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店頭の“香り”体験で売上1.66倍増 新たなマーケティング手法「香りリテールメディア」とは?

東芝テックらが共同開発した「香りリテールメディア」、これまで課題だった“香り”の販促をデジタル化したことの効果と経緯について聞いた。
香りリテールメディアを活用した「ライオンコーヒー」のキャンペーンの様子(東芝テック提供、以下同)

POSレジなどを提供する東芝テック株式会社と総合企画事業を展開する株式会社スコープは6月17日、香りを活用した新しいマーケティング手法「香りリテールメディア」のサービス開始を発表した。

2社が共同開発した同サービスは、既存の棚に香りが噴射されるデバイスを取り付け、顧客の動きを撮影するAIカメラの映像とPOSデータを紐づけることで、柔軟剤や芳香剤など、香り商材の販促効果を検証できるという。

香りリテールメディアの強みや可能性について、東芝テック リテール・ソリューション事業本部 データビジネスセンター 新規事業推進担当 エキスパートの米畑里美氏に聞いた。

既存の棚に設置して効果検証、消費者の行動を分析できる強み

POSレジのリーディングカンパニーとして、国内小売業者で導入されているPOSレジのうち、約50%のシェアを占める東芝テック。そうした実績をベースに小売業のソリューションパートナーとして新たに展開しているのが、6月にサービス提供を開始した香りリテールメディアだ。

同サービスは店頭に設置された棚に分析に必要な機器を取り付けることが可能で、取得したデータを活用して香りの販促効果を検証できる。実際の利用手順は以下のとおりだ。


1. 棚に設置されたタブレットの表示のうち、試したい香りのボタンをタップする

試したい香りのボタンをタップ

2. タブレット横の穴から香りが噴射される

目の前の人にだけ香りが噴射される

香りは空気状で噴射され、穴の目の前にいる人にだけ香るという。この仕様は、指向性のある噴射機を使用することで実現している。

小売業の方の懸念点として、『他の商品に香りが移ったら困る』という声が聞かれたため、国内にいくつかある噴射機メーカーのうち、指向性に優れたものを選びました。複数の香りを連続でかぐ場合も、香りが混ざることはありません(米畑氏)

消費者の一連の行動は、棚上のAIカメラによって個人を特定しない仕様で撮影されている。撮影データにPOSのデータを紐づけることで、販促効果が数値で示されるという。

AIカメラの映像とPOSデータを紐づけて、販促効果を分析する

分析によって示されるのは、棚前を通った人が、どれぐらい立ち止まって、どんな香りをかぎ、どの商品に手を伸ばして、結果的にどの商品を購入したのか、あるいは購入しなかったのかといった消費者行動の集計データです(米畑氏)

香りの販促のデジタル化、実証実験で売り上げは最大1.66倍増しに

香りリテールメディアが誕生した背景には、芳香剤や柔軟剤、シャンプーなどの消費財メーカーが抱える香りにまつわる課題があった。

香りを訴求したい商品を販売する際、香りを試すセントテスターを売り場に置くと売り上げに貢献することがわかっている。一方で、「ビーズは香りが飛びやすい」「店舗によって設置率や運用体制が異なる」「複数種類を試すのが面倒」「設置や廃棄に手間やコストがかかる」などのデメリットが存在する。

そこで、香りの販促をデジタル化することで、これらの課題を解消できるのではないかと考えた。まずは、アナログの仕組みで実証実験を行った結果、売り上げに効果が見られ、メーカーや小売業者が抱える課題の解決に貢献できる可能性があることが判明したという。

実証実験では、香りを訴求したいハンドクリームを対象に以下の3パターンで香りの販促効果を検証した。

3パターンで実証実験を行った
  1. 香りリテールメディア+サイネージで販促
  2. サイネージのみで販促
  3. 販促物なし

2023年8月23日~10月10日の間、1週間おきに上記の3パターンを順番に繰り返したところ、香りリテールメディアが売り上げに効果をもたらすことが判明した。

「販促物なし」と比較して「香りリテールメディア+サイネージで販促」の売上は1.66倍だった

結果として、「香りリテールメディア+サイネージで販促」の売り上げ効果は、「販促物なし」と比較して1.66倍増し、「サイネージのみ」と比較して1.24倍増しだった。

