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「ゴールド会員」なんて顧客は嬉しくない。「囲い込み」施策が失敗に終わる理由

LTV(顧客生涯価値)を伸ばすため、企業は「囲い込み」施策で顧客を囲い込もうとします。しかし囲い込み施策が成功するのは、一握りの企業だけです。失敗してしまう理由を解説します。

LTV(顧客生涯価値)を伸ばすため、企業は「会員プログラム」や「会員アプリ」を駆使して顧客を囲い込もうとします。しかしこうした「囲い込み」施策は、顧客にとってのメリットが少なく、利用されずに終わることがほとんどです。

当記事では典型的な失敗事例を紹介しながら、LTV向上のために本来何をすべきかを提言します。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(著:垣内勇威氏 出版:日経BP)

顧客を「囲い込める」のは、ほんの一握りの企業だけ

はじめに質問です。

みなさんは今、どこかの企業に「囲い込まれている」でしょうか?

私の場合、Googleの検索とGmail、AppleのiPhone、AmazonのECサイト、スターアライアンスのマイレージなどにはギリギリ囲い込まれているかもしれません。しかしそれ以外の企業に囲い込まれている認識はなく、好きなときに好きなだけ、さまざまな商品・サービスを使います。おそらくみなさんも同じ状況ではないでしょうか。顧客を囲い込むことができるのは「大規模なプラットフォーマー」か、「極めてロイヤルティの高いファンビジネス」だけです。

にもかかわらず、世の中の多くの企業は定期的に「囲い込み」施策に手を染めます。典型例は「会員プログラム」「会員アプリ」「サブスク」「メディア」という「妄想四天王」です。

妄想四天王:いずれも顧客にとって魅力が低く、失敗に陥りやすい

1. 経済的メリットがほぼない「会員プログラム」

会員にポイントやクーポンを提供することで自社の購入頻度を高める「会員プログラム」は、囲い込み施策の代表選手です。

しかしたいていの場合、用意された会員特典はわずかなポイントと、どこにでもありそうなクーポンばかり。顧客からすれば、会員になる経済的なメリットがほとんどありません。そのため、「サービスを使い続けてポイントをためたい」という気持ちよりも、「他社サービスも使ってみたい」という気持ちのほうが勝ります。このようにわずかなインセンティブでは、顧客を囲い込むことなどできません。

また、「ゴールド会員」など名誉ある称号を与えれば顧客が喜ぶかといえば、まったくそんなことはありません。嬉しい人がいるとするならば、それはすでにそのブランドを愛している顧客です。会員プログラムによってLTVが伸びるというより、LTVの高い顧客が会員プログラムを支持しているだけです。

それに「ゴールド会員」だからといって、その会社が提供する別のサービスに興味を持つかといえば、そんなこともまったくありません。あるホテルチェーンをよく利用しているからといって、そのグループ企業が提供する商業施設や賃貸マンションまで使ってくれる望みは薄いでしょう。多くの顧客は、同じグループ企業が提供していることにすら気付いていません。

2. まったく使われず放置される「会員アプリ」

2つ目は、顧客との接点を増やすために開発される「会員アプリ」です。顧客を囲い込みたいのなら、スマホのホーム画面上でLINEやGmailと並ぶくらい、毎日使われるものでなければなりません。本気でそのようなアプリを作ろうとするならば、とてつもないコストを要します。

一方で、顧客を囲い込むために作られたアプリの多くは、既存顧客向けに自社のすべてを詰め込んだ「全部盛りアプリ」です。これらはまったく使ってもらえず、放置される末路にあります。

たとえば、ある自動車保険会社は、事故連絡や住所変更など手続きの窓口をすべて盛り込んだ既存顧客向けアプリを作ろうとしていました。事前に顧客調査をおこなったところ、「アプリから手続きをしたい」と思う人は残念ながら一人もいませんでした。事故が起きたときは悠長にアプリを開く余裕がありませんし、数年に1回しか起こらない住所変更手続きのためにわざわざアプリをインストールすることもありません。顧客はいつも、自分にとって最適な手段を選ぶだけです。

かろうじて顧客が高頻度で使ってくれる可能性のあるアプリは、「EC」「店舗」「メディア」に限られます。「EC」の場合、毎日新着商品をチェックするようなファンしか使いません。「店舗」も高頻度で通うユーザーがポイントカードやチラシの代わりに使うだけ。「メディア」も毎日新着情報をチェックするようなヘビー読者しか使いません。つまりアプリが果たせる役割は、高頻度で利用するサービスにおいて、すでにLTVの高い顧客の体験をスムーズにすることだけなのです。

