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D2Cファッションブランド「COHINA」の急成長を支えたInstagram活用のポイントとは?

身長155cm以下の小柄な女性をターゲットにしたD2Cファッションブランド「COHINA(コヒナ)」代表でディレクターの田中絢子さんに話を聞いた。

InstagramをはじめとするSNSの活用によって急成長している企業があります。中でも身長155cm以下の小柄な女性をターゲットにしたD2Cのファッションブランド「COHINA(コヒナ)」は、ライブ動画を活かしたInstagramの運用法で注目を集めています。

「COHINA」は2018年1月の立ち上げ後、2周年となる今年1月には売り上げが前年比220%成長を達成しました。では、「COHINA」はInstagramをどのように活用し、ビジネスを拡大してきたのでしょうか。今回は「COHINA」の代表でディレクターの田中絢子さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、撮影:草葉あゆみ)

参考にしたのはSNS世代に慕われる海外D2Cブランド

――「COHINA」を立ち上げた背景と、ブランド名の由来を教えてください。

「COHINA」を立ち上げたのは、身長や体型が壁になって、理想の自分になれないのはイケていないと思ったことがきっかけです。それは私自身の経験から生まれた考えで、私は身長が148cmと低く、普段から洋服選びに不便を感じていました。一般的なアパレルブランドでは、自分にぴったりのサイズの洋服を見つけるのがなかなか難しいんです。

私の周りにいた小柄な女性たちにも聞いてみたところ、同じように「身長が低いと何かと不便なことがある」「コンプレックスを感じる」という声が多くありました。身長は自分で選べません。だからこそ、小柄な女性たちが身長も自身の個性として楽しめるようにしたいと思って「COHINA」を始めました。2017年11月にプレオープンし、2018年1月に正式に立ち上げました。

ブランド名には、「小柄女性のための日向」という意味を込めています。

――「COHINA」はターゲットを155cm以下に絞っています。155cmで区切って設定したのはなぜでしょうか。

ターゲットの人たちに「小柄な女性向けのブランドであること」が伝わるギリギリの数字で、なおかつマーケットサイズがミニマムで担保されるラインを選択しました。

日本人の20~30代女性の平均身長は大体157~158cmです。私の身長である148cmに合わせたり、150cm以下にしたりすると人口が少なく、ターゲットが限られてしまうので、区切りもいい155cm以下に設定しました。

――消費者に商品を直接販売するD2C(Direct to Consumer)を選択した理由は何でしょうか。

D2Cをやろうと思って始めたわけではなく、結果的にD2Cと呼ばれるビジネスモデルにたどり着いた感じです。アパレル未経験の私には商品の生産元の伝手がなかったことに加え、いきなり店舗を出すような大規模な展開はできないと考えていました。また、大手ファッションサイトなどのECプラットフォームは出店するのに手数料がかかります。そうした理由から、まずは小ロット生産で小規模に展開し、慣れ親しんだInstagramを活用して自社サイトで販売することにしました。

――立ち上げの際に参考にしたブランドがあれば、教えてください。

当時、まだ国内には参考になるブランドがなかったので、海外のD2Cブランドを参考にしました。お客さまの声をもとに商品を生産する、SNS世代にとって親近感の湧きやすいビジネスの在り方に好感を持ったんです。

具体的には、ファッションブランドの「Everlane(エヴァーレーン)」やコスメブランドの「Glossier(グロシエ)」、シューズブランドの「Allbirds(オールバーズ)」などです。中でも「Glossier」はお客さまの「こんなアイテムが欲しい」という声をもとに誕生したブランドです。「Glossier」のInstagramにはお客さまからのコメントが多数投稿されていて、ブランド側が丁寧に返事をしています。Instagramを活用してお客さまとの日常的なコミュニケーションを上手に設計しているのが印象的でした。今年(2020年)1月に日本に上陸した「Allbirds」も、お客さまから寄せられた「定番商品の色違いでブルーが欲しい」という要望に対して、実際にブルーのシューズを作るなど、顧客観点に基づいて柔軟に商品開発を行う姿勢を示しています。

――立ち上げ当初、大変だったことやうまくいかなかったことはありますか。

最も苦労したのは商品の生産ですが、マーケティングの観点では、商品のラインナップと需要のバランスを取ってお客さまの満足度を上げる方法を考えるのが難しかったです。

最初は自社で企画し、製造するオリジナル商品のみで始めました。しかし、1つの商品につきミニマムで100枚は生産する必要があり、簡単にはバリエーションを増やすことができませんでした。しかし、お客さまにとっては、1種類の商品しかないよりも選択肢はたくさんあるほうがいいはずです。生産と需要のバランスをどのように取るか悩んだ結果、小柄な女性に合う服を韓国まで買い付けに行き、セレクト商品も小ロットで取り扱うことにしました。オリジナル商品だけでなくセレクト商品も扱うことによって、小ロット・多品種で商品を展開し、バリエーションを増やしたんです。

