2019年のバズワードぶった斬り
デジタルマーケティング界隈では、毎年のようにバズワードが生まれる。しかし、バズワードに振り回された結果、成果が出なかったというマーケターもいることだろう。そんなバズワードには、どのような心構えで向き合えばいいのか。「デジタルマーケターズサミット 2019 Winter」に各務浩平氏が登壇した。「平成最後のデジタルマーケティングぶった斬り!」という刺激的な講演タイトルで問題提起した。
本記事では1ページ目に「バズワードについて」を取り上げ、2ページ目では「デジタルマーケティングの人材問題と、会場からの質問」をまとめる。
本内容における3つの前提認識合わせ
セッションは、まずデジタルマーケティングについての意識合わせから始まった。
【1つ目の前提】
このセッションで言うデジタルマーケティングとは、いわゆる「外向けのデジタルマーケティング」のことだ。たとえば、オンライン広告/SEO/SNS等を考慮した、デジタル上の顧客接点を含むコミュニケーションや、それにひも付くようなアドテクノロジーの話などである。
一方「内向けのデジタルマーケティング」というのが、BIやRPAのような社内のマーケティングプロセスのデジタル化を意味するものであり、今回のセッションの中では除外して考える、ということ。
【2つ目の前提】
また、マーケティングという言葉も定義がいろいろだが、以下のような定義で話を進める。
×「消費者のニーズを読み解き、売り上げを最大化する」ではなく
○「消費者にSeeds(種)を植え付け、欲求を顕在化させる」
ダイレクトレスポンス型のデジタルマーケティングというよりも、顧客の思考形成に関するコミュニケーション設計の観点で話を進める、ということである。
【3つ目の前提】
もう1つ、データ活用のステップについてもあらかじめ共有しておく。データ活用は、以下の4つのステップがある。
- 集積
- 可視化
- 分析
- 改善
この図で押さえておくべきポイントは1つだ。
「アウトプットが変われば、次のインプットも当然変化するので、同じフレームでの施策再現性は無くなる」ということ。
バズワード年表
また、主なバズワードが登場した時期の年表を掲載する。このうち赤字で示しているのが、各務氏が誤解が生じやすいと考えているものである。これらについて1つずつ解説する。
「アトリビューション」は何かを「発見」するものではない!!
アトリビューション分析でよくある誤解(過剰な期待)は、以下のようなものだろう。
- 「広告投資の再配分・効率化をしたい」
- 「認知向け施策の効果を知りたい」
- 「アトリビューション分析をすれば何かわかるんじゃないか」
しかし、各務氏は以下のように語る。
基本的に、アトリビューションは「発見」するものではなく、「検証」するものとして使うべき。事前の仮説とそれに対する施策が想定通りかどうかの検証のためアトリビューションを活用するだけ(各務氏)
たとえば、
施策A「認知向けのバナー配信」 → 施策B「コンテンツメディア」 → 施策C「リスティング広告」
という施策を実行して、コンバージョンがあったとしよう。かつては、コンバージョン直前の施策Cの効果があったとだけ考えていた。
しかし、コンバージョンに貢献したのは本当に施策Cだけかといえば、そんなことはないだろう。最後にクリックした施策Cの「リスティング広告」だっただけで、施策AやBがコンバージョンに貢献していないわけではない。そういった考え方から、途中経過でどの程度の貢献があったか分析するというアイデアが登場した。
つまり、アトリビューション分析はコミュニケーション設計の成否を評価するもので、仮説と実施施策の効果は測れても、新しい何かを発見することは難しい。
また、前図で示し「データ活用ステップ」の図で「インプットとアウトプットの間には密接な関係性がある」と言ったように、アウトプットが変わればインプットが変わり、分析結果も必然的に変化していく。
A/B/Cの施策を実行して、アトリビューション分析をしたら「Bの中間効果が良い」とわかることもある。しかし、AとBの間に新しい施策Xを入れることによって、「Bの施策が悪影響を及ぼしている」という結果になる可能性もある。
A/B/Cという順番でコミュニケーションすることにしたのは、何か仮説があったはずであり、アトリビューション分析はその仮説が正しかったかどうかを確かめるためのものと考えるべきだろう。
発見がある「かもしれない」という期待のもとにアトリビューション分析をやると失敗する。そもそも、コミュニケーション設計が不十分な状態だと意味がない(各務氏)
「ビッグデータ解析」するより「スモールデータ」で事足りることも多い!!
ビッグデータが話題になったのが2012年頃、マシン性能が向上したこともあり、2015年頃にAIや機械学習があらためて取り沙汰されるようになった。ビッグデータ/AI/機械学習でよくある誤解(過剰な期待)は、以下のようなものだろう。
- 「データがたくさんあるのだから、何かわかるんじゃないか」
- 「人工知能だったら何か教えてくれるんじゃないか」
しかし、「アトリビューション同様、存在しないデータについては何も語ってくれないのが実態」だと各務氏は言う。
たとえばテレビCMを打っていない企業に対して、AIは「テレビCMをやったほうが良いです」と示唆してくれるだろうか? 当然テレビCMをやったデータが無いので、そんなことは示唆してくれない。
そもそも、ビッグデータ解析をしなくとも、グループインタビューやデプスインタビューで得られる定性情報で明らかにできることも多いからだ。
コンサルティング会社にビッグデータ解析を依頼したが、戻ってきた結果は「そんなことはわかっている」という内容だったという体験をした方もいるのではないだろうか。
「カスタマージャーニー」はタイプとメソッドで適用範囲を変えないと役に立たない!!