3. 都度購入で事足りるのに毎月購入を求める「サブスク」

3つ目は「サブスク」です。LTVを伸ばすため、さらには毎月の売上を安定させるために、「都度購入」を「定期購入」に変えたいと思う企業は多いでしょう。

サブスクはもともと、顧客に有利なサービスとして生まれました。SaaSであれば、自社開発不要でシステムを使えたり、つねに最新の機能を享受できたりするメリットがあります。しかし「都度購入」で事足りるものを無理やり「定期購入」にした場合、「わずかに割引される」程度しか顧客のメリットがないことがほとんどです。定期購入しても結局使わなかったり、解約時に違約金が発生したりと、デメリットすら生まれます。

私の恥ずかしい過去をさらすと、当社が提供する「AIアナリスト」という主力サービスも、安易な気持ちで都度課金から定額課金に変えて一度失敗しています。サービスリリース当時は、「Webサイトの改善レポート機能」を1回5万円という都度課金で販売していました。しかしこれだと売上が安定しなかったため、当時流行し始めたSaaSブームに乗って、安易に「月額5万円」のサブスクに変更したのです。

これによって最初は順調に売上が積み上がっていきました。しかしながら、Webサイトのデータはそれほど激しく変化するものではありません。結果として、「月額課金にしたのに毎月同じようなレポートが届きます」というクレームが、ほぼすべての顧客から寄せられる事態となりました。このように、企業都合で無理やり定額課金にすると、顧客満足度が落ち、むしろLTVを毀損する可能性すらあるのです。

4. 企業視点で作られたつまらない「メディア」

最後の失敗事例は、記事や動画を定期的に届けて読者を囲い込もうとする「メディア」です。前述の3つより手軽に始められるため、お金が余っている企業に人気の施策です。

メディアが失敗する最大の原因は、集客できないことです。確固たる思想があり、先鋭的なスタンスでとがった情報を出し続けられるなら、いくらでも集客できます。しかし一般的な企業は、ブランディングや広報、IR、コンプライアンス、社長の一声、担当者の思い込みなど圧力によって、骨抜きのつまらない情報しか出せません。当たり前ですが、つまらないメディアに人は集まりません。

集客できずに焦った企業は、広告で人を呼び込もうとします。しかしせっかく広告を出すのなら、メディアではなく商品・サービスに直接誘導したほうが効果的です。また、SEOに投資するにしても、月間10〜50万人を集客するには数千万円のコストがかかります。単価が高いBtoBや高額耐久財を扱う企業であれば元が取れますが、単価が低くターゲット数の少ない消費財や店舗ビジネスとは相性が良くありません。

集客手段は他にもありますが、仮にSNSで拡散しようとしても、企業視点で作られたメディアではうまくいきません。おもしろい情報でなければ、集客は実現しないのです。

顧客の「囲い込み」は妄想で始まり廃虚に終わる

妄想四天王のような失敗が起きてしまう原因は、顧客の気持ちをないがしろにして「カスタマージャーニーをねじ曲げよう」とする企業側の傲慢さにあります。顧客不在で、施策や組織が先行しているのです。

それでは企業にできることは何かというと、カスタマージャーニーの「全体改造」ではなく、顧客にもメリットがある形でカスタマージャーニーを微修正する「ボトルネックの解消」だけです。

たとえば、プロ野球のファンが生まれる過程には、「初心者は球場への行き方がわからない」というボトルネックが存在します。チケットはどこで買えるのか? 1人で行っても大丈夫なのか? などわからないことだらけで、なかなか一歩が踏み出せません。このボトルネックは、公式サイトに「初心者向けのページ」を1枚追加するだけで大きく改善できます。

このように、カスタマージャーニーの微修正はかなり地味な仕事です。Webサイトに1枚ページを追加したとしても、社内からの評価はぱっとしないでしょう。このページがいかにカスタマージャーニーにおいて重要な位置付けかを熱心に説明し、KPIが改善していることを社内に説明できなければ、評価にはつながりません。

企業担当者からすれば、「やった感」のある派手な施策のほうが成果としてうたいやすく、出世にもつながります。こうした企業担当者の虚栄心によって、「会員プログラム」や「会員アプリ」が猛烈な勢いで誕生してしまうのです。これらは最終的に、顧客から見向きもされない「廃虚」と化します。その担当者が出世した後、数年たってから静かにクローズされるだけでしょう。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠

顧客を逃す「4つのボトルネック」を取り除こう

拙書『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』では、LTVのボトルネックを発見するためのフレームワーク「MAST」を解説しています。

「MAST」とは、Meet(出会う)・Attract(引き付ける)・Sense(検知する)・Trade(商売する)の頭文字であり、それぞれの場面について、具体的な事例を交えながら改善方針を紹介します。

カスタマージャーニーをねじ曲げようとする方法ではなく、持続的にLTVを向上させる方法を持ち帰っていただけるはずです。ぜひご覧ください。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(著:垣内勇威氏 出版:日経BP)

用語集
EC / KPI / LTV / SEO / SNS / SaaS / カスタマージャーニー / ブランディング / ロイヤルティ / 顧客生涯価値
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