テレビCMの効果測定に、「注視率」の指標を導入する大手企業が増えている。これは、テレビの前にいる人が“実際に画面に目を向けているか”を評価したデータで、「CM効果の最大化」や「制作コスト・時間の効率化」に役立つという。本記事では、同サービスを提供するREVISIO(以下、リビジオ) の東野氏への取材を通じ、KDDIなど大手企業の事例を織り交ぜながら、「注視率を活用するメリット」を紐解いていく。
「個人滞在率」と「個人注視率」を専用機器で計測
従来、テレビCMの効果測定は、「GRP(延べ視聴率)」「問い合わせ数」「Webサイトへのアクセス数」「購入数」といった数値に加え、アンケート調査などによる「ブランドリフトの変化」を基準にするのが一般的とされる。リビジオが提供する注視率は、そうした手法では明確にわかりづらい「CMがしっかり見られたかどうか」を評価することを目的に、2015年に誕生した。
独自の調査パネルを構築している同社では、調査に協力している世帯のテレビに、最先端の人体認識技術を搭載した機器を設置。プライバシーに配慮した形で、その世帯に住む個人を自動的に識別して、1秒ごとの視聴データを計測している。
人口統計に基づいた調査パネルを構築していて、関東で2000世帯、関西で600世帯にご協力いただいています。人体認識センサーを用いて、「個人滞在率」(テレビの前に人が滞在しているか)と、「個人注視率」(テレビの前にいる人が顔を向けているか)の2つを取得しています(東野氏)
よりくわしく説明すると、人間の写真データを学習させたAIにより「顔の向き」を判定しているとのこと。アイトラッキングのように目の動きを直接追うのではなく、顔がテレビへ向いていれば「注視している」と判断、顔が横や下を向いていれば「注視していない」と判断するという。
テレビを視聴する際のリビング環境、機材やデータの長期取得にともなう視聴者負担を総合して、現在の技術が最適だと判断しました。たとえば、アイトラッキング技術はテレビと視聴者との距離や機材などの観点で、長期的なデータ取得に課題がありました(東野氏)
データで判明、「見られやすい・見られづらい」CMの要素
リビジオでは、注視率を活用してCM効果を検証する4つのサービスを提供している。
- CMの効果検証ツール「REVISIO One(リビジオ ワン)」
- CTV(コネクテッドTV)の動画配信サービスを横断してCMを評価するツール「コネクテッドTVデータソリューション」※調査は関東2000世帯のみ
- CMのアテンション(注視)をAIが予測・分析するツール「AIコンテ・クリエイティブレビュー」
- アドホックレポート(企業の個別課題に対応したレポート納品)
主軸となるのは「リビジオ ワン」で、テレビCMのクリエイティブや地上波、及びCTVにおけるメディアプランニングの評価ができるSaaSツールだ。クリエイティブの評価では、同社の独自指標である「Cスコア」を使用する。これは、該当テレビCMの注視率を放送時の同時間帯・同枠の全テレビCMの注視率平均と比較して算出している。
Cスコアは100を平均値としており、1秒ごとに数値の変動を分析します。100を超えると平均よりも「見られやすい」、100未満だと「見られづらい」と評価され、多くのCMは「80〜120」の枠に収まります。リビジオ ワンでは、自社のCM評価だけでなく、競合のCMとスコアを比較したり、全データの中から注視傾向を分析したりすることも可能です(東野氏)
いずれも月額利用料は数十万円〜となり、導入企業は、年間数億円レベルの広告予算を持つ大手企業が中心だ。特に相性の良い領域としては、テレビCMを見てから購入に至るまでに「認知」「理解」「来店」など複数のプロセスがある商品・サービスが挙げられるという。
「飲料」「食品」「通信キャリア」などはまさに相性が良く、実際に多くの企業に導入されています。そうした企業は「想起」や「認知」の指標をKPIにしており、認知された後、段階的なプロセスを踏んで購入に至るケースが多いと思います。逆に当てはまらないのは、「通販」などになります。CMを見た後に「電話をかけて注文する」など購買行動へのプロセスが短いので、「それなら注文数を計測すれば十分」と考える事業者が多いためです。この場合は、「CMが見られたかどうか」は、さほど重要になりません(東野氏)
延べ10万本以上のCMを分析してきた同社には、CMにおける「見られやすさ」や「見られづらさ」に関連するデータが溜まっているという。視聴者の年代や放送時間によって注視率は変化するが、東野氏は共通する要素として以下の例を挙げた。
見られやすい要素
- 問いかけや疑問詞
- 音の抑揚
- シーン設定のリアリティ
- ハッピーな表情
見られづらい要素
- 情報量が多い
- 画面が暗い
- ナレーション秒数が半分以上
上記のような演出上の要素以外に、「タレントの好感度」や「CMの長さ」なども影響するのではないかと予想したが、それほど影響はないそうだ。
