世界的に拡大傾向が続く「後払い決済」市場。海外では「BNPL(Buy Now Pay Later、今買って後で払う)」と呼ばれ、購入商品の受け取り後に代金を支払う決済方法だ。スマートフォンで決済が完結し、手数料無料の分割払いを利用できる特徴もある。AppleやAmazonをはじめ、国内で約70万店舗が導入する後払いサービス「ペイディ」は、“分割手数料無料”(口座振替・銀行振り込みのみ)や“クレジットカード不要”の特徴があり、客単価や新規顧客の増加につながりやすいという。Paidy VP of Merchant Salesの渡邉俊明氏に、導入企業の事例を踏まえた「ペイディ導入のメリット」と「活用のポイント」を聞いた。
右肩上がりで拡大が続く「後払い決済」の国内外市場
オーストラリアのグローバルフィンテック企業「Finder」の調査によれば、2024年に世界中で約3億8000万人が「後払い決済」を利用したという。さらに、2028年までに6億7000万人に増加すると予測されている。
英国では、後払い決済を最も活用しているのがミレニアル世代(28~43歳)で、5人に3人(63%)が利用経験があるという。そのうち50%が過去1年間に利用していた。次いで利用率が高いのがZ世代(18~27歳)で、56%が利用経験があり、39%が過去1年間に利用していた。
なぜ、世界的に後払い決済の活用が広がっているのか。渡邉氏は、「クレジットカード決済の代替手段として支持されているのではないか」と考えを示した。
あくまで推察ですが、欧米ではクレジットカードの分割金利手数料が高いため、これが後払い決済の急速な拡大の主な要因の一つだと考えています。加えて、不正利用のリスクから、クレジットカードを持つことに消極的な人も少なくありません。特に若年層はその傾向が強く、多様な決済方法が選べるようになった現代では、あえてクレジットカードを作らなくてもいいと考える人が増えているようです(渡邉氏)
日本国内でも、後払い決済市場は拡大傾向が続いている。矢野経済研究所の推計によれば、2023年度の後払い決済サービス国内市場は、前年度比121.5%の1兆5317億円まで拡大。登場した当初は、若年層や主婦層などクレジットカードを持たない層を中心に利用が広がっていたが、近年は利用者層が多様化している。普段は使用しないECサイトでの買い物は後払い決済サービスを利用するなど、クレジットカードと併用する動きも見られるそうだ。
物販系ECだけでなく、サービス系ECや対面決済など利用シーンを拡充する取組みも進んでおり、2028年度の後払い決済サービス国内市場は、約2兆8000億円規模まで拡大すると予測されている。
国内約70万店舗に導入、推し活で利用されるケースも
2008年に創業したPaidyは、「お買いものに『めんどくさい』はいらない。」をミッションに掲げ、買い物体験を向上させる後払い決済を2014年から提供する。2021年10月に、米国の決済大手PayPal Holdings(ペイパル)に27億ドル(約3000億円、当時)で買収され、ペイパル傘下で国内向けに事業を展開。「ペイディアプリ」のダウンロード数は2000万を超え(2025年6月時点)、一定の認知を獲得している。
最大の強みは、手数料無料の3・6・12回の分割払い(6回以上はオプション扱いで、加盟店によって変動)と、クレジットカード不要で利用できる利便性の高さだ。携帯電話番号とメールアドレスのみで決済が完了し、決済後に「銀行振込」「口座振替」「コンビニ払い」の3つから支払い方法を決定して、手続きを行う。
事業者はペイディに手数料を支払って利用する。100%の入金額を保証しているため、未払いリスクを気にせずに顧客に選択肢を提供できるという。
2025年10月時点で国内導入数は70万店舗以上となり、Apple、Amazon、ビックカメラ、星野リゾートなど導入先は多岐にわたる。物販領域の導入が最多で、そのうち「アパレル」や「ビューティー」が多くを占める。分割手数料無料の特徴から、家電や寝具などの高額商材を扱う企業とも相性が良いとされる。一方で、近年はデジタルコンテンツを販売する企業の導入も目立つという。
「推し活」のカテゴリーに属すると思いますが、ゲームの課金やライバーへのギフト購入などでペイディを導入いただくケースが増えています。必ずしも高単価でなくとも、後払いが選ばれることは十分にあると考えます。というのも、推し活は毎月の予算を決めて楽しむ方が多く、毎月の支払い額を調整しやすいメリットを提供できるためです(渡邉氏)
