アイトラッキング調査で消費者の潜在ニーズをつかむには? 消費者の無意識・無記憶・本音を捉える事例集
ユーザーの視線から製品・サービスなどの利用・閲覧状況を把握し、改善へとつなげる「アイトラッキング」だが、実際に体験・実施したことがある人は少ないだろう。アイトラッキングで世界50%以上のシェアを持つ、トビー・テクノロジーの蜂巣健一氏は、Web担当者Forumミーティングの講演で多数の事例を紹介しながら、同手法のマーケティング・広告・ウェブサイト改善などへの活用方法、可能性を示した。
さまざまな分野で応用されるアイトラッキング
アイトラッキングとは「人がどこを見ているか」、正確には「眼球がどこを向いているか」を測定する技術だ。人間の視野には、両目を使ってしっかり見る高解像度だが範囲が狭い「中心視野」と、それ以外の「周辺視野」があるが、アイトラッキングでは前者を使用する。なぜなら文字や色を把握するのは中心視野であり、興味関心と相関性があるとされているからだ。
アイトラッキングには半世紀以上の歴史があるが、ここ10年で技術的革新が起こり学術論文も年々増えている。扱う分野も言語学、幼児研究、統合失調症、自閉症、広告、ブランディング、運転、年齢・性別・感情など多岐にわたっている。
そうしたなか、トビー・テクノロジーはアイトラッキング業界で50%、技術提供している企業を含めると実質70%のシェアを持っている。従業員約600名の3分の1は技術者だ。本社をスウェーデンに置き、米国、ドイツ、日本、中国などに現地法人を持つ。
事業ドメインは大きくわけてリサーチとインターフェイスの2つ。リサーチ部門では、大学や研究所などの日本国内だけで、延べ300の学術機関、延べ200社の企業からマーケティングリサーチやノウハウ継承に関する事業を請け負っている。
また、インターフェイス部門では、視線だけで使えるPCなど、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者などの支援や福祉機器を製造しており、マスマーケット向けのPCやタブレット、コンセプトカーなどを試作品として開発している。
アイトラッキング調査までの2ステップ
トビー・テクノロジーのマーケティングリサーチ向けサービスはハードウェア・ソフトウェアの提供(導入トレーニング、技術サポート)と実際の調査サービス(調査設計、実査オペレーション、データ処理、数値データ分析/レポート)からなる。
調査はアイトラッキング(視線計測)だけではなく、アンケートやインタビューと組み合わせて行うことをすすめている。アイトラッキングによって取得する無意識、無記憶、本音的なデータと、アンケート・インタビューから取得する印象、記憶、理解といったデータを相互に照らし合わせることで、調査項目の要因を探り仮説の検証を行うという手法だ。
そしてアイトラッキング調査の導入には、2つのステップがあると蜂巣氏は説明した。
- 予備調査(導入前調査)
- 仮説洗い出し: 課題に対する具体的な仮説構築が難しい場合
- 仮説検証: すでに具体的な仮説がある場合(+発見)
- KPI化: 課題(新規を獲得したいなど)解決につながる視線メトリクス※1の特定
※1 視線メトリクスは、「なにを見た」「何回見た」「何秒見た」「最初に見たのはどの部分か」「視線を離脱したのはどの部分か」などさまざま存在する。
- 継続調査(自主調査またはアウトソーシング)
- ハードウェア&ソフトウェア: レンタルまたは購入
- 調査受託: 調査設計、実査から分析まで
- DIYサポート: トレーニング、オペレーションなど
アイトラッキング調査でわかること
アイトラッキング調査によって、実際にどのような効果が得られるのか。蜂巣氏はわかりやすい事例として、ダイドードリンコの自動販売機の調査事例を紹介する。
ダイドードリンコにとって自販機は大事な販売チャネルの1つ。主力製品である缶コーヒーを自販機のどの位置に配置するかは大きな課題だ。調査以前は、ユーザーの視線は「Z」型に動くという仮説があり、自販機の左上に缶コーヒーを配置していた。
だが、アイトラッキング調査を行うと、自販機の前に立った人は、左上からではなく左下から商品を見ていくことが圧倒的に多いことがわかった。そこで缶コーヒーの位置を左下に変更したところ、調査の結果通り売上の伸びにつながった。
5つのマーケティング活用事例
