[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

ゼロクリック時代におけるWebサイトの新しい立ち位置とは

マーケターコラム、今回は村石怜菜氏。今回は、AI検索時代における“流入前”と“流入後”の体験設計、そしてWebサイトそのものの立ち位置の再定義について考察します。

村石怜菜[執筆], 渡辺 淳子[編集]

7:05

 

前回のコラムでは、「流入前」のユーザー行動に目を向けることの重要性をお話ししました。今回はその延長線上として、AI検索時代における“流入前”と“流入後”の体験設計、そしてWebサイトそのものの立ち位置の再定義について考えてみたいと思います。

AI Overviewの登場で、Webに“来ない”ユーザーが増えている

生成AIが検索の中心に組み込まれたことで、私たちは「ゼロクリック時代」に突入しつつあります。Googleの「AI Overview(AI概要)」では検索結果の一番上に概要が表示され、ユーザーはそれだけで満足してしまうことが増えています。私自身も最近、調べ物の多くをChatGPTやAI概要で済ませるようになり、Webサイトの訪問が減ったと感じています。

実際に、AI概要が表示された場合の検索のクリック率は8%に低下。日本でも約6割がゼロクリックで完結しているとされています。さらに、クラウドフレア社の調査では、Google経由で1人の訪問を得るために必要なクロール数が従来の2ページから14ページに増加。OpenAIでは1700ページ、Anthropicでは7万3000ページでようやく1人が訪れる水準です(2025年10月18日付 日本経済新聞 AI検索でアクセス減 クラウドフレアCEO「コンテンツに対価を」)。

では、企業が運営するWebサイトは、もはや「訪れてもらう場所」としての役割を失ってしまったのでしょうか? 私はそうは思いません。今だからこそ、Webサイトの存在価値を再定義する必要があると考えています。

Webサイトは“訪れる場所”から“選ばれる存在”へ

ゼロクリック時代におけるWebサイトの存在意義は、大きく次の3つに整理できると考えています。

1. AIと共に“信頼されるソース”として存在する

自社サイトの内容がAI概要に引用されるということは、「ユーザーが訪れなくても情報が使われている」ということです。自社サイトがAIの学習データに含まれていれば、ユーザーの意思決定に間接的な影響を与えることができます。Webサイトは“目に触れずとも影響を与える存在”になりつつある、といえます。

2. ユーザーに“訪れたくなる理由”を提供する

AI概要では、細かなニュアンスや背景までをも伝えることは難しいため、Webサイトでは「深い体験」や「ストーリー」を通じて、より豊かな情報提供を行うことが差別化の鍵となります。

たとえば、リアルな事例や動画による説明などを通じて、Webサイトは「読む場」から「共感し、関係を築く場」へと進化できます。

3. AIと連携した“共創型体験”を設計する

検索や商品選びの入口はAIに移りつつありますが、すべてをAIで完結させるのではなく、AIが“興味を引き”、Webサイトが“納得と体験を提供する”という構造が今後も主流になると考えられます。

たとえば、AIが商品を提案し、Webサイトで詳細や比較を確認できる。こうした連携により、WebサイトはAIと補完し合う“ハイブリッドUX”の場として重要性を増していくでしょう。

AI検索を超えて訪問してくれたユーザーをどう迎えるか

AI概要を超えてWebサイトを訪れたユーザーは、ある意味“意志”を持って行動してくれている存在と考えられます。そうした貴重なユーザーに対して、どのような体験を提供すべきでしょうか。

まず大前提として、Webサイト上の体験も「AI的」であることが求められる時代になっていると感じます。というのも、ユーザーは今や「Webサイトで情報を探す」よりも、一度離脱してGoogleやChatGPTで検索する方が早くて便利だと知っているからです。特にAI概要のような仕組みに慣れたユーザーにとっては、“質問すれば答えが返ってくる”という体験が当たり前になっています。

そこで、Webサイトに来てすぐには答えが見つからず、「カテゴリを探す」「FAQを読む」「サイトマップを確認する」などのステップを踏まなければならないと、面倒に感じてしまうのです。今後は、Webサイト内にも「AIアシスタント的な対話体験」の導入が求められるのではないでしょうか。

AIアシスタントが変えるUXのかたち

単なる“機能”から、ユーザーの“相棒”へ

AIアシスタントとは、単なる情報検索やタスク実行のツールではなく、「人の問いに答える」「会話を重ねる」「理解を深める」といったインタラクションを通じて、より個別最適な体験を提供する存在へと進化しています。今では一部のユーザーにとって、“相棒”のような役割を果たす事例すら現れています。

象徴的な出来事として、先日ChatGPT内の架空の男性キャラクターと結婚した女性のエピソードがありました。もちろんこれは一般的な例ではありませんが、AIが人間の感情的な空白を補い、「話し相手」や「伴走者」として機能しはじめている象徴といえるでしょう。

