生成AIが変えるSNSマーケティング ── 運用の効率化とユーザーからの信頼の両立
オーガニック運用・広告配信・危機管理など、企業のSNS活用のポイントや最新情報を、SNSマネージャー養成講座の講師陣「チーフSNSマネージャー」のメンバーが、それぞれの得意分野を中心に解説します。
今回は、上級ウェブ解析士としてもデジタルマーケティングコンサルタントとしても活躍する積高之氏が回答します。

最近、生成AIを活用した投稿に興味がありますが、AIらしさが強すぎるとユーザーに抵抗感を与えてしまいそうです。そのあたりを含め、どんなところに気をつけたらいいでしょう?

AIが作成したアイデアや下書きをそのまま使うのではなく、人間が“最後の仕上げ”をすることがポイントです。たとえばブランド独自の言い回しや、ターゲットユーザーの感情に寄り添う表現をプラスするだけで、“AIらしさ”が薄まり、人間味や誠実さが伝わりやすくなります。また、誤情報や不自然な表現がないか、しっかりとチェックを入れることも大切です。
AIとSNSの関わり方をいったん整理
昨年(2024年3月)に書いた記事から、早くも1年が経過しました。この間に生成AIの世界はさらに大きく進化しています。ここでは、最新の生成AIの動向を踏まえ、SNSマーケティングでの活用事例や注意点を改めて整理したいと思います。
私はコンサルタントとして多くの企業のSNS運用をサポートしてきましたが、SNSのプラットフォームが多様化し、アルゴリズムの頻繁な変化によって効果が変動するため、それに対応する担当者の投稿負担が増え、運用を外注する動きも一般的になってきたと感じています。
こうした状況のなかで、生成AIを上手に活用すれば、業務の効率化だけでなく、投稿の質やブランドイメージの向上にも大きく貢献できると感じています。その一方で、AI特有のリスクやユーザーが抱く嫌悪感など、新たな課題も浮上しています。本稿では、「生成AIのSNS活用について」、メリットと課題、具体的な活用法を提示しながら、現時点での考え方をまとめてみました。
生成AIは、SNS業務の効率化・品質向上に大きく貢献
まず、生成AIをSNSマーケティングで活用する最大のメリットは、圧倒的な作業効率化と、コンテンツの質向上にあることです。SNS運用担当者は日々多岐にわたる業務を抱えており、投稿内容のアイデア出し、画像や動画の準備、文章作成、さらにキャンペーン管理や分析レポートの作成など、時間のかかるタスクが山積みになっています。昨年の記事でも触れたように、生成AIは文章や画像、動画など、さまざまなコンテンツを短時間で大量に生成できるため、投稿制作にかかる負担を大幅に減らすことが可能です。さらに、AIが学習した膨大なデータをもとに、人間では思いつかない独創的なキャッチコピーやクリエイティブ表現を提案してくれることもあり、ブランドの魅力を引き立てるうえでもおおいに役立ちます。

実際の運用としては、たとえば「天秤AI byGMO」のように複数の生成AIを一元管理できるツールを活用しながら、さまざまな角度や特性を持つLLM(大規模言語モデル)を活用し、アイデアの段階からAIの力を借りるケースが増えてきました。昨年の例では“AuroraGlow”という架空の化粧水メーカーを想定し、AIに質問を投げることで投稿ネタを提案してもらいましたが、こうした“ネタ出し”の工程こそがSNS担当者にとって時間を要する部分でもあります。AIが作成した下書きをさらにブラッシュアップし、ブランド独自の文脈やターゲット層のニーズに合わせて調整すれば、短期間で質の高い投稿に仕上げられるでしょう。
さらに、「FLUX AI」や「Leonardo AI」のように高度な画像生成を行う生成AIも登場し、とくに「ImageFX」の登場によって画像生成のクオリティは飛躍的に向上しました。自社製品を画像内に組み込む際は、各ツールの「image to Image」などの機能を使うことで、製品などを固定して画像生成することが可能です。また「Shutterstock」など各フォトストックも、権利関係をクリアにした画像をベースにAI生成できるプラットフォームを提供し始めており、権利関係に気を遣わずに効率的な画像準備ができる点も大きな強みです。
課題はユーザー感情と正確性
一方、ここ1年であきらかになった課題として、ユーザーが生成AIに対して嫌悪感を抱く場合がある点を見逃せません。AIならではの機械的な文章や、量産されすぎた投稿は、受け手に「ロボットが書いた宣伝文句のようだ」という印象を与えてしまう恐れがあります。これはブランドにとって貴重なファンを失うリスクでもあり、単に投稿数を増やすだけでなく、“人間味”をいかに演出するかが重要になってきます。さらに、以前より精度は上がっているものの、LLMの性質上、AIが“ハルシネーション”と呼ばれる誤情報を生成したり、不適切な表現を含んだまま投稿してしまうリスクも依然として存在します。とくにエビデンスや数値を示す場合は、必ず人間がチェックして正確性を担保する手間が不可欠です。

