「失敗=終了」は思い込み?オカムラの研究員に学ぶ、仕事を楽しむための余白の作り方
失敗を恐れる「完璧主義」を手放し、新しい領域に挑む人はどんな価値観を持っているのか。オカムラで働き方の研究を実践する山田氏に「4つのマイルール」を聞いた。
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「もし失敗したら、評価が下がるかもしれない」
「興味はあっても、一歩を踏み出せない ……」
そんな「失敗への恐怖」は、多くの人が抱えるブレーキだ。しかし、株式会社オカムラのワークデザイン研究所で上席研究員を務める山田氏は、「失敗=終了ではない」と語る。
山田氏のキャリアは、常に「わからないことだらけ」の連続だった。会社から任された洋書の講演プロジェクト、知識ゼロの状態から挑んだオウンドメディアの立ち上げ——。それらを乗り越えられたのは、物事の結末を「成功か失敗か」の二元論でジャッジしない、フラットな向き合い方を持っていたからだ。
失敗を恐れるあまり、一歩を踏み出せずにいるなら、その不安を少し違う角度から捉え直してみてほしい。ここでは、山田氏が日々の仕事で実践している「4つのマイルール」を紹介する。
未知の領域だけど「やります」と即答
ルール1 失敗を「ただの結果」と捉え、やってみなはれ
働く環境の研究、オウンドメディア『WORK MILL』の編集長、そして世界20カ国以上のワークプレイスを訪ねるフィールドワーク。山田氏がオカムラで経験してきた仕事を振り返ると、興味深いプロジェクトが数多く並ぶ。「定期的に、おもしろい仕事やプロジェクトに出会えている」と語る山田氏。どのようにその機会をつかんできたのだろうか。
大学で建築学を学んだ山田氏は、住宅メーカーで営業や企画を経験したのち、「住まい」から「働く場」へと関心が移り、岡村製作所(現オカムラ)へ入社。オフィス環境の営業職として2年半ほど勤務したが、社内の公募制度で研究所の募集が出たタイミングで自ら手を挙げ、研究職へと転身した。
オカムラには「やってみなはれ」という挑戦を後押しする文化があり、失敗に対する許容度も高いという。
失敗しても「挑戦」という側面では成功です。仮に失敗しても「今回はこうなった」というただの結果と過程であり、そもそも失敗と捉えていません。大切なのは、組織も個人もなるべく挑戦しやすくする土壌を耕すことではないでしょうか(山田氏)
この前向きなスタンスが、次なる大きなプロジェクトを引き寄せることとなる。
ある日、山田氏は当時の上司から、アメリカの作家スーザン・ケインのベストセラー『Quiet』(邦訳『内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力』)の洋書を手渡された。外向型と内向型の特徴について書かれた本であり、人は特徴に合った環境の方がパフォーマンスを発揮しやすいこと、そのテーマで彼女を日本に呼んで講演会を企画・実施するといったプロジェクトだ。
当時はまだ日本では刊行されておらず、いきなり英語の洋書を渡されて「読んで内容を把握してほしい」と言われるところからのスタートでした。学生時代に米国で過ごした経験はありましたが、それでも辞書を引きながら必死に読み込みました。ただ、「ぜひやらせてください」と即答しましたね。こんな機会はなかなかないですから (山田氏)
結果的に一流ホテルに約300名の招待客を集めた講演会の大成功へとつながった。
自社PRではないオウンドメディアを作った理由
ルール2 興味はSNSで発信、組織の外と「ゆるくつながる」
講演会を成功させた後、山田氏はスーザン・ケインの理論を基にした新たなオフィスのコンセプト『クワイエット・レボリューション』の開発にも携わることになる。2013年頃のことだ。オフィスで見過ごされてきた「一人で集中する時間」と働く人の性格の多様性に着目。視線や音を抑える環境を整え、個人が自分らしく能力を発揮できる働き方を提案した。
これにより「コミュニケーションだけでなく、一人で集中するスペースも必要だ」という考えが生まれ、集中エリアとコラボレーションエリアを共存させるオフィス環境を促進した。
オカムラの提案はいつも少し早すぎるんですよね。今でこそ、コロナ禍を経て、多くの企業のオフィスで取り入れられていますが、当時は先進的だったと思います(山田氏)
その2年後の2015年、オカムラは今でも続いているオウンドメディア『WORK MILL』を立ち上げる。世の中で「働き方改革」の機運が高まる中、社内でも「働き方」をテーマにした部署横断プロジェクトが立ち上がり、山田氏もそこに加わった。
当時、社内には「働き方」に関するナレッジがほとんどなかった。だからこそ、自分たちがナレッジを得るためにメディアを作るという逆転の発想が生まれたのだ。