また、販促物の違いが消費者の売り場の滞留時間に影響を及ぼしていることも判明した。「香りリテールメディア+サイネージで販促」の場合、売り場に10秒以上立ち止まる人や商品に手を伸ばす人が増えた。東芝テックでは、「滞留時間が延びたことが商品への興味・関心を誘起し、購買につながったのではないか」と推測する。

香りリテールメディアは売り場の滞留時間を延ばす効果があった

ハワイ大手コーヒーブランドでの活用も、イオンスタイル天王町店で検証

香りリテールメディアの実用例としては、ハワイブランドのフレーバーコーヒー「ライオンコーヒー」が実施した販促キャンペーンの「飲まないカフェ」がある。

ライオンコーヒーはハワイ最大手のコーヒー製造・販売会社であるハワイコーヒーカンパニーが製造するフレーバーコーヒーで、バニラやマカダミアナッツ、キャラメル、チョコレートなど、豊富なフレーバーを売りにしている。香りを体験できる場を提供することで、購入や新規ファンの獲得につなげたいと考えたのだ。

2店舗のスーパーマーケットで展開していた「飲まないカフェ」

ライオンコーヒーのキャンペーンでは、コーヒー豆の香りというより、コーヒーを淹れたときの香りの再現にこだわりました。甘く香ばしい香りに包まれる癒やしの時間を提供したいという考えが先方にあり、香りリテールメディアの採用につながりました(米畑氏)

同キャンペーンは、イオンスタイル天王町店にて6月17日から7月16日まで、イオンナゴヤドーム前店にて6月20日から7月19日まで実施された。販促効果が大きかった店舗では、前月比で約2倍の売上数量になったという。特にドリップパックの伸びが目立ち、試し買いにつながったようだ。

該当店舗の店員にも取材したところ、以下のコメントが寄せられた。

何種類か香りを試した後、好みの香りで商品の購入を決めたようだった

親子連れなど、これまでライオンコーヒーを手に取らなかった層の人たちが興味を持った印象があった

普段は定番の商品が多く購入されるのに対し、香りが試せることで定番ではない商品がよく購入されていたようだ

香りを試した後にドリップバッグで試し買いされている人が多かった

ビジネスモデルは2パターン、さまざまな商材での活用に期待

香りリテールメディアのビジネスモデルは、現状、以下の2パターンで進めているという。

1. 小売業者に年間契約でシステムを提供

小売業者に対してシステム一式をリースする。契約期間は1年契約からで、メーカーを入れ替えながらの長期使用を見込んでいる。小売業者の判断にはなるが、メーカーが小売業者へ販促実施費用を支払い、両社で費用を負担するモデルを想定している。

2. メーカーに短期間のプロジェクトとして提供

短期間のプロジェクトとしてメーカーに提案し、メーカーが全費用を負担する。期間や店舗数はメーカーの希望に沿うが、原則として短期間×数店舗での実施を想定。1企画単位での支払いとなる(ライオンコーヒーの販促キャンペーンは、同ビジネスモデルとなる)。

 

費用は規模や契約期間によって異なり、都度問い合わせが必要とのこと。従来のビーズなどのセントテスターと比較してコストダウンになるかというと、そうではないとの回答だった。ただし、これまで見えなかった販促効果の分析が可能になり、セントテスターの管理や廃棄の手間が不要になる付加価値は大きいと考えているという。

現在、各方面から問い合わせがあり、消費財メーカーだけでなく、香水ブランドや飲食メーカーからも関心が寄せられているそうだ。さまざまな商材における販促効果が証明できれば、活用が広がるかもしれない。

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