「CO2を食べる自販機」が話題! 吸収したCO2はどうなるの? アサヒ飲料に聞いた
“CO2を食べる自販機”としてテレビやSNSで話題となった、アサヒ飲料の「大気中のCO2を吸収する自動販売機(以下、自販機)」が、2023年6月から実証実験を開始している。
国内初となるこの自販機は、設置するだけで大気中のCO2を吸収する。コンセプトは「都会の中に森を作る」であり、自販機が森林のような存在になる状態を目指す。吸収したCO2は、肥料やコンクリートの原料に配合する予定だ。
発表後は、設置の問い合わせが相次いでいるとか。どのようにCO2を吸収し、活かすのか。開発担当者にたずねた。
自販機が「CO2を食べる」仕組みは?
仕組みは、非常にシンプルだ。商品取り出し口の裏側に、CO2を吸収する粉末状の特殊材(CO2吸収材)が設置されており、これが大気中のCO2を吸収する。1台当たりのCO2年間吸収量は、稼働電力由来のCO2排出量の最大20%を見込んでいる。
そもそも自販機は、周囲の空気を吸い込んで商品の冷却や加温をしています。空気の通り道である商品取り出し口の下側にCO2吸収材を設置することで、効率的にCO2を吸収できます(菅沼氏)
これは「DAC(Direct Air Capture:直接空気回収技術)」と呼ばれる最新のCO2削減技術であり、世界各国で研究が進んでいる。アサヒ飲料では、国内でもっともCO2を多く吸収する素材を選定したという。
既存の自販機をそのまま使えるため、費用やオペレーションにかかる時間を最低限に抑える。かつCO2吸収材の補充は、商品補充のタイミングで行うため、配送時のCO2排出量が増える懸念もないという。余計なCO2も排出しない仕組みは画期的だ。
2023年6月から関東・関西エリアを中心に約30台の自販機を稼働させ、CO2吸収量やスピード、オペレーションの検証などを行う。その後、2024年度から本格的な稼働を予定している。
技術革新は進んでいるが……自販機の環境面での課題
アサヒ飲料が自販機の改革に着手した背景には、「自販機の省エネ」が求められている事情があった。
国内には約200万台の自販機があり、そのうち当社が所持しているのが約26万台です。自販機は飲料を販売するだけでなく、災害時に飲み物を無償提供したり、街灯の代わりに道を照らしたり、社会インフラの一部でもあると考えています。一方で、電力消費量は課題です。電力が逼迫(ひっぱく)するような状況下では自販機へのネガティブな意見があり、CO2を吸収する自販機の開発にいたりました(菅沼氏)
約20年前と比較すると、技術革新により自販機のCO2排出量は約60%削減している。しかし、近年は排出量に大きな変化が生まれていない。そこで、新たな手段として「CO2の吸収」に着目した。開発は2022年1月頃から始まり、約1年6か月をかけて発表に至ったという。
吸収したCO2は、肥料やコンクリートとして活用
本プロジェクトは、吸収したCO2を有効活用し、循環資源モデルを構築する点も注目されている。具体的には、次の2つの用途を考えているという:
- 肥料
- コンクリート(ブルーカーボン※含む)
肥料は、CO2を吸収した特殊材に植物の生育に必要な栄養素をバランスよく配合する。大気中のCO2を原料とした肥料は国内的にも事例が見られず、新規性が高いという。活用方法に肥料を選んだ理由は、次の2点ある:
- 畑に蒔いた際に大部分のCO2が土壌に貯蓄される
- 作物の育成に活用できるため、資源循環を身近にイメージしやすい
コンクリートは、なるべく多くのCO2を固定させるため特殊材の配合量を増やしながらも、従来のものと比較して強度が変わらないように配慮した。こういった建材は大手のスーパーゼネコン等ですでに出回っているが、多量のCO2を使用して安価に作れる点がメリットだという。建材のみならず、舗装工事現場での使用も想定している。
さらに、コンクリートを活用した「ブルーカーボン(藻場・浅場等の海洋生態系に取り込まれた炭素を指す)」の取り組みも検討している。CO2を配合したコンクリートは藻類の生育を促進する効果があり、これを海に沈めることでさらなるCO2削減につなげる狙いだ。
共創パートナーを見つけ、本格展開へ
自販機を設置する実証実験と共に、アサヒ飲料が進めているのが共創パートナーを見つけること。プレスリリース公開後、自治体や企業などから予想以上に問い合わせが届いているそうだ。中には、海外からの問い合わせもあったという。
『自販機を設置したい』『CO2吸収材入りの肥料やコンクリートを購入したい』といった問い合わせが多くあります。特に、CO2排出量の目標を掲げている企業様や脱炭素先行地域、ゼロカーボンシティの自治体様から引き合いが強いですね(菅沼氏)
これから約6か月間の実証実験を経て、2024年度から本格展開を目指すわけだが、設置数を増やす云々より吸収したCO2の販路を確立するのが先となる。それをもとに計画を立てたいと菅沼氏は話した。
アサヒ飲料では、2050年までにカーボンニュートラルの達成を掲げており、2030年までに見据えるのは、次世代の自販機の開発だ。CO2の吸収効率を高めたり、自販機の改良により使用電力量を削減したりしたいという。
ほかにも同社では、自社で回収したペットボトルを再びペットボトルに生まれ変わらせる「ケミカルリサイクル」や、ペットボトルのラベルを剥がした状態で販売する「ラベルレス」など、業界に先駆けて取り組んでいる。
「CO2を食べる自販機」が、どの程度の規模で設置されるかは現段階では決まっていない。だが、アサヒ飲料が保持する26万台すべてに搭載されれば、コンセプト通り都会の中に森があるような状態がつくれるかもしれない。
ソーシャルもやってます!