日本上陸! 無料で楽しむ次世代ストリーミングテレビ「FAST」がもたらす新たなタッチポイント
6月20日、北米で誕生した無料映像配信サービス「FAST(Free Ad-supported Streaming Television、ファスト)」が日本初上陸。日本オリジナルのサービスとして「FASTチャンネル」の先行サービス提供が開始された。8月20日からは本格的にサービスも始まっている。
FASTは、無料広告型ストリーミングテレビの略称で、従来のテレビや有料型動画配信サービスとも異なる新たな選択肢として北米で人気を博している。料理、旅行、フード、エンタメ、健康などジャンルごとにわかれたチャンネルを“ながら見”できるというが、どんなサービスなのか。FASTチャンネルを日本で展開しているBBM株式会社代表取締役CEOの福﨑伸也氏に聞いた。
好きなジャンルを“ながら見”できる無料ストリーミングテレビ
FASTは無料広告型ストリーミングテレビの略称で、スマートTV、Webブラウザ、スマートフォンで視聴できる。ジャンルごとにチャンネルが設定されており、各チャンネルではテーマに沿った番組しか流れない。
膨大な番組数から検索・選択する手間を省いて、好みのジャンルの番組だけをダラダラとながら見できるのが最大の特徴だ。
日本においてFASTチャンネルを運営するのは、アクセンチュアから独立したBBM社となる。Googleからライセンスを付与され、「Smart TV Stick」を開発している同社は、FASTチャンネルのユーザー数拡大と同時にSmart TV Stickを普及させる目的でFASTチャンネルのシステムを開発している。
2019年に米国で誕生したFASTは、数年で急速に会員数が拡大。多くの米国FASTサービスはチャンネル数が500以上になり、総ユーザー数は3億人に達する勢いだという。
6月20日から日本で開始しているFASTチャンネルは、エンタメ、健康、キッズ、フード、旅行、料理、キャンプ、時代劇、ビジネス、ペットの全10チャンネルで、大阪ガスが展開するスマートTVサービス「スマイLINK TV Stick」の新規加入ユーザーを対象に提供されている。
一度チャンネルを選択すると、テーマに沿った番組が延々と放送される。「YouTube」や「TVer」といったオンデマンドストリーミングサービス、あるいは「Netflix」や「Amazon Prime Video」といった有料動画配信とは異なり、膨大なコンテンツの中から「見たいコンテンツを検索・選択する」というアクションが不要になるのだ。
Google社いわく、多くの視聴者は“番組を検索する”という行為を面倒に感じ、避ける傾向があるそうです。キーワードなどで検索するのは、よほどモチベーションが高い一部の人のみ。テレビを見る感覚で好みのジャンルだけを選べばいいFASTは、多くの人にとって楽な視聴スタイルと言えます(福﨑氏)
BBM社の調査では、FASTの視聴スタイルが北米で受け入れられていることが数値で示されている。北米でスマートTVを視聴している世帯の総視聴時間は、約32%が「従来のテレビ放送」、約30%が「有料動画配信」、そして約24%が「FASTサービス」となっている(2022年の実績)。2023年はFASTサービスの割合がさらに伸長し、有料動画配信・テレビ放送・FASTサービスが、3:3:3の割合に近づいているそうだ。
広告収入で成立するビジネスモデル。収入は3者でシェア
FASTチャンネルは広告収入のみで成り立つビジネスモデルで、視聴料は無料となる。というのも、FASTチャンネルでは1時間に10分の広告枠があり、従来のテレビの基準である6分よりも広告放送時間が長い。YouTubeのように広告をスキップする仕様も存在しないため、安定して広告収入が得られるという。
得られた広告収入は、システムを運営するBBM社、FASTチャンネルサービスを展開するプラットフォーマー、各チャンネルを運営するチャンネルキュレーターの3者でレベニューシェアをする。
3者それぞれの役割は以下のとおりだ(レベニューシェアの割合は非公開)。
1.システム運営【BBM】
FASTチャンネルを運営するためのシステムを構築し、システムや広告の運用、及びコンテンツ登録を行う。
2.プラットフォーマー【各事業者】
FASTチャンネルの運用・宣伝を担当し、配信するチャンネルを選定し、自社で抱えている会員に対してFASTチャンネルをプロモーションする。プラットフォーマーに該当するのは一定数の会員を持つ企業で、エネルギー事業者や通信回線事業者、ポイントサービスの運営企業などが当てはまる。各社がそれぞれのFASTチャンネルを独自運用することになる。
3. チャンネルキュレーター【各事業者】
チャンネルのテーマに沿って番組を編成する。自社で制作するほか外部から番組を仕入れることも可能で、編成は各チャンネルキュレーターに委ねられている。番組の内容はYouTubeのレギュレーションに準拠する。
プラットフォーマーにとっては新たな収入源となり、自社ユーザーに対してエンタメサービスを提供できる点が魅力でしょう。チャンネルキュレーターにとっては、番組の権利さえあれば、テレビ局やABEMAのように巨大な配信システムを持っていなくとも放送を即開始できるのは画期的だと思います(福﨑氏)
ユーザー拡大の肝は「プラットフォーマー」にある
FASTサービスは8月20日に本格的なサービスを開始しており、現在はWebブラウザやスマートフォンでも視聴可能だ。ここから1年以内に30チャンネルに拡大、2027年度中までに3,000万人の登録ユーザー獲得を目指しているという。
今後注力するのは、プラットフォーマーの獲得です。さまざまな企業から問い合わせがありますが、特に通信回線事業者には注目いただいており、近いうちに提携の発表ができそうです。3,000万人の登録ユーザー数は特段難しいとは捉えておらず、たとえば、巨大なポイント経済圏を持つ1社と提携できれば、それだけで達成できるような数字です(福﨑氏)
上述したとおり、各FASTサービスの宣伝を担当するのはプラットフォーマーであり、BBM社ではない。広告収入の20%が分配されるため、各プラットフォーマーが会員獲得に注力するメリットは十分にあるわけだ。
チャンネルキュレーターは1年契約となり、専門のテーマにおける質の高いコンテンツを常に供給していくことが求められる。同氏によると、FASTチャンネルにおけるコンテンツは、YouTubeなど他メディアで放送したものを再利用することも可能であり、一度放送した番組を再放送することもできるという。なお、番組編成は完全にキュレーターに任せるかたちとなるが、評判が良くなければ1年の契約終了後に交代することもあり得るようだ。
キュレーターのメリットとしては、単なる広告収入だけでなく、FASTチャンネルを通じて自社サービスのプロモーションができる点が挙げられる。番組の概要欄やエンディングに自社サービスのQRコードを貼るなどして送客を促せるのだ。
斬新なビジネスモデルであることから「第3のテレビ」とも言われるFASTチャンネル。事業者からの注目度は高いようで、サービスローンチ後は各方面から問い合わせが相次いでいるとか。
福﨑氏いわく、「スマートTV市場は非常に盛り上がっており、今後より普及していくだろう」とのこと。FASTチャンネルはWebブラウザやスマートフォンでも視聴できるが、視聴時間が増えるのは圧倒的にテレビの大型モニターとなる。特に、ながら見するFASTチャンネルはテレビでの視聴がマッチするはずだ。
今後、どんな事業者がFASTチャンネルに参入するのか。北米で起きているムーブメントが日本にもやってくるのか、目が離せない。
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