【レポート】デジタルマーケターズサミット2025 Summer

石巻市が実践した「災害に強いウェブサイト構築」〜自治体DX成功の舞台裏〜

石巻市の実例をもとに、Webサイトリニューアルと自治体のDX成功のカギについて語り合った。
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Webサイトに求められる役割は、時代とともに大きく変化している。自治体のWebサイトでは、災害時のような突発的なアクセス集中に耐え得る強靭なサーバー環境、多種多様な住民の誰もが使いやすいアクセシビリティなど、その公共性から、企業のWebサイト以上の重責を担うことになる。

では、限りある予算と人員の中で、自治体は何を優先してWebサイトリニューアルを進めればよいのだろうか。デザインの刷新か、運用の効率化か、AIのような新しい技術の導入か――。

デジタルマーケターズサミット 2025 Summer」に、宮城県石巻市の千葉俊介氏と、ジー・サーチの岡本敏秀氏が登壇。石巻市の実例をもとに、Webサイトリニューアル成功のカギについて語り合った。

(左)宮城県石巻市 教育委員会学校管理課 課長補佐兼ICT環境推進係長 千葉俊介氏、(右)株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ デジタルプロデュース部 岡本敏秀氏
(左)宮城県石巻市 教育委員会学校管理課 課長補佐兼ICT環境推進係長 千葉俊介氏(右)株式会社ジー・サーチ コンテンツサービスグループ デジタルプロデュース部 岡本敏秀氏

震災当時、オンプレミス運用されていた石巻市のWebサイト

宮城県の北東部に位置し、牡蠣やホヤ、金華サバなど水産資源の宝庫として有名な石巻市は、2011年の東日本大震災の被災地でもある。

震災当時、石巻市のWebサイトは庁内に設置されたサーバーでオンプレミス運用されていた。幸い、サーバー設備に被害はなかったが、全国からのアクセスが集中して、サーバーがたびたびダウンする事態に見舞われた。石巻市にゆかりのある多くの人々が心配していたのだろう。本来なら最も情報発信しなければならない局面で、それが叶わなかった。

それからしばらく経ち、老朽化したシステムを更改する時期が来た。庁内のサーバー室は、乱立するサーバーで溢れていた。震災の苦い教訓を活かし、当時、石巻市役所の情報システム課に勤めていた千葉氏は、フルクラウド型CMS「WebコアCMS」の導入に踏み切った。パートナーに選んだのは、富士通グループのジー・サーチである。

アクセシビリティを優先した設計に生まれ変わった

ジー・サーチは、もともと日本最大級のビジネス情報サービス「G-Search」をはじめとする「データベースビジネス」を基軸としていたが、いまはCMS・Webサイト構築を含む「デジタルソリューション」との二本柱でビジネスを展開している。

当時、ジー・サーチの担当者として石巻市のCMS導入プロジェクトに携わっていた岡本氏は、「2013~14年に自治体でフルクラウド型CMSを導入するのは、かなり先進的だった」と振り返る。いまだにクラウド環境への乗り換えを進めている自治体も少なくないことを考えると、10年以上早い決断だったことになる。

「当時は復興関連の情報を発信する頻度もまだ高かったと思うが、CMSを刷新して、職員から不満の声は上がらなかったのか」とたずねた岡本氏に対し、「最初のうちは『自由度が下がった』という不満が多かった」と千葉氏は答える。

旧CMSはレイアウトの自由度が高い反面、アクセシビリティに難があった。それに対し、新CMSは厳格なテンプレート適用を求める設計で、確実にアクセシビリティを満たすことができる。自治体のように公共性の高いWebサイトでは、見た目の自由度よりも、誰もが利用できること(アクセシビリティ)を優先したのは必然であった。

積極的な情報発信で住民の期待に応える

石巻市では、Webサイトのリニューアル後、Webサイトのスマートフォン対応にも踏み切った。当時はまだスマートフォンの普及率もさほど高くなかったが、「対応した途端に急激なアクセスの増加が見られ、その需要の高さに驚いた」(千葉氏)という。

また、テンプレート化したことでコンテンツ制作のハードルが下がり、ふるさと納税の特設サイトのようなサブサイトが増加するという副次的な効果も現れた。ふるさと納税の特設サイトといえば、今ではどこの自治体にもあるごく一般的な取り組みであるが、当時は非常に珍しかったという。

