強力なデジタルシフトを宣言した資生堂! グローバルブランド「SHISEIDO」のコミュニケーションプランとは?
2023年には媒体費のデジタル比率を90〜100%にする、と発表した資生堂。グローバルプレステージブランド「SHISEIDO」でも、デジタルを中心としたコミュニケーションプランニングが進んでいる。
そこで、SHISEIDO Brand Unitの加藤美侑氏が「デジタルマーケターズサミット 2021 Winter」に登壇し、グローバルブランドにおけるコミュニケーションプランの考え方や最新の施策事例を紹介した。
資生堂の世界中のお客様を理解する
1872年に設立された資生堂は、現在では約120もの国と地域に展開し、日本はもとよりアジア発の化粧品メーカーのトップとして業界をリードしている。グループ全体で女性管理職が半数以上を占め、女性が活躍する企業としても注目を集める存在だ。
2019年には企業ミッションを「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」と改定。創業以来の歴史と伝統を受け継ぎながら、時代に沿った革新を遂げてきた。
グローバルプレステージブランド「SHISEIDO」
加藤氏が担当する「SHISEIDO」は、カメリアマークを使用することが許された、ただ一つの化粧品ブランド。資生堂の会社名を担っているグローバルプレステージブランドだ。世界88の国と地域で共通のプロダクトとイメージを展開している。
こうした資生堂のグローバルブランドにおけるコミュニケーションプランニングとして、加藤氏が最も重視しているのが「世界中のお客様を理解するよう努力すること」だという。
コロナ禍による変化と強力なデジタルシフト
COVID-19により世界が一変し、生活様式や行動もコロナ前には戻れないと予測される中で、支出の抑制と本質的価値の重視、健康・衛生面への意識の向上、さらに企業への信頼やサステナビリティへの関心向上などの傾向が強まっている。
ビューティ市場では、スキンケアによる健康的な肌への重視、メイクアップ頻度の減少、店頭とECの融合が進む中でデジタルの重要性が高まりつつあるという変化がある。
こうした変化が進むなか、資生堂が第二四半期(2020年1〜6月)の決算説明で発表したのが、強力なデジタルシフトだ。媒体費に占めるデジタル比率を2019年の50%から23年には90〜100%に拡大し、Eコマースの売上も全社で13%から25%、中国においては34%から50%に引き上げると宣言している。
そのため、本社にデジタルトランスフォーメーションチームを発足させ、日本事業にチーフデジタルオフィサーを登用し、デジタルマーケティングの専門人材を100名採用するなど人材の強化を行っている。
実際に、資生堂ジャパンでは、顧客ニーズの変化に迅速に対応した新商品展開やデジタルコミュニケーションの進化が目覚しい。グローバルでもDXが加速しており、「No.1 Data Driven Skin Beauty Company」とビジョンを掲げ、さまざまな施策を開始している。
Brand SHISEIDOのデジタル施策
では、グローバルプレステージブランド「SHISEIDO」では、どのようなデジタル施策を行っているのだろうか。
グローバルビューティ市場の変化
「SHISEIDO」を含めたグローバルビューティ市場の状況をみると、プレステージ・プレミアムカテゴリでは5〜6%増と成長が回復し、Eコマースも10%以上の伸びを見せている。
その背景には、肌の健康への意識が高まっていること、そしてメイクアップの価格の二極化が進んでいること、そしてDXやビューティテックの進化、サステナビリティへの積極貢献などが挙げられる。こうした変化を踏まえ、「SHISEIDO」もさまざまな施策を実施している。その中でも、次の4つを紹介する。
① ライブコマース
「SHISEIDO」では、ライブコマースに注力をしているという。ライブコマースはすでに中国市場で実施して好調だったが、日本でも開始。ビューティコンサルタントとともに、インフルエンサーやメーキャップアーティストが登場し、リアルタイムで化粧品や美容法を紹介している。また、日本だけでなく他国でもライブコマースを実施。全体設計として、ライブ中にメッセージなどを送って双方向のコミュニケーションができるようにした他、前後でECサイトと連携したキャンペーンや販売促進を行っている。
② Webカウンセリング
自宅にいながらSHISEIDOビューティーコンサルタントによるカウンセリングが体験できる「Webカウンセリングサービス」を新設。このサービスは、来店不要でzoomアプリを使用して、オンラインで美容のプロが好みに合わせたスキンケアやメイクアップを紹介するサービスだ。
③ 非接触サービスの提供
2020年7月に初のブランド旗艦店「SHISEIDO GLOBAL FLAGSHIP STORE」を銀座に出店。手をかざすと美容液が出てくる自動テスター(パワーバー)や、写真を撮るだけでファンデーションの色選びができるデジタルテスター(ファンデーションバー)などが設置されている。
また、RFID(アールエフアイディ)タグ内蔵のリストバンド(エスコネクト)に、選んだ商品やデジタル体験の結果などが記録できるようになっている。このリストバンドをかざすだけで欲しい商品をカートへ入れられ、そのままレジで会計し商品を受け取れる仕組みだ。さらに、体験コーナーでの結果は、退店後も自身のスマホなどで楽しむことができる。
④ バーチャルストア
リアル店舗と同様に、360度店内を見渡しながら移動し、興味をもった商品を詳しく見て、気に入ればそのまま注文・購入手続きに進める。
あらかじめ欲しい商品を購入する従来のECサイトに対し、店内をブラブラ歩いて買い物をする「楽しさ」を提供するものとなっている。
グローバルブランドのコミュニケーションに不可欠な3つの視点
加藤氏は、グローバルで展開する商品ラインやブランドのキャンペーンのコミュニケーションプランを立て、各リージョン(国・地域)に展開するのが仕事。デジタルはもとより、PRや店頭、ビューティーコンサルタントの振る舞いまで、統合的なコミュニケーションが課題となる。
その加藤氏も、2020年1月に入社するまでは日本市場を中心に、デジタルコミュニケーションのプランニングや広告・PRの仕事をしてきた。これまでの日本市場のみのプランニングから、グローバル市場というスケールに最初は戸惑ったという。その上で、グローバル視点でコミュニケーションプランニングするキーポイントとして、次の3つを挙げた。
- 各国の文化・商習慣の理解: 国によって商習慣・購買行動はまったく異なる。コミュニケーションの違いを意識することが大切。リサーチなどが重要に。
- 注力する国・地域の設定: 世界全体を網羅的にターゲットにしようとすると費用も莫大となり、コミュニケーションの濃度も薄くなる。注力する国や地域を定め、コミュニケーション施策を設計した方が、確かな成果を得易い。また各リージョンとのコミュニケーションを通じて、彼らの意見に耳を傾けるということも重要である。
- ダイバーシティへの配慮: 日本市場をターゲットにしていると、身近な人を想定してプランを立てがち。グローバルでは多彩な背景や価値観をもつ人を想定することが重要。
この中で特に加藤氏が見解を新たにし、強く意識しているのが「ダイバーシティへの配慮」だという。「SHISEIDO」では、さまざまな人種・肌色に対応できるよう、ファンデーションも30色を展開している。また、アンバサダー起用においても価値観や背景、思想、パーソナリティなども含めてアサインしている。そうしたことも、グローバルブランドを担当するようになって加えるようになった観点だという。
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