BtoBでファンマーケティングは有効? コミュニティ運営で解約率50%減したDMM Boostの戦略
BtoB企業がファンコミュニティを運営するメリットと、成果を出す運用ノウハウをDMM BoostとAsobicaが解説する
12月2日 7:00
顧客ロイヤルティやエンゲージメント向上を目的としたファンコミュニティ運営は、近年においてBtoC企業の王道戦略と言える。じつは、この手法はBtoB企業においても有効に機能し、大きな成果を挙げることが可能だ。
LINE公式アカウントの機能拡張ツール「DMMチャットブースト」を提供するDMM Boost(ディーエムエム ブースト)は、ファンコミュニティツールを活用し、「サービス解約率50%減」「問い合わせ数削減」など、多様なメリットを得ているという。
DMM Boost 和田翔平(以下「しょへ」)氏と、コミュニティツール提供元のAsobica(アソビカ) 石上優氏に、BtoB企業のファンコミュニティにおける「得られるメリット」と「成功のポイント」を聞いた。
DMM Boostのファンコミュニティ「Booster」とは?
DMM Boostでは2022年4月からファンコミュニティ「Booster(ブースター)」を運営している。DMMチャットブースト利用企業なら任意で参加できる仕組みで、参加費は無料だ。
コミュニティを開始したねらいは「より深くユーザーとつながることで自社製品の認知の向上や最大限に活用してもらうこと」としょへ氏は話す。
当社のコミュニティは、“みんなで成長を加速する”をコンセプトに掲げており、まず大事にしたのは「上下関係を作らないこと」です。
そのため企業名や肩書を押し出さず、「一個人として学びにきてください」というスタンスを重要視しています。企業同士のお付き合いだと上下関係ができてしまい、楽しさが生まれづらいためです。私もコミュニティメンバーと友人のようにお付き合いさせてもらっています(DMM Boost しょへ氏)
“学びのコンテンツ”と“切磋琢磨できる環境”を提供
同社のコミュニティには、主に次のようなコンテンツを用意している:
- DMMチャットブーストのマニュアル
- みんなの投稿
- ウェビナー、ミートアップなど
チャットブーストのマニュアルはあるものの、単に「チャットブーストの効果的な使い方」にとどまらず、次のようなマーケティング全般を幅広く学べる場になっている:
- 自社の売上拡大をした秘訣
- LTV向上につなげるためのSNS関連の施策
- アンケート活用のノウハウ
- LPや広告の運用方法 など
また、コミュニティメンバーが自主的に投稿する成功・失敗事例も豊富で、多くの企業が公には明かさないような具体的な数字や施策情報が盛り込まれた投稿もある。
新たにコミュニティに参加したユーザーも、過去の投稿を閲覧できるため、蓄積した情報を新メンバーも学べる仕組みになっている。その結果、「ここにくれば、同じような課題を持つコミュニティメンバーと切磋琢磨しながら事業成長につなげていける」と思ってもらい、メンバーが増えていったようだ。
コミュニティの加入目標数は、利用者全体の20%です。最もメンバー数が多いときは約18%にのぼり、週3回オンラインでミートアップを実施していました。
また高頻度でアクションしてくれるコアメンバーの目標数値は2%で、今は1%以上います。メンバー同士の交流も盛んで、メンバーがコラボして商品を共同開発した事例もあります(DMM Boost しょへ氏)
現在は、コミュニティの運営構造を見直すフェーズに入っており、参加率は落ち着いているそうだが、コアメンバーを中心に交流頻度は高いとのこと。しょへ氏は、平日毎朝10時に“朝礼”としてオンラインでコアメンバーと集まり、ビジネスの話から他愛もない話題まで軽く話してから一日を始める。
コミュニティを通じて知り合いが1人、2人と増えていき、行きつけの飲食店ができたような感じですね。参加者たちにも、居場所のような感覚が芽生えたのではないでしょうか(DMM Boost しょへ氏)
ファンコミュニティで得られる多様なメリット
ファンコミュニティの運営開始から3年半以上が経過した今、同社ではさまざまなメリットが得られているという。
成果1解約率50%減を達成
コミュニティ活用の成果を図るA/Bテストを、次の2グループで実施した(契約条件などは同一で比較):
- コミュニティに不参加だった企業
- 月1回以上コミュニティを活用していた企業
その結果、コミュニティに参加していたグループは6か月後の解約率が50%減となったのだ。
解約率を減らせた理由は、コミュニティ内で幅広いナレッジを習得したことで、成功体験が生まれたためだと考えます。学びを実践して「LINEの友だち数が増えた」「売上が上がった」という成功体験は、当コミュニティでよく聞かれます。
それに加えて、コミュニティに親しみが湧いたことで「抜けたくない」という心理が働くこともあるようです。「学べる環境」と「交流」の2つが解約率減につながる要素だと分析しています(DMM Boost しょへ氏)
成果2プロダクトフィードバックの「質」と「回答速度」が向上
「実は、もっと価値の高い成果もあった」としょへ氏は明かす。それは、プロダクトフィードバックの「質」と「回答速度」が著しく向上していることだ。
通常、ユーザーアンケートやCS(カスタマーサクセス)とのコミュニケーションなどからサービスのフィードバックを得るが、どうしても精度やスピードが不十分になりやすい。「どんな機能が使いにくいのか」「どんな機能改善を望んでいるのか」という話は聞けても、限られた時間で「なぜ、その改善が重要なのか」という込み入ったところまで踏み込みづらい。
