BtoBマーケティング最前線

データに強いマーケターを育てるには? 知識ゼロから「SQLを操れる組織」を作ったプレイドの工夫3つ

データマネジメントを独学で学び、マーケティング部門にとどまらない組織全体のリテラシーを底上げしたプレイドの取り組みに迫る。

野本 纏花[執筆]

7:05

「データによって人の価値を最大化する」をミッションに掲げ、CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」シリーズをはじめ、データを起点にさまざまな事業展開をするBtoB企業のプレイド。

同社は、約15名のマーケター全員がSQLを書いて、データ基盤「KARTE Datahub」からデータを抽出・分析・活用するスキルを持つという。驚くべきことは、それだけではない。フィールドセールスのメンバーにも一定のデータリテラシーを身につけてもらい、データを起点とした会話ができる関係性を築いているというのだ。

ここまでたどり着くために、どんな道のりがあったのか。マーケティング戦略部門でデータマネジメントをリードする岩田美希氏と、メルマガを中心にマーケティング施策の企画立案から実行までを担う山下桃子氏に話を聞いた。

(左から)山下桃子氏、岩田美希氏

“知識ゼロ”からデータマネジメントの素養を身につけるまで

岩田氏が入社した2020年2月当時、プレイドにはまだマーケティングにおけるデータ面での土台がなかった。

しかし、マーケティングチームの正式立ち上げにあたり、「自社のデータをしっかりと運用・管理できるようにならないと、データを活用した正しい意思決定はできない」と感じた岩田氏は、独学でデータマネジメントを始めた。

もともとデータ分析や数字をもとに意思決定することは好きだったが、データマネジメントのおもしろさに気づく大きな転機となったのは、汎用性の高いKARTEのデータ基盤との出会いだったという。

「これができるならあれもできるかな?」といろいろなアイデアを試しているうちに、どんどんできることが増えていくのが楽しくて。自分でいろいろ触っているうちに、データテーブル同士の関係性やスキーマ設計を考えるようになり、システム設計図まで書くようになっていったんです(岩田氏)

他方、山下氏がプレイドに入社した2023年には、社内の自主的な取り組みから全社オンボーディングへと発展した、全3回のSQL研修が始まっていた。マーケティングチームのメンバーは必ず受講しなければならないものだ。

過去2社でBtoB企業のマーケターをしてきた山下氏は、Salesforce活用に長けており、データ分析に抵抗があったわけでもない。だが、KARTEと出会い、SQLを書けるようになったことで、データマネジメントの世界が大きくひらけたという。

当時はまだAIが今ほど優秀ではなく、SQLを自分でちゃんと書く必要がありました。でもその苦しみがあったからこそ、いまAIでスムーズにデータを抽出できていますし、想像力を持って楽しく働けています(山下氏)

山下氏

プレイドが活用しているデータの種類

では、プレイドではKARTE Datahubにどんなデータを蓄積して、活用しているのだろうか。具体的には、大きく次の3つに分けられる。

  • 行動データ
    Webサイト上のアクセスログをはじめとする行動履歴や、オフラインでの接触履歴など。

  • 意識データ
    問い合わせフォームやアンケートなどを通じて収集した顧客の声など。

  • 業務プロセスデータ:
    フロント営業が顧客と会話した内容や、展示会でヒアリングした内容など。

これらのデータ収集に活用しているツールとしては、アクセス解析ツール、MA、SFAのほか、自社プロダクトのKARTEシリーズが挙げられる。こうしたツールで収集したデータは、すべてKARTE Datahubで統合し蓄積している。

このデータ整備を一手に担った岩田氏は、最も苦労したポイントを次のように振り返る。

データを意思決定に使ってもらうには、そのデータが本当に正しいという前提が不可欠です。信頼性がなければ、データを使って何かしようとは思えませんし、データの入力も協力してもらえませんから。当然、ブラックボックスではダメ。「この人が出したデータだから間違いない」という属人性も排除したかったんです(岩田氏)

現場からデータの入力協力を得るための道のりは、決して平坦なものではなかったという。インサイドセールスが展示会などでお客様と接触した記録は、以前はスプレッドシートにメモされていた。それを「きちんと早くSalesforceにインポートする」という運用を定着させるため、両氏はここ2年ほど地道な働きかけを続けてきた。その着実な取り組みが、少しずつ現場の意識を変えていった。

「営業が見たいときにSalesforceにデータがある」という状態がだんだんできてくると、「早くデータを入れないとマーケティングの人たちが困るし、結局は自分たちも困るんだ」とわかってもらえるようになりました。そういう小さな積み重ねが、部門間の信頼関係を作っていると感じています(山下氏)

組織全体でデータ活用の意識を高めるための3つの工夫

データの信頼性を高め、組織全体でデータの活用意識を高めるために、プレイドが実施した3つの工夫を紹介する。

工夫1社内の共通言語を増やす「データリテラシー研修」

岩田氏は、「データリテラシー研修」のプログラムを一から作成し、3年ほど前からスタートさせた。SQLに加え、こちらの研修もマーケティングのメンバーは受講必須としている。

データリテラシー研修は、1時間×全4回。受講者のアンケートをもとにブラッシュアップを重ねてきた。最初の3回は座学で、岩田氏がプレイドのデータ思想やデータ定義を伝え、それぞれのデータソースにどんな特性があるのかを解説していく。最後の4回は山下氏が講師を務め、サンプルデータを使いながらリードインポートを実践してみる。実際に手を動かしてもらうことで、データ設計の意図や活用イメージの理解を深められる。

この研修は、他部門の希望者も受講可能だ。受講後の満足度や理解度をオープンにしていることもあり、他部門の上長から「新しく入ったこのメンバーにも受けさせたい」とリクエストが入ることもある。

