【レポート】デジタルマーケターズサミット2026 Winter

「非エンジニア」が2日でAIアプリを開発! 300分の作業を15分に短縮、現場主導のAI民主化とは

AI活用の最大の課題は、スキル不足と運用定着だ。Hakuhodo DY ONEのAI活用の社内事例を紹介。

トップスタジオ[執筆], ササキミホ[編集]

7:05

今やさまざまな領域で活用が進む生成AI。AI活用の最大の課題は、スキル不足と運用定着だ。「デジタルマーケターズサミット 2026 Winter」のオープニング基調講演では、博報堂DYグループでデジタルマーケティング事業を担うHakuhodo DY ONEの黒田氏と島原氏が登壇。2人は同社内でAIの民主化を推進してきた。実務者(非エンジニア)が開発したAIアプリの成功事例や、ほぼ全社員が日常的にAIサービスを活用する組織になるまでの取り組みを紹介した。

(左)株式会社Hakuhodo DY ONE テクノロジーR&D本部 本部長 黒田 英二 氏、(右)同社 第十二ビジネスデザイン本部 統合プランニング局 メディアDX推進部 島原 正列 氏
※所属はセミナー登壇当時

AIはマーケティングの現場をどう変えている? 事例を交えて紹介

今やマーケティングの現場でもAI活用が進んでいる。Hakuhodo DY ONEもAI活用を進めており、推進役を担っているのが黒田氏である。黒田氏は博報堂DYグループ横断でAIに関する先端研究や技術開発を行う組織「Human-Centered AI Institute」の情報連絡分科会 事務局長を務め、経済産業省の「ITエンジニアリング人材の育成に関するタスクフォース」の委員も務めた。

そして、島原氏はEC企画とデジタル広告の運用を経て、現在は広告のDX推進と現場でAIの推進役を担っている。前半はエンジニアではない島原氏が、AIがマーケティングの現場をどう変えているのか事例を交えて紹介した。

事例1新人研修でLINEの投稿文作成にAIを活用

最初の事例は、新人研修でのAI活用である。同社では新入社員に、男性用BBクリームのマーケティング施策を題材に、AIを活用してLINEのオーガニック投稿文を複数作成する研修を実施した。LINEの投稿文はターゲットを理解し、LINEというメディアや、訴求シーンに合わせた言葉選び、訴求軸の設計など、さまざまな要素を考慮して作成する必要がある。継続的に複数の投稿文を作成するのは難易度が高い業務だが、AIの活用で実務レベルの投稿文を複数作成できたという。

新入社員が2週間で作成したLINEのオーガニック投稿文

新人研修にAIを活用した狙いは大きく3つある。1つ目は学習の短縮化だ。AIにプロの知識を組み込み、マーケティングで使用するフレームワークとして提供することで、座学よりも実践を重視した学習とした。2つ目は時間の高速化だ。生成AIによって高速でアウトプットが可能になった。その特性を活かし、プロトタイプを作り、それを改善していくという反復活動を重視した。島原氏は高速化に欠かせない要素として、並列で作業する設計力を挙げた。

たとえば、AIが出力したA案を人間がチェックしている間に、次のB案、C案を出力させていく。AIがあるからこそ可能になる業務フローの設計を考えながら作業を行ってもらうようにした(島原氏)

3つ目は情熱を注ぐこと。人の心を動かすのは人間だ。AI活用で試行錯誤したプロセスを含め、自分の言葉に落とし込んで相手に伝えることを意識しているという。具体的な研修カリキュラムと所要時間は以下の通りだ。

  • 生成AIの説明:10分
  • マーケティングのフレームワークの概要説明:4分
  • グループワーク(プロトタイプを作成・改善):33分
  • プレゼン(情熱を加えて言語化):10分

生成AIを使うことでアウトプットのスピードが上がったので、より多くの試行錯誤ができるようになりました。実践を通した方法で、習熟がスピードアップしています(島原氏)

事例2非エンジニアの営業担当が自動車イメージ動画生成ツールを2日で開発

2つ目の事例は、非エンジニアの営業担当が開発した動画生成ツールである。お客様に走行イメージをより具体的に伝えたいという自動車販売会社からの相談をきっかけに、オプションを装着した車の走行イメージを数分で動画化できるツールを開発した。

使い方はシンプルで、自動車販売会社の見積りページで自分好みの車を作成し、その車の画像をツールにアップします。続いて、街中や海辺など走らせたいシーンを選ぶと、自分好みの車が指定したシーンを走る動画が数分で生成できます(島原氏)

