売り上げ8.5倍の事例も。「脳科学×AI」で広告効果を可視化する「D-Planner」の強みを聞いた

消費者の知覚を予測してマーケティング効果を高めるD-Plannerの活用方法をNTTデータに聞いた。
NTTデータの滝沢周一郎氏(左)、前田直哉氏(中央)、上村隆之氏

脳科学を活用した「ニューロマーケティング」に注目する企業が増えている。NTTデータでは、「脳科学」と「AI」を活用したクリエイティブ評価ソリューション「NeuroAI® D-Planner」(以下、D-Planner)を開発。2021年4月のサービス開始から150社以上が導入し、各社の成果につながっているという。脳活動の予測を実現するために100万シーン以上の脳活動データをとりためており、分析したいコンテンツをサービス上にアップロードすると約40秒で評価が表示されるのが特長だ。

ニューロマーケティングのメリットや具体事例、課題をニューロマーケティングの専門家であるNTTデータ ソーシャルイノベーション事業部の滝沢周一郎氏(アセットビジネス統括部 主任)、前田直哉氏(サービス開発統括部 エグゼクティブR&Dスペシャリスト)、上村隆之氏(SBX担当 課長代理 )に取材した。

「脳は意思でコントロールできない」、脳科学が着目される背景

前田氏によると、脳情報の計測方法は、主に「侵襲型」と「非侵襲型」の2つに分類される。前者は、脳にチップを埋め込むなど開頭をともなう方法で、人体に影響を与えるため医療行為として実施される。一方、後者はさまざまな装置を使って脳波や脳血流を測定する方法だ。

NTTデータが脳血流を測定する様子。情報通信研究機構にあるfMRIという装置を活用(NTTデータ提供)

NTTデータでは、「fMRI(機能的磁気共鳴画像法)」と呼ばれる装置を使用して脳血流を測定する方法を採用している。病院で使用されるMRIの機械に追加機能を付加した装置で、前田氏は「非侵襲型では最も精度の高い脳情報を取得できる方法だ」と説明する。

頭にかぶって脳波を測定する装置は数十万~数百万円とfMRIより低価格で、高いスキルがなくても使用できます。しかし、大まかな情報しか取得できずノイズが多いうえに、解析の手間もかかります。当社では、国内を代表する脳情報通信融合研究センター「CiNet」とパートナーシップを組み、専門技師による脳情報の測定をしています(前田氏)

「fMRIで取得した脳血流情報を活用して事業化を実現している企業は、国内外でも当社以外に見当たらない」と前田氏

NTTデータでは、このfMRIを活用して人間の脳活動予測モデル「NeuroAI」を開発。それを活用したクリエイティブ評価ソリューションが「D-Planner」だ。一般の20〜60代の男女の被験者に大量のコンテンツを視聴してもらい、延べ100万シーン以上の脳活動データをとりため、それをAIと掛け合わせて脳活動の予測を実現したという。

fMRIを活用しても、特定のコンテンツに対して抱く印象や脳活動の活発具合には個人差があるため、精度には限界があります。とはいえ、脳は表情などと違って意思ではコントロールできません。測定できる生体情報のうち、脳情報が最も人間を理解しやすいと考えています(前田氏)

NTTデータによれば、生体情報を使用する感情認識技術の世界市場は、2024年に400億ドル以上に拡大。今後も医療を中心にマーケティングや教育など幅広い分野での応用が進み、年平均15〜20%で成長していくと予測しているそうだ。

9つの指標で評価、消費者の知覚を予測するD-Planner

D-Plannerでは画像、動画、音声、テキストが利用可能で、クリエイティブを「アテンション」「知覚」「GAP分析」「印象度」「好み/嗜好」「好感度」「行動意向」「記憶定着度」「広告効果」の9つの指標で評価できる。

性別と年代で分けた8つのターゲットセグメントで分析可能(NTTデータ提供、以下同)
クリエイティブを9つの指標で評価でき、複数案の比較も容易だ

使い方はシンプルで、サービス上に分析したいコンテンツをアップロードして予測したい指標を選ぶと、約40秒で評価が表示される。「都会的」「シンプル」等の30項目の印象検索や「安心」「おいしい」等の10万語内での任意のキーワードによる知覚検索、複数案の比較も可能だ。テレビCMの分析では、テレビCM調査会社が保有する約5万作品の平均値を搭載しているため、視聴者が抱く印象を競合と比較することもできる。

直感的に使えるUIで、シンプルな操作性
好感度予測のサンプル。動画ではシーンごとに予測を出せる
印象度予測では30項目の印象を分析可能
アテンション予測はヒートマップで表示される