一時期はその方針で売り上げも順調に伸びていました。しかし、今度はセレクト商品のクオリティをコントロールできない点が課題となりました。お客さまに満足いただける品質、デザインの商品を販売するため、1年くらい前からセレクト商品の追加は止め、現在は完全にオリジナル商品だけを投入しています。

――初期はセレクト商品も販売されていたんですね。とはいえ、立ち上げから3~4カ月の時点で、服を購入しすぎてお金がなくなる「COHINA貧乏」という言葉がお客さまの間で使われるようになるなど、「COHINA」は早くからファンに支持されてきました。短期間でお客さまに支持されるようになった理由はどのようにお考えですか。

お客さまに、友達が頑張ってブランドを運営しているような感覚を持ってもらえたのではないでしょうか。商品を販売する前からInstagramを通じて情報を発信し続けたことにより、一緒にブランドを作っている感覚がお客さまの中に生まれたのだと思います。

Instagramを開設した当初は商品がまだできていなかったので、小柄な女性に役立つ情報を発信していました。例えば、私のその日の私服に関する情報などで、「今日は○○のSサイズを試してみましたが、ちょっと大きすぎて私には合いませんでした」「ここのブランドのSサイズの商品はぴったりで良かったです」などと投稿していくと、次第に反応が良くなり、フォローすれば小柄女子に役立つ情報が得られる「小柄女子コミュニティ」として認知されるようになりました。その結果、フォロワー同士で情報交換まで行われるようになり、自然とファン化の促進につなげることができました。

また、商品を作る過程をInstagramのライブ動画(インスタライブ)でリアルタイムに発信していたことも、ブランドとお客さまの一体感の醸成につながったと思います。

お客さまの意見からインサイトを見抜く

――「COHINA」はインスタライブの配信を365日続けたことでも注目を集めました。Instagramのライブ動画を日本で利用できるようになったのが2017年1月で、「COHINA」が配信を始めた頃は活用している企業もまだ少なかったのではないかと思います。毎日配信しようと考えたきっかけは何でしょうか。

確かに当時、活用している企業はあまり見たことがありませんでした。インスタライブの機能があったから使ってみたというのが正直なところです。お客さまとの接点や提供する情報をとにかく増やしたかったのと、商品を「みんなで作る」という点を大切にしたかったので、リアルタイムで双方向のコミュニケーションがとれるインスタライブを活用しました。

実は365日ではなく、最終的に400日継続して配信したんですよ。

――400日は…なかなかの熱量と意志がないと継続できませんね。

そうですね。合理的だったかと言われると、400日も続ける必要はなかったと思いますが、「ここまで来たからには、やろう」と意地で配信しました。

最初のほうは認知を取ることを重視していました。決まった曜日・時間に配信して、「毎週何曜日の何時から配信される」とお客さまに知ってもらい、日常生活の中に入り込むためです。例えばLINE@でも、毎週水曜20時に決まって通知が届くブランドがあると、そのブランドから通知が届いたときに「あ、水曜日の20時だ」と思うようになりますよね。それと同じように、「あのブランド、この時間にいつもライブ配信をしているな」と想起され、「暇だし、見てみようかな」と視聴しに来てもらえる状態を目指したんです。

――決まった曜日・時間に配信するとなると、まるでテレビ番組みたいですよね。今はどれくらいの頻度で配信しているんですか。

はい、テレビ番組くらいの気持ちで取り組んでいます。今はまた毎日配信しているんですよ(笑)

――毎日!1回の視聴者数はどれくらいなんでしょうか。

新型コロナウイルスの影響で、自宅にいる方が多いので、視聴者数は以前よりも増えています。「COHINA」のInstagramアカウントのフォロワーは今12万人いますが、リアルタイムでライブ配信を見てくれるのは200人程度です。また、5,000~7,000人程度がアーカイブで視聴してくれています。

――配信していて、大変なことはありませんか。

毎日配信していると、お客さまが飽きてしまうおそれがあるので、そのための工夫はしています。出演するライバーを一般オーディションで幅広く採用する取り組みも始めましたし、お客さまが共感できる人が誰かしらいるようにしていますね。身長だけでなく体型が近い人や、生活スタイルの近い人など、「自分が共感できる人が出演しているかどうか」が見る側にとっては大事なポイントだと考えています。

