なぜ「チョコザップ」は人気? 成功の裏に“規格外のマーケティング戦略”あり
ライザップグループは2022年7月、“コンビニジム”として「chocoZAP(チョコザップ)」をブランドスタートした。
月額2,980円で24時間利用可能。トレーニングマシンのみならず、セルフの脱毛やネイルなどの美容サービスにマッサージチェア、ワークスペースと、「フィットネスジム」の領域を超えた施設だ。店舗数は1,333に拡大、会員数は112.4万人となる(2024年2月14日時点)。
人気の背景には、「47店舗の覆面出店」「膨大な数のチラシやWeb広告のA/Bテスト」といったマーケティング施策があるという。マーケティング本部長・鈴木隆之氏に話を聞いた。
ネイルや脱毛、ゴルフもできる“コンビニジム”の「chocoZAP」とは?
chocoZAPは、運動初心者の方をターゲットにしたフィットネスジムです。というのも、日本では日常的にフィットネスジムに通っている人は約3%とごく少数です。小さなパイを競合と奪い合うより、残りの大多数をターゲットにしたいと考えました(鈴木氏)
24時間無人で運営しているchocoZAPは、平均30~40坪程度の広さにランニングマシンやエアロバイク、部位ごとに体を鍛えるマシンなど約11種類のトレーニングマシンを完備。トレーニングウェアの着替えや運動シューズが不要で、私服で気軽に運動できるのが特徴だ。
さらに、次のセルフサービスも兼ね備える(導入サービスは店舗によって異なる)。
- セルフネイル
- セルフ脱毛
- セルフホワイトニング
- マッサージチェア
- ゴルフ練習スペース
- ワークスペース など
利用者の反応を見ながら、オープン後にサービスを拡充してきた。トレーニングマシンは予約不要だが、その他のサービスは基本的に事前予約制となる。
開業当初は「無人格安ジム」のイメージが強かったが、次々と付加価値が増え、あちこちに店舗がオープンし、認知度もグッと向上。1年5か月ほどで会員数100万人を達成した。
現在の利用者層は20代~30代がもっとも多いが、40~50代も少なくない。男女比は男性が48%、女性が52%だ。一般的なフィットネスジムは男性が優勢といわれているが、初心者向け、かつ美容サービスの提供が女性に支持されているのかもしれない。
RIZAPの名前は一切出さずに47店舗出店、集客や継続率を検証
これまでRIZAPでは、「健康的に痩せたい」「美しい身体になりたい」と切望する人をターゲットに、結果にコミットするパーソナルトレーニング事業を展開し、成功を収めてきた。
一方、chocoZAPは運動へのモチベーションがそれほど高くない初心者を広くターゲットにしている。そこで、顧客のリアルな反応を見るために同社が実施したのが、大量の覆面店舗でのテストマーケティングだ。
まず、chocoZAPブランドがオープンする以前の2021年10月頃から、覆面店舗の出店を開始した。RIZAPの名前は一切出さずに、『FIT PARK』『FIT FILED』などの名前を付けて、オフィス街、駅前、山手線の圏内、やや都心から離れた住宅地など複数エリアで展開。似たような条件で出している店舗の価格帯や設備、サービス設計を一部変えて、集客や継続率などを検証した。
47店舗でA/Bテストをくり返した結果、いろいろなことが見えてきました。たとえば、さまざまな部位を鍛えられるマルチマシンよりも、一部位だけを鍛えるシンプルなマシンのほうが好評だったり、対面や遠隔でトレーナーが教えるスタジオプログラムがあまり好まれなかったり。
そうした反応を踏まえて『美容サービスも取り入れた設備』『完全無人で24時間運営』『月額2,980円』のビジネスモデルでスタートすることにしました(鈴木氏)
「大量のチラシ・Web広告」でA/Bテストを実施
chocoZAPがオープンしてからは、チラシやWeb広告、ランディングページを大量に制作。その数はチラシ560種類以上、バナー広告8,600種類以上、ランディングページ260種類以上にのぼる。
なぜなら、複数ある提供価値のなかで何がもっともターゲットに刺さるのか検証するためだ。「手軽さ」「サービスラインナップ」「コスパ」など、切り口を変えたクリエイティブを制作し、A/Bテストを実施した。
