デジマ4つのマイルール

「なぜかプロジェクトが停滞する…」noteのPdMが語る、物事を前に進める仕事術

デジマ領域で活躍する人は、壁にぶつかったときどう動くのか。noteのプロダクトマネージャー・中村氏に4つのマイルールを聞いた。

久保 佳那[執筆], 小沢トモノリ[撮影], 前田佳保里[デザイン], 井上薫[編集]

7:05

「会議ばかりで、プロジェクトがいっこうに前に進まない」
「正解を探すあまり、結局誰も自分の意見を出さない」

誰も明確な答えを持たず、お互いに様子見をして停滞するチームに、もどかしさやイライラを募らせた経験はないだろうか。そんな膠着状態を打ち破るための「打ち手」とは——。

noteが運営する物語投稿サイト『TALES(テイルズ)』のプロダクトマネージャー(PdM)である中村昭氏は、あえて“泥臭いアプローチ”を取ることで、幾多のプロジェクトを動かしてきた。パナソニック、起業、DeNAを経て現在のnoteに至るまで。多様なアウェイ環境で周囲を巻き込み、物事を確実に前進させてきた中村氏のキャリアと、4つのマイルールに迫る。

note株式会社 プロダクトマネージャー 中村 昭氏

誰かが橋をかけなければ物事は進まない

4つのマイルール

ルール1議論の「橋」をかけるため、自らアイデアを投げる

中村氏は大学院修了後にパナソニックに入社し、情報システム部門でデータ分析などを担当していた。そんな彼に「今の自分の土台になっている」という転機が訪れたのは、入社3年目のことだ。

中国拠点でのエアコンEC販売プロジェクトにおいて、数人のチームで行くはずの出張に、急遽、中村氏が単身で乗り込むことになったのだ。言葉の壁もあり、当初は事あるごとに日本のプロジェクトリーダーに電話で相談していた。

現地にいる本社側のメンバーは私しかいません。初めは日本の上司の指示を仰いでばかりでしたが、それではなかなか物事が前に進みません。自分には何ができるだろうかと悩みました(中村氏)

孤独な環境で幾度かの出張を重ねるうち、中村氏は腹をくくった。「誰かの正解」を待つのではなく、自らが起点となって動くしかない。

そう考えた中村氏は、まず中国のユーザーがエアコンに求めるものは何かをデータから分析した。当時はPM2.5が社会問題になっていた頃で、「きれいな空気を出すエアコンを打ち出すべきではないか」という仮説を自ら提起したのだ。

プロジェクトの意思決定に、絶対の正解はありません。物事を前に進めていくためには、たとえ的外れだと思われても、まずは自分がアイデアの「球」を投げてみることが重要です。全員が同意しなくても、そのアイデアに対する反論や意見が出れば、それが議論の「橋」となり、プロジェクトは確実に前に進みます(中村氏)

自らリスクを取って意見を投げる姿勢は、現地メンバーとの距離も変えていった。中国支社のメンバーのすぐ近くに座って仕事をし、積極的に対話を重ねていく。そうして少しずつ築き上げた信頼関係は、プロジェクトを終えて帰国する頃には、「私たちは兄弟だ」と肩を組み、夜遅くまで白酒を飲み明かすほどに強固なものになっていた。

「たとえ的外れでも、まずは自分が意見の球を投げることが大切」と語る中村氏 

大企業の安定を手放し、失敗を見据えた起業

ルール2未知のリスクに備えるため、最悪の事態を想定する

中村氏が、パナソニックで次に経験したのはR&D部門だ。しかし、業務を通じて「自分が実体験として腹落ちしていない領域では、なかなか良いアイデアが出ない」という壁にぶつかる。そこで、会社の業務とは完全に切り離し、あくまで個人の副業として、自身が本当に欲しいサービスを小さく立ち上げてみることにした。

男性向けの洋服レンタルサービス「ビズ服」を始めました。当時はクールビズが浸透し、ビジネスカジュアルで通勤するようになったのですが、私はおしゃれではないので何を着ていいかわからず困っていました。きっと世の中にも、同じ悩みをもつ人がいるはずだと考えたのです(中村氏)

レンタルサービスの立ち上げに際しては、まずWebサイトを立ち上げ、需要を確認するところから始めた。ユーザーからの注文に合わせて、レンタルする洋服の在庫を少しずつ増やしていく。当初は土日だけの副業のつもりだったが、想像以上にニーズがあり、順調にビジネスは拡大していった。

そこで中村氏はパナソニックを辞めて、レンタルサービスの事業一本でチャレンジすることにした。どのような考えがあったのだろうか。

このまま大企業で、これまでの延長線上で働き続けるより、起業という新たな経験をした方が、自分のキャリア全体でプラスになると考えました。とはいえ、事業がずっと継続できるとは思っていなかったので、2年ほどの期間を想定しました。

さらに、独立する前に転職エージェントに相談し、「一度起業してからでも、再び転職できるか」という“撤退後の選択肢”まで確認してから決断を下したのです。また、転職時の選択肢が多い環境に身を置くため、起業のタイミングで大阪から東京へ引っ越しました(中村氏)

先々の失敗リスクを緻密に計算した上での独立だった。起業後も、あくまで短期ビジネスの想定だったため正社員は雇わず、自身とパートスタッフのみで身軽に事業を回していく道を選んだ。