タレントの知名度・好感度によってCスコアが向上するのは、ごく一部です。ほとんどのケースは、タレント・企画・演出それぞれの相性が掛け合わさって、Cスコアが変わってきます。尺なども直接的には関連がなく、「見られる要素」が凝縮されていることが最も重要と言えます(東野氏)
続いて、KDDIおよび大手電機メーカーによる注視率の活用事例を紹介する。
注視率の活用事例①「KDDI」リーチ効率を12%改善
KDDIでは、「地上波とCTVの予算配分の最適化」を目的に2023年から取り組みを開始。結果として、12%のリーチ効率改善を達成したという。
同社では、2019年から注視率を活用した「アテンションユニークリーチ(以下、A-UR)」※を指標にしている。もともとはGRPを指標にCMを評価していたが、GRPは企業側の努力では改善しにくいため、課題を感じていたという。そこで、注視率をもとにした指標を採用することで、より見られやすい番組への放送実績を積み上げ、CM効果の改善を重ねていった。
※アテンションユニークリーチ:該当企業のCM放送時に少なくとも1回以上接触した(テレビ画面を向いていた)人の割合
さらに、2023年からはCTVにおけるCMも同様に評価することに。それ以前は地上波とCTVを別々に評価していたが、その境界線をなくし、CTVも「テレビデバイス」としてA-URで評価するようにした。
同社がターゲットとする20〜34歳の男女のA-URを最大化するにあたり、「CTVへの出稿予算をどの程度にするのがベストなのか」が焦点でした。若者のテレビ離れは事実ですが、テレビのリーチ力は未だ高い。一方で、CTVの広告費は年々拡大しており、2028年には2270億円に達すると予測されています(サイバーエージェント/デジタルインファクト調べ)。実際に、CTVでの注視率も高い数値が出ています。そこで最適な予算配分を割り出し、CTVへの予算を増額したところ、リーチ効率が12%改善しました(東野氏)
注視率の活用事例②「大手電機メーカー」CM認知を13%向上
ある大手電機メーカーでも、注視率の活用によりCM認知を13%向上し、制作時間を約3分の1に削減したという。電機メーカーとして後発である同社は、マーケティングにおいてブランド認知の向上を重要視している。メインターゲットは30〜40代の消費者で、2020年4月からテレビCMを軸にコミュニケーションに注力してきたという。
そんななか、有名俳優を起用した新たなテレビCMを2024年3月に放映するにあたり、注視率を活用した仮説検証を行った。リビジオでは、注視率をベースにした企画コンテ・演出コンテの改善提案を提供しており、同社はこのサービスを活用した。
同事例では、「見られたいシーンで注視を獲得する」「毎秒のCスコアを高める」「過去のCMよりも注視を獲得する」の3点を目標に支援しました。企画コンテと絵コンテの2回に分けてアドバイスを行い、特に後者では、視聴者に躍動感を感じてもらうための「効果音の入れ方」やセリフにおける「感嘆詞の有無」「画面の明るさ」など細かい点まで言及しました(東野氏)
その結果、同CMの平均Cスコアは107ポイントとなり、前回のテレビCMから約10%上昇。ターゲット層に限定すると、113ポイント(約20%上昇)に向上した。同社では認知度が13%向上したと評価。リビジオの調査でも、注視を高めることで認知度の獲得に差が生じることがわかっている。また、該当CMをYouTubeでも展開したところ、過去最高の完全視聴率となった。
改善したCMは画面の切り替わりがスピーディで、「緩急がある展開」や「タレントの呼びかけ」によって視聴者を引き付けています。また、観葉植物や家電を配置するなど生活感のある背景シーンが多く、「自分ごと化されやすい要素」が含まれている点も注視率向上につながりました(東野氏)
「地上波」と「OTT」の境界線は曖昧になっている
リビジオでは、リビジオ ワンを引き続き主軸としつつ、コネクテッドTVデータソリューションの導入拡大に取り組んでいくという。その背景には、地上波とOTT(Over The Top:インターネットを介して視聴者に直接提供されるメディアサービス)の境界線が曖昧になっている実態がある。
リモコンのボタンで「Netflix」「TVer」「YouTube」などのストリーミングサービスを視聴できるため、CTVの視聴者は地上波と同じような感覚で、こうしたサービスを利用するようになっています。CTVの広告費は前年比の約30%増で拡大していくと予測されており、各社のCM戦略において、より重要な媒体になると認識しています(東野氏)
あくまで平均的な傾向だが、リーチ力や視聴時間は、まだまだ地上波が優勢だ。一方で、注視度はCTV、なかでもOTTメディアが高い。「なんとなくつけることが多い地上波と比較し、OTTは目的を持って選ぶことが多いためではないか」と東野氏は話した。
そうしたなか、信頼度の高いCM評価指標として注視率への注目はより高まっていく可能性がありそうだ。
写真提供:REVISIO
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