また、ストーリーズの質問機能を使って、ライブ配信で見たいコンテンツの希望を募り、反映しています。

――ライブ配信を通じてお客さまから商品に関する意見が出ると思いますが、どのように反映していますか。

お客さまの意見を言葉通り受け取らず、その奥に隠れている意図を汲み取るようにしています。不思議な話かもしれませんが、お客さまの意見を言葉通りに100%反映して作ったアイテムは意外と売れません。私たちが考えていたのと少し違った商品が出来上がってしまいます。

例えば「Vネックがいい」と言われた場合、言葉通り「Vネックのアイテムが欲しい」というより、「細く見えるトップスが欲しい」がお客さまの真意だと思うんですよ。「ベージュがいい」と言われたら、ベージュの色合いも幅が広いので、どんなベージュがいいのか、どういうシーンで着る想定なのか、ヒアリングしてお客さまの真意を拾いに行きます。

月々20~30アイテムほど企画・開発していますが、多くの商品にお客さまの意見を反映しています。

――意見を言葉通り受け取らず、インサイトをつかむことが重要なんですね。

▲インスタライブの様子。ライバーが視聴しているお客さまの質問にリアルタイムで回答したり、リクエストに応えてアイテムを試着したりする。お客さまから新商品に関する意見を募る企画ライブを開催することもある。

毎日数字と向き合い、ポストの内容を工夫

――Instagramアカウントを開設した当初は、どのような工夫をしていましたか。

お客さまの反応を毎日数字で見つつ、いろいろなポスト(投稿)を試していきました。表現する世界観をしっかりと決めたうえでInstagramを運用する企業もあると思いますが、「COHINA」はそうではありませんでした。だから今のようにモデルさんの身長を記載したポストとは違って、商品を置いた写真だけが並ぶフィード(ホーム画面)だった時期もあります。

投稿してみて数字の伸びが良くなかったら、文字を入れたり、身長を記載したり、イラストを入れてみたり…とひたすら試行錯誤してきました。

――Instagramのインサイト(※)を見る際、特に注目しているデータはありますか。

定番ですが、お客さまが保存してまでポストを見たいと感じたかどうかがわかる「保存数」はチェックしています。それ以外で特に注意して見ているのは、「発見」の欄に表示されるフォロワーではないアカウントの数の割合(%)です。ポストを見たユーザーのうち、フォロワーではない人の割合を示すので、Instagram経由でどれくらい新しい人にリーチできたかがわかります。この数値が高いほど、新たにフォローしてもらえる確率が上がっていると言えるので、なるべく高くなるように意識しています。

※Instagramではビジネスプロフィールに設定すると、インサイト機能でポストごとのインプレッション数やリーチなどのデータを確認できる。

――「COHINA」でフォロワーの反応が特に良かった投稿には、どのような特徴があるのでしょうか。

1つは、イラスト入りの画像で、定期的に投稿するようにしています。

出典:cohina.official

もう1つは、着回しコーディネートに関するポストです。着回し系のウケがいいのはずっと運用してきてわかったことですが、中でも私たちがいろいろ研究した結果の集大成とも言える投稿がこちらです。

▲「COHINA」のポストの中でもユーザーの反応が良かった「152㎝と153㎝が着る春アウターSTORY」(2019年4月の投稿)。

このポストのポイントは視認性高く文字を入れているところと、モデルさんの人数です。モデルさんの人数は1人や2人、4人よりも3人のほうが、ユーザーの反応がいいんです。おそらく、Instagram上であまり同じような構図が見られないので、珍しいからだと思うのですが…「COHINA」ならではの独特な発見なので、ほかのアカウントでも共通するかはわかりません(笑)

Instagramの新機能をいち早く取り入れ、徹底活用

――ポスト以外に、運用の観点で意識していることはありますか。

Instagramが提供する新しい機能を使い倒すのも1つのポイントだと思います。今でこそ、さまざまなブランドがインスタライブを配信していますが、「COHINA」が配信を始めた頃は、ライブ配信を行うとアカウントのフォロワー数も伸びやすかったんです。最近、Instagramが特に推していると感じるのはIGTV(※)です。発見タブにIGTVの投稿が載ると、フォロワーではないユーザーに見つけてもらえて、フォローされやすい仕組みになっていると思います。

Instagramが推している機能は積極的に使ったほうがいいですね。

IGTVとは、Instagramが提供している動画サービス。専用のアプリもあるが、Instagramでも視聴できる。ストーリーズよりも長尺の縦型動画を投稿可能。

――Instagramが推している機能は、どのように判断しているのですか。

まずは新機能ですね。新しい機能はInstagram側も普及したいはずですから。あとは、アプリの仕様変更もチェックしています。例えば、発見タブに表示されるのは、以前はすべて通常のポストでしたが、最近はポスト4件分の枠を使ってIGTVが表示されています。そのことによって、InstagramはIGTVに力を入れているのではという推測が成り立ちます。