新しい働き方に取り組んでいる方々と、接点やネットワークを作りたいという思いがありました。だからオカムラを前面に出すのではなく、社会や働き方そのものをテーマにしたんです。ユニークな取り組みをしている方を取材して発信することで、私たち自身も学びながら、少しでもムーブメントを起こせればと考えていました (山田氏)
講演プロジェクトからコンセプト立案、メディアの立ち上げまで、山田氏は多くの未経験領域を任されてきた。新たな仕事にチャレンジする際のコツを聞くと、こんな答えが返ってきた。
根が楽観的なので、考えてもわからないことはまずやってみようと思っています。そのためにも、社内だけでなく社外の人ともSNSなどでゆるくつながっておくようにしています。自分の活動や興味があることをSNSで共有すると、関心をもった人が声をかけてくれることもあります。
ただ、先ほどの話ではないですが私は内向型なので、さまざまな方と話す機会が多いとエネルギーを消耗するので、一人でぼーっとする時間も大事にしていますね (山田氏)
100点を120点にする偶然の発見とは
ルール3 余白と無駄を作る
山田氏には長年続けている習慣がある。それは、取材や出張で出かけるときに、目的地に最短距離で向かわないことだ。
目的地に最短で向かうと、得られるものは良くて100点止まりです。でも、周辺を寄り道することで新たなものに出会ったり、アイデアを思いついたりすることがある。そうすれば、100点が120点、あるいは200点になる可能性があるんです (山田氏)
この習慣が、仕事のアイデアに生かされたこともある。ロサンゼルスでの出張中の空き時間、山田氏はショッピングストリートをあてもなく散歩していた。そのときに、日本にも展開するシューズブランドの店があったので、何気なく入ってみた。すると、店内に靴やサングラスが並ぶ奥にカフェスペースがあり、そこにはパソコンで仕事をしている人たちがいた。2014年頃のことだ。
今でいう、店舗にコワーキングスペースが併設されているような作りでした。靴屋さんにいるのに商品を見るわけでもなく、仕事をしている人がいる。当時の日本では見たことのない光景でした。小売店の中に働く場が生まれているという発見が印象的でしたし、働く環境を研究する私にとって新たな知見になりました(山田氏)
その瞬間に役立たなくても、無駄と余白が後になって生きてくることがある。海外に限らず、通勤経路を変えてみる、取引先に違うルートで向かうなど、意識して余白を作ることを続けているという。
アイデアを手放さず「3年越し」で実現させるまで
ルール4 あえて寝かせる、発酵させる
山田氏が手がけてきたオウンドメディア『WORK MILL』は、フォーブスジャパン編集部とコラボレーションし、特集テーマを定めた雑誌『WORK MILL with Forbes JAPAN』を2016年より発行している。2020年3月には「プレイフルワーク(遊び心を持って働く)」というテーマを掲げ、北欧取材の予定を組んでいた。しかし、アポイントをすべて取り終えたところで、パンデミックが訪れ、渡航2日前に取りやめとなり、企画が実現できなかった。
世の中の雰囲気が一変したため、テーマを先が見通せない状況から未来に向けて「希望を持ち働く」ことに切り替えました。今まで取材した世界中の14名の有識者にいち早くオンライン取材を敢行し、写真はほぼない状態で臨時号を2020年6月に刊行しました。
あの状況下で「遊び心を持って働こう」というメッセージは、読者に届かないと判断したからです。元の企画は断念しましたが、今できること、やるべきことを改めて編集部みんなで考え、パンデミック中であっても断念から3か月後という異例の早さで別企画に昇華できました(山田氏)
しかし、山田氏は静かに「プレイフルワーク」のテーマを温めていた。そしてコロナ禍を経た2023年に改めて北欧を中心に取材し、満を持してそのテーマで雑誌を出した。大きな反響を呼んだという。
「遊び」こそ生産活動だ!北欧流プレイフルワーク
あるタイミングで実現できなかったからといって、アイデアそのものが否定されたわけではありません。社会、組織、自分、それぞれのタイミングがあるので、ちょうどいい時期はまた来るはずだと思っていました。アイデアは手放すのではなく、あえて寝かせて、発酵させておく。そして、いつかまた取り出すようにしています(山田氏)
「鉄は熱いうちに打て」とよく言うが、山田氏はあえてその逆を行く。普段から、良いアイデアを思いついて盛り上がった時こそ一晩置いて、冷めた頭でもう一度考えてみる。それでも熱量が維持できるものだけを前に進めていくという。現在温めているのは「人間性とは何か」という問いだ。
AIが日常に入り込んで、もう3年ほどが経ちます。去年くらいまでは「AIに何ができるか」という議論が中心でしたが、今年に入ってから、主語が人間に移ってきたと感じます。AI時代だと言われながら、翻ってみると人間性の時代でもある。このテーマについては、しばらく考えていきたいですね(山田氏)
