BtoBオウンドメディアで、月間200万PV超を実現したカオナビの手法
クラウド人材管理システム「カオナビ」では、リード獲得チャネルのトップはリスティング広告ではなくオウンドメディアの「カオナビ人事用語集」だ。カオナビでは、Faber Company(ファベルカンパニー) の「MIERUCA(ミエルカ)」を使って、オウンドメディアの月間PV数を200万まで伸ばしたという。「デジタルマーケターズサミット 2020 Summer」のセッションでは、その手法を、Faber Companyの月岡氏がカオナビ マーケティング担当の渡辺氏に聞いた。
コロナ禍で強制的なオンラインシフトが起きている
月岡氏は、セッションの初めにFaber Companyが自社セミナーの参加者に対して行ったアンケート調査の内容を紹介した。1つ目の質問は、「コロナ前と比較して、マーケティング予算がどのように変化しているか」というもの。アンケート結果では、約半数の企業で、マーケティング予算が削減されていることがわかる。実際、Faber Companyもカオナビも「若干弱めている」という。
とはいえ、マーケティング活動を何もしないというわけにはいかないので、「これから強化したい施策は何か」という問いには、「デジタル広告」「オーガニック(SEO)」「コンテンツマーケティング」といったものが挙がっており、「強制的なオンラインシフト」が起きていることがうかがえる。
マーケティング担当者は、限られた予算の中で集客・コンバージョンを最大化することが必要になっている(月岡氏)
カオナビはコロナ前からオウンドメディア強化に取り組んでいる。その理由を聞くと、「オウンドメディアの方が改善の余地が大きいと思ったから」(渡辺氏)。カオナビのサービスサイトを改善して得られる期待効果よりも、オウンドメディア強化のほうが伸びしろが見込めたのだという。
では、そのオウンドメディアがどのようなものか、概要を紹介しよう。
カオナビは、自社の社員の情報を顔写真付きで登録し、人材情報を見やすく可視化するサービスで、HRテックというジャンルに入る。コロナ禍でリモートワークが推進され、社員が遠隔地にいるので導入したい、というケースも増えているそうだ。
オウンドメディア「カオナビ人事用語集」は、人事担当者向け、経営層向けに人事やマネージメントに関する用語やトレンドを解説している。メディアのスタートは2016年6月で、現在の記事数は1000前後。
Faber Companyは2017年4月から「MIERUCA」を活用した支援を始め、PV数は2018年11月に50万、2019年12年に100万、2020年5月に200万と、順調に伸びている。
アクセスで最も多いのはSEO経由で、95%ほどを占めている。また、2017年と2019年でコンバージョンしたチャネルを比較したのが以下の図で、リスティング広告からオウンドメディアにコンバージョン獲得がシフトしていることが見て取れる。
成長するオウンドメディア計画の2つのポイント
① 長期計画を立てる
カオナビのオウンドメディア成長のポイントとして月岡氏がまず挙げたのは、目標設定や計画立案についてだ。
オウンドメディアやコンテンツマーケティングを始める時、どういう計画で進めるか、費用対効果はどうかと、必ず問われる。これに対して渡辺氏は、約2年のスパンで、今後どのようにセッションが伸びていくか、そこからCVやアポにつながるホットリードがどれくらい取れるのか、さらに、それぞれにかかるコストをシミュレーションしてスタートしたという。
重要なのはシミュレーションの期間。コンテンツは短期的効果を期待してもうまくいかないため、シミュレーションでは、最低1年、できれば2年くらいの長いスパンで計画を立てるべき(月岡氏)
② 何に対する施策なのかを明確にする
以下の図のように、コンバージョン数は、「セッション」「非直帰率」「CTAのCTR(CVに繋がるバナーなどのクリック率)」「フォーム完了率」の、どれを上げても増える。その中で渡辺氏は、「いま最も効果的なのはセッションを増やすこと」だと判断。このように、“何に着目して施策を行うか”を最初に明確にすることが重要だ。
セッション数を増やすために行った3つの施策
カオナビでは、オウンドメディア強化の施策として、「セッション数を増やす」ことを決めた。ここで重要なのは、ユーザーの検索意図に沿ったコンテンツ制作だ。渡辺氏のコンテンツ制作ノウハウを下記3つに整理して解説しよう。
- コンテンツの構成力を高める
- コンテンツの制作体制を構築する
