検索流入の前年比150%を実現したオートックワンのSEO戦略 検索ニーズに左右されないコンテンツ制作とは?
企業にとってWebサイトにおける集客施策は今や欠かせない施策だ。より多くのユーザーにリーチし、どうコンバージョンにつなげるのか。その戦略づくりこそがマーケターの腕の見せ所だ。なかでもSEOは、持続的にPV・CV獲得増につながる有力手段の1つとなる。
「デジタルマーケターズサミット 2019 Winter」に登壇した、自動車総合情報サイト「オートックワン」のマーケティング担当である柳澤氏は、時期によって異なる検索ニーズに左右されないメディアを作るためのSEOについて語った。聞き手は「Faber Company(ファベルカンパニー)」の月岡氏だ。
時期によって検索順位が大幅変動、安定してPVを稼げない
オートックワンは自動車関連の情報を総合的に扱うWebメディアである。メディアだけではなく、新車見積依頼、中古車検索などのサービスも提供している。ニュース記事は自社サイトだけではなく、Yahoo!ニュースなどの他媒体でも配信している。
柳澤氏は、SEO会社アナリストから「ジャパネットたかた」のインハウスのSEO・集客担当を経て、2014年11月にオートックワンへ入社後、Webマーケティングを担当している。
柳澤氏が2016年当初、マーケティング担当となる以前、オートックワンのWebサイトに訪れるユーザーのうち、約40%が検索流入であった。
この頃、外部のYahoo!ニュースなどで記事が掲載されると、アクセスを稼げていたことから、会社としてはどうしてもそちらにばかり目がいってしまっていた。ただ私は、自社サイトへの検索流入はまだまだ伸ばせると考えていた(柳澤氏)
それに気づいたキッカケとして、車種名検索を柳澤氏は例に挙げた。たとえば「日産 ノート」というように車種名で検索すると、検索結果が時期によって大幅に異なる事象があったのだ。
該当車種が発売前であれば、新車発表・発売時期を伝えるニュースサイトが検索上位になりやすい。だが、その車がいざ発売されると、ニュースサイトに代わって、今度はカタログなどのスペックに詳しいメーカーサイトや新車見積りサイトが検索上位にくる。さらに発売から一定時期が経過すると、最終的に中古車情報サイトが検索上位へとなっていく。
つまり、車種名をキーワードとして狙った記事ばかりだと、ユーザーの検索ニーズの移り変わりに対応しきれないのだ。発売前に一定のアクセスをとれたとしても、それが一過性のもので終わってしまう。
検索流入が一定量あるように見えても、どのページが見られているかは時期によってバラバラ。記事を作れど作れど安定したPVが取れず、自転車操業状態だった(柳澤氏)
これに危機感を覚えた柳澤氏は、時期によって検索流入が左右されない、安定したユーザーニーズが存在し、アクセスを稼げる見込みのある強固な“土台”となる記事の制作に動く。それまでの新車レビュー中心の記事ラインナップに加え、車に関する「基礎知識」や、いわゆる「ライフハック」的な記事も掲載する方向性にシフトしたのだ。具体的には下記のような記事だ。
- シガーソケットの使い方
- 初心者マークについて
- かっこいい車・かわいい車ランキング
試行錯誤を繰り返して、編集体制を変革
しかし、この方針変更は、すぐにはうまくいかなかった。これまでの編集体制や方針を大きく変更することになるからだ。柳澤氏は3フェーズでその変遷を紹介した。
その① 編集部依頼フェーズ
まずは、SEO優先の記事作成について、編集部に協力を呼びかけたが、編集部からは反発があった。従来のコダワリをもって編集を行っていた「編集部」がきちんと確立している。そこへいきなり「SEOを踏まえた記事を作りたい」と新しい作り方を呼び掛けても、なかなか理解は得られなかった。
編集部はそれまでも読者第一で記事を制作していた。そのままの記事数と質を維持しながら、かつ新機軸の記事を加えようとすると工数的に無理だった。事前に社長を交えてKPIまで設定していたが、当時の体制では難しいと判断した(柳澤氏)
オートックワンのニュース編集部には常時5名ほどの編集者で、10名を超える外部の自動車評論家やライターらと協力し、およそ月120本の記事を制作していた。余力がないのは事実だった。
その② マーケ部主導フェーズ①
次に、柳澤氏らマーケティング部が主導し、SEOに興味のある新人社員を編集者に任命。その編集者から新機軸の記事を外部ライターへ発注する体制とした。しかし、これも上手くいかなかった。ユーザーの検索意図を重視したい編集者と外部ライターの間での「そもそもの認識のズレ」が埋められなかったのだ。下記のような例だ。
- 「車中泊 グッズ」で検索上位を狙いたいのに、ライターは「グッズ」という表現を使ってくれなかった
- 覆面パトカーの見分け方の記事をお願いしたら、覆面パトカーとして運用される事の多い車種のことばかり書かれた記事が届いた
- 車の内部装備のことを、一般ユーザーが想起しやすい「内装」ではなく、業界慣習で「インテリア」と表現して、専門用語を多用する
専門家であるが故に、コダワリが強かったり、専門用語を多用したり、一般ユーザーの想起しにくいキーワード選定や記事構成になってしまっていたのだ。
その③ マーケ部主導フェーズ②
こういった失敗のフェーズを経て、柳澤氏らは外部ライターへの記事発注にあたって明快な仕様書を作る体制を確立させた。仕様書作成のポイントは下記だ。
- 記事タイトルや見出しは発注段階で指定
- 段落ごとの内容をおおまかに指定
- OK/NG用語についてもあらかじめ提示しておく