▲Instagramの発見タブ。ハッシュタグを入れて検索するタブで、ユーザーにおすすめのポストが表示される。右上にポスト4件分の枠を使ってIGTVのおすすめが表示される(2020年4月時点)。

――最近はIGTVのコンテンツも頻繁に投稿されているとのことですが、ユーザーの反応はいかがですか。

IGTVでも人気が高いのは、やはり着回しに関するコンテンツです。「小柄女子の中では半歩先を行くおしゃれな人たち」という立ち位置で、コーディネートのお手本を見せているのが、評価されているポイントではないでしょうか。というのも、155㎝以下の小柄な女性の多くは、これまでぴったり着られるサイズの服がなかったために、「服は着られるものがあったら嬉しい」くらいの期待値でおしゃれをしてきたと思うんです。それが、いざ「COHINA」のようなブランドで服を選び放題になると、悩ましい。「何が似合うかわからない」「アイテムを買ったのはいいけれど、どう使いこなせばいいかわからない」と悩むお客さまが多いからこそ、着回しやコーディネートの需要が高いんだと思います。

出典:cohina.official

オフラインでお客さまが商品に触れられる場を増やしたい

――「COHINA」の場合、やはりInstagram経由でECサイトに流入するユーザーが多いのでしょうか。また、田中さんは、Instagramを活用して売り上げを伸ばすポイントは何だと思いますか。

Instagram経由でECサイトに流入するお客さまの割合は半分以上です。Instagram経由で購入する方も多いですね。

売り上げを伸ばすポイント…難しいですね。言語化できるなら、私も他の方の意見が知りたいです(笑)。基本的なことではありますが、個人的に運用で大切だと思っているのは続けることです。1日1投稿でもいいですし、毎日でなくてもいいんです。お客さまに認知してもらうため、まずは続けてみるのがいいと思います。「COHINA」もストーリーズは1日10件程度投稿していますが、通常のポストは1~2件程度です。インスタライブを400日続けるのは、おそらくいろいろなことを犠牲にしないといけないので…おすすめしません(笑)

――企業によるInstagramの活用は、今後どのように発展すると思いますか。

ショッピング機能が搭載されてECサイトに誘導できるようになり、かなり便利になりましたが、そこへさらにチェックアウト機能が付くと、Instagramの活用はより加速すると思います。

企業におけるInstagram運用の難しい点は、売り上げにどれくらい貢献しているかを数値化し、費用対効果を説明しづらいところです。チェックアウト機能が付けば売り上げに直結する数字を出しやすくなるので、運用する価値があるプラットフォームとして、より認知されやすくなるのではないでしょうか。そうすると、ますます競争が激化するかもしれませんね。

――最後に、「COHINA」は今後どのような展開を考えているのか教えてください。

Instagramの運用と併せて、実際に商品を手に取れる場所を増やすことが今後の大きなポイントと考えています。

オンラインの施策にもある程度限界があり、特に「COHINA」のターゲット層は洋服選びに慣れていないからこそ、「1回試着したい」と思っている方が多いはずです。館(百貨店やファッションビルなど)に入ることはあまり考えていませんが、期間限定で物件を借りたり、東京で1店舗だけつくったりするのはあり得ると思います。もし、実店舗を設けるようになったとしても、ポップアップストアで全国を回る試みはこれまでと同じように続けます。もちろんコロナの影響を見ながらですが…。

コロナの影響と言えば、自宅で過ごす方が増えているので、「自宅での試着を楽しんでほしい」との想いから、返品/送料0円キャンペーン(※)を開始したところ好調です。こうしたキャンペーンは今後も臨機応変に行っていきたいです。

また、ニッチなブランドだからこそ、ビジネスをよりスケールさせるために海外展開も視野に入れています。小柄な女性は日本に限らず、世界にもいるからです。具体的にはアジア圏を視野に入れていて、その際は155㎝以下に区切る必要はないと考えています。

※2020年4月22日20:00~4月26日23:59に実施。

――本日はありがとうございました!

【Profile】
田中絢子(たなか・あやこ)
COHINA代表 ディレクター
1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。Googleに新卒入社し、代理店広告営業に従事。2018年1月に、155㎝以下の女性向けアパレルブランド「COHINA」を、友人である清水葵氏と共同で創業。「COHINA」のインスタライブではライバーも務める。

「Marketing Native (CINC)」掲載のオリジナル版はこちらD2Cファッションブランド「COHINA(コヒナ)」の急成長を支えたInstagram活用のポイントとは?

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