【レポート】デジタルマーケターズサミット2021 Winter

ネット広告の不正問題から身を守るには? デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の設立の背景と狙い

デジタル広告市場の健全化に向け、「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」が21年3月に設立。組織が必要とされる背景となったデジタル広告の不正問題や組織の概要について日本アドバタイザーズ協会の山口氏と小出氏が解説した。
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デジタル広告市場の健全化に向け、「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」が21年3月に設立された。「デジタルマーケターズサミット 2021 Winter」では、この組織が必要とされる背景となったデジタル広告(インターネット広告)を巡る問題について日本アドバタイザーズ協会の山口氏と小出氏が講演。デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の概要と今後の広告主の対応についても解説した。

日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員長の山口有希子氏(パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社常務 エンタープライズマーケティング本部本部長)(左)と、日本アドバタイザーズ協会 常務理事の小出誠氏(右)

2019年11月に「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を発表

日本アドバタイザーズ協会は1957年(昭和32年)に「日本広告主協会」として発足した、歴史ある組織だ。協会には、製造・保険・運輸・印刷などさまざまな業界の企業が参画。山口氏はB2Bマーケティングに長く携わっており、現在はパナソニック(株) コネクティッドソリューションズ社 常務 エンタープライズマーケティング本部 本部長を務めながら、協会のデジタルメディア委員長としても活動中だ。

小出氏は、資生堂でマーケティングや経営企画などに携わり、2019年1月から協会に出向し、常務理事を務めている。2016年にデジタル広告に関するさまざまな問題・課題の解決に向けて、デジタルメディア委員会が協会内に設置された。その初代委員長が小出氏で、現在2代目を山口氏が務めている。

まず山口氏は日本アドバタイザーズ協会が2019年11月26日に発表した「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」を紹介した。この宣言は、World Federation of Advertisers(世界広告主連盟)が発表したデジタル広告問題への対処方針をベースに、日本アドバタイザーズ協会での議論を踏まえ、まとめたものだ。デジタル広告の課題に対し、パートナー企業にとって欲しい行動と、広告主の姿勢について記載されている。

日本版の特徴は、“広告主の倫理観”という項目を新たに加えている点です。デジタル広告の健全化をはかる上で、わたしたち広告主の倫理観が重要になるのではないかと思い、追加しています(山口氏)

媒体別広告費で2019年にデジタル広告がTVの広告費を抜き1位に

電通が発表している「日本の広告費」によると、2019年日本国内で1年間(1〜12月)に使われた媒体別広告費でテレビを抜き、デジタル広告はトップとなった。

日本の広告費、2019年にデジタル広告がテレビの広告費を抜き1位に

デジタル広告は利用が増えているがゆえに、さまざまな問題がある。2017年1月にIAB(ネット広告業界団体)が主催する会合で、国際的な生活用品メーカーで、世界最大の広告主でもあるP&Gのブランド責任者プリチャード氏が「デジタル広告における透明性の確保は我々の義務だ」と述べ、広告主だけでなく業界全体で健全化と透明性の確保に取り組もうと呼びかけた。

「デジタル広告」3つの問題

日本においても、デジタル広告の問題がマスコミで取り上げられる例は増えている。では、デジタル広告における問題とは、具体的にどのようなものなのだろうか。山口氏が解説していった。

1. アドフラウド

広告が人に表示されていないにも関わらず、広告料金が広告主に課せられてしまうことをアドフラウドという。ボットに代表される自動化プログラムなどによって無効なインプレッションやクリックを発生させ、広告主から不当に広告収入を得る悪質な行為だ。

アドフラウドの発生率は、インテグラル・アド・サイエンス(IAS)社の「メディアクオリティ レポート 2019年下半期版」の調査によると、アドフラウド対策を一切していない場合、出稿のうち10.5%はアドフラウドが発生しているという。広告費に換算するとその問題の重大さが分かるだろう。