ライターさんは少ない時間をやりくりして記事を書くはず。すると「すでに知っていること」「得意な分野」の記述が増えてしまうので、そこを仕様書でカバーする(柳澤氏)
月岡氏は「仕様書をここまで固めて記事を作っているメディアは珍しい。ふわっとした依頼だと、あがってくる記事もふわっとしてくるのはよくある話。自分の意図した記事を作りたいなら、わかりやすい依頼をすることが重要だろう」と述べた。
これらの取り組みが功を奏し、「シガーソケット 使い方」や「かわいい車」などの検索キーワードにおいて、オートックワンの記事が検索順位1位を獲得している(講演当時)。こうした検索ユーザーに寄り添った記事制作によって、検索流入は2018年の月間ユニークユーザー数で前年比150%を達成した。
SEOを効率的に行うためにツールを活用
オートックワンでは仕様書作成のために、Faber Companyが提供しているSEOプラットフォーム「MIERUCA(ミエルカ)」を活用している。MIERUCAにはSEOを効率的に行うための機能が揃っている。大きなポイントは下記の3つだ。
- SERPs(検索結果)分析
- ユーザーニーズ分析
- SEO状況の共通理解
その① SERPs(検索結果)分析
SERPs(Search Engine Result Pages)とは、検索結果ページにどんな記事が上位表示しており、その記事はどんな内容が、どんな構成で記述されているか調べることでユーザーの検索意図を推定する作業のことだ。手動でも行える調査だが、当然時間はかかる。
MIERUCAであればSERPsからのリンク先を分析し、タイトルやディスクリプション、見出し(h1/h2タグ)までを抽出できるため、作業者の負担を大幅に軽減できる。
その② ユーザーニーズ分析
検索時に検索窓に表示される候補キーワード、通称「サジェストキーワード」はユーザーニーズを分析する上で非常に役立つ。たとえば「車中泊」と検索窓に入力すると、候補として「マット」「グッズ」「軽自動車」などのキーワードが続けて表示されるが、MIERUCAでは、このサジェストキーワードをチャート状にわかりやすく表示してくれる。
さらに、MIERUCAのサジェストキーワード分析機能では、自社サイトと競合サイトとの比較もできる。「車中泊」というキーワードで検索した場合、自社サイトの検索順位だけではなく、競合サイの検索順位状況がわかるため、どのキーワードを優先して制作すべきかの戦略立案に役立てられるのだ。
柳澤氏は「経営者やチームを説得するとき、『競合に負けている』と訴えるのはとても響く」と説明。月岡氏も「SEO戦略を立てるとき、MIERUCAで検索順位状況などのエビデンスを出せるのは非常に意味がある」と述べている。
その③ SEO状況の共通理解
また継続的なSEO状況のモニタリングにおいてもMIERUCAは活躍しているという。柳澤氏はMIERUCAを活用し、大量にある順位計測キーワードの、自社サイトと競合サイトの検索順位状況を「ファインダビリティスコア」として集計している。検索1位だと●ポイント、2位だと――という方式で検索順位をスコア化し、時系列グラフとしてレポートしているのだ。
こうしたレポートのおかげで、単純なPV数だけでは分からない、SEO施策状況が把握しやすくなっているという。特に、チームの共通指標が自動で日時レポートされているので、チームの共通理解の形成や、順位上昇などによる編集担当のモチベーションアップにつなげやすいというわけだ。
SEO優先ではなく、ユーザーニーズを意識したコンテンツづくり
専業メディアによるものはもちろん、オウンドメディアも含めれば、インターネット上では莫大な数の「コンテンツ」(記事)が制作・公開されている。それだけに、せっかく作ったコンテンツが読まれないという懸念は常に付きまとう。
果たして、コンテンツを作ることは、各企業が本来求めているコンバージョン(CV)につながるのだろうか。また、コンテンツを読んでもらうためのSEOに、どれくらい力を注ぐべきなのだろうか。柳澤氏は「SEOを先行させるとほぼ失敗する」と話す。
まずは、現在、自社サイトに来ているユーザーがどんなニーズや悩みを抱えているかを把握し、それを解決するためのコンテンツ作りを優先すべき。SEOを重視するのは、ある意味でCVから遠いユーザーを集めることにもなる。前職の例では、(購買のみを重視せず)対象商品・サービスの選び方や使い方についての記事を充実させた。まずはユーザーからの“信用”を獲得していくべき(柳澤氏)
また、オーガニックの流入数とCVR(コンバージョンレート)だけを追ってしまうと成果を見誤ることもあるので注意が必要だ。オートックワンが、サイトのCVにあたる新車見積もり依頼数を調べたところ、コンテンツページのCVRは0.1%にも満たないことがほとんどで、かなり低い。
しかし、サイト内の全CV数における構成比を見ると、約20%がコンテンツページからなのだそうだ。SEOを意識した記事はPV数がそもそも多い傾向にあるためCVRは低いのだが、CVの絶対数への貢献度が高くなっていることがわかった。
柳澤氏は「SEOというと、システム改修を含む大がかりなものを想像するかもしれないが、コンテンツを起点としたSEOは、リソースさえあれば比較的簡単に始められる。ぜひトライしてみてほしい」と語った。
最後に月岡氏は、MIERUCAのユーザーを一同に集めたミーティングを定期的に開催し、知識とノウハウの共有が盛んであると紹介。ユーザー会で顔を合わせる中で、コンテンツ制作やSEOの相談をはじめ、マーケター同士の交流を深めて、自社マーケティングの成功に繋げてほしいとアピールした。
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