続けて蜂巣氏は、分野別にアイトラッキング調査の活用事例を紹介する。前述のように、アイトラッキングとアンケート調査が行われ、双方の相関関係を集計・分析し、仮説検証、新事実の発見などの結果を導いていく。
※以下、写真は調査イメージで実際の製品とは異なる
活用例1:商品パッケージ・POP
パッケージを見たときの視線の動き、見る要素の順番、時間などを競合商品やデザイン違いなどを変えて調査する。これによって、パッケージリニューアルの方向性や商品認知の効果を明らかにしていく。
キャラクター商品
キャラクターの使用には膨大なコストがかかっていることが多々ある。相応の効果がなければコスト増となるので、キャラクターや商品名を見たのか、それによって商品を記憶しているのか、購入したのかなどを調査する。
処方薬パッケージ
調査目的は、OTC(一般用医薬品)と処方薬で大きく変わる。OTCの場合は飲料などとあまり変わらないが、処方薬の場合に重要なのは、いかに薬剤師の「取り間違いをなくすか」である。
よって処方薬のパッケージは、薬の名前や成分など注視すべき点を網羅しつつ、早くわかることが理想的だ。次の図は、改善前と改善後のパッケージを比較したものだが、注視時間が短い、新しいパッケージがわかりやすいラベルだといえる。
店頭・店頭POP調査
店頭調査は、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンターなどからの依頼が多いという。
アイトラッキング調査では、商品までの距離、見ているエリア(売り場全体、商品棚、特定の商品)、時間軸などを調査し、アンケート結果との相関を見て、商品の購入にはなにが効いているのかを探すことになる。
店頭POPも対象が変わるだけで、店頭調査と内容が大きく変わることはない。
棚だけではなく、什器やディスプレイなどいろいろな要素が加わる。また、店頭POPには広告に近い役割もあるため、アンケートでは印象、記憶、理解なども細かく取るとよい。
活用例2:デジタルサイネージ
広告を見た距離や時間と、印象や記憶との間にどのような相関があるのかを分析し、その結果によって広告の効果を評価できる。一部の会社では、係数を決めて広告の相場を決めるために利用している。
活用例3:カープロダクト
車は形が非常に複雑な商品だ。車を選んだときにどの部分をどのように見たか(フロントを見たのかリアを見たのか、車高を気にしているのかなど)を分析し、広告や販促に活かす。
活用例4:テレビCM
ヒートマップ動画を活用することで、視聴中に被験者の視線がどのように動いているか動的に表示できる。
たとえば下図のCMでは、短い尺に対して、モデル、ブランドロゴ、商品の説明画像が詰め込まれているため、被験者の視線が分散して追いついていないことがわかる。
また、CMを途中で見るのをやめる「離脱」のタイミングを調べることで、被験者は「なに」を見て離脱するのかを知ることができる。
活用例5:リスティング(検索連動型)広告
リスティング広告では、検索結果の上位に表示されるほどよく見られているという証明に使用され、入札促進に役立てたり、どの広告文が見られているかを調べたりするなど、広告文の最適化に役立てられる。
また、ページビューとクリックの間に「ビュー(ビュースルー)」という指標があれば、より広告を妥当に評価できると考えられる。
この他にも、交通広告・ポスター・新聞や雑誌などの広告分野での活用例、ダイレクトメールがどのように開封されて見られているのか、取扱説明書がわかりやすくなっているか、高速道路の標識の大きさ・数・位置は適切かなど、さまざまな事例が示された。
生理計測パネルによる未来のリサーチ手法
以上のように、アイトラッキングを使用するとさまざまなデータを取得できるが、将来的には視線に限らず、発汗、唾液、表情、脳波など複数の生理計測を組み合わせ、さらに詳細な分析を行えるように研究を進めていると、蜂巣氏は説明する。
将来的には、アンケートやインタビューで被験者に実際に選ばせることも、尋ねることもなく選好性を予測しうる「予測モデル」の確立も夢ではない。蜂巣氏は、調査に言語がいらなくなる日が来るのも近いかもしれない、「そのときを見据えて、今から生理計測を使った調査・リサーチを始めていただくことをおすすめしたい
」と講演を締めくくった。
トビー・テクノロジー株式会社
http://www.tobii.co.jp
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