データがない新しい市場でどう戦略を立てるか?ユーザーの無意識データから顧客分析した「リノベる」の事例
デジタルマーケティングでは“データドリブン”が重要。そのためにはまず、ターゲットユーザーがどのような人かを知る必要がある。
「デジタルマーケターズサミット 2019 Winter」では、中古住宅のリノベーション事業を手掛ける「リノべる」が、Webの行動ログとアンケートデータからターゲットユーザーのクラスタリングを行いマーケティング戦略に生かした事例について、リノベるの今井氏と、ヴァリューズの後藤氏が語った。聞き手はヴァリューズの齋藤氏。
行動ログとアンケートで新興マーケットを見立てる
“リノベーション”とは、中古住宅を、間取りや水回りの位置も含めてフルリフォームし、新しい住宅に作り替えることだ。新築の注文住宅はかなり値がはるものになるため、「中古住宅をリノベーションで好みの家に作り替える」という選択肢を提供しているのが、「リノべる」である。
リノベるのサービスの特長は、中古マンションの購入からリノベーション、場合によっては中の家具までをローンに含める「ワンストップリノベーション」だ。今井氏は、「中古マンションの中に新築注文住宅を作る」と表現する。
このリノベーションというマーケットは、一般的な住宅情報サイトとはユーザー層が違うと考えられている。しかし、新興マーケットであるため、まだはっきりしたマーケット構造やマーケティングの知見が確立していない(今井)
そこで今井氏は、まずはじめに、マーケットを見立てた上で、データを元にしたマーケティング施策を打ちたいと考えた。
そこでパートナーとして白羽の矢が立ったのが、コンサルティングやインターネット行動ログ分析を提供するヴァリューズである。
ヴァリューズの行動ログ分析の特長は、国内最大規模の行動ログモニターパネルからデータを収集している点だ。一般的なWebログ分析ツールは、自社サイトにタグを入れ、その結果を集める。しかしヴァリューズの場合は、許可を得たモニターがスマホやパソコンのブラウザで何を検索したか、検索前後にどのサイトに触れたか、広告を見たかといったデータをすべて収集している。
また、モニターパネルにはアンケートも行っており、ログデータとアンケートデータをクロスして分析できる。そこに今井氏は魅力を感じたという。
アンケートだけを用いたクラスタリングの場合、設問設定の段階で恣意的になることは否めない。しかしログデータはユーザーの無意識データなので、「仮説として思いつかないようなクラスタが出現する可能性がある」とヴァリューズの後藤氏は言う。
検索行動からユーザーをクラスタリングする
検索は、人が能動的に動く行為である。このため、検索した人が何に興味を持っているか、どのような人かを推し量るのに適している。
リノべるの例では、対象期間内に「リノベ」「マンションリフォーム」「フルリフォーム」のいずれかを含むワードで検索を行った男女を「リノベーション関連ワード検索者」としてクラスタリングした。さらに、クラスタごとの興味関心や消費行動、メディア利用、閲覧サイトなどをアンケート調査して、特徴を明らかにした。
まず、ターゲットユーザーがリノベーション関連ワードで検索した前3時間と後3時間の計6時間で検索したワードが、以下の図だ。リノベーション関連以外に、さまざまなワードが出てくる。
これらのワードを基に、ユーザーを以下の5つにタイプ分けした。
① プチリフォーム関心クラスタ(17.0%)
特徴的なキーワード:壁紙、キッチン、DIYなど
② 賃貸や中古物件など広く検討クラスタ(22.6%)
特徴的なキーワード:UR、賃貸、リノベーションマンション、中古マンション
③ 自宅リノベーション検討クラスタ(18.1%)
特徴的なキーワード:住宅ローン、戸建て、スケルトンリフォーム
④ 注文住宅・新築検討クラスタ(16.2%)
特徴的なキーワード:建築、建設、個別のハウスメーカー
⑤ 少し興味ありクラスタ(24.7%)
特徴的なキーワード:古民家、不動産
この分類はアクチュアルデータを機械的に分類した結果だが、これにアンケートによって得た関心事や現在の居住形態、平均世帯年収の情報を加えたのが以下の図だ。その他、メディア接触時間、インターネットやSNSの利用状況、興味関心ごとなども調査している。
ターゲットユーザーを客観的に理解する
5クラスタの中で、リノべるがターゲットとするのは、ボリュームのある「賃貸や中古物件など広く検討クラスタ」(22.6%)である。ユーザーペルソナは以下のようなものだ。