アドフラウド。広告が人に表示されていない

2. ブランドセーフティ

広告が不適切なサイトに掲載されてしまうこと(ブランド毀損)への対応をブランドセーフティという。たとえば、暴力や違法薬物利用を助長するサイト、海賊版サイト、ヘイトスピーチサイトなどに勝手に広告が出てしまうことで、ユーザーから「こんな悪質サイトに、この企業は広告を出しているのか」と認識され、結果としてブランドが毀損する。

前述の調査によれば発生率はデスクトップ向け広告で3.2%、モバイル向け広告では7.6%がブランドセーフティを損なうものとされる。問題あるサイトに広告が表示されてしまうとSNSで拡散されたり、お客様サポートセンターにクレームが寄せられたりするケースもある。

3. ビューアビリティ

広告配信回数(インプレッション)のうち、ユーザーが広告を閲覧できる状態の比率のことをビューアビリティという。ユーザーが閲覧できる状態(ビューアブル)でないにも関わらず、広告費が請求されてしまうことが問題になっている。仮に1つのWebページに4つの広告があるとして、ページが縦に長い場合、ページを下にスクロールしないと下図では3つの広告(赤四角)は見えない。多少スクロールしてもバナー広告の半分しか表示されていないという場合がある。

ビューアビリティとは

同調査でのビューアブルな広告の割合は、デスクトップ向けで58.0%、モバイル向けで43.5%にとどまるとされる。半分程度しか広告がユーザーに見られていないということだ。

問題発生の背景は? 「デジタル広告」と「マス広告」の違いを理解しよう

問題が発生する背景として、デジタル広告とマス広告の性質が大きく違う点をまず理解しよう。

デジタル広告の革命的な進化は、それまでの『(広告)枠を買う』から、『狙った人に広告を当てる』というターゲティングへ変化した。当たり前のように聞こえるかもしれないが、まだまだ理解されきっていない印象だ(山口氏)

マス広告とは、テレビCM、新聞広告、ラジオCM、雑誌広告のことを指す。広告したい商品の購買層と合致して、かつ単価の安そうな広告枠を買い、広告を出すというのがマス広告の一般的な考え方だ。

一方、デジタル広告は、商品を購入してくれそうなお客様がどんなサイトやページを読んでいても、広告がお客様を追いかけていき、広告が出せてしまう。素晴らしい技術ではあるが、その裏にある注意すべき点を認識しないといけないと、小出氏は言及する。

また、マス広告は媒体の数が限られている。放送局、新聞社、出版社がそれぞれ所管する広告枠は多いとは言え、それでも管理できるレベルだった。対してデジタル広告は媒体数が大きなメディアサイトから個人のブログまで無限にある。

マス広告は取引関係がシンプル

こうした無限に近い媒体を管理するのが、「アドネットワーク」というネット広告のサイトを多数集めた広告配信ネットワークだ。複数の媒体を取りまとめているので、広告主はある1つのアドネットワークに依頼をするとそのネットワーク内の媒体すべてに広告が出せる。

アドネットワークの登場によって広告主から広告出稿までのプレイヤーが増えた

デジタル広告の発展に伴いプレイヤーが増加し、出稿までのルートは複雑化

アドネットワークを運営する企業も数多いため、今度は広告枠をより動的に売り買いする市場「アドエクスチェンジ」が生まれた。加えて、ユーザーターゲーティングの正確性を高めるためのデータを業者間でやりとりする「データエクスチェンジ」という技術も生まれた。

さらに媒体側がより高い収益を上げるために構築した「SSP(Supply-Side Platform)」、広告主や広告代理店側も「DSP(Demand-Side Platform)」というシステムを構築。広告や広告枠をそれぞれオークションのように取引することが一般化した。

