バイヤー厳選の「冷凍グルメ」が毎月届く大丸松坂屋「ラクリッチ」なぜ人気? 一口で「おっ!」の驚き

大丸松坂屋百貨店が2023年5月、冷凍グルメ宅配のサブスク「ラクリッチ」を開始した。サービスの狙いや反響は? また実際にライターが体験してみた。

コロナ禍を機に転換点を迎えている百貨店。100年以上の歴史を持つ大丸松坂屋百貨店では、2023年5月に冷凍グルメ宅配のサブスクリプションサービス「ラクリッチ」を開始した。

食通のバイヤーが厳選した冷凍惣菜の詰め合わせが毎月届く仕様で、価格帯の異なる3つのコースがある。開始約4か月ながら会員からの評判は上々で、もっとも高い12,000円のコースが一番人気なのも興味深い。

大丸松坂屋百貨店の岡﨑路易氏に同サービスの狙いや反響を聞くとともに、ライターが実際に体験した感想もお伝えしたい。

株式会社 大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 DX推進部 専任部長 岡﨑路易氏

バイヤーが厳選、未知の「冷凍グルメ」との出会いを創出

老舗百貨店のバイヤーが、ネットワークを駆使して厳選したリッチな冷凍惣菜が毎月届くラクリッチ。コースは、次の3つがある:

  • ちょいリッチBOX(6,500円): 6〜8品程が届く
  • しっかリッチBOX(9,000円): 7〜10品程が届く
  • すごリッチBOX(12,000円): 7〜10品程が届く
ほとんどはレンチンか湯煎で調理できるが、一部、焼くなどの工程が必要な商品がある(提供:大丸松坂屋百貨店)

メニューの半分は公式ホームページ上で公開しており、残りの半分は届いてからのお楽しみとなっている。「“おまかせ”でおいしい出会いを提供したい」というコンセプトがあるためだ。

食通のバイヤーがブランドや商品をセレクトしている(提供:大丸松坂屋百貨店)

現在は30ブランド、60商品を扱っており、有名店から隠れた名店までがそろう。そのうち10品は、各ブランドと大丸松坂屋百貨店が共同開発したオリジナル商品で、ラクリッチでしか食べることができない。デパ地下のコンセプトに近い「おいしさを全面に打ち出した日常向け」の商品をラインナップしている。

いずれもバイヤーがこだわり抜いて選んだ商品です。食卓にプラス1品添えたい、お酒に合う食事を楽しみたいといった食事のシーンをイメージしており、和洋中のバランスも考慮しています。おかげさまで味わいを高く評価するお声を多くいただき、手応えを感じています(岡﨑氏)

バイヤーイチオシのおかず本舗 佃浅の「茄子煮びたし」(提供:大丸松坂屋百貨店)

たとえば、おかず本舗 佃浅の「茄子煮びたし」はシンプルで家庭的なメニューではあるものの、家庭では絶対に出せないような味だという。老舗和惣菜店の職人の技が生きる一品で、顧客からも人気があるそうだ。

ファッション、コスメに続き、「食」のECに参入

大丸松坂屋百貨店では、コロナ禍が始まった2020年から、時間と場所の制約を克服するビジネスモデルへの転換を図っている。そこでECによる顧客とのタッチポイントを創出するべく、2021年にファッションサブスクの「AnotherADdress(アナザーアドレス)」、2022年にコスメの通信販売サイト「DEPACO(デパコ)」を立ち上げた。この2つの新サービスに続く第3弾として誕生したのがラクリッチで、満を持して生活の基本でマーケットの大きい食分野に参入したわけだ。

緊急事態宣言で店舗が一斉休業した際は、手も足も出ないような状況でした。外商やオンラインの販売手段もありましたが、お客様との接点は100%店頭にあるというのが、当時の私たちの認識です。DXを本格化させ、時間と場所の制約を克服しなければ当社に未来はないと感じました(岡﨑氏)

インタビューに答えてくれた大丸松坂屋百貨店 岡﨑路易氏

100年以上にわたって培ってきた百貨店販売の知見やネットワークが、フルに活かせる新規事業とはーー。そんな視点から生まれたのが、上述した3つの新サービスだ。

ラクリッチはローンチまでに1年半の歳月を費やした。コロナ禍で伸びている冷凍食品市場に着目し、丁寧な市場調査をもとにサービス設計を作り込んだ。オリジナル商品の開発にも妥協がない。満足する味になるまで、何度も試作を重ねた。

構想段階で市場に存在していたのは、フルコースの超高級冷食、あるいはリーズナブルで健康志向の冷食の宅配サービスです。それを踏まえ、両者の中間ぐらいの価格帯でグルメな人に喜ばれるポジションを狙いました。リッチな日常向けメニューがコンセプトです(岡﨑氏)

今の課題は「勝ちセグメント」の確立

ラクリッチのターゲットは、次のような人たちだという:

  • 仕事などで忙しく、食事を一工夫する時間と余裕がない人
  • 献立がマンネリ化している人
  • おしゃれな食器に盛り付けてテーブルを彩るなど食事のシーンを大事に考える人

