注目の複合施設「長崎スタジアムシティ」を現地取材。デジタル施策の軸となる「多機能アプリ」のねらいも聞いた

ジャパネットグループのスポーツ・地域創生事業の一貫として、2024年10月に開業した「長崎スタジアムシティ」。長崎市出身の福山雅治さんによるこけら落としライブには本会場とパブリックビューイング会場を合わせて、約3万人が来場。同施設の公式アプリを通じて、約53万人がチケットの抽選に応募したとして話題を呼んだ。来場者数は開業半年で約250万人を突破している。
施設内にある「スタジアムシティホテル長崎」への宿泊取材と共に、同施設の運営を担うリージョナルクリエーション長崎のスタジアムシティ戦略部 部長 大門拓真氏に「デジタル戦略のねらいと反響」を聞いた。
スタジアムにホテル、商業施設も。規格外の複合施設
約7.5ヘクタール(東京ドーム1.5個分)の巨大施設内に、サッカースタジアム、アリーナ、ホテル、商業施設、オフィスビルが入る規格外の複合施設として長崎市内に誕生した長崎スタジアムシティ。総事業費用は約1,000億円にのぼる。

通信販売事業に並ぶ2つ目の柱として、スポーツ・地域創生事業を掲げるジャパネットホールディングス(長崎県佐世保市)は、バスケットボールBリーグの「長崎ヴェルカ(以下、ヴェルカ)」とサッカーJリーグの「V・ファーレン長崎(以下、V・ファーレン)」をグループ会社が運営。長崎スタジアムシティは、両チームのホームスタジアム・アリーナとなる。


約2万席を備えるスタジアムはピッチとの距離が全方向最短約5メートルで、客席とピッチの距離が日本一近い。座席によっては、選手と同じ目線の高さでプレーする様子を観覧できるという。「公園のような感覚で楽しんでほしい」というねらいから、スタジアムは試合がない日もスタンドを開放している。夜間には無料でレーザーショーも開催される。

約6000席を備える可変式のアリーナは、バスケットボールの試合のみならず、コンサートやイベントでも多く利用されている。

商業施設には、長崎グルメを含む多くのレストランやショップのほか、温浴施設やエンターテインメント施設も。老若男女が楽しめるラインアップだ。賃貸オフィスもあり、入居率は9割超となる。

日本初のサッカースタジアムビューホテル「スタジアムシティホテル長崎」も、各方面で話題に。部屋のバルコニーやホテル内のプール、サウナからもスタジアムを一望でき、一部の部屋は企業企画席としても利用できる。同ホテルならではの特別な体験だ。
予約、注文、独自決済、デジタルマップもそろう「多機能アプリ」
長崎スタジアムシティは、オールキャッシュレスを目指している。開業以前からV・ファーレンの試合時に完全キャッシュレスを採用した背景があり、メリットとして会計時の所要時間短縮、行列解消、現金の管理コスト削減等を挙げる。また、デジタルマーケティングは公式アプリを中心に展開している。
施設を訪れるあらゆるお客さまに対して質の良い体験を提供するために、双方向的なコミュニケーションツールであるアプリがベストだと判断しました。決済機能を通じて取得できる情報をお客さまの利便性向上に活用することで、体験をアップデートさせていきます(大門氏)


同アプリは、「予約」「注文」「決済」「チケット」「情報取得」「ポイントプログラム」など、何でもそろう多機能な印象だ。ヴェルカやV・ファーレンのチケット購入、入場時のチケット表示、独自決裁サービスの「スタPAY」へのチケットの払い戻しなどの機能のほか、モバイルオーダーや決済、ホテルの宿泊予約や決済などが可能。施設内のルート検索やお手洗いなどの混雑状況確認ができるデジタルマップも備える。

施設内での購入促進や決済情報の取得、顧客への還元を目的に独自決済の「スタPAY」も導入。その利用によって貯まるポイントプログラム「スタポ」も用意した。特典には、「クラフトビール1杯の引換券」「ヴェルカのクラブハウス見学ツアー」「V・ファーレンの選手のサイン入りユニフォーム」などがある。

