2021年 SEO最前線、ユーザーのための施策こそが成果につながる
検索エンジンの進化によって、小手先の施策ではなく「ユーザーのための施策」がSEOの成果に繋がる時代となった。今後、重要なのは「ユーザーの目的に寄り添い、関係性をつくる」こと。ユーザーが「なぜ検索したのか」の仮説立てから、ランディングページの効果検証を繰り返していくことが必須となる。
「デジタルマーケターズサミット 2021 Winter」に登壇したFaber Company(ファベルカンパニー)の小丸広海氏は、仮説検証の進め方、関係づくりにおいて欠かせない他チャネルでの活動について語った。
小手先のSEOテクニックはまったく通用しない時代へ
キーワードの詰め込み、低品質な記事の量産など、かつてSEO対策と呼ばれていた小手先のテクニックは、2021年には完全に通用しなくなっている。現在は、SEOのためにSEOをするのではなく、ユーザーに寄り添い、関係性を構築・継続する取り組みが評価される時代になった。
ユーザーに寄り添うとは、
- ユーザーの検索目的に寄り添ってコンテンツを作ること
- さまざまなチャンネルを通して関係性を構築・継続すること
だと小丸氏は述べ、この2つをテーマで講演を行った。
テーマ1:検索目的に寄り添うコンテンツ作り
「検索ユーザージャーニーの作成」と「ユーザー行動の可視化」
「よいコンテンツとは?」という問いに完璧な答えはない。検索経由で訪れた全ユーザーを満足させることはできないからだ。しかし、ユーザーの検索目的を達成するためのヒントはある。たとえば次のような手法によるニーズ調査だ。
- 検索結果上位サイトの読み込み
- 対策キーワードの月間検索数の確認
- サジェスト・共起語調査
対策キーワードとそのサジェストキーワードの検索ボリュームを調べて、そこから作成するコンテンツを考える。こんなコンテンツの作り方をしている人も多いだろう。このアプローチは間違いではないが、より高みを目指すなら、次に説明する「検索ユーザージャーニー」を描き、実際のユーザー体験に気を配り改善していくことが必要だと小丸氏は主張する。
検索の過程でユーザーのニーズは変化する
ユーザーは、何かを知りたいと思って検索するが、検索して情報を得ると、次の情報ニーズが湧いてくる。検索行動に特化して、ユーザーの変化をまとめたものが「検索ユーザージャーニー」だ。小丸氏は、オンラインミーティングのためにマイクを購入した自身の体験を元に、情報ニーズの変化と同期して推移する検索ワードについて説明した。
検索ステップ ①
オンラインミーティング中の音声品質が気になり、5,000円の予算でマイクを購入しようと検索スタート。
検索ワード:「オンラインミーティング マイク」
検索ステップ ②
該当する製品を販売するECモールが表示されるが、製品が大量にあってどれを選べばよいかわからない。まずはスペックから調べてみることに。
検索ワード:「オンラインマイク スペック」
するとハウツー系の記事が多数ヒットするが、指向性、周波数特性、負荷インピーダンス、S/N比など難解な専門用語が並び、参考にならず。
検索ステップ ③
再びECモールに戻り、製品のレビューチェックへと方向転換。評価の高い製品名をピックアップし、レビューをさらに調べる。
検索ワード:「製品名 レビュー」
検索ステップ ④
レビューを調べる中で、製品を使って録音した動画が参考になることがわかり、聴き比べで候補を絞る方向へ。
検索ワード:「製品X 製品Y 聴き比べ」
検索ステップ ⑤
動画がヒットし、YouTubeで再生して聴き比べて購入する製品を決定。動画の概要欄のリンクをクリックして購入。
この例のように、知りたい内容が変化するに連れて、キーワードも変化して、目的達成に近づいていくのがわかるだろう。
こうした変化を整理したものが「検索ユーザージャーニー」となる。
検索ユーザージャーニーを作成する
検索ユーザージャーニー作成は、次の3ステップで行う。
- 仮説を立てる
- 整理する(検索ユーザージャーニーを描く)
- ブラッシュアップする
1. 仮説を立てる
まずは自分がユーザーのつもりで検索して、どんなふうに情報ニーズが変化していくかを試して仮説を立てよう。先に検索ユーザージャーニーを描くと、それに引っ張られた行動をしてしまうので、描く前に自ら体験することが重要だ。
実際に検索ユーザージャーニーを描く際には、次の情報を枠組みとして設定する(例はオンラインミーティング用マイク)。
- 誰が:Web会議などビジネス用途で使うユーザー
- シチュエーション:リモートワークなどでWeb会議が増えたため、マイクの音質や使い勝手を向上させたい
- 行動目的:用途に適したマイクを購入したい
2. 整理する(検索ユーザージャーニーを描く)
そして、情報収集、比較検討、購入のステップごとに、ユーザーの状況、目的達成に必要な情報、想定される検索キーワードを整理していく。
3. ブラッシュアップする
検索ユーザージャーニーを整理できたら、それを元にブレストする。この時、机上の空論ではなく、リアルな情報にもとづいて議論していくことでブラッシュアップできる。そのためには、アクセス解析ツールやその他マーケティングツールでの分析、顧客ヒアリングなどが有効だ。もし顧客に直接会えない場合は、顧客接点の多いメンバーへのヒアリングからデータを集める。これらの情報を整理することで精度の高い検索ユーザージャーニーが作成できる。
検索ユーザージャーニーを描くことで、用意するべきコンテンツがわかり、必要な情報を網羅できるし、ユーザーの検索行動に合わせてキーワードを広げられる。サジェストでは見つけられなかったキーワードも、検索ユーザージャーニーを描くことで見つけやすくなる(小丸氏)
