直近1年でPV300%急成長。“読者目線”のコンテンツ設計で数字を伸ばす、ZOZO NEXTのオウンドメディア運用術

ファッションテックの業界動向を独自の視点で発信する「fashion tech news」の運営戦略について編集長に聞いた。
「fashion tech news」のWebサイト

2018年に運用を開始したZOZO NEXTのオウンドメディア「fashion tech news」。自社情報にかたよらない「ファッション×テクノロジー」(ファッションテック)の情報を発信し、専門的ながらわかりやすいコンテンツを配信することにより、直近1年でUU130%、PV300%の急成長を遂げているという。同メディアの編集長を務める玉井泰史氏に、運営方針や急成長を牽引した施策、コツについて聞いた。

年齢層は25~44歳が中心。“中立的な視点”でわかりやすい情報発信を心がける

2021年に発足したZOZO NEXTは、ZOZOグループの新規事業の創出、ZOZO研究所を中心としたR&Dを担う。fashion tech newsは、自社の研究者がプロジェクトに関連した情報を発信する目的で2018年に誕生したが、年月を経てファッションテックの業界情報を広く発信する方針に変わっていったという。

2018年当初は、研究者目線でプロジェクトを紹介していたため、専門的な内容がメインでした。その後、数年かけて読者目線を重視する方針に転換し、専門的な内容を噛み砕いてわかりやすく伝えるほか、業界内の最新情報を広く届けることにも注力しています。Webのファッションメディアで第一想起される媒体になることを目標に掲げています(玉井氏)

現在、外部スタッフも含めて少人数体制で運営しており、毎日1〜3本の新規コンテンツを配信。「ビジネス」「リサーチ」「フィロソフィー」「カルチャー」「ビューティー」「インフォ」の6カテゴリと、「フィーチャー」「シリーズ」「プロジェクト」「イベント」「アルチザン(職人)」の5つのスペシャルコンテンツで構成されている。

カテゴリやスペシャルコンテンツは数年かけて増やしたという

読者は、男女比が約7:3で男性が多い。年齢層は25〜44歳がボリュームゾーンで、主な読者はファッション業界関係者やデザイナー、IT関連業界で働く人だという。

ファッションやITに興味を持つ25〜44歳の読者がメインだ(ZOZO NEXT提供)

各種ファッションアイテムの先端技術やブランドの歴史、ファッションがカルチャーに及ぼした影響などを深堀りする記事がメインで、自社の関連ニュースは「プロジェクト」内で配信している。メディア上にはZOZO NEXTの会社名をあえて表記せず、オウンドメディアであることを読者や取材対象者に意識させない見せ方にしている。ZOZOTOWNの商品ページに飛ぶようなリンク貼り付けも、基本的にしていない。

大枠の方針として、「中立的な視点」を非常に大事にしています。自社の情報も、他社の情報も同様に扱います。また、正確で客観的な情報を伝えるために、大学の研究者をはじめとした専門家や企業の開発担当者から一次情報を得る、なるべく数字情報を盛り込む、取材先へのファクトチェックを実施するなどの配慮をしています(玉井氏)

会員限定サービスも用意している。無料会員に登録すると、「会員限定記事の閲覧」「音声読み上げ機能」が利用可能になるほか、「お気に入り記事の保存」「閲覧履歴表示」が無制限になる、「会員限定のイベント参加」「メールマガジン配信」などの特典がある。

読者のニーズを捉え、足で情報を稼ぐ取り組み

fashion tech newsのUUやPVが伸び始めたのは、「研究者目線」から「読者目線」に運営方針を切り替えたことが転機だった。主なKPIに設定しているのは「UU」「PV」「会員数」で、玉井氏は「PV数が伸びた記事にすべての答えが詰まっている」と編集者に再三伝えているという。

読者が求めているものを理解するには、多く読まれた記事を分析するのが最短だと思います。編集者には、「他社メディアの記事を読む前に自社で多く読まれた記事を読んで、“なぜ数字が伸びたのか”を考えてほしい」と伝えています。もちろん季節性や外的要因もあると思いますが、該当記事を担当した編集者に直接聞いたり、切り口や構成を研究したりすることで、メンバーへの学びを促しています(玉井氏)

対面取材を推奨し、「足で情報を稼ぐ」スタイルを取っている(ZOZO NEXT提供)

取材においては、対面実施を推奨している。近年はオンライン取材を実施するメディアも増えているが、対面のほうが有益な情報を取れると考えるためだ。こうした「読者ニーズに寄り添う」「足で情報を稼ぐ」といった取り組みが功を奏し、直近1年でUU130%、PV300%と急成長を遂げている。

特に好調なのは、特定プロダクトの機能や素材を深く掘り下げてわかりやすく紹介する「リサーチ」、特定のプロダクトやブランド、あるいはファッション以外のジャンルにも影響を及ぼした文化や現象の歴史を深掘りする「カルチャー」に属する記事だという。