累計ポイントに応じたランクアップ制度もあり、特典には「高速Wi-Fiの提供」や「会員制の特別エリアの利用券」などが含まれる。
スポーツや地域創生事業というと慈善事業のような色合いが強くなるイメージもありますが、当社は営利企業であり、利益を出さなければ意味がありません。売上に貢献してくださるお客さまには、その分を還元しようという思想でポイントプログラムを設けました。特典は、割引などよりも“特別な体験”の提供を軸に設計しています(大門氏)
たとえば、「クラブハウス見学ツアー」は、練習用のコートや選手用のロッカールーム、トレーニングルームなどがある空間を見学できるツアーで、通常は一般の人が入れる場所ではないという。堀江貴文氏とシェフの浜田寿人氏が手がける会員制レストラン「WAGYUMAFIA(ワギュウマフィア)」の会員エリアの利用券もあり、同特典を狙ってポイントを貯めている会員もいるそうだ。
こけら落としライブを通じて約53万人がダウンロード、想定以上の反響
現在、長崎スタジアムシティのアプリはダウンロード数が約53万人、会員数が約44万人(2025年1月末時点)となる。会員数の獲得に功を奏したのが、開業前夜に開催した福山雅治さんのフリーライブだ。アプリを通じて53万人以上から応募があり、抽選に外れてもアプリ内でライブを無料鑑賞できる設計にしたため、当日の生配信の視聴者数は27万8千人にのぼった。

数字自体も想定以上でしたが、それよりも地場での盛り上がりは驚くほどでした。私自身は長崎出身ではなく、このプロジェクトを機に4年前に他県から引っ越してきたのですが、地元における福山さんの人気度と長崎スタジアムシティの話題性の相乗効果で、数字以上のインパクトが生まれた実感があります(大門氏)
大門氏によると、当時は地元の企業や行政との打ち合わせで「福山さんのライブに応募したけど落ちたんですよ」と、毎回同じ話題が出るほどだったとか。長崎市の人気イベント「長崎ランタンフェスティバル」に、福山雅治さんと、同じく長崎県出身の仲里依紗さんが参加した際も、地元で大きな話題になったようだ。
アプリ会員の内訳は長崎県内在住者と他県在住者が約5:5で、長崎県内在住者のうち、約5割が長崎市内在住となる。年齢層は多岐にわたり、人口分布に近い割合だという。

フリーライブへの大規模な投資のリターンとして、これほどの会員数を得られたわけですが、その後も会員さまとのつながりが生まれています。たとえば、会員向けに発信したコンサートやイベント関連の情報の反応が良く、チケットの売上向上などにつながっています。エンタメ全般に興味がある方が多い印象です。会員情報を資産として、より一層有効活用していきたいです(大門氏)
一番の難しさは、“ペルソナ”が多すぎること
アプリを公開してから現在までの間に多くのアップデートをしているが、大門氏は「まだまだ完成形ではない」と話す。
お客さまのご意見をうかがいながら、機能を追加したり、表示順を変更したり、日々試行錯誤していますが、一番の難しさは、長崎スタジアムシティが私たちの想定範囲を超える複合施設であるということです。ペルソナが多すぎるため、すべての人にとって価値のあるアプリをつくる難しさに直面しています(大門氏)
同社では、アプリを通じて顧客と双方向のコミュニケーションを取ることによって、2回目、3回目の訪問を促すことを最も重視しているという。とはいえ、会員の中には観光として初めて訪問する他県在住者もいれば、日常的に訪れている近隣住民もいる。まったく異なるペルソナに対してどんな情報発信やUX・UIのあり方が適切なのか、反応を見ながら調整を重ねているそうだ。

さらに、取得した情報を顧客の体験向上につなげていく取り組みも課題だという。
アプリを通じて情報が集まる仕組みは整ってきていますが、それを顧客体験の向上にしっかりつなげていくのは、まさにこれからの課題です。当社は複合施設の運営に関しては未熟な部分が多く、これまでは運営に追われていたのが正直なところ。数字を分析して、お客さまに喜ばれるような施策をデジタルでも、アナログでも迅速に打っていくつもりです(大門氏)
今回、宿泊取材を通じて、スタジアムビューの高揚感を味わえるユニークな施設だと実感した。現在は国内の利用者が多いが、そのうち訪日外国人が増加する可能性もあるかもしれない。現在進行系で進化する長崎スタジアムシティに、引き続き注目が集まりそうだ。
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