その後、中村氏は婚約をきっかけに、事業を副業にして会社員に戻ることを決め、DeNAに転職した。DeNAを選んだ理由は、新規事業の立ち上げを積極的に行い、チャレンジする人を受け入れる風土だったからだ。DeNAでは新たなBtoB事業の立ち上げに向けて企画や社内検証を主導したものの、タイミングが重なり事業クローズとチーム解散を経験。その後、社内外を問わず新規事業に携われる環境を探していたときに出会ったのが、noteだった。

これまでのキャリア

ボツの連続でも前を向けるワケ

ルール3建前ではなく、本音を素直に話す

中村氏がnoteに転職したのは2024年のことだ。物語投稿サイト『TALES』立ち上げのタイミングで、専任のプロダクトマネージャー(PdM)に就任した。当時、プロダクトの方向性やユーザー体験を固めていく段階だったが、もっとも苦労したのがトップページの設計だったという。

プロダクトの方向性として、TALESは写真や画像を使用せず、文字だけで読ませるサイトにすると決めていました。画像を使えるようにすると、どうしても「絵が描ける人」が優遇されてしまうからです。

しかし、一般的なWebサイトにあるようなサムネイル画像がないと、どうしても殺風景になってしまいます。どんなデザインにするべきか、デザイナーと話し合って形にしては、週に一度の経営会議でプレゼンするのですが、ボツになる日々が続きました(中村氏)

試行錯誤の末に完成したTALESのトップページ。noteのレイアウトを踏襲しつつ、「テーマカラー」と「本を模したUI」で画像なしでも文字が際立つ設計に

入社直後から経営層にプレゼンし続けるのはタフな仕事に思えるが、中村氏は「間に人を挟まず、ダイレクトに進められるのでむしろやりやすかった」と語る。大企業のように何人もの関係者を通すための根回しや準備に時間を奪われることなく、経営層から直接、明確なフィードバックをもらえたからだ。

さらに、noteの心理的安全性の高さも前向きな姿勢を後押しした。

「良いものを作りたい」というみんなの目線がそろっているので、評価の良し悪しはあくまでアイデアに対するもので、人に向かうことがありません。だからアイデアがボツになっても、より良いものを生み出す過程に必要なことだと捉えられました(中村氏)

仕事が順調に進まないとき、どうしたら中村氏のように前向きに捉えられるようになるだろうか。

大事にしているのは「抱え込まない」ことです。じっくり練ったアイデアがボツになって塞ぎこむのではなく、一緒に検討してきたデザイナーやエンジニアのところに帰って『いやぁ、ボコボコにされましたね』と言って笑い話にしてしまいます。変に建前で取り繕うのではなく、自分の考えや状況を素直に話すようにしています(中村氏)

この「腹を割って話す」ことの威力を知ったのは、実は個人事業を経営していたときのことだ。クリーニング会社との提携交渉が難航した際、「もう本音でぶつかるしかない」と覚悟を決めた中村氏は、先方の社長が毎朝通う銭湯に6時半に出向き、裸の付き合いで想いを伝えた。その結果、心の距離が一気に縮まり、交渉が成立したという。

素直に話すことは、相手の話しやすさにもつながります。プロダクトマネージャーは一人では何もできず、プロジェクトを実際に前に進めてくれるのは周囲の人たちです。だから、その人たちが物事を進めやすいように、困っていることはなるべく取り除きたい。相手にとって話しやすい人であるために、まずは自分をさらけ出すようにしています(中村氏)

「まずは自分をさらけ出す」という言葉の通り、取材でも終始和やかで話しやすい空気を作ってくれた中村氏

渾身の企画が思いついたら

ルール4対象者になりきり、気持ちをトレースする

中村氏がプロダクトマネージャーとして実践しているのは、「頭の中に、関係者を思い描く」ことだという。

僕の頭の中には、経営層やエンジニア、デザイナーなど社内のステークホルダーがいます。渾身の企画を思いついたら、その人たちに披露して喜んでくれるかを試します。ただ、実際に披露してみると、思ったより反応が薄かったりすることもよくありますが(笑)(中村氏)

社内だけでなく、ユーザーに対する解像度を上げる労力も惜しまない。TALESの立ち上げ時には、複数の作家に執筆環境をヒアリングし、そのリアルな姿を頭の中にインプットした。新たな企画を考えるときは、常に「頭の中にいる彼ら」に意見を聞いてみるのだという。

さらに中村氏の強みは、彼自身がサービスの「いちターゲット」である点だ。大学時代には文芸サークルに所属しており、現在も小説やライトノベルの熱心な読者だ。SFやハイファンタジーなど、世界観が練り込まれた物語を好む。『キノの旅』や『新世界より』など読み込んできた作品は多く、「設定がとことん詰まっている話が好きなんです」と語る。物語を愛する読者としての感覚を持つからこそ、ユーザーのかゆいところに手が届く設計ができるのだろう。

最後に、今後の展望について聞いた。

TALESをリリースしてから1年が経ち、公開作品数は2万4000件を超え、エピソード数は25万話に達しました(2026年4月時点)。書籍化や朗読劇化された作品もあり、順調にサービスとして成長しています。これからもTALESからどんどん作品が世に出ていくのを見守っていきたいです。TALES以外にもnoteの新機能などにも関わっているので、それらを少しでも早く世の中に出すことで、自分の身近な人たちがユーザーとして喜んでくれる姿を見たいですね(中村氏)

4つのマイルール(再掲)

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