺さん筆頭に行っていました。このように、 AdWordsとオーガニックというソリューションとしっかり向き合い続けた結果、アイレップは代理店としてどんどん成長していきました。
辻 途中からですが、その成長を近くで経験する事が出来ました。紺野さんは経営者でありつつ技術面や現場や市場の事情を深く理解されていたことが印象に残っています。
紺野 仕組みがよくわからない状態で売りたくなかったんです。だから、Googleのことも、広告もオーガニックもできるだけ正しく理解して、売りたい、そんな思いがありました。加えて、当時は、デジタルマーケティングでナンバーワンの広告代理店になることを掲げていました。そのためには、売り物の正しい理解は欠かせませんよね。
生成AIに答えを求めるのではなく、自分の答えを研ぎ澄ますために使え
辻 改めて思い返しましても、紺野さんは日本の検索マーケティング市場を創った最大の功労者の内の一人と思います。二十数年、検索全体を経営と現場の両方の視点で把握して、変化に対応し続けてきた紺野さんが、AI検索をどう見ているのかを今日は伺っていきたいと思います。
紺野さんは現在、住信SBIネット銀行の執行役員 マーケティング戦略部長を務められていますが、日々の業務でAIは活用されていますか?
紺野 かなりハードに使い込んでいますよ。金額で言うと、個人で月に7~8万円は課金するくらい(笑)。
でも、1年半前くらいに本格的にChatGPTを使い始めたときは、正直「大したことないな」と思ったんですよ。従来の検索は、「膨大な情報(N)の中から自分で最適な1を見つけるもの」だったけれど、生成AIは、「膨大な情報(N)を掛け合わせて自分に最適な1を生成してくれるもの」だろうと理解しました。しかし、初めのうちはハルシネーション(AIが事実とは異なる情報を生成する現象)がひどくて使い物にならないと感じていたんです。しかし、今はAIによるDeep Research機能も含め、人間がやると丸1日かかるようなタスクを、10分で済ませることができるようになりましたよね。
その後、GoogleからGeminiが出てきたので、こちらも使うようになりました。最初はChatGPTを真似ただけのような印象でしたが、最近は、体感的にはChatGPTの10分の1のコストで、ほぼ同等の回答精度を得られるようになっています。でも、それよりも今はClaudeを使う割合のほうが大きいですけどね。いずれGeminiも追いつくだろうと思うものの、現状の使用頻度は、大半はClaude、次にGemini、そしてChatGPTを少し、という感じになっています。
辻 それでもChatGPTは使うんですね。複数の生成AIを使い分けているのはなぜですか?
紺野 1つのツールに絞ってしまうとハルシネーションの問題がありますから。生成AIの正しい使い方は、あくまでも「自分がすでに持っている答えを研ぎ澄ます」とか、「違う視点をもらって別の角度から練り直す」ことです。生成AIに答えを求めちゃダメです。だからこそ、複数の生成AIを使って、互いに批判的に検証させ合うことが重要なんです。
大学卒業後、EDS Japan(現:日本ヒューレット・パッカード)を経て、2003年株式会社アイレップに入社。黎明期よりSEMに従事し、リスティング広告運用の体系化などを通じてトップコンサルタントとして数多くの大手クライアント企業のデジタルマーケティング施策を成功に導く。2009年株式会社アイレップ代表取締役社長へ就任。
2018年に楽天グループ株式会社へ入社、同社執行役員、楽天データマーケティング(株)、リンクシェア・ジャパン(株) 代表取締役社長を歴任。複数企業の社外取締役、アドバイザーを務め、2025年10月に住信SBIネット銀行株式会社 執行役員(マーケティング管掌)就任。
AI検索でマーケティングの在り方は変わるのか
辻 最近、事業会社の方とお話しすると、みなさん「AI検索を主軸に、マーケティングの考え方を変えなければならない」と焦っておられますが、その必要性は本当にあるのでしょうか。
紺野 それはインターネットが出てきた時も、スマートフォンが出てきた時も同じでしたよね。俯瞰して見れば、新しいチャネルが増えただけ。生成AIという新しいチャネルが増えて、ユーザーの選択肢が増えただけだと捉えれば、それ以上でもそれ以下でもありません。
辻 今の世の中からは、広告を含めた“検索”というチャネルがAI検索に移行するという見方がされていますよね。
紺野 でも、日本の総広告費は8兆円しかない中で、どれだけデジタルマーケティングが伸びたとしても、8兆円は超えないわけです。同じく、1人当たりに24時間があって、“ながら視聴”や“倍速視聴”で多少体感が変わったとしても、1日が24時間というのは変わらない。だから、AI検索も、ユーザーが何かを選択するためのチャネルが変わっただけだと捉えるのが正しいと思いますよ。
とはいえ、インターネットやスマートフォン、SNSが登場した時と同様に、明らかに技術が進化した事実がある以上、それに向き合わないのは企業にとってリスクであり、無視していいわけがないですけどね。