推し活文脈で言えば、遠征時の移動や宿泊に関連するサービスでもペイディが導入されており、同領域との相性の良さがうかがえる。
近年の消費傾向として、“賢くお金を使う”方が増えている印象です。「マネパ(マネーパフォーマンス)」とも呼ばれますが、ライフスタイルに沿った決済方法を選択することで効率的にお金を使って、管理する考え方が浸透していますね。そうしたなかで、ペイディのような後払い決済を積極的に利用される方が増えていると分析しています(渡邉氏)
客単価の向上を実現、「サウンドハウス」「タンスのゲン」の事例
ペイディを導入した企業では、どんな成果が得られているのか。2社の事例を聞いた。
音響機器や楽器、照明器具などをECと実店舗で販売する「サウンドハウス」では、2019年にペイディを導入。まずは1・3回の後払い決済から取り組み、一定の効果が見えたことから2023年2月に6回後払い、2023年4月に12回後払いも追加した。結果的に、2024年1月のデータでは2021年比でペイディユーザー数が5倍、客単価が2倍となった。
同社の場合、導入から約1年後に「ウィジェット」という機能を実装されています。これは、ECサイト上で「月々〇〇円から、分割手数料無料の後払い決済が利用できる」とわかりやすく表示することで、ペイディに積極的に誘導するねらいがあります。同社では、ウィジェットの活用に加え、6回・12回の後払い決済を追加したタイミングで顕著にユーザー数が増加しています(渡邉氏)
2021年3月にペイディを導入した「タンスのゲン」でも、同様の効果が得られている。ECに特化して家具を製造・販売する同社では、後払い決済を望む顧客や「クレジットカードを持っていない・使いたくない」顧客がおり、機会損失につながっていたことからペイディの導入を決めた。代引きも提供しているが、未払いが発生するなど自社のリスクになっていたという。
そこで、1・3・6回の後払いを導入したところ、1回と比較して、6回の利用者は購入単価が約1.8倍に上昇。特に若年層での単価増が目立ち、数万円の向上につながっている。2022年5月からは、2万円以上の製品に対してウィジェット機能を実装したところ、それまでの後払い決済と比較して平均購入単価が約1.5倍に伸びたという。
事例として挙げた2社に限らず、総じて、新規顧客の割合はペイディ利用者が圧倒的に多い傾向があります。その理由として考えられるのは、次の2点です。
- 1つ目は、初めて購入するECサイトでクレジットカードを登録するのに抵抗があるため。
- 2つ目は、何か別のことをしながらスマホを触っているときでも使いやすいため。
たとえば、電車やバスでの移動中にECサイトで買い物をしたい場合、財布からクレジットカードを出すのは面倒だし、リスクもありますよね。また、子どもを寝かしつけている最中など身動きが取りづらいタイミングで、メールアドレスと携帯電話番号だけで決済できるのがありがたいという声も聞かれます(渡邉氏)
5人のうち4人がリピーターに、より良い「買い物体験」を追求
渡邉氏によると、ペイディユーザーにはアプリ内を回遊する特徴が見られるという。アプリでは、利用明細のほかに「お買い物」のタブがあり、ここではペイディを利用できるECストアの一部が表示されている。このページから買い物をする人もいるという。
当社の調査では、ペイディの分割払いを利用された5人のうち4人がリピーターになるという結果が出ています。加盟店の事例においても、他の決済方法と比較してペイディユーザーのリピート率が高くなった企業がありました(渡邉氏)
事業者がペイディに支払う手数料は、分割払いの回数が増えるごとに増加する。一方で、分割回数が多いほど、客単価の向上や新規顧客、またはリピーターの獲得に寄与しやすいとも言える。加盟店からは、「決済手数料としてではなく、マーケティングコストとして考えればコスパがいい」という声も聞かれるそうだ。
気になる未払い対策については、自社で与信を実施しており、独自の機械学習を活用するなどして精度向上を目指しているとのこと。過去10年で蓄積したデータをもとにリアルタイムの与信を行い、多くの人が利用できる環境を整えているという。
ペイディでは、引き続き安全性を柱として、より良い買い物体験を追求する方針だという。物価高が進むほど後払い決済が利用されやすくなる側面があり、利用者が増え続ける可能性は十分にありそうだ。