「欲しい商品」がすぐ見つかるダイソーアプリ、機能を“在庫検索”に絞った開発の裏側

DearOne主催「Growth Summit 2025」に登壇した、大創産業とLIFULLの講演をレポートする。

名久井梨香(Web担編集部)

7:05

アンケートでは「ヘルシーな商品が欲しい」と言っていたのに、実際に売れたのは高カロリーな商品だった――。

顧客の言葉と行動が裏腹になることは、マーケティングの現場では珍しくない。ユーザーは「理想の自分」を回答しがちだ。だからこそ今、必要なのは「行動データ」から顧客の本音を読み解くことである。

DearOne主催のマーケティングカンファレンス「Growth Summit 2025」が2025年12月に開催された。この記事では、わずか6か月で店舗在庫の可視化を実現した大創産業(ダイソー)と、分析サイクルを高速化させ、成果を10倍に引き上げたLIFULLの事例をレポートする。

オープニングセッションの様子
株式会社DearOne 代表取締役社長 河野 恭久 氏

事例1顧客体験が向上した「DAISOアプリ」

テレビで見たあの商品、近くのお店にあるかな?

ダイソーは商品が多すぎて、欲しいものが見つからない……。

在庫を店員さんに聞きたいけど、忙しそうでつかまらない……。

世界で5,000店舗以上を展開する大創産業(ダイソー)が、アプリ開発で解決しようとしたのは、まさにこうした顧客の「ペイン(悩み・不満)」だった。

カンファレンスには、大創産業の矢ノ目和人氏が登壇。矢ノ目氏は、「DAISOアプリ」開発の経緯について「『アプリを作ろう』からスタートしたのではなく、お客様の抱える不安や不満をどう解消するかから考えた」と語る。

ダイソーは商品数が膨大であり、メディアで紹介された商品を探しに店舗へ行っても、在庫がなく徒労に終わるケースがある。そうした問題を解消する「店舗在庫の可視化」の手段として、アプリが開発されたというわけだ。

(左から)株式会社DearOne グループマネジャー 塚田 康太 氏
株式会社大創産業 グローバルDX企画課 次長 矢ノ目 和人 氏
株式会社DearOne アカウントマネジャー 近藤 圭祐 氏

アプリの機能はシンプルに、でも「検索」は高機能に

企画段階で最も重視されたのは「在庫情報のリアルタイム性」だ。通常、在庫データは夜間バッチ処理(日次更新)が多いが、それでは夕方には実在庫との乖離が大きくなってしまう。可能な限りリアルタイムに近い情報提供を目指すため、アプリはあえて多機能にはせず、「在庫検索」という一点に絞り込んだ。検索スピードや精度といった「検索UX」の磨き込みにリソースを集中させた。

アプリ導入で、現場スタッフの負担も軽減

DAISOアプリは、顧客の利便性向上に留まらず、店舗オペレーションにも劇的な改善をもたらした。

これまでは顧客から「テレビで紹介してた“あれ”が欲しい」といったように曖昧に商品の場所を尋ねられることも多かったが、アプリ導入後は、顧客がスマホの画面で商品画像を見せてくれるようになった。これにより案内が非常にスムーズになり、「現場のコミュニケーションコストが下がった」との声があがっている。

顧客の不満解消のために作ったツールが、結果として従業員の負担軽減にもつながった好例といえる。

塚田氏、矢ノ目氏、近藤氏がステージに登壇している写真。
検索機能にこだわった「DAISOアプリ」

構想からわずか6か月でアプリをリリース

開発パートナーには、DearOneを選定。決め手は、短期開発実績の豊富さだった。大創産業には「Standard Products」「THREEPPY」の2ブランドも存在するが、当時はブランド別・店舗別の在庫データが整理されておらず、アプリ側でどう出し分けるかが大きな壁となった。

「正直、これは苦労するなと思いました」と矢ノ目氏は振り返る。しかし、DearOne側のエンジニアチームが「データを送ってもらえれば、あとはこちら側で何とかします」と引き取り、バックエンド側でデータを整理・統合する仕組みを迅速に構築。