営業担当者が開発した自動車イメージ動画生成ツール。オプションを付けた車の走行イメージを伝えたいという顧客のニーズを叶えた
※車の写真はAIで生成

しかも、驚くことに開発期間は非エンジニアが業務の合間に2日程度で作ったという。AIの活用で、試行錯誤を早く繰り返せるようになったからだと言える。

クライアントからも高評価をいただき、前向きに実装する検討が進んでいます。これまでだと、目の前で動くプロトタイプを作るのはコストと時間の観点から難しかったと思います。非エンジニアでもAIがあれば、アイデアを形にできる時代になっていると感じる事例でした(島原氏)

事例30次AI仮説アプリで300分かかっていた調査が15分で完了

3つ目の事例は、島原氏が作成した「0次AI仮説」アプリだ。マーケティングのデスク調査は商品理解、市場理解、顧客理解の流れで進めていく。フェーズごとに調査や分析を行い、それらの結果を連鎖して進めていく必要がある。ChatGPTなどチャット型生成AIで各調査・分析のためにプロンプトを入力して、その結果をコピーしていけば可能だが、AIを複合的に使う必要があり煩雑で時間がかかっていたという。

AIを複合的に使う必要があり煩雑で時間がかかっていた

そこで、0次AI仮説アプリでデスク調査の工程を自動化し、提案書の下書きまでを一貫して生成できるようにした。

デスク調査の効率化と質の向上を目的に、島原氏が開発した「0次AI仮説」アプリ。デスク調査の工程を自動化し、提案書作成までを一貫して行える

非エンジニアがAIアプリを作れた理由とは?

非エンジニアの島原氏はこのアプリをどうやって作ったのか。作成までの舞台裏を解説していった。島原氏が利用したのは、「Dify(ディフィ)」というAIエージェントを構築できるノーコードAIプラットフォームだ。Difyはノードと呼ばれるブロックを組み合わせることで、コーディングなしでもAIチャットボットや業務フローを自動化するアプリが構築できるという。

0次AI仮説アプリでは、前工程の結果を次の工程に連鎖させることで自動化を実現している。商品理解、市場理解、顧客理解のフェーズの結果を基に、カスタマージャーニーを作り、事前に与えてある広告施策の中から最適な5つを選択し、提案書の下書きが作成される。ボタンを押すだけでこの一連の作業が約15分(生成AIのモデルが更新されると精度や処理スピードが改善するため、現在の処理時間は約7分だという)で完了するという。とはいえ、出力された内容をそのまま使うわけではない。「人が内容を精査して、赤入れと再調査をし、自分の言葉に落とし込んでいる」と島原氏は話す。

Difyは画面上でブロックを組み合わせるだけで、自分専用のAIチャットボットや業務自動化ツールが作成できる

0次AI仮説アプリの効果は2つある。1つは人手で約300分かかっていた調査が15分に短縮され、大幅に効率化できたこと。もう1つは、今までリソースがなくて作業していなかった調査がAIで均一の0次調査ができるようになり、品質の向上につながっていることだ。

0次AI仮説アプリで1回300分かかっていた作業が15分に短縮。人だと作業していなかった部分もAIが行うことで品質が向上

非エンジニアが便利だと感じたDifyの機能とは? これからは実務者が生成AIアプリを作る時代へ

島原氏は非エンジニア視点でDifyの便利だと感じた点を4つ挙げた。1つ目は、プロンプトを入力してテンプレート化できることだ。ChatGPTのGPTsや、GeminiのGemのようなもので、事前にプロンプトを設定しておくと次からは入力の手間が省ける。

Difyの操作画面。プログラミング言語を覚える必要なく、プロンプトだけでアプリが完成する

2つ目は、ワークフローの設定のしやすさだ。ブロックを追加するだけで業務フローが作成できる。

以下の図のLLMと書かれているブロックにAIで処理するプロンプトが設定されています。右の回答ブロックで出力の確認ができます。このワークフローの途中に、AIに処理する前に検索させたいや、Webページで情報を取得したい、社内の共有ドライブにあるデータを読み込ませたいといった処理を、ブロックを追加しながら設定できるのが使いやすかったです(島原氏)

ワークフローの途中に検索や独自のナレッジを呼び出すこともできる

3つ目は、文章から特定の文字や数値を抽出する機能だ。たとえば、決算書は企業によって形式が異なるが、その中から企業名や証券コードを取り出したり、決算書から状況を5段階で評価したりして、バラバラな情報を表に一覧で出力できる。

文書などから特定の文字や数値を取得し、整理できる

4つ目は、作成したAIアプリを簡単に社内共有できること。共有ボタンを押すとURLが発行され、それを共有するだけで他の人も使えるようになる。最後に島原氏は以下のように語り、黒田氏へバトンを渡した。