辻 ただ、AI関連の進化・変化のスピードがこの上なく速いので、使われるサービスから評価基準まですぐに変わります。いまのAI検索対応のベストプラクティスでも1~2年もすれば無意味になるものも多いはずです。GoogleもいまのAI検索とは全く違う「Web Guide」など新しい切り口のAI検索を準備中ですし、今後どうなるか予想は困難です。あえて現時点の技術ベースに最適化を急がず、AI検索対応を行うにしてもいまの売上に繋がるSEOと相乗効果を生むものにすべきというのが私の持論なのですが。
紺野 その指摘は正しいですね。かつてのSEOのときもそうだったじゃないですか。黎明期には、たとえば「とにかく被リンクを増やせ」なんて非論理的な手法が流行って、やがて廃れていきました。
この1年ぐらい、AI検索に対して大騒ぎしていたのは主にメディアです。彼らは、ユーザーのビューに対してお金をもらうモデルだった。それがAIの画面上で答えが完結してしまうと収益が立たなくなるから、AIを否定し、大騒ぎしていました。しかし、多くの事業会社は、まだAI検索のせいでビジネスが揺らぐという状況までは行きついておらず、そこまで影響を受けていない。でも、1年もすれば状況は絶対に変わっています。3年もすれば「生成AI」や「AI検索」という言葉も変わっているかもしれない。
Googleマップが登場した時に革新的だったのは、世界中の情報をGoogleが拾いに行ってくれたことです。あれがなければ単なる静的な地図でしかなかった。同じく、今、教師データによってAI検索が対応していない情報もあるけれど、今後技術も変わってくるはずで、その変化の中でどう向き合うかが常に求められている。今起きていることは一部に過ぎません。
だからこそ、今は、小手先のテクニックではなく、本質的に正しいことをやればいいんです。せっかく持っている自社の価値あるコンテンツが、きちんと世の中に届くように、適切なフォーマットで“外部に発信する”という行為の重要性は何ら変わりません。
AI検索関連へ投資すべきか否か
辻 では、企業は、どのような観点でAI検索関連への投資を検討すべきだと思いますか?
紺野 あらゆる投資と同様、シンプルな判断基準でいいはずです。やらなくても事業が成立するならやらなくていい。たとえば、500万円払って501万円の売り上げが見込めるなら、すぐにやればいい。それだけです。このリターンには、直接的な売り上げだけじゃなくて、間接的な効果や、やらないことによって何かを失うリスクも換算しなきゃいけません。
辻 「AI検索対応」という言葉に盲目的になるのではなく、冷静に投資対効果を判断すべきということですね。
紺野 その通りです。逆に、僕が今もしAI検索関連ソリューションの売り手側だったら、提案書に次の3点を盛り込みますね。
- 投資に対する直接的なリターン
- やらないことによる毀損リスクの確率
- 新チャネルの実態を掴み、意思決定の精度を上げるインサイトの獲得
たとえば、「自分が読みたいから純粋な興味で読む趣味の本」と、「世の中で売れているからトレンドを把握するために読んでおくべき本」は違うでしょう? それと同様に、収益に責任を持つマーケターであれば、チャネルの特性を正しく理解するために、たとえそれが断片的・一時的な投資であったとしても、AI検索対応に一定のコストを払うのは妥当だと思います。
1974年北海道生まれ。営業、広告・Web制作を経てSEOの専門家として活動を始めた後、2011年に独立。幅広い有名WebサイトのSEOに取り組み、現在の顧客の検索流入数の合計は日本で行われる検索の1割弱を占める。株式会社so.la代表及び株式会社Faber Company上席SEOコンサルタントとして、Webマスターと検索ユーザー、検索エンジンの三者が利益を受けるSEOを信条に活動中。
現状を知ることがAI検索対策の第一歩
辻 AI検索が実ビジネスに影響が出ているのか、出ていないのかの判断が難しいですよね。
紺野 それはちゃんとリサーチしないとだめですよ。たとえば、定量・定性リサーチの項目に、AI検索の視点を組み込むべきです。具体的には、従来の「ホームページを見た」「友人に紹介された」といった流入経路の設問に「AI経由でアクセスした」といった項目を加えます。
また、SEOでは、「検索エンジンにインデックスされているか」どうかが重要なのと同じで、「生成AIやAI Overviewsの回答に露出できているのか」「できているならどう扱われているのか」も把握しておく必要があります。たとえば銀行の金利情報は、貸金業法上、適切な金利が表示されていなければならないにもかかわらず、もし古い金利情報のまま提示されているとしたらマズい。「AIが勝手に生成しました」なんて言い訳は法的な責任を問われる場では通用しませんので。
辻 トラフィックの増減だけではなく、ガバナンスやリスク管理の観点でも注意が必要ということですね。このAI検索の影響範囲は今後拡大していくと思いますか?