結果として、構想からわずか6か月という異例のスピードでリリースに漕ぎ着けた。2024年2月のリリース後、アプリのダウンロード数は右肩上がりに成長を続けている。

今後は、画像検索機能の実装をめざす

リリース後の改善プロセスも徹底している。顧客の声やアプリストアのレビューをすべて洗い出し、定例会で優先順位を決めて新機能を実装。実際、「買い物リスト機能」や「トレンドワード検索」などは、ユーザー目線で追加されたものだ。

今後の展開として矢ノ目氏は、「AIによるパーソナライズの強化」と「画像検索機能の実装」を挙げる。商品によっては、言葉では表現しにくく、検索しづらいものもある。「これと同じものが欲しい」と手持ちのアイテムを撮影すれば、ダイソーのどの商品で、どこの店舗にあるかがわかる、そんな世界観を描いている。

事例2データ分析で切り拓く、LIFULLの市場学習と施策成功の秘訣

続いて、不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME'S」を運営するLIFULLの井上洸太朗氏が登壇し、データ分析とAI活用による組織変革について語った。講演冒頭、スクリーンには次の4つの企業名と数字が表示された:

  • Netflix 1,000回/年
  • Amazon 1,976回/年
  • Google 7,000回/年
  • P&G 7,000~10,000回/年

これは「市場学習(PDCA)の回数」だ。LIFULLでは、プロダクトの成長要因には市場学習が欠かせないとし、次の数式で定義している:

成長要因=市場学習回数×施策成功率×施策によるアップリフト

成功率やアップリフトは不確実性が高いが、「市場学習回数」は自分たちでコントロール可能な指標だ。井上氏は、「半年や1年かけた大規模プロジェクトで一発逆転をねらうのではなく、『1日0.1%の改善』を積み重ねることが成果を大きく、かつ確実にする」と説く。

(左から)株式会社DearOne ユニットマネジャー 麻野 宏史 氏
株式会社LIFULL プロダクトマネージャー 井上 洸太朗 氏

分析サイクルの高速化が成果を10倍に

市場学習回数を増やすために導入したのが、プロダクト分析ツール「Amplitude」だ。以前は、Google Analytics(GA)を使用していたが、大きく2つの課題があった。1つは、ツールの使いこなしの難易度が高く、利用メンバーが限られてしまうこと。もう1つは、インサイト発見までたどりつかないことだ。単なる集計レベルのレポートで終わるケースも多かった。

ツール導入後は、分析時間が「数日から数分」に短縮されただけでなく、チーム全員がデータを見られるようになった。 分析サイクルの高速化は成果に直結し、あるチームでは市場学習回数が150%増、成功率が280%増となり、最終的な成果が10倍になるという劇的な改善が見られた。

AIによる「開発プロセスの民主化」

市場学習回数を上げていくためには、生成AIの活用も欠かせない。同社は、ChatGPT誕生初期から生成AI活用を全社的に進めているが、それによって市場学習回数や最終的な成果が増えている実感はまだ得られていないという。井上氏は「仕様書作成やコーディングなどの一部のタスクは劇的に速くなっているが、たとえば実装着手はエンジニアのリソースにより、1週間止まっているといった『局所効率化の壁』がある」と指摘する。

麻野氏、井上氏がステージに登壇している写真。
データ分析ツールとAIの活用で成果を出すLIFULL

これを打破するために推進しているのが、次の2つの変革だ。

  • 開発プロセス全体の「半自動化」:
    企画立案からリリースまでの一連のプロセスすべてが、AIによって半自動化されている。AIに任せられる部分は任せ、人間がレビュー・修正して品質を担保する。
  • 開発プロセスの「民主化」:
    AIが企画、デザイン、コーディングをおこなうことで、専門スキルを持たない職種でも、そのプロセスを担当できるようにする。チームのリソースを流動的にしてボトルネックを解消するねらい。

井上氏は最後に、「以前はグローバル企業の市場学習回数の数字を見て『桁が違う』と思っていたが、成果が出た今は目指せる数字だと感じている。生成AIという武器を活用してさらに回数を増やし、より高い成果を目指したい」と締めくくった。

◇◇◇

今回のサミットで共通していたのは、データやAIは「集計」のためではなく、「顧客理解」や「具体的なアクション」のためにあるという点だ。今後マーケターに求められるのは、テクノロジーで浮いた時間を使い、深く顧客の“本音”に向き合うことだろう。

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