現場には、“これができたらいいな”というアイデアが多くあると思います。これまでは技術的なハードルがあり、それを形にしにくかった。そのハードルが生成AIやDifyのようなツールで大きく下がりました。“できたらいいな”と思うことがあれば、ぜひ自分の手で形にする挑戦をして欲しい(島原氏)

AIの民主化を持続させるために重要な4つの原則

続いて黒田氏が登壇し、組織を“AIネイティブ”に変える管理術というテーマで話を進めた。黒田氏はまず、課題と解決策の関係をイメージにした以下の図を示した。

左にいくほど共通の問題が多く、右にいくほど個別の問題になる

これまで技術革新によってさまざまな課題が解決されてきた。たとえば、システムもその一つだ。多くの人が同じ課題を持ち、同じ解決策を求めている場合、システム化により課題を解決した。次に、部署やチームの課題を解決するために、ローコード・ノーコードツールを使ったRPAによって課題が解決されてきた。「だが、日本には費用対効果が合わずシステムやRPA化できない個別の課題が多くある(上記のグラフの赤い部分)」と黒田氏は指摘する。この個別課題を解決するのがAIだというのだ。そのために大事なのが「AIの民主化、誰でも使える環境にすること」と黒田氏。社内でAIの民主化を持続させるために、計測、安心・安全、安価、社員教育という4つの原則を最初に設定したという。

  • 計測
    民主化の一つの課題が、成果の測り方だった。そこで黒田氏は、週間利用ユーザー数を最重要KPIとして設定した。
  • 安心・安全
    AIを安心・安全に使えるようにするのも重要なポイントだ。Hakuhodo DY ONEでは3年前からAI活用を始めたが、「当時はAIは便利だけど、仕事の情報をどこまで入れてよいのか、という不安があった」という。そこで安心して使ってもらえるように、機密情報を使える環境を準備し、安全性を保証した。
  • 安価
    民主化=全員が使えること。継続的にそのソリューションが社内に存在するために安価であることは重要だ。そこで、一人ずつ課金が発生するSaaS利用ではなく、社内で独自システムを構築することで費用を抑えることに成功した。
  • 社員教育
    良いものを配れば社員が使うわけではない。社員教育も重要だ。各部からアンバサダーとなる人を選出し、そのアンバサダーが部署で研修を行う形式で社員教育を行った。

AI浸透には推進チームの体制構築も重要

現在、同社ではほとんどの社員が1日に何回も何らかのAIツールを使う環境が整っているという。

Hakuhodo DY ONE内のAIツールの利用状況

4つの原則を意識してAIの民主化に取り組んできたHakuhodo DY ONE。社員がDifyを活用して作ったAIアプリも増えており、「全社に公開されているのは60~70です。正確な数は分かりませんが、部署用や自分用なども含めると200ぐらいはあるのでは」と黒田氏。多い時は月に10万回以上、Difyアプリが実行されているという。

全社へのAIの浸透には、どのように推進チーム体制を構築するかも重要だ。同社では推進チームの立ち上げ当初からエンジニアだけでなく、現場のマーケティングのメンバーにも入ってもらい、多くの社内の課題を吸収し、社内外のさまざまな組織と連携できる体制を構築した。

AI推進チームの体制

AIで職人技を民主化することで、企業の競争力に

最後に黒田氏は、今後の私たちの仕事はどう変化するかについて語った。2040年に日本では労働力が1100万人足りなくなるという予測がある。黒田氏はAIがこの労働力不足の解決策になるのではと言う。2030年には私たちが必要とする中核スキルの約4割がAIによって変化せざるを得ないとするレポートがある。AI活用が進むにつれ、“人間”が行う仕事を選んでいく必要があるのだ。その一方で、経営者向けの調査でAI代替が難しい仕事として、倫理的判断、カスタマーサービス、チームマネジメントがあげられている。

労働人口が減ったり、AIによってスキルセットが変わったりする中で、AIをどう使うと会社の強みが出せるのか。実は、AIは自社らしさを出すことに活用できる。AIは既存のシステム化されたロジックとは異なり、文脈に応じてプロセスを変えられる。黒田氏は「職人技をAIによって民主化して、継承できると考えている」と言う。今まで人が担っていた企業の独自性を、AIが再実装して社内に蓄積することで新しい競争力になるというのだ。

これからのAI化は会社らしさを再実装することで、新しい競争力に

それを具現化する取り組みも同社では行われている。それがトップマーケターの熟練知を搭載したAIエージェント「ONE-AIGENT」だ。同ツールは高度なマーケティング判断を自動化・標準化することで、顧客のコアバリューを最大限に引き出し、市場競争力を飛躍的に高めるという。「ONE-AIGENTには各社の持つ職人技のAI化をサポートするプログラムもある。興味のある方はぜひ、連絡して欲しい」と呼びかけ、講演を締めくくった。

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