- 30代夫婦と未就学の子ども
- 会社勤務&パート
- 世帯年収600万円
- 賃貸マンションに居住
- テレビCMやインターネットの情報サイト、公式サイトから新しい情報を入手
- 趣味は映画鑑賞やスポーツ観戦
さらにログデータからは具体的な人物像が抽出できた。
- 埼玉在住の30代女性
- 結婚間際(半年後に有名式場で結婚式をひかえている)
- 現在食品系企業に勤めており、転職を考えている
- 結婚・引っ越し・転職と大きなライフイベントに関して考えなくてはいけないことが重なり、「もうなんか疲れた」と、ふと検索をしてしまうほど気疲れをしている
- リノベーションを検討し始めたきっかけは、結婚を機に引っ越しを検討
- 一戸建てかマンションか、新築マンションか中古マンションのリノベーションか、決めかねている状況から検討を開始
このユーザーが、競合サイトも含めてどういったサイト閲覧行動をしたのかが以下の図になる。
これは、リノべるサイトを訪れているものの、結果的に他社サイトで問い合わせを行っている残念な例である。このような残念な内容もわかるのが無意識データの良いところで、アンケートの場合は「答えたくないことは答えない」ため、実態を掴めないこともある。
今井氏は「他決をいかに減らすかがマーケターの悲願」と言い、リノべるではこの分析結果から、ユーザーの代表的な悩み・課題(例えば、賃貸か購入かの悩みや、中古物件に対する耐震性への不安など)を抽出し、それぞれにフィットするバナーやランディングページを再構成して、CVR向上への打ち手を実施している。
中長期的なターゲットをイメージする
クラスタリングしたことで、現在のメインターゲット以外に、次の戦略ターゲットも明確になる。リノべるでは、「自宅リノベーション検討クラスタ」や「注文住宅・新築検討クラスタ」がそれに当たる。
「自宅リノベ」クラスタ
分析の結果、「自宅リノベ」クラスタは以下のような人だ。
- 新聞記事や新聞の折り込みチラシ、書籍、スーパーや専門店の広告や陳列から情報を収集している
- SNSはあまり参考にしていない
- 口コミや情報サイトをよく閲覧している
- 興味関心ごとは「音楽鑑賞、政治、経済、マネー、投資」など
このような分析から「集客先や提携先を考える参考になる」と今井氏は言う。
「注文・新築」クラスタ
「注文・新築」クラスタは、以下のような人だ。
- SNSやラジオ番組、インターネットの掲示板やブログの書き込みから新しい情報を入手
- 新聞記事やインターネットの公式サイトはあまり参考にしていない
- ハウスメーカーページへの接触率が高い
- 興味関心ごとは「イベント、コンサート、音楽鑑賞、読書、書籍、資格取得、習い事、映画」など
興味関心ごとで「イベント、コンサート」が出てくることは珍しく、「余裕のある生活」を感じる。きっと住宅にも間取りの自由度などを求めてリノベーションを検討しているのだろうと予想できる。
新興マーケットに対する分析データを作り出す
また、クラスタごとのメディア接触時間を示したのが以下の図だ。
「自宅リノベ」クラスタは雑誌を読む、「注文・新築」クラスタはラジオの視聴時間が長いといったことがわかる。おそらく、クラスタごとの平均年齢が影響していると考えられる。
不動産検討というデータは世の中にあるが、リノベーションという新興マーケットに対する分析データは世の中にほとんどない。それを作り出せたのが非常に興味深い。今回の検索ワードによるクラスタリング手法は、リノベーション業界に限らず、新興マーケットを見立てる手法として、ほかでも転用可能なものではないかと思う(今井氏)
今井氏は、前職でWebサイトの集客やサイト改善を行ってきたが、「定性データ調査」「デプスインタビュー」「ユーザー像の把握」「仮説」「定量調査」「施策立案・実施」そして再び「定量調査」を行うという一連の流れに、かなり長い時間がかかっていたという。
「ヴァリューズの『インターネット行動ログ分析』ならば、アンケートとWebのログデータが繋がっているため、定性と定量を同時に調査しながら施策につなげられ、施策の結果もモニタリングしやすい。深い分析をしながらも、タイムラグなく高速にマーケティングをブラッシュアップできる仕組みを活かすことによって、ワンストップ・リノベーションという新しい住まい方を多くのユーザーに届けていきたい」と今井氏は述べ、講演を締めくくった。
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