人気カテゴリの1つ「リサーチ」では、特に「バックパック」を扱った記事がPV数が高い

カテゴリ全体のPV数が高いのですが、リサーチでは、特に「バックパック」を扱った記事が読まれています。各種パーツやポケット、素材などディティールまで写真つきで紹介し、開発者の苦労やこだわりも添えている。そうした専門性や情報量が他社媒体との差別化になっているかもしれません。「カルチャー」は、過去から現在に至るブランドの歴史やプロダクトの進化、特定のファッション現象の変遷などを文化史のように紐解くことで、読者の興味を引きつけていると分析しています(玉井氏)

会員限定コンテンツでは、一段と専門性が高く、オリジナリティがあるコンテンツが多く読まれている。「髪物語 ~髪型が語る時代~」と題した連載は、その1つ。「髪」を美意識や文化の象徴と捉え、印象形成への影響やその意義を歴史・文化・科学・未来の視点から多角的に探究している。ヘアケア業界をリードするミルボン中央研究所、次世代のヘアケアを提案するパーフェクト社への取材を通じて、古代から未来までの進化を通史的に描いた点が評価を得ているようだ。

「髪物語 ~髪型が語る時代~」は、会員限定コンテンツとして高い人気を誇る

会員はファッションやテクノロジーへの熱量が高い人が多く、会員限定記事やメルマガを熱心に読む傾向があるという。マイページでの「お気に入り記事の保存」や「音声読み上げ機能」も利用が広がっている。2025年3月に実施した著名人を招いた会員限定のビューティーイベントは、約600名の参加者が集まり、大盛況だったという。

伝統工芸の価値を伝える独自企画「アルチザン」、UI・UXはその他カテゴリと差別化

伝統工芸の価値を伝えるスペシャルコンテンツ「アルチザン」も、fashion tech newsならではの取り組みと言える。発端は、ZOZO NEXTが取り組むテキスタイル素材の開発やその応用に関するR&Dプロジェクトだった。

関係者と接触する機会が増えるなかで、100年以上続く老舗がまったく新しい商品開発に挑戦したり、多くの職人が跡継ぎの課題に直面していたりする事実を知り、担当者は「当社がハブになってできることはないか」と考えました。2年ほどの準備期間を経て、ようやく2024年に「アルチザン」の運用を開始しました(玉井氏)

技術的な価値に加え、制作工程や職人の思いを伝えることが目的だ(ZOZO NEXT提供)

「アルチザン」は、fashion tech news内のスペシャルコンテンツだが、あえて特設サイトのような見せ方をしていて、その他のカテゴリとUI・UXを変えている

「アルチザン」は、写真と動画を組み合わせたクリエイティブなUIを採用している

運用開始から約1年が経過した今、さまざまな成果が得られているという。

伝統工芸にまつわる横のつながりが広がっていて、たくさんの伝統工芸士や人間国宝の方への取材が実現したり、本企画が複数メディアに紹介されたりといった成果が得られています。たとえば、愛媛県庁とのコラボレーションでは、愛媛県内にある数カ所の工房を取材した実績があります。こうした取り組みを全国的に広げたいです。当社の事業領域と相性が良く、伝統工芸を未来につなげていく意義のある企画だと考えています(玉井氏)

最も重要なのは、数字よりも「メディアの質」

最後に、オウンドメディアを運営するうえで重要なポイントについてたずねると、玉井氏は「裾野を広げること」だと回答した。

オウンドメディアというと、自社の製品や取り組みを発信するものと認識されていると思いますが、それでは自社に興味がない人は読んでくれません。どんな業界でも競争があり、企業ごとに異なる製品や技術がある。その中の1つとして自社が存在しているわけで、読者の利便性を突き詰めれば、業界の情報を網羅的に取得できるほうが絶対にいい。fashion tech newsは、まさに裾野を広げたことが急成長につながりました(玉井氏)

KPIを追い求めることは重要だが、その一方で、「最重要視しているのは、メディアとしての質を下げないことだ」とも。

上述した通り、各種指標の分析や振り返りは常に実施しており、コンテンツ制作に随時活かしています。ただし、根本に据えているのは、「メディアとしての質が担保できているか」です。中長期的にUUの増加につながるのは、そうした方針だと考えています(玉井氏)

数年にわたり、中立的な立場のオウンドメディアとして運営を続けてきた結果、fashion tech newsは、業界関係者や読者から「ファッションメディア」として認識されるようになった。ZOZO NEXTへのポジティブな成果としては、自社が取り組む研究プロジェクトの認知拡大や業界関係者とのつながり構築、他社とのコラボレーションの促進などがあげられるという。「第一想起されるファッションメディアになるべく、頻度高く配信を続けていく」と玉井氏は締めくくった。

用語集
KPI / PV / UI / UU / UX / オウンドメディア / クリエイティブ / リンク
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