- 社内コミュニケーションを大切にする
セッション数UP・施策1 コンテンツの構成力を高める
まずどのようなニーズに応えるのか。ユーザーの検索キーワードから考察する。カオナビではコンテンツの軸キーワードを決める際に、「検索ボリューム」「カテゴリ」「親和性」「ニーズ」をランク付けし、総合評価でランクの高いニーズから優先的に着手している。ここでいう「親和性」とは、自社サービスで解決できる課題や悩みかどうかということ。人事評価を行うカオナビにとって、同じ人事系の用語でも労務系などは親和性が低いということになる。
親和性と検索ボリュームの両方ともスコアが高いというキーワードばかりではないが、親和性が高くても検索ボリュームが小さければインパクトが少ない。このため、「サービス親和性と検索ニーズの多さ、どちらのニーズも並行して取り組む必要がある」と月岡氏は言う。
次に、より詳細なニーズ分析調査を行う。ニーズ分析には「サジェストキーワード分析」や「SERPs(Search Engine Result Page:検索結果)分析」などが必要だ。手作業で行うのは、不可能ではないものの、かなりの時間と手間がかかるので、カオナビではFaber Companyの「MIERUCA」を使って効率化している。
特に便利なのが、検索意図の分析機能だ。円がキーワード、円の大きさが検索ボリュームを示す。円と円の距離がニーズの近さを表しており、ユーザーが知りたいことが近いものごとによってグルーピングされている。これを見ると、ある程度ひとかたまりになっているキーワード群ごとにコンテンツにするといったことが、ひと目で理解できる。どれだけのコンテンツ数が必要なのかが判断しやすい。
さらに、CTAのタイプや位置など、コンバージョンの仕掛けについても工夫が欠かせない。渡辺氏はA/Bテストを繰り返して改善を続け、3年でCTRは250%、CVRは600%のアップを果たしたという。コンテンツからサービスサイトへの誘導は文中のテキストリンクが有効で、文中に入れたバナーは「どれだけリッチに作ってもクリックされない」(渡辺氏)という。おそらく、記事を読みたいというユーザーの邪魔をしているからだろう。
セッション数UP・施策2 コンテンツの制作体制を構築する
コンテンツ制作体制では、社内リソースの限られた中では外部リソースをうまく使うことが重要だ。カオナビでは、記事案の作成、ライティング、校正、入稿、アップロードなど、細かく分けて外部に依頼もしている。「作業レベルの内容なら低単価で依頼できるため、分けることで全体コストを下げることもできる」(渡辺氏)という。
また、コンテンツのライティングを依頼する際に大事なことは、すべてを外注するのではなく、構成案などでコンテンツの骨子をしっかり固めて発注するということだ。カオナビでは、見出し、各パートの内容、各パートの文字数、各パートの参考文献まで記載したコンテンツ構成案を作成して依頼しているという。月岡氏も、「キーワードだけ決めて丸投げはNG」と強調する。
セッション数UP・施策3 社内コミュニケーションを大切にする
コンテンツマーケティングやオウンドメディア強化は、マーケティングとは関係ない部署の人からは、「何をやっているかよくわからない」と見られてしまうこともある。長期的なメディア運営をしていくためには、社内の理解や協力を得ることも大切だ。
カオナビの渡辺氏は、そのための社内コミュニケーションが非常にうまいと、月岡氏は言う。たとえば、営業担当の「お客さんから『よく見てるよ』と言われた」というコメントを社内コミュニケーションツールでシェアしたり、オウンドメディアのレポートを作成して社内に展開したりしている。さらに、SEOの勉強会を社内向けに開催したりするなど、理解を得るためにさまざまなことを行っているという。
ちなみに、MIERUCAは月次レポート作成の自動化も支援する。「新機能としてレポートをパワーポイントで出力する機能が追加されたので、ぜひ活用してほしい」(月岡氏)とのことだ。
月岡氏は、カオナビがオウンドメディア運営に成功している鍵を、以下の3つの相乗効果だと述べて、セッションを終了した。
【継続的にCVを生み出すオウンドメディア運営の鍵】
- 2年以上の長期間シミュレーションや、何に対する施策なのかを明確にする「目標・計画立案力」
- コンテンツ構成や制作体制などの「仕組み構築力」
- 社内コミュニケーションを積極的に行う「根回し力」
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