キャンペーンのタイミングなどに複数の広告パターンを作って、もっとも反応が良かったものを『勝ちパターン』とする。次はまた異なるパターンを複数作って、勝ちパターンと比較する。そうやって素早くPDCAを回しながら、ベースをブラッシュアップしていきました(鈴木氏)
アプリを使ったCRM施策が、退会率の抑制に貢献
chocoZAPの入会手続きはウェブで行い、次の3点が必要となる。
- メールアドレス
- クレジットカード
- スマホ
またジムの利用には、会員専用アプリのダウンロードが必須だ。アプリには次のような機能がある。
- 入館証
- 美容サービスなどの予約
- トレーニングマシンの使い方などの動画閲覧
- 体重や体脂肪率の記録※1
- 食事の記録※2
入会者を増やすことも重要だが、ジムの運営においてもっとも重要な指標は「退会率(継続率)」だと鈴木氏は言う。明確な数値は公開していないが、サービス開始時の退会率を「1」とすると、2023年9月時点では「0.62」まで退会率を抑制できているそうだ。
chocoZAPでは継続している人、していない人の利用状況の違いをよく見ているという。たとえば、次のセグメントの継続率を比較する。
- 「来店回数が月4回以上の人」と「1〜2回の人」
- 「トレーニングマシンだけを使っている人」と「その他サービスも併用している人」
- 「専用アプリのコンテンツを積極的に使っている人」と「そうでない人」
何が継続のモチベーションに影響しているのかを分析しています。いくつかの側面がありますが、『フィットネス以外のサービスの併用』は継続率へ寄与する要素の一つです。日によってトレーニングマシンと美容サービスを使い分けている方もいれば、運動ついでにワークスペースで仕事をする方もいます(鈴木氏)
加えて、専用アプリを使ったCRM施策も継続率に貢献しているようだ。chocoZAPはビジネスモデル上、100%の会員が専用アプリを使用しており、デジタル上でのコミュニケーションがしやすいという。
たとえば来店頻度が落ちている会員には、RIZAPの熱血トレーナーが「今日ジムに行こう。私がジムで待ってます」と促す動画などをアプリ上で配信している。
来店頻度が落ちている方には来店促進を、一部のサービスだけを利用している方には別のサービスのレコメンドを送るなど、セグメントしてデジタル上でコミュニケーションをしています。ここでも複数パターンを作ってA/Bテストをしていて、これが地道に効いています(鈴木氏)
とはいえ、結果的に退会率が抑制できている一番の理由は、「通うハードルをとにかく下げているためではないか」と鈴木氏。
短期間で店舗数を増やして、家や職場の近くにchocoZAPがある状態を作り、かつ着替えやシューズも不要なので、スキマ時間に通いやすいのだと思います。昼休みにスーツのまま運動するなど、柔軟に利用できるのも継続率につながっているのかなと(鈴木氏)
生成AIを活用し、個別最適化したコミュニケーションへ
これまで順調に推移してきたchocoZAP。これからの取り組みとして、鈴木氏は「より個別最適化したコミュニケーションをしたい」と話す。
アクティブにアプリを活用している方だと、体重や体脂肪率に加え、食事内容や運動内容も記録されています。そのライフログをベースに個別のフィードバックやレコメンドをしていけたらと。
現在、RIZAP事業で培ったパーソナルトレーニングのノウハウを活かしながら、生成AIを活用した自動フィードバックの開発を進めています(鈴木氏)
一方で、初心者を対象としたchocoZAPでは、ライフログを記録するほどのモチベーションがない人も少なくない。そういった人に対しては、トレーニングの内容云々より継続を後押しするコミュニケーションを重視したいという。
トレーニングマシンを使った運動は週2回、5分間だけでも継続すれば効果が出ますし、体重や体脂肪率を減らさずとも、キープできるだけでも健康的といえます。体の変化より、継続に対するフィードバックで動機づけをしていきたいです(鈴木氏)
chocoZAPは、2026年3月までに2,800店舗、2027年3月には3,800店舗の出店を目指している。これまで同様にPDCAを回しながらサービス設計やオペレーションを進化させていく予定だ。次はどんな新サービスが登場するのか、期待したい。
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