実際のユーザー体験に気を配り改善
行動の測定にはヒートマップが有効
続いて、コンテンツの改善の考え方について解説した小丸氏。ここでも、ユーザー体験を第一に考えていく。検索結果で上位表示されても、訪れたページの体験が悪いとユーザーの目的達成の阻害になり、離脱されてしまう。
コンテンツを公開したら、ユーザーがコンテンツを“どう見ているのか”を調査していく必要がある。ここで、小丸氏は聴講者に「ユーザー行動を測るために最も利用しているツール」ついてアンケートを行った。結果は次の通りであった。
- Google アナリティクス:75%
- Search Console:13%
- ヒートマップ:8%
- その他:3%
- 何も利用していない:1%
Google アナリティクス、Search Consoleでもユーザー満足度の測定や、ユーザー体験を阻害していないかを検証できるものの、ユーザー体験と乖離したりすることがあると小丸氏は指摘し、ユーザーの行動を可視化できるヒートマップ分析を勧めた。
ヒートマップツールは、ページにおける熟読エリア、離脱ポイント、クリック箇所などがわかるので、記事のリライトやサイト内の導線改善のときに参考になる。その上でGoogle アナリティクス、Search Consoleと合わせてみることで、より仮説の精度が高まるという。
テーマ2:関係性の構築・継続
信頼性を示すシグナルはユーザーとの関係から生まれる
次は、ユーザーとの関係づくりにテーマを移した。まず、現実社会で行動するとき、一般的に人は知らない人が発信した情報よりも、実績のある専門家の話を信用する。検索エンジンも同様に、さまざまなデータやシグナルから信頼度を判断し、それを検索結果に反映している。たとえば次のようなシグナルが重要ではないか。
- ブランド名の指名検索数
- Web上での評判・言及数
- 検索ユーザー行動
もちろんこれらのシグナルを不正に獲得しようと操作しても、意味がないでしょう。これらは、ユーザーとの関係性を深め、ファンができることで自然に増えていくものです(小丸氏)
以降は、ユーザーとの関係性づくりのための活動について、MIERUCAの事例を元に紹介した。
顧客接点のオンライン化と体験・学びのシェアを促す
MIERUCAでは、ユーザー会を定期的に実施し、ユーザー同士が交流できる場を用意している。2019年には300名が参加して好評を博した。さらに、参加者にはユーザー会での学びや感想をSNSなどで発信するように働きかけている。ポイントは、ハッシュタグ設定とその周知だ。ハッシュタグを用意しても使われないことがよくあるが、会場でのハッシュタグの掲示、オンラインセミナーであれば常時画面に表示しておくなど、参加者の目につきやすいように工夫している。
まだ挑戦中だが、ユーザーのリアルな発信を通してサービス認知を獲得できつつあります。コロナ禍においてWebイベントが主流になる中で、ユーザーの発信はより重要になるでしょう(小丸氏)
複数チャネルでの質の高いコンテンツ発信
MIERUCAでは、オウンドメディア、メディア記事/プレスリリース、Twitter、Facebook、YouTubeチャンネルなど、複数のチャネルで情報発信を積極的に行っている。
ユーザーがもっと見たい、他の人にも教えたい、困ったときに見に来たいと思ってもらえるようなコンテンツを制作することが重要で、その結果として自然とリンクが増えていきます。
MIERUCAではYouTubeでGoogle アナリティクス 4の解説を専門家の小川卓が行い、その内容をオウンドメディアで記事にする、Twitterで共有するなど、複数のチャネルで発信することで、検索結果にYouTube、オウンドメディア双方のコンテンツが表示されるようになりました。
これを見たユーザーがブログで紹介したり、SNSで拡散したりして、リンクが自然発生しています。コンテンツを通してユーザーとの関係性が作れた結果だと思います(小丸氏)
ユーザーとのコミュニケーション
コンテンツを発信すると、ユーザーとの接点ができコミュニケーションの機会が作れる。同社では、YouTubeにアップした動画の特徴的なシーンを数点画像にしてツイートすることでエンゲージメント率を高め、ユーザーから100件以上の高評価を獲得することもある。YouTubeでコメントがつけば必ず返信し、真摯に対応することが欠かせない。
コミュニケーションにおいては、「購入しないが応援してくれるユーザー」も重要だという。購入に至らなくても、その企業の発信するコンテンツのファンとして、SNSでの共有、高い評価をつける、口コミで他の人に勧めるなど、ポジティブなシグナルの発生源になるからだ。こうしたシグナルはSEOにもよい影響を与える。
ユーザーの目的に寄り添い、関係を作るオーディエンスビルディング
ユーザーの検索目的に寄り添ってコンテンツを作り、さまざまなチャネルを通じて、関係性の構築を行い、継続的にコミュニケーションを行っていくことの重要性がセッションを通して語られた。
なお、この考え方は、「オーディエンスビルディング」と呼ばれる、自社のコンテンツを好意的に見てくれる購読者(サブスクライバー)を増やしていく手法に近いものだと小丸氏は言う。オーディエンスビルディングを提唱した「Content Marketing Institute」のファウンダーであるJoe Pulizzi氏へのインタビュー動画(ミエルカチャンネルで公開)を紹介して講演を締めくくった。
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