こんにちは。大日本印刷の田口佳央莉です。
いま、検索からの流入が大きく変わり始めています。
多くのWeb担当者がその変化を感じつつも、まだはっきりと言語化できていない現象──それが「AI経由での閲覧」の増加です。
AIは文章を瞬時に理解し、必要な情報だけを抽出してユーザーへ最適化した回答を返します。しかし、そのプロセスは解析ツールに残りません。ページビューも、平均閲覧時間も、内部回遊も計測できない。
つまり、これまで私たちが頼ってきたWeb解析の「物差し」が、通用しなくなりつつあるのです。
ただし、これは危機ではありません。むしろAI時代に合った新しい解析手法が必要となり、その価値が高まる転換点だと私は考えています。
今回の記事では、私が現場で実際に行っている「AI時代の解析の読み方」をまとめてご紹介します。
GA4だけ見ても、本質はもう読み取れない
多くの人がもっともなじみのあるアクセス解析ツールであるGA4を例に説明します。
GA4は優れたツールですが、「AI経由の流入」を十分に可視化することはできません。理由はとてもシンプル。「AIは、ページを閲覧していない」からです。
人間のユーザーは、PCやスマートフォンでブラウザを開き、検索してから目的のWebサイトを訪れます。そのため、ページが表示されれば解析タグが動き、ページビューやセッションとしてGA4にデータが残ります。
しかし、AIはまったく違う動きをします。AIはページを表示せず、botとしてサイト内の情報をクロールするだけです。
つまり、「表示しない=解析タグが動かない=データが残らない」という構造になっているのです。その結果どうなるか。
- ページビューは発生しない
- セッションも増えない
- ランディングページも記録されない
- 回遊データも残らない
まさに、解析者としては頭を抱える状況が起き始めています。
botならサーバにデータが残るのではないか?
AIがbotとしてサイトをクロールしているなら、サーバログにはアクセスが残るのでは?
――そう思った方、着眼点は鋭いですが、惜しいです。
AIはプロンプト(質問)に対してWebサイトをクロールしますが、毎回サイトにアクセスしているわけではないのです。
AIは一度読み込んだWebページを自分のクラウドに保存し、その後は保存されたキャッシュを再クロールしながら回答を生成することが多くあります。イメージとしては、
- AIが以前サイトを訪問したときに情報をクラウドに保存
- キャッシュにある資料を参照して回答
- そのため、新規アクセスは発生しない
という状態です。ただし例外もあります。たとえば、投資・経済関連、企業情報、ニュース性の高いテーマなど、最新性が重要な分野は、AIも必要に応じて検索エンジンを使い、リアルタイムでサイトを再訪問します。
知っていれば調べずに回答し、知らなければ調べる。AIも人間と同じ行動原理に従っているといえます。
必要となるのは、データとコンテンツの両面から文脈を読むスキル
以下のグラフは、とあるサイトにおける「AI経由で参照されたことを起点としたユーザー流入」の推移です(2024年10月〜2025年11月)。毎月のアクセスがじわじわ増えています。このサイトはコンテンツ更新頻度が高く、AIもユーザーの質問に正確に答えるために頻繁に参照し、その結果としてユーザー訪問も増えているのです。
増加自体は良いことですが、AI時代の解析では、「PVが増えた/減った」「セッションがどう動いた」といった表面の数字だけでは、本質が読めません。
これからの解析者に必要なのは、「PVを読むスキル」ではなく、「データとコンテンツの両面から文脈を読むスキル」なのです。
田口式:AIと人の両方を読むための“二軸解析フレーム”
私は今、データを2つの軸で読み解くようにしています。
①人間の行動を見る軸(GA4)
通常のユーザー訪問に加え、AIで紹介されたことをきっかけに訪問したユーザーもここに含まれます。観察する指標は以下のとおりです。
- PV/訪問数/ユーザー数
- 参照元
- サイト内回遊率/動線
- 平均エンゲージメント時間
- コンバージョン
- 存在しないページへのアクセス数
特に気をつけたいのが、「存在しないページ(404ページ)へのアクセス増加」です。検索エンジンは原則として、エラーとなるページを検索結果に掲載しません。それにもかかわらずアクセスが増える場合は、
- AIが古い情報を参照してユーザーに紹介している
- URL構造を推測して誤ったURLを提示している
といった可能性が高くなります。そのためGA4では、404ページに訪問された場合に「ページタイトル」に「アクセスエラー」と自動で入るよう、タグ設定しておくことをおすすめします。
②AIのサイト参照を見る軸(Google Search Console×コンテンツ構造)
こちらは、AIがどのページを情報源として評価しているかを読む軸です。見るべきポイントは次のとおりです。
- 検索クエリの種類の増減と、共起語の広がり
- 掲載順位