さまざまなプレイヤーが参入し、ルートも複雑化

デジタル広告に携わるプレイヤーの数が増え、広告を依頼して実際に掲出されるまでのルートが複雑化している。山口氏も、関連する企業の多さがデジタル広告市場の発展を支えていることは認めるが、それゆえに「どの広告がどこに出ているかわからない」「どのプレイヤーがどう関わっているかわからない」という状況が生まれ、さまざまな問題が発生しているのが現状だという。

マス広告の常識は、デジタル広告では通用しない

「ブランド広告」の増加で、“どこにどう出るか”が着目されるように

近年、デジタル広告の利用目的が広がってきているという。従来、デジタル広告は、企業の売上に直結する「ダイレクトレスポンス」広告としての利用が主流だった。たとえば、目的は売上拡大で、広告がクリックされるとECサイトに遷移するという、顧客の一連の体験における“刈り取り”時期に重宝されてきた。

これらの広告の担当部門は、企業内の事業部門・EC部門などが多かった。どこにどう広告が表示されるかというよりも、反応がどれだけ効率的に得られたかに焦点が絞られていた。

小出氏によると、産業としてのデジタル広告の持続的な成長という狙いからか、ダイレクトレスポンス以外の広告――より具体的には「ブランド」広告への展開を望む声がここ5~6年で大きくなってきたという。

ダイレクトレスポンス広告とブランド広告

ブランド広告は売上アップが直接の目的ではなく、企業イメージや商品認知の向上を目的に実施される。そうなると、“どこにどう出るか”が重要になってくる。たとえば、新聞の一面広告でブランド広告を載せたとき、対抗面にある記事がその広告に相応しくなかった場合にはクレームを入れることなどもあるという。デジタル広告ではどこにどう広告が表示されるかがなかなか把握できず、ブランド広告ではすぐ問題になるような事例についても、気づかれず放置され続けてしまっていた。

広告業界全体に与える問題を本気でそれぞれのプレイヤーが取り組んでほしい

ダイレクトレスポンス広告でも、ブランドセーフティは重視されるべきだ。しかし、社内の販売部門などがダイレクトレスポンス広告を出す際は、“どこに表示されるか”よりもクリック数などの反応の方が重要視されるためブランドセーフティに対する優先度が低くなりやすい。また媒体側であっても、表示される広告を簡単にはコントロールできないほど、広告配信ネットワークは複雑化している。

山口氏は、広告主の倫理観という項目を、「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」に反映したのは、プレイヤー間にまたがって複数化した問題の解決に向け、大きな視点で見て、広告業界全体に与える問題を本気でそれぞれが考えてほしいという思いからだと明かした。

デジタル広告の不正問題は業界全体で取り組まなければ解決しない

こうした諸問題への対応策として、山口氏は次の4つの方法を紹介した。

  1. ブロックリスト: 広告を配信しない媒体のリストを作成する
  2. セーフリスト: ブロックリストとは逆に、広告配信を許可する媒体のリストを作成する
  3. プライベートマーケットプレイス(PMP)の利用: 限られた広告主、媒体だけが参加可能な広告枠取引市場
  4. アドベリフィケーションツールの導入: アドベリフィケーション(不適切な広告出稿を防ぐために、広告の掲載内容の検証を行うこと)を目的とした専用ツールの利用

アドベリフィケーションは基本的に広告主が取り組む対策である。アドフラウドやブランドセーフティについて、広告主がその問題を認知していなければ話が始まらないし、認知していても、対策の方法がわからなかったり、必要な人員・コストをすぐには確保できなかったりするケースがある。

広告主の声として「問題のある広告に対して、なぜ広告主側がその対策にお金を払わなければならないのか。問題のあるように露出される広告を販売することが問題なのでは」という議論があるという。

デジタル広告の不正問題で一番被害を受けているのは広告主である。広告主が声を上げるのも重要だが、広告主だけでは問題は解決できず、媒体や広告代理店、アドネットワークなど立場の異なる企業が一丸となって取り組まなければならないのが、この問題の難しさだと言える。