ブランディングや認知獲得の指標としてよく使われるのが「好感度予測」です。これは単純に「好まれるかどうか」ではなく、「強く印象に残り、純粋想起を促せるか」を指標にしています。また、パッケージや販促物の評価では、購入や試用の意向を測定する「行動意向予測」がよく使われます(滝沢氏)

「消費者の知覚を予測することはブランドリフト向上や炎上等のリスク回避に役立つ」と上村氏

導入で得られるメリットは、業務効率化やコスト削減に加え、世に出す前に根拠をともなう評価が可能になることです。広告コンテンツの効果測定には多様な方法がありますが、基本的には世に出さなければ検証できません。クリエイターの勘や経験に頼って成功すればいいのですが、逆効果になることも。脳情報活用により定量的な消費者の知覚を予測できるため、狙った効果が得やすいと考えます(上村氏)

D-Plannerは「画像×好感度」など柔軟に機能を組み合わせての提供が可能で、利用価格は月5万円〜。これまでに150社以上が導入していて、継続利用している企業も多いという。

売上増や工数減を実現、導入企業での活用事例

D-Plannerを導入した企業では、どんな成果が出ているのか。企業の総合的なマーケティング支援を行うある大手企業では、クリエイティブの定量的な評価の必要性から導入に至ったという。

従来、クリエイターの感性や経験を頼りに、チラシやパンフレットなどをクライアントに提案していましたが、評価が曖昧なために受け手が判断しづらい課題があったそうです。同時にディレクター側にも迷いが生まれ、クリエイターに対して、できるだけ多くのアイデアを出してほしいという要望につながっていました(上村氏)

パンフレットデザインの改善イメージ(NTTデータ提供、以下同)

D-Plannerの導入後は、クリエイティブが意図どおりに十分に機能しているか、ページ内の情報量が多すぎないか(視認性が高いか)などを瞬時に予測できるようになった。特に「アテンション予測」は、どこに視線が向くのかが一目瞭然で、ユーザーへの伝わりやすさを実感しているという。感覚ではなく数値をもとに意見交換ができるため、クライアントとのコミュニケーションもスムーズになったそうだ。

「D-Plannerを活用して得たノウハウは各社の資産になっている」と滝沢氏

化粧品等の製造・販売を行うある大手メーカーでは、製品の販促物をはじめとしたクリエイティブの効果を最大化する目的でD-Plannerを導入。スキンケアの新商品の店頭広告の制作に活用したところ、広告を導入した店舗の売り上げが非導入店舗と比較して8.5倍になったという。

同事例では、ビジュアルデザイン3案をD-Plannerで分析したほか、先方が従来行っていた視線分析やアンケートの結果も加味して改善案を制作し、売り上げが向上しました。売上増には店舗の立地や規模、展開数量なども関連しているため、D-Plannerのみの効果とは言えませんが、従来の方法では難しかったデザイン評価に役立つ可能性が高いことが示されました(滝沢氏)

さまざまな業種での活用が可能だが、特に「建築系は相性がいい」とのこと。建築前に設計図や完成イメージの3D映像を予測するほか、建物完成後の周囲の景観イメージを確認しておけば、建築後の改善を防ぎやすいためだ。

脳情報を活用する際の課題は?

精度の高い評価分析を強みとするD-Plannerだが、「具体的なペルソナ像などの限定的なセグメントでの分析ができない」「企業のブランドイメージなどを加味した分析ではない」といった課題もある。そうした課題の解消に向けて、オーダーメイドの仮想脳を作成するサービスを開発した。

より精度の高い分析を実現する「オーダーメイドモデル」も登場した

新サービスでは、「富裕層」「犬を飼っている人」「ゴルフが好きな人」など特定のセグメントの仮想脳を作ることができる。企業が積み上げてきたブランドイメージや文脈を理解したうえで、クリエイティブを評価することも可能だ。実際にそうした特性を持つ人を集めて、膨大な脳情報や印象等の指標を取得しなければならないため時間とコストはかかるが、より精度の高い分析ができるという。

最後に、脳情報をビジネスに活用する際の注意点を聞いた。

生成AI同様に、脳情報も個人情報の保護や悪用防止などに取り組まなければなりません。当社のパートナーであるCiNetでは、2024年1月に『脳情報を活用し知覚情報を推定するAI技術の活用ガイドライン』を発表しており、今まさに法整備が進んでいる最中です(前田氏)

たとえば、企業が自社で脳波計などを使って被験者の脳情報を取得し、製品やサービスに活用する場合は、ガイドラインに沿って情報の扱いに細心の注意を払う必要があるわけだ。

じわじわと市場に広がってきた脳科学。コントロールできない信頼度の高い情報であり、マーケティングへの活用がさらに進んでいくかもしれない。
 

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