コミュニティを通じて信頼関係ができていれば、急に私が電話をかけても求めるフィードバックを得られます。この違いは、プロダクト開発において非常に大きいと感じています(DMM Boost しょへ氏)
成果3CSの工数削減
成果はそれだけではない。「CSの工数削減」においても成果の実感があるという。
同社の場合、CSは基本的に月1回、1時間の枠内でユーザーとミーティングを実施している。コミュニティ導入後は、より気軽にコミュニケーションが取れるようになったそうだ。
また、たとえば製品の使い方などで不明点があった場合、コミュニティにコメントを投稿すれば、他のメンバーが回答してくれます。これはCSチームを経由せず、ユーザー同士の力で解決されることを意味します。こうした事例に関連するCSの工数は、確実に削減しています(DMM Boost しょへ氏)
BtoB企業がファンコミュニティを運営する背景
ファンコミュニティの一番の目的は、顧客との接点を増やして顧客理解を深めることです。導入企業はBtoB・BtoC問わず、中小企業から大企業までさまざまですが、共通しているのは「顧客とのつながり」を以前よりも重要視されている点です(Asobica 石上氏)
たとえば同社の顧客であるBtoB企業は、採用管理ツールや経理システムなどを提供するSaaSの領域がメインとなる。製品の特性上「購入を決めた裁量権を持つ方」と「実際のツールの利用者」が異なることが多い。
そのため、ファンコミュニティを活用して現場担当者のリアルな声を聞き、困りごとや要望を把握して、プロダクトとサービスを強化し、顧客満足度やLTVの向上に役立てたいニーズが高い。
コミュニティを通じてユーザーのニーズを迅速に把握することで、サービスの「満足度」と「継続率」を向上させ、価格競争からの脱却を図る。それが、当社サービスで得られる最大の価値と位置づけています。
さらにDMM Boostさまのように、コミュニティに情報を集約させることにより、問い合わせ件数の削減やCSの工数減にもつながります(Asobica 石上氏)
Asobicaが支援するBtoB企業「I社」では、ファンコミュニティを活用したことで、2024年度のサポートセンターへの問い合わせ件数は、2021年度比で47.79%減少した。
I社のサービス導入加速に伴い、複雑な設定や連携に関する問い合わせが相対的に増加すると予測されていた。しかし、実際には問い合わせ件数は減少。これは、コミュニティ運用の成果だとAsobicaでは考えている。
実際、I社のコミュニティ内の該当設定に関する記事の閲覧数は、月間閲覧数の約20~25%を占めていた。これは、ユーザーがサポートセンターに問い合わせる前に、コミュニティ内で自己解決していたことの裏付けになるだろう。
BtoB企業のファンコミュニティ運営のコツ
コツ1まずはコアメンバーになりそうな人だけを招待する
BtoBのファンコミュニティにおいては、メンバーのみが閲覧・投稿できるクローズドな環境で運営するケースが9割にのぼる。次の3つのステップで立ち上げのがポイントだ:
- 最初から全ユーザーに公開せず、全ユーザーの中からコアメンバーになりそうな人だけを数名集めて数か月ほど運営する。
- 招待したコアメンバーに先行して触ってもらい、感想や改善ポイントのフィードバックを得る。
- コミュニティの改善をしたうえで、自社ユーザーなら誰でも加入できるコミュニティとして運営する。
コツ2ログインをスムーズに&マニュアルを置く
コミュニティを活性化させるには、ログインの仕方も重要になる。
たとえば、顧客が企業の既存サービスにログインする際のID・パスワードをそのまま使ってコミュニティにも入れるSSO連携を活用することで、ログインがシームレスになり、参加しやすくなる。
また製品マニュアルをコミュニティ内に置くなど、顧客がそこに“アクセスせざるを得ない仕組み”にすることも効果的だ。
コツ3 管理画面で取得できるデータを分析する
Asobicaが提供するコミュニティツール「coorum(コーラム)」の管理画面では、次のような数値もリアルタイムで確認できる:
- コンテンツの閲覧者、閲覧数、コメント数
- コンテンツの離脱ポイント
- 検索ワード など
誰が、いつ、どれくらいの時間をかけてコンテンツを閲覧しているのか、ユーザーがどのステップで離脱するのか、さらに検索ワードから具体的な課題を把握できる。詳細なデータがとれるので、コンテンツ作成やプロダクト制作の参考にするのもいいだろう。
またコンテンツを閲覧していたが途中で離脱してしまったユーザーがいれば、そこをCSがフォローしに行くアクションをとれる。
石上氏は、DMM Boostの事例を「まさにBtoB企業がファンコミュニティを運用する意義に当たる」という。
BtoB企業は「学習」と「交流」の両軸で運営するのが、ファンコミュニティにおける成功ポイントの一つです。SNSでの炎上を多く目にする昨今では、ファンコミュニティにおいても必要以上に硬い雰囲気の発信になる傾向が見られます。
自社ユーザーであれば誰でも参加できる環境を活かし、良い意味で構えすぎずに交流するのがおすすめです(Asobica 石上氏)
BtoB企業のファンコミュニティで成果を得るには、DMM Boost のように「運営者の熱量」や「価値的なコンテンツ」が求められる。特に、初期段階では一定のコミットが必須だが、軌道に乗れば、“ここでしか得られない情報”がスピーディーに集まり、次第に“居場所のような空気感”が生まれるに違いない。