ライオンのオウンドメディア「Lidea」で購買意欲20%増! ファンが“増える”巧みな仕掛け

2014年10月に創設され、現在11年目を迎えるライオンのオウンドメディア「Lidea(リディア)」。事業分野に関わるハウツーや日常生活を楽しむための読み物コンテンツを配信するほか、独自のポイントプログラムも運営する。メディア内の行動分析による生活者のインサイト発掘に注力しており、Lideaに接触することでライオン製品の「購買意向」が約20%、ライオンへの「好意度」が約50%向上することがわかっている。同メディアを運営するビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン Lidea編集長の青嵜洋子氏に運営のコツと成果について聞いた。
より精度の高い「生活者のインサイト」を発掘
Lideaは「LION(ライオン)」と「idea(アイデア)」を組み合わせた言葉で、ライオンの生活情報Webメディアとして2014年10月に誕生した。洗濯、掃除、歯磨き、健康・美容などの事業分野における「ハウツー記事」と日常生活を楽しむことを主眼に置いた「スペシャルコンテンツ」の2種類がメインで、これまでに約1000記事を配信している。

記事への「いいね」や「コメント」でポイントがたまるポイントプログラムも運営。ためたポイントを使ってプレゼントに応募できるキャンペーンを随時実施している。Lideaの公式LINEとも連携しており、気に入った記事をLINE内に保管したり、LINE内で記事を検索できる。また、2025年7月現在のLINEの友だち数は約764万人に上る。
Lideaは、当社が事業を展開する各カテゴリを統合して、お客様にシームレスに生活情報を提供することを目的に誕生しました。それ以前は、各カテゴリごとに情報サイトが存在しており、お客様の生活に寄り添った発信ができていませんでした。当社側のねらいとしては、これまでのカテゴリ単体分析ではわからなかった、より精度の高い生活者のインサイトを発掘し、マーケティングに活かしたい考えがあります(青嵜氏)
記事ごとに「KPI」を設定し、「閲覧行動」を細かく分析
Lideaは、編集部と外部パートナーが連携した専門チームで運営している。現在は、記事をむやみに増やすのではなく、「分析」に注力。年間約50本の記事を厳選して発信しているという。
生活者全般を対象としており、メディア全体でのコアターゲットは存在しないが、各記事ごとにターゲットを設定している。「生活者に役立つ情報を提供する」という役割を踏まえ、コンテンツ制作における大枠のKPIは「インプレッション」の数値を設定。さらに、各記事ごとのKPIも設定している。

たとえば、特定の製品の特徴や使い方を紹介する場合は、理解を促す目的なので「読了数」を、製品の認知は十分に取れており、購買を促したい場合は「ブランドサイトや各社ECサイトへの遷移」などをKPIとします。商品軸ではなく生活者の価値観に関するデータを収集したい場合は、「回遊」を設定することが多いです(青嵜氏)
とはいえ、製品の購買を促したい場合であっても、一概に「ブランドサイトや各社ECサイトへの遷移」をKPIにすればいいわけではないという。
日用品はスーパーやドラッグストアで購入する習慣があるため、「製品の買われ方」を踏まえてKPIを設定しなければ、未達成になってしまいます。めったに買わない物、重い物、薬品関連などドラッグストアで探すのが面倒な物などは、各社ECサイトへの遷移をKPIにしますが、認知が高い製品や店頭購入が一般的な製品は、別のKPIを定めています(青嵜氏)
KPIをもとに構成を決め、公開後にKPIの達成ができているかの振り返りも必ず行う。さらに、読者の閲覧行動も細かく分析して自社の知見として溜めているという。
「専門性」や「企画力」を活かした記事制作が強み
記事内で扱う製品やテーマは、新製品のほか、各部署からの依頼や編集メンバーの提案などさまざまだ。記事内で特定製品を紹介するものもあれば、製品は関係なく季節に応じたテーマなどを扱うこともある。
記事の構成を決めるにあたり、ハウツー記事で最も意識するのは「SEO」だ。「どのようなキーワードで検索されるのか」を予測しながら、生活者の困りごとや疑問を解決できるような情報提供に注力する。
Lideaを創設した2014年頃は、企業の発信は「宣伝である」と受け取られる傾向があったため、製品を目立たせず“ハウツー”を強調していました。しかし、近年は企業の発信は「信頼性の高い情報である」との認識が高まっているため、製品を軸にして効果的な使い方などを紹介する企画が増えました(青嵜氏)
そして、記事内で情報提供を行うのは、自社内の“暮らしのマイスター”だ。「洗濯」「リビングケア」「オーラルケア」「ヘルスケア」「衛生」の5つの分野で研究キャリアと専門知識を持つ社員が、実験や調査のデータを活用しながら、くわしく解説している。

ハウツー記事は、季節によって読まれるテーマが変わります。梅雨の時期なら「部屋干しの洗濯」、冬は「感染症予防」、春は「新生活」に関連した記事が人気です。たとえば、「洗剤の使用量の目安」「手洗い洗濯の基本」などは、多く読まれています(青嵜氏)