紺野 5年後、10年後に無視できないチャネルになるかどうかは、ビジネスモデルによるので、一概には言えませんね。
たとえば、どれだけ世の中がデジタル化しても、住宅ローンの申し込みをインターネット上だけで完結する人は少ないじゃないですか。それに、法律による制約もあります。いくら技術が進化しても、関係省庁やグローバルの金融規制が変わらない限り、銀行のビジネスが大きく変わることはありません。
要するに、「自社がAI検索の影響を受けるかどうか」には、ユーザーの価値観や法規制やビジネス特性など、技術以外のさまざまな要因も絡んでくるというわけです。
辻 複雑ですね……その中で自分のビジネスへの影響が予想できず、不安になっている企業が多いと思います。
紺野 現状理解が不十分だと不安だけが大きくて、「とにかく何かしなきゃ」という焦りが募ってしまう。まずはリスク管理のためにも、現状を把握して不安を取り除くことが大事でしょうね。加えて、事業会社はもう一度自分たちの事業とユーザーを理解し、正しい情報を自ら発信していく(WebサイトやYouTubeなどで適切なフォーマットを用意する)ことが大事だと思います。
Faber Companyさんもそういう“定点観測”が可能なソリューションを出してますよね?
辻 「ミエルカGEO」ですね。AI検索は頻繁に表示内容が変わりますし、表示内容も順位では語れない複雑なもので目視確認の把握が困難です。ツールを使って現状把握するのは有効になるでしょう。
紺野 そういったサービスを活用して、自社の状況を把握しておくのは必要だと思います。AI検索対策の第一歩は、自社の現状を“定点観測”して、自分たちの露出が正しい形で行えているのかを確認することです。その上で、未来の売り上げを作るために対応するのか、今のビジネスを維持するために対応するのか、あるいは現時点では対応しなくてよいのか、リスクを考えて判断するべきだと思っています。
辻 足元を把握しておくのが大事ですよね。いま、AI検索対応を謳う企業の対応はチグハグさを感じる事が多いです。AIが過剰に騒がれているのに釣られて、いま現在企業の売上を大きく左右するSEOへの対応をおざなりにしてAI検索に過剰投資する企業も、逆に今後必ず影響力が増すAI検索を全く意識しない企業も、どちらも問題です。お客様となりえる人々がどう情報を探しているのかしっかり現状把握をしていれば、無駄な狼狽はなくなると思います。
結局「人が物を探す」という行為自体はなくならないので、良いサービスがあって、正しい現状把握ができていればどんな変化が起きても対応の方法はあるはずです。今までSEOとして行っていた事が全く別の方法になっているかもしれませんが、これまでも沢山の激変があったのを多くの企業は乗り越えてきたわけで、今回もきっと乗り越えられるはずと思っています。
紺野 明らかに変化の兆しではあるので、おもしろいですけどね。今後、TPOに応じて使うべき言葉や表現は変わってくると思いますし、企業もそこは対応していかなければならないと思います。

Faber Companyの提供する「ミエルカGEO」は、チャット型生成AIやGoogleのAI Overviewsにおける、自社・商品・サービス・ブランドなどの露出状況を計測・分析し、改善施策を立案・実行するPDCAサイクルを実現するサービスだ。
- AI検索にどう対応をするべきか悩んでいる
- AI検索、AI Overviews上での自社の露出状況を知りたい
- AI検索からの流入状況やコンバージョンを確認したい
- 自社と競合を比較して分析したい
- 何をどう対策するべきかアドバイスが欲しい
ツールだけではなくスポットAI検索対応診断や月次コンサルティングも対応可能。ツール無料トライアルや無料相談から実施可能。上記のような悩みをもつ担当者は、「ミエルカGEO」を検討してみてはいかがだろうか。無料トライアルも提供している。