- 掲載されている検索クエリの「テーマ分布」
- 検索エンジンで多く表示されているページが古くないか
- Google検索結果に表示されるページと一致しているか
- コンテンツ構造(h2/h3の明瞭さ、定義文の有無、箇条書きの有無)
もっとも注目すべきは、「AIが評価しているページは、検索クエリの種類が増える」という点です。
この場合においても、実際にデータとして蓄積されるのはユーザーのGoogleでの検索結果ですが、AIがユーザーに検索のヒントを与えることによって、検索クエリの幅が広がります。
- 「◯◯とは」
- 「◯◯ 定義」
- 「◯◯ 仕組み」
- 「◯◯ メリット」
- 「◯◯ 企業 活用例」
- 「◯◯ vs △△ 違い」
これらの語句が増えてきたら、あなたのサイトがAIのキャッシュとして読み込まれ始めていると判断できます。これはGA4だけでは決して見えない情報です。
クリック数は少なくても、表示回数だけ増え、検索クエリの幅が広がっているページは、AIが情報源として参照し始めているサインです。
もう一つ重要なのが、「検索エンジンで多く表示されているページの中身が古くないか」という視点です。とくに以下のようなページは注意が必要です。
- 古いニュースリリース
- 更新停止したサービス案内
- 過去のキャンペーンページ
- 古い価格表や仕様情報
AIは特殊な設定をしていない限り、「最新かどうか」「情報が正しいか」「URLが有効かどうか」といったチェックをしません。そのため、権威性の高い古いページを誤って参照し、ユーザーに提示してしまうことがあります。
GSCでクエリをカテゴリ別にフィルタし、表示回数が多いページが古くないか必ず確認しておきましょう。
AIに強いページの共通点は「構造のわかりやすさ」
AIが引用しやすいページには、いくつか明確な共通点があります。
1ページ1メッセージ
テーマは必ず1つに絞り、内容を混在させないこと。導入事例と製品情報を一緒に掲載するのはNGです。
h2・h3が正しく階層化されている
見出し構造そのものが、AIの理解モデル(論理構造)に直接マッピングされます。階層が崩れていると、AIは何をどう整理すべきか迷います。
定義・理由・結論がはっきりしている
AIは論理性を評価します。「◯◯とは何か → その理由 → 結論」という筋道が明確なページほど、情報源として信頼されます。
余計な装飾文章が少ない
言い換えの多用や接続詞だらけの文章は、AIの処理を邪魔します。語りを盛りすぎず、簡潔な文章がもっとも強いです。
ページ内にFAQがある
「よくあるご質問」ページにまとめるのも良いですが、もっとも効果的なのは各ページの末尾にFAQを置くことです。
上記を満たしたページは、たとえGA4上でページビューが増えなくても、Google Search Consoleの検索クエリは確実に増えます。
つまり、「人は来ていないのに、AIだけは確実に読んでいる」という状態になります。これは決して悪いことではありません。
ユーザーがページを直接読まなくても、AIが要点を正しく要約し、その結果としてお客様の検討フェーズが進んでいく。これはまさにAI時代の新しい導線なのです。
AI時代の解析者に求められる“読み解く力”
AI経由の流入は可視化されず、GA4のアクセスデータは減少し、内部回遊も落ちる。それでも、情報そのものは確実に拡散している。
これから、こうした一見矛盾するデータに遭遇する場面はますます増えていきます。この矛盾を整理し、意味を与えることこそ解析者の役割です。
AI時代の解析で求められるのは、「データを見る力」ではなく「意味を読み解く力」です。具体的には、次のような視点が重要になってきます。
- どのテーマで勝ち始めているのか
- AIはどのページを評価しているのか
- ユーザーの意図はどこへ動いているのか
- 社内のどのページが資産として育ち始めているのか
これらを読み解ける解析者は、確実に価値が高まります。AI時代のWeb解析は、単なる数字の読み取りではなく、ユーザー・コンテンツ・AIの三者の関係を理解する「文脈解析」へと進化しているのです。
まとめ:AIで“指標は消える”。だから解析は進化する。
AI時代のWeb解析は、もはや数字を読むだけの仕事ではありません。表面的な数字は減って見えるかもしれませんが、情報の広がりそのものは、これまで以上に加速しています。
大切なのは指標そのものではなく、その指標が語れなくなった“理由”を読み解く力です。
AIは解析を難しくしたのではありません。むしろ、解析者の価値をさらに引き上げる存在となっています。
これからの解析は、数字を追いかける仕事ではなく、「意味を読み解く仕事」へと確実に進化していきます。
そしてこの変化は、私たち解析者にとって間違いなく追い風です。AI時代のWeb解析は、より創造的で、より戦略的で、より価値のある仕事へと変わっていくに違いありません。
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