「ユーザー行動を数値で可視化するため、まずはカスタマージャーニーを作ろう」と言われるが、これがカスタマージャーニーについてのよくある誤解(過剰な期待)だと各務氏は言う。
カスタマージャーニーは、一面的には有効であり、データ可視化のポイントと定義を明確化できる。
たとえば、カスタマーサポートと営業とマーケティングのように部署をまたいで横串で定点観測するような場合の合意形成の手法として有効だと言える。
一方で、カスタマージャーニーは、外向きのデジタルマーケティングに対して、基本的に役立たないと各務氏は語る。
まず、カスタマージャーニーは、対象としている範囲によってタイプが3つに分けられると各務氏は説明した。
タイプ ① 購入/契約以後のカスタマージャーニー
図では黄色い部分。購入して、一度顧客になった人をリピーターにする、優良顧客にするという文脈でのカスタマージャーニー。これは、CRMやMarketing Automationといった、「内向きのデジタルマーケティング」の範囲で、今回のセッションでは取り上げていないが、カスタマージャーニー設計は有効な場合がある。
タイプ ② 商材認知以降のカスタマージャーニー
前図の緑色の部分。カスタマージャーニーというと、この部分を指していることが多い。顧客接点のプランニングにおける合意形成や、広告プランニングに使われるカスタマージャーニー。
タイプ ③ 拡張カスタマージャーニー
図では青色の部分。認知以前の段階を含んだカスタマージャーニーで、外向きのデジタルマーケティングにおいて、本来的な差別化ポイントになる。
カスタマージャーニーの範囲
引っ越し業者の例で考えた場合を、図の下の部分に示している。「引っ越しを申し込む」には、「なぜ引っ越すのか」という理由がある。それは「何らかのライフイベント」だろうし、たとえば「家を買う」「結婚する」といったことかもしれない。これが、コンテキスト(文脈)だ。
自社、あるいは自社製品を認知したところから、いかにコンバージョンしてもらうかを考えてカスタマージャーニーを作れば、それはアトリビューション分析の対象にはなる。しかし、コンテンツマーケティングで成果をあげるのは難しい。競合との競り合いになり、CPCの高騰や広告プログラムの複雑化に陥るためだ。
一方で、コンテンツマーケティング戦術の素地になるのは、コンテキスト理解や、定性調査/仮説ベースの議論だ。冒頭の、「消費者にSeeds(種)を植え付け、欲求を顕在化させる」というマーケティングの定義を思い出してほしい。
引っ越し業者の例で言えば、引っ越しが必要だと気付かせ、引っ越し業者を探そうと思わせるコンテンツを作ることがコンテンツマーケティングになる。
どう拡張して競合他社との違いを生むかという拡張カスタマージャーニーがおざなりになっている気がすると同時に、コンテンツマーケティングを商材認知以降のカスタマージャーニーのレイヤで実施しているケースがあるために、コンテンツマーケティング=SEOという誤認が生まれているのでは(各務氏)
「コンテンツマーケティング」はSEOのためにやるのではない!!
コンテンツマーケティングにおけるよくある誤解(過剰な期待)は、以下のようなものだ。
- 「コンテンツマーケティングで自然検索増(SEO)を狙おう」
- 「記事コンテンツを追加しよう」
各務氏は、「SEOのためにやるのはコンテンツマーケティングではないし、コンテンツは記事だけではない」と言う。コンバージョンに至る最終的な後押しは、価格や機能、競合との比較になるだろう。それは、価格.comに委ねてしまうという方法もある。
また、商材によっては、タッチできるポイントが購買・契約の部分だけという場合もあるだろう。
その商品を欲しいと思うようになるためのコンテキストが必要であり、それを補うためのコンテンツマーケティングがなされているかどうかが重要なポイント(各務氏)
つまり、本来的には、拡張されたカスタマージャーニーマップから特定のセグメントに気づきを与えて、購買へと繋げていくのがコンテンツマーケティングの役割であり、狭い観点でコンテンツマーケティングをやっていると苦戦すると各務氏は述べた。
重要なのは「正しい手順」とベースとなる「コミュニケーションプラン」
ここまでバズワードの誤解を正してきたが、個々のバズワードをきちんと理解することが必要であるのと同時に、それぞれがどのような関係性にあるかも認識する必要がある。たとえば、バズワード年表を見ると、時系列的には、次のような順で話題になった。
- アトリビューション
- ビッグデータ
- カスタマージャーニー
- DMP
- コンテンツマーケティング
- AI/機械学習
- MA
しかし、実際の手順では、以下の図のようになっているべきである。
この順序で進めていかないかぎり、ビッグデータやコンテンツマーケティングなど、場当たり的に取り組んでも成果は出ない。そのための起点として、まず拡張カスタマージャーニーが必要であれば定義する。
さらに、この手順全体が、ベースとなるコミュニケーションプランに則していなければならない。各務氏は、「点(各バズワード)と線(バズワード間の関連性)と面(コミュニケーション設計)」と表現した。
ベースとなるコミュニケーションプラン自体が成立していない限り、デジタルマーケティングのバズワード群は全然機能しないというのが実態だと言う。
現在のデジタルマーケティングは間違った順序で進められてしまい、重要なコミュニケーション設計やコンテキストがおざなりになっていることが最大の失敗ではないか。正しいインプットを得るためのコミュニケーション設計仮説が重要だ(各務氏)
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