5月のサービス開始から約4か月が経過したところだが、当初の想定どおり40〜50代のグルメな層に刺さっているようだ。一方で、意外な需要も見えてきている。

3つのコースのうち、もっとも高い『すごリッチBOX』が一番人気で、これは想定外でした。まずは最安のコースが伸びて、最終的に中間のコースが広がるだろうと予想していたためです。また、1人の会員様が複数個を購入するケースが多いことも驚きました。ご家族などで利用されているのだろうと思います。継続率も想定以上にいいです(岡﨑氏)

会員へのアンケートでは、「自分では選ばないメニューがあって楽しめた」「住んでいるエリアでは購入できない味に出会えた」「プロの味を冷凍で簡単に堪能できる」といった声が聞かれている。

メディア露出から注文につながった会員様がほとんどなので、現在は会員様の層を徹底分析しながら『勝ちセグメント』を探しているところです。分析によって導き出された層を狙うのはもちろんですが、それ以外にもラクリッチにマッチしそうな層を洗い出し、そこに届けるべく広告などのアプローチを取る予定です。たとえば、投資銀行のバンカー(大口顧客を担当する銀行員)や大企業の新規事業部の責任者など。一つひとつ可能性のある層をおさえていけたらと(岡﨑氏)

老舗百貨店が母体であっても、新規事業におけるPMF(プロダクトマーケットフィット)達成には泥くささが求められる。今後は、3〜4か月に一度メニューの改変を行いながら、卸売や海外展開も見据えていると岡﨑氏。

メニューのセレクトや開発は会員様のお声を聞きつつ、バイヤーの視点も盛り込んで満足度を上げていきたいです。『こうきたか!』という驚きも届けられたらいいですね。新たな展開としては、家電レンタルをしているサイトとコラボレーションして、冷凍庫を安く借りられるプランの提供などを開始する予定です。冷凍庫に入り切らない課題を一緒に解決しようと。さまざまな角度から事業拡大を図ります(岡﨑氏)

ライターがラクリッチを体験。一口で「おっ!」と気持ちが上がる

今回、9,000円の「しっかリッチBOX」をライターが体験してみた。商品の半分は届いてからのお楽しみということで、ダンボールを開ける際、「何が入っているのだろう」とワクワクした。

段ボールを開封した様子
今回届いた「しっかリッチBOX」の中身

今回届いたのは、以下の8品だ。

  • きじま「天然まぐろカマ煮つけ」
  • OGAWA×ラクリッチ「黒毛和牛しぐれ煮」
  • まつおか「ヤリイカの照り煮」
  • アロマフレスカ銀座「原田シェフ監修 海老のクリームソースペンネ」
  • RFFF「海老好きの海老カツ 2個入り タルタルソース付き」
  • ポール・ボキューズ「煮込みハンバーグ(デミグラスソース)」
  • エリックサウス「タンドリー風チキンティッカ」
  • 赤坂四川飯店 陳建一 監修「本格八宝菜(醤油)」

点数は多いが包装はコンパクトになっており、これだけで冷凍庫がパンパンになることはなかった。調理は湯煎、電子レンジが中心で、サービス名のとおりラクに仕上がるのはうれしいところ。一部の商品は湯煎の前に冷蔵解凍が必要なので、前日の夜に冷蔵庫に移しておいた。

味は、どれも文句なしにおいしい。一口食べて「おっ!」となるクオリティの高さだ。そもそも素材や調理のレベルが高いと思うが、できたてのおいしさを逃さない最新の冷凍技術も一役買っているのだろう。なかでも満足度が高かったのは、次の3商品だ。

まつおか「ヤリイカの照り煮」

まつおか「ヤリイカの照り煮」

やわらかい食感とあと引く甘辛さで、ご飯が進んだ。日本酒やハイボールなどのお酒と合わせても最高だろう。

ポール・ボキューズ「煮込みハンバーグ(デミグラスソース)」

ポール・ボキューズ「煮込みハンバーグ(デミグラスソース)」

食べたときの「おっ!」が一際強かった一品。お肉がぎっしり詰まっていて、ジューシーで贅沢。また食べたくなる味わいだった。

エリックサウス「タンドリー風チキンティッカ」

エリックサウス「タンドリー風チキンティッカ」

有名店・エリックサウスの商品で、「これ食べたかったやつ!」と食べる前からテンションが上がった。家庭では決して出せないであろう、スパイシーで本格的な味付けに大満足。

◇◇◇

実際に体験して感じたメリットは、「メニューのラインアップが幅広く飽きない」「調理がラク」「味の満足度が高い」だった。唯一ハードルに感じたのは価格帯だ。月1〜2回の外食を減らす代わりに自宅でおいしいものを食べるなら大いにアリだが、外食を減らしたくないとなると予算オーバーになりそう。「時間はないけれど経済的な余裕があり、自宅でもおいしいものを食べたい層」にハマりそうな気がした。

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