広告3団体が新組織を設立してデジタル広告の不正問題に対処へ

そこで、日本アドバタイザーズ協会では、他の広告関連団体との議論を経て、新組織である「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ:ジックダック)」の設立をもってデジタル広告の不正問題に取り組むこととした。

対策を打つための人もコストもないというのが多くの広告主の現状だと思います。ブロックリストやセーフリストの作成には、多くの媒体から選定する作業が必要であり、アドベリフィケーションツールの導入はコストがかかる。ならば、問題のある広告露出にならないように対策を講じている事業者を広告主が簡単に選ぶことがきれば便利なのでは、との声が出てきた(小出氏)

「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」は広告関連3団体がデジタル広告市場における品質課題(広告詐欺、ブランド毀損など)を解決することで、市場の健全な成長を目指して立ち上げた認証機構だ。日本アドバタイザーズ協会のほか、一般社団法人 日本広告業協会、一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会を合わせた3団体が会員となり、2021年3月に設立された。

米国及び英国では、こうした認証機関が各団体連携の下ですでに運営されている。JICDAQもその枠組みにそっており、日本では一般社団法人日本ABC協会を外部の検証機関として迎えている。日本ABC協会は、新聞や雑誌の発行部数を公査する団体として知られる。

日本における取組みの構図

JICDAQは、デジタル広告の品質に関わる業務プロセスの検証基準を制定する。これに沿った業務を行っている事業者を認証し、事業者名を公表する。広告主は認証済みの事業者と取引をすればリスクが下がるという仕組みだ。ここでの事業者とは広告会社、デジタルメディア企業、デジタルテクノロジー企業などを指す。

JICDAQの取り組み

認証にあたっては、日本ABC協会が時間をかけて対象事業者と双方向のやり取りのもと検証する方式(第三者件検証)のほか、海外で同様の認証を受けている場合に検証を簡略化したり、費用負担を軽減したい事業者向けにチェックリストに対して自己宣言認証という形の方式も用意したりする。

JICDAQ認証の構図
申請の流れ

広告主の積極的な参加が、認証機関を意味あるものに

広告主側には、「賛同」というかたちでJICDAQへの無料登録を求めていく。そして登録広告主は、JICDAQの認証を受けた事業者に広告を発注することを強く推奨される。品質認証を受けた事業者側へも、品質認証事業者との取引を推奨することで、健全な取引関係を構築していく考えだ。

2021年4月から登録受付を開始し、7月には検証・認証業務をスタートさせる予定だ。小出氏は「広告主の積極的な参加」こそがキーだと主張する。

多くのデジタル広告事業者がJICDAQに参加してもらうには、『広告主が(デジタル広告の健全化に向けて)JICDAQに注目している』と意識してもらうことが最も重要。『あなたの会社はJICDAQに入っていないのか。じゃあリスクがが高いかもね』……と言うかは別だが(笑)、認証の有無を意識していることが伝われば、広告事業者側の行動にも変化が出てくるはず(小出氏)

検証作業には時間がかかるため、認証事業者が出揃うのは年内いっぱいかかるとみられる。広告主の登録には費用はかからない(但し、日本アドバタイザーズ協会の会員社でない場合、審査料が必要になるケースもある)ため、JICDAQの目指す姿の実現に向け、多くの広告主にアドバタイザーズ登録をしていただき、「この活動に賛同しているのかどうか」をまずは取引の判断基準にしてほしいと小出氏は呼び掛けた。

最後に、山口氏は「広告主が知らないうちに、反社会勢力に広告収入が入る恐れすらある。デジタル広告の不正問題は社会問題だと思っている。広告主、広告会社、メディア、デジタルテクノロジー企業すべてが当事者。みんなで連携し、健全な業界にしていきましょう」と訴えた。また小出氏も「事業責任者、現場担当者などさまざまな立場の方が話を聞いてくれたと思うが、経営層にも理解してもらえるように伝えてほしい」と呼びかけた。

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