現状、多忙なフィールドセールスのメンバーはプログラムの一部だけの受講にとどまっているが、各指標がどのようにビジネス成長に寄与しているのか、データをもとに会話できるようになってきた。

さらに、社内コミュニケーションにおいても効果を生んでいる。岩田氏と山下氏は講師を務めたことで、社内から「データに対して思いを馳せている専門家」としての認知が得られ、他部門から相談される機会が増えたという。研修は単なるスキルアップにとどまらず、組織横断の連携をスムーズにする役割も果たしているのだ。

データリテラシー研修の様子(提供:プレイド)

工夫2データの分析軸はMECEよりも「りんご・バナナ・ゴリラ」で

プレイドでは多様な事業を展開しており、顧客の課題も幅広い。そのため、分析したい切り口や見たい指標が増えやすく、ともすればデータの海におぼれ、分析だけに膨大な時間を費やしてしまいかねない。

だからこそ同社では、抜け漏れなく重複もしないMECEな整理を目指すよりも、「事業成長にインパクトを与えられる分析軸を設定しておくこと」を重視している。

この分析軸の設計思想をわかりやすく表現したのが「りんご・バナナ・ゴリラ」という考え方だ。りんごとバナナはフルーツだけど、ゴリラは動物。異なるカテゴリーを組み合わせて分析軸を設定するという、プレイド流の評価方針を示している。

実際の分析軸を設計する際には、マーケティングの責任者に加え、プロダクトサイドやビジネスサイドの責任者とディスカッションしながら決めていった。このキャッチーなたとえが、データに馴染みのない人たちにも親しみやすさを覚えてもらう一助となった。

工夫3データ分析を自由に楽しむための「釣り堀」と「手引書」

データを整備する過程で、人によってデータを見る観点や分析の切り口が異なることを実感した岩田氏は、「誰かに頼んでデータを出してもらうのではなく、それぞれのやり方でデータ分析を楽しめる環境を提供したい」と考えた。

そこで、KARTE Datahubという広大なデータの海の中に、誰もが自由にデータ分析という“釣り”を楽しめる「釣り堀」を作ることにした。つまり、釣り堀とは見るべきデータをテーブル化したデータセットのことである。

さらに、釣りのやり方を示すための「手引書」も用意した。手引書は、定義書とシステム設計図が一緒になったものであり、データリテラシー研修を受けることで、その読み方がわかるようになる。

この釣り堀の中だったら好きに釣っていいよ。ルアーや竿の組み合わせでいろいろな魚が釣れるから、手引書を参考にしながら楽しんでね、と。もし欲しい魚が釣り堀の中にいなければ、もうちょっと釣り堀を広げてみようかなと検討します(岩田氏)

岩田氏

ちなみに、この手引書はNotionで作られている。こうしたマニュアルの類は、整備しても読んでもらえないのはよくある話だが、プレイドでは、次のような工夫をしているという。

  • Slackで質問が来るたびに、直接回答するのではなく、Notionのリンクを共有して「ここに書いてあるよ」と教える
    →アクセス頻度UP

  • 各ページに、動物やハートなどのアイコンを設定する
    →どこに何が書いてあるのか覚えやすくなる

  • 見直しが入ったタイミングできちんと更新する
    →情報の鮮度を保つことで信頼感UP

  • 他部門の人にも手引書を見てもらい、マーケ以外の人にもわかりやすく書き換える
    →共通言語が増える・アンバサダーが増える

どれもちょっとしたことのように思えるが、こうした草の根運動こそが組織全体のデータリテラシーをじわじわと底上げしているのだろう。

真の1to1マーケティングに近づく「Issueラベル」

プレイドのデータマネジメントが深化している一例として、Salesforceに新設した「Issue(イシュー)ラベル」という独自カラムがある。

これは顧客一人ひとりの興味・関心を可視化したものであり、KARTE Datahub内にある行動データ・意識データ・業務プロセスデータを複合的に掛け合わせることで導き出している。

特徴的なのは、ラベルの根拠となったデータソースがわかるよう、拡張子のような形で表示される点だ。どのデータをもとにそのラベルが付与されたのかが可視化されるため、データがブラックボックス化しないようになっている。

それぞれのデータには特性があるので、どれくらいの重みで判断するかは、各人の腕の見せどころ。なので、あえて丸めずにすべてを見せることで、データの利用者自身が意思決定できるようにしています(岩田氏)

この設計は、営業活動の質を高めることにも直結している。たとえばインサイドセールスがアプローチをする際、相手が何に興味を持っているかだけでなく、その背景までが一目でわかる。これにより、たとえば「広告に課題がありますよね」と相手に合わせた切り口で挨拶文をパーソナライズできるようになった。

いまから踏み出すデータマネジメントの第一歩

専任のデータ分析チームも予算もないBtoB企業のマーケターが、一からデータマネジメントを始めるとしたら、どこから着手すれば良いのだろうか。

まず重要なのは「やると決めたタイミングで、やり続ける覚悟を決めることだ」と岩田氏は語る。データは整備するだけでは意味がなく、継続的に管理・活用することで、初めて価値が生まれるからだ。

その前提として、「たとえAIで実装できたとしても、SQLの概念を理解しておくことが何よりも大切だ」と言う。

さらに山下氏は、日々の業務を通じて、「自分があるとうれしいデータ」や「組織全体に価値をもたらせるデータ」は何かとアンテナを張っておく重要性を説いた。

プレイドが目指すのは、マーケティングチームだけでなく、組織全体でデータの力を味方にできる状態だ。「みんながデータリテラシーを身につけて組織全体で強くなっていきたい」と岩田氏は展望を語った。

岩田氏と山下氏が中心となって、組織全体のデータリテラシーを向上させている
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