こうした中、企業もAIアシスタントを単なるFAQやチャットボットの延長線ではなく、より能動的にユーザーに寄り添うUXの手段として再定義しはじめています。

たとえば、Walmartが提供しているAIアシスタント「Sparky」は、ユーザーが自然言語で「来週、子どもの誕生日があるんだけど…」と入力するだけで、ギフト候補や関連アイテム、購入までの動線を提示してくれる仕組みです。ユーザーは細かい検索条件を設定せずとも、会話の中で自分にとって必要な情報に辿り着けます。

なお、残念ながら「Sparky」のアプリは日本ではダウンロードできないため、ここではWalmartの公式サイト上の情報を参照しています。決められた選択肢を選ばせるのではなく、ユーザーの背景や感情をくみ取りながら「一緒に最適解を探してくれる」、そのような体験が可能になってきています。

顧客との関係を構築する“対話”を設計する

従来のWeb接客は、ユーザーの行動(閲覧ページ、過去の購買履歴など)に基づき、ポップアップやレコメンドを提示する“反応型”の施策が中心でした。一方で、AIアシスタントは「ユーザーの言葉」や「その場の文脈」に反応して会話を展開し、より深い意図や課題をくみ取る“対話型”の存在です。

AIアシスタントが行うことは、顧客との関係を構築する「対話の設計」そのものだと捉えた方がいいかもしれません。

AIとの対話の質も、ユーザー体験として可視化する時代へ

AIアシスタントの普及が進むにつれて、ユーザーの行動分析の範囲も変わってきます。これまではWebサイト上のクリックやコンバージョンといった指標に限定されていましたが、今後は「AIアシスタントとユーザーのやりとり」もUXの一部として捉え、分析していく必要があるでしょう。

たとえば、ユーザーがAIと何を話したか、何往復くらいやりとりしたか、最終的に購入・離脱したのはどの時点か、といった指標です。これは「Webやアプリを訪問したあとに、コールセンターで何を問い合わせたか」を統合的に見る必要があったのと同じ構造です。店頭で販売員と話した体験が購買に与える影響を評価するように、AIとの対話の質もユーザー体験として見ていく時代が来ています。

AIアシスタントが接客として機能するのであれば、当然その“手応え”や“成果”を測る仕組みも必要になります。最近では、AIアシスタントがどのくらいユーザーのニーズを満たしたかを可視化するツールやスコアリングの仕組みも出始めています。

たとえば、ユーザーが感謝の言葉を返したかどうか、会話の途中で離脱するパターンが多い箇所はどこか、意図を誤解してユーザーが不満を表した箇所があるかなどです。このようなメタ的な指標も、従来のクリックやコンバージョンだけでは捉えられなかったUXの“質”を測る手段として有効になってきています。

チャット完結型のサービスは主流になるのか

最近では、チャットUIだけで完結するサービス(EC、旅行予約、保険申込など)も登場しています。ただし、私はそれが「すべての体験の主流になる」とは考えていません。なぜならユーザーが求める体験には、次のようなレイヤーの違いが明確にあるからです。

AIだけで完結しやすい体験

  • 日用品、ギフト、食品など、目的が明確で価格も手頃なもの
  • 「調べるより任せたい」というニーズが強い領域

AIでは完結しにくい体験

  • 高額商品や複雑なスペック比較が必要なもの(カメラ、住宅、保険など)
  • テキスト情報や簡易は画像だけでは完結しない感性が必要な分野(ファッション、アート、旅行体験)
  • 自分で入力したほうが早い情報(住所、家族構成など)
  • 心理的にセンシティブな情報(資産、医療など)

「自分で選びたい」「納得して買いたい」という商材・サービスは、引き続きWebサイトやリアルの場が担っていくのだと思います。

AI時代でも、ユーザーに寄り添う体験設計を

AIは私たちの検索行動を変え、接客のスタイルを変え、意思決定のプロセスにも影響を与えています。それでも最後に重要なのは、「そのユーザーの立場に立って考える」という基本姿勢です。

Webサイト、AIアシスタント、チャットUI、SEO…どの手段を使うかはあくまで選択肢。ツールに振り回されるのではなく、「いま、このユーザーにとって最も良い体験とは何か」という問いに向き合い続けることが、これからの体験設計に求められていることだと感じています。

おわりに

今回の記事をもって、私のマーケターコラムの連載は最終回となります。これまでの連載では、データや手法そのものよりも、「ユーザーの行動や気持ちをどう捉え直すか」「変化の兆しをどう読み取るか」という視点を大切にしてきました。AI検索やゼロクリックといった環境変化も、突き詰めれば「ユーザーの行動がどう変わったのか」という問いに行き着くと感じています。

振り返ると、後半はAIに関する話題が多くなりましたが、技術やトレンドが変わり続ける一方で、「ユーザーの立場に立って体験を考える」という姿勢そのものは、今後も変わらないはずです。この連載が、日々の企画や改善を考える際の、ちょっとした視点の引き出しになっていれば嬉しく思います。

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