さらに、AIを活用した大量投稿はスパムと見なされるリスクがあり、各メディアから投稿制限やアカウント停止などの処分を受ける可能性もあります。効率を追求するあまり、投稿頻度が過剰にならないようにすることや、投稿の方向性に一貫性をもたせることはこれまで以上に重要です。結局のところ、生成AIを導入してすべてを丸投げするのではなく、AIと人間の役割分担を明確にし、ブランドらしさやストーリーを投稿に盛り込むための“最後の仕上げ”を人間が行うことが、嫌悪感を最小化するカギになります。
また、技術動向と社会での受け入れ状況を敏感にキャッチすることも重要です。すでに文章生成や先述の画像生成はメディアに溶け込んでおり、SNSの投稿に活用しても、それ自体は大きな問題にはなりません。プロンプトからの画像生成に驚いていた時期はすでに過ぎ、ネット広告などで生成されたモデルが使われていることは、さほど珍しくない状況です。嫌悪感も何も、すでに「気付かない」レベルまで浸透していると言えるでしょう。
しかし、動画生成のAIについては「Sora」「Hunyuan Video」「Pika2.1」など、以前に比べて大幅にクオリティが向上しているものの、現時点ではまだ十分な水準に達していないことや、社会に完全には受け入れられていない点が課題です。トップクリエイターであるKaku Drop氏が作成した日本マクドナルドのCMが炎上した例は記憶に新しく、クオリティの問題だけでなく、受け入れる社会側の問題も大きいと感じます。受け入れ側、つまり私たちが対象としている「マーケット」そのものが、まだ十分に受け入れられていないのです。
具体的な対策
では、こうした点を踏まえつつ、昨年から紹介しているAuroraGlowの事例をもとに具体的な手順を振り返ってみましょう。まず、投稿アイデアを練る段階でAIに対話し、「化粧水の基礎知識」「ビフォーアフター」「季節に応じたケア提案」「インフルエンサー活用」など、多岐にわたるテーマを箇条書きで提示してもらいます。その段階では、前述のツールに加え「Genspark」などに実装されたエージェント機能を活用して複数のLLMを使用することで、表現の多様化やハルシネーションのチェックが可能になります。
次に、ブランドコンセプトやターゲット層に合ったアイデアを人間の目で振り分け、必要があれば「もっと具体的に」とAIに追加指示を与えます。続いて、決定したテーマに沿ってキャッチコピーや本文を生成し、さらに画像生成AIを活用して投稿に添えるビジュアルを作成します。最後に、誤字脱字や事実誤認がないかを確認し、ブランドのトーン&マナーに合うよう調整すれば、投稿は完成です。このような手順を踏むことで、AIの恩恵を活かしつつ、人間が品質を担保する体制を構築できます。
もちろん、AIの活用だけがSNS運用のすべてではありません。ユーザーと直接コミュニケーションを取るリプライ対応や、フォロワーの声を反映して商品開発につなげるコミュニティ運営など、人ならではのきめ細かな対応も、ますます重要になっています。生成AIが提案するキャンペーンや投稿をそのまま公開して終わりにするのではなく、その反応を分析し、次の改善に活かすサイクルを回していくことで、初めて本当の意味で「ブランドのファンづくり」が実現するのだと思います。

まとめ
まとめると、生成AIはSNS投稿において非常に強力なツールであり、特にアイデア創出や大量のコンテンツ制作、画像生成などの面で飛躍的な効率向上を実現します。しかし、その反面でユーザーに「機械的」「不自然」と感じられる可能性がある他、誤情報の流布やプラットフォーム上でのスパム認定といったリスクも潜んでいます。だからこそ、AIと人間による二重チェックや、投稿テーマとの整合性、ブランドの世界観を損なわない工夫が不可欠です。
中小企業のSNS担当者の皆さまには、生成AIを堅実に活用しつつも、人間ならではの洞察力や誠実さを存分に発揮していただきたいと思います。そうすることで、SNS運用の効率と成果を同時に高めることができるはずです。
2020年より私たちは、「SNSマネージャー養成講座」という資格試験をスタートしました。SNSマネージャーの上位資格である上級講座では、実際に運用しているアカウントをサンプルにして、徹底的に運用目的とKPIなどの必要項目を掘り下げて企画書を作成するワークを実施しています。
この記事を読んで「理屈はわかったけど、実際自社のアカウントに当てはめるとピンと来ない。さてどうしたものか……」とお悩みのあなた。ぜひチャレンジを。
タイトルデザイン、タイトルイラスト:995(Twitterアカウント)
三度の飯より猫が好きなイラストレーター。ゆるくてかわいいイラストが得意です。
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