このように、近隣の自治体に先駆けて、数々の革新的な取り組みを重ねてきた石巻市は、当然、昨今のAI活用にも目を向けている。「意思決定に関する資料は生成AIで作成してはならない」というルールはあるものの、ChatGPTのような生成AIツールの使用には制限をかけていない

「将来的にはAIコンシェルジュを導入したいと考えているが、そのためには現在公開しているコンテンツの機械可読性を高めなければならない」と千葉氏は現状の課題を語った。AIが適切に情報を処理できるよう、コンテンツを整備する必要があるというわけだ。

石巻市が先陣を切るのはインフラ面だけではない。情報発信に関しても独創的な取り組みをしている。例えば、スマートフォンアプリ「キズナファンタジア~海辺の国の大聖典~」の提供だ。同アプリは、石巻市の観光名所や名物・名産品が物語の随所に登場するRPGで、スマートフォンの位置情報を活用して、地域の店舗利用を促進する企画も実装されている。

加えて、動的な情報はXやInstagramのようなSNSで発信し、静的な情報はWebサイトで発信するという使い分けをしている。だからといって、スマートフォンファーストというわけでもなく、PCとスマートフォンでうまくバランスを取りながら発信するというのが石巻市の方針だ。

校内LANのゼロトラスト化もDXの一環

現在、千葉氏は教育委員会に所属し、市立学校のICT機器の導入や運用などのインフラを担当している。GIGAスクール構想にともなうタブレット端末の調達が落ち着いたら、文部科学省が推進する「校内LANのゼロトラスト化」を進めていく予定だという。

「校内LANのゼロトラスト化」とは、従来の校内と校外をファイアウォールで切り分ける境界防御型ではクラウド活用や端末の持ち出しに対応できないため、端末単位でセキュリティを確保し、教育現場でのICT活用を安全かつ柔軟に進めるための取り組みである。

もっとも、千葉氏はDXを盲目的に進める姿勢には慎重だ。「DXは目的ではなく、あくまでも手段。効率化が必要な分野もあれば、人の手を残すべき分野もある」と述べ、バランスを図る重要性を強調した。

このように、自治体のDX推進は一筋縄ではいかない。人手不足に悩む自治体では、テクノロジーを活用したバックオフィス業務の自動化を避けるのは難しいだろう。だが、法律や制度の改正によって、行政手続きは頻繁に変更される。そのため、システムの運用コストがどうしてもかさんでしまうのである。

岡本氏が「今後、自治体でDXを活用していくにはどうすれば良いか」と問いかけると、千葉氏は「庁内の雰囲気づくりそのものが難しい。私自身も答えを知りたいくらいだ」と率直な所感を述べた。

ジー・サーチが支援するDX支援

石巻市の事例は、単なるWebサイトのリニューアルにとどまらない。「災害に強いWebサイト」を皮切りに、スマートフォン対応や特設サイトの開設、SNSでの情報発信、教育環境の改善など、自治体特有の制約に立ち向かい、住民サービスの拡充に挑戦し続けてきた。

これを裏で支えたジー・サーチでは、Webサイトの立ち上げからデザイン、CMSの導入、アクセス解析までを一貫して支援するデジタルソリューションを提供している。CMSはオープンソース系からエンタープライズ製品まで幅広く取り扱っており、目的や運用体制に合わせて最適な選択をサポートしてくれる。

ジー・サーチのデジタルソリューション

また、デザイン面でも豊富な実績をもとに、段階的なプロセスで顧客に最適なUI/UXを提案する。Google Analyticsを活用した解析ダッシュボードの構築や、訪問企業の可視化など、ユーザープロセスに応じた施策評価の支援も可能だ。さらに、製品やサービスの利用体験や感想を動画で収集できるマーケティング支援サービス「セルフ動画型KnockOnExploration(KOE)」の展開も開始した。

岡本氏は、「Webサイトやデジタルマーケティングにまつわるお悩みがあれば、ぜひジー・サーチにご相談いただきたい」と語り、セッションを締めくくった。

用語集
CMS / DX / Instagram / SNS / UI / UX / X / アクセシビリティ / アクセス解析 / オンプレミス / オープンソース / クラウド / スマートフォン / セッション / ダッシュボード / 訪問
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