一方、スペシャルコンテンツは、生活者の価値観を理解する目的で制作。思わずSNSで共有したくなるような尖った企画も多く、バズ記事も生まれている。たとえば、「めんどくさいの正体」を脳科学者に聞いた記事では、「目をつぶって、片足立ちになって、30秒声に出して数えると『めんどくさい』が解消される」と紹介したところ、SNSで大きな話題に。2019年に制作した記事ながら、未だに読まれ続けているそうだ。

本記事は、「めんどくさい」と口ぐせのように言う人のインサイトを発掘する目的で制作しました。当社製品の情報は一切出てきません。また、Z世代のトレンドに興味がある大人の女性をターゲットにした企画では、アラサー世代のライターがZ世代のトレンドに挑戦した結果を紹介しました(青嵜氏)
企画は、ライオン編集部と外部パートナーで検討しながら、魅力的な内容にブラッシュアップしていく。外部パートナーには若年女性や中年男性など幅広いメンバーがいるため、さまざまな立場の意見を聞くことで、ターゲットに寄り添った企画が生まれやすいそうだ。
記事のトンマナも、「読者に寄り添う」姿勢を貫く。ハウツー記事は身近な人に教えてもらうような、スペシャルコンテンツは友だちと話しているような親しみやすさを大事にしているという。
リピートやアクションを促す「ポイントプログラム」
Lideaでは、独自のポイントプログラムを運営し、メディアへのリピート訪問やキャンペーンの応募につなげている。ポイントのため方は複数あり、たとえば、記事やコメントへの「いいね」、記事への「コメント」、編集部から「NICE!コメント」を選定されるとポイントが付与される。ためたポイントで、ライオンの製品が当たるキャンペーンに応募できる。

ポイントプログラムには、ポイントをためてキャンペーンに応募するという「ワクワク体験」をお客様に提供したいねらいがあります。一方、当社側としては、何度もメディアに訪問して、記事にリアクションをして、キャンペーンに応募いただくことによって、取得できる行動データが増えるメリットがあります(青嵜氏)
ポイントプログラムによってメディアへのリピート訪問やリアクションが増えているのは明らかで、いいねが1,000を超える記事も少なくない。メディアにログインするだけでもポイントがたまることから、ポイ活的に毎日同じ時間にログインする人もいるという。
会員の方へのデプスインタビューでは、「記事を読み続けていたら、ライオンの製品が好きになってきました」「自宅にライオンの製品がたくさんあることに気づいて、意識的にライオンの製品を買うようになりました」といった声が聞かれました。ポイントプログラムの習慣化を通じて、ブランドや製品のファンを作れているのは、本施策の成果だと考えています(青嵜氏)
「購買意向」が約20%、「好意度」が約50%増の成果も
創設から毎年実施している定点調査でも、Lideaに触れるとライオン製品の「購買意向」が約20%、ライオンへの「好意度」が約50%向上するという結果が出ている。
「製品の特徴や開発秘話を知って実際に買ってみた」「キャンペーンで当たった製品を使ってみたら気に入ったので使い続けている」など、さまざまなきっかけから製品購入や好意につながっているようです(青嵜氏)
Lideaで取得したデータを広告時のコミュニケーションに活用した事例もある。ある特徴的な訴求Aを持つ製品において、その市場でシェアをとるにはどんなメッセージが効果的か、Lidea内で以下4パターンを含む複数記事を作成して、読者の反応を分析した。
- 訴求Aに効果的な配合成分
- 訴求A以外の製品の効果
- 訴求Aに有効な日常生活での対策
- 製品の効果的な使い方
分析の結果、訴求Aに“関連”した製品を使っている人は、(上記)3の記事で最も態度の変容がありました。一方で、訴求Aに“特化”した特定製品を使っている人は、意外にも4の記事が効果的でした。これは2つのセグメントにおける、訴求Aに対する「知識量」の違いによって起こった結果だと考えます。
知識量が十分にある人は、「日常生活での対策」をすでに知っているため、「効果的な使い方」に興味を示したのでしょう。実際、この結果に沿った広告をターゲットに配信したところ、該当製品の売り上げが一時的に向上しました。記事を使った細かな検討と分析により、今まで見えてこなかったインサイトが見えた事例です(青嵜氏)

最後に、Lideaの現状の課題や今後の展開を聞いた。
Lideaは“ライオンと生活者がつながる場”として、一定の成果をあげています。一方で、SNSの浸透やAIツールの台頭などにより生活者の情報収集方法や価値観の変化が起きているため、Lideaの仕様も常にアップデートしなければなりません。まさに今、どんな変化が求められるのか検討し始めたところです。とはいえ、手を洗い、歯を磨き、洗濯・掃除をして睡眠をとるといった生活はそう簡単には変化しないはず。これからも生活者に寄り添った信頼性のある生活情報を届けるスタンスは変わらないと考えています(青嵜氏)
消費者の価値観が多様化する現代で、多くの人に好まれるオウンドメディアを継続するのは容易ではない。しかし、Lideaのように自社の言葉で正しい情報を届けたい相手に伝えられるメディアが構築できれば